俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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俺と実姉と追及尋問

 脅迫の犯人は清水美春だった。

 そんな予想外すぎる事実を突きつけられた小春が何よりも先にとった行動は――

 

「ミハ姉、正座」

 

「………………申し訳ございませんでした」

 

 ――姉への尋問タイムだった。

 強化合宿二日目の夜のFクラス問題児ルームの床で五体投地する美春を、小春はとてつもなく冷たい目で見下ろしている。それは実の姉に向けるような視線ではない。道端に落ちているゴミを見る目、という表現が何よりも適切な状態だった。

 全身の毛穴から冷や汗を垂れ流す美春の後頭部を睨みつけながら、小春は地獄の底から響き渡って来るかのような声で――言い放つ。

 

「今回の脅迫事件についてだけど……とりあえずお母さんに報告しとくわ」

 

「んなっ!? ま、待ってください、待ってください小春! 話し合いましょう! 私たちは会話によって分かり合えるはずです!」

 

「いつものやり返しと思っていただければ幸いですぅ」

 

「うっざ! この愚弟、凄くウザい!」

 

 ピッ、ピッ、ピッ。

 トュルルルルルル。

 

「……もしもしお母さん? ちょっとミハ姉がオイタし過ぎちゃったみてえだから強化合宿後にオシオキしてやってほしいんだけど」

 

『あら、そうなの? 了解だ。とりあえず――二度とお尻を人様に見せられないような状態に変える準備をしておくわね』

 

「うん、おねがーい」

 

 そう言って、小春は通話を終了させた。容赦なく刑を執行した小春に明久たち四人は顔を引き攣らせ、美春に至っては顔面蒼白で絶望している始末だ。……まるでライオンを前にした兎の様だった、とだけ書き記しておこう。

 顔を青褪めさせてガクブル状態の美春に小春はとびっきりの笑顔を向け、

 

「今回ばかりは許さないゾ☆」

 

「いやっ、いやぁっ、いやぁあああああああああああああああああああああああああっ!?」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 これにて、小春と雄二を苦しめていた事件は終結した。

 あまりの絶望に全てを吐露した美春のおかげで録音と捏造写真の在り処は把握できたし、今後一切彼らを脅さないことを無理やり約束させることにも成功した。やっぱりお母さんは最後の切り札だなぁ、と小春は改めて再認識させられた。

 と、それはさておき。

 この強化合宿中に犯人を見つける、という目的が達成されたことで極限的にやる事が無くなってしまった小春達は、彼らにしては珍しく、黙々と勉強に勤しんだ。鉄人もとい西村教諭の監視の目があったから、というのもあるにはあるが、今後の試験召喚戦争に向けての学力強化を目的としていた、という方が理由としては適しているだろう。明久は相変わらず勉強に対する拒否反応を持っていたが、姫路瑞希による授業のおかげで日本史だけは好きになれそうになっていた。

 さてさて。

 そんな訳で学力強化合宿最終夜。

 清水小春は坂本雄二たちの部屋に呼び出されていた。

 

「で? わざわざ俺を呼んだって事ァ……何かおっ始めるつもりなんだろ?」

 

「察しが良くて助かるぜ、小春」

 

 雄二は部屋の中央にある卓袱台の上に宿泊施設の見取り図を広げる。

 「とりあえず、この見取り図を見てほしい」小春たち――吉井明久と木下秀吉と土屋康太を含む――がそれを覗き込んだのを合図とし、雄二は悪戯を考え付いた子供のようなあくどい笑顔を浮かべてこう言った。

 

「俺たちがいる部屋はこのエリアで、女子風呂(・・・・)があるエリアは地下一階だ。決して近いという訳じゃあないが、そこまで遠いという訳でもない。――ここまで言えば、俺が言いたいことは分かるな?」

 

「「「フッ、それぐらいのこと――造作もない」」」

 

「なんでお主らはそんなにイイ笑顔をしておるのじゃ……?」

 

 秀吉のツッコミをスルーし、雄二は続ける。

 

「あまりにもやる事が無くて今日この時間まで大人しく勉強する羽目になっちまったが、もうこれ以上の我慢は出来ない。俺たちは騒動を起こしてなんぼの存在だ。俺たち問題児チームが活動を自粛していたことで教師たちも油断している。この隙を突けば――俺たちは夢の理想郷にたどり着く事が出来るはずだ」

 

「雄二、君は天才か……ッ!」

 

「…………神にも等しい所業」

 

「流石はかつて神童と呼ばれた男、と言ったところか……ッ!」

 

「これはワシも乗るべき展開なのかのう……」

 

 感極まって涙までもを流している小春たちは、得意気な笑みを浮かべている雄二に精一杯の尊敬の視線を送る。女子風呂覗きだなんていう破廉恥極まりない行動を起こそうとしている点では最低だと思うが、本能に従ってこその男だ。これに乗らなくていいだろうか――いや、乗らなくてはならない!

 小春は雄二の肩に優しく手を置き、

 

「別に、教師共を倒してしまっても構わぬのだろう?」

 

「それ、大いなる死亡フラグの一つだからな?」

 

「僕、この覗きが終わったら、姫路さんと結婚するんだ……」

 

「それも一応、物理的な死亡フラグだぞ」

 

「…………死なば諸共」

 

「不吉な死亡フラグ立てるな失敗しそうで怖いだろうが」

 

「ワシも何か気の利いた言葉を送った方が良いのかの?」

 

「秀吉はそのままでいてくれ。正直、お前までもがボケに回っちまったら収集が着けられん」

 

 秀吉の無駄な気遣いを雄二は苦笑いで丁重にお断りする。雄二は基本的に常識人枠なため、こういったハイテンションな悪ノリには冷静かつ的確なツッコミを入れることに定評があったりする。秀吉は……まぁ、第三の性別《秀吉》枠なんで。

 勝手に盛り上がってしまっている三人を黙らせ、雄二はその場にいる全員と円陣を組む。

 

「いいか! これは俺たちの欲望による教師への反逆行為だ! 誰に咎められようとも俺たちの歩みを止めることは不可能だし、どんな障害もこの歩みを止めることは許されない! 純粋な本能に従った男の本気は、そんなものじゃあ止められねえ!」

 

「「「「応ッ!」」」」

 

「意志を持て、面を上げろ! 俺たちが目指すは理想郷ただ一つ! 女たちの裸という名の酒池肉林が拡がった、最高の楽園だけだ!」

 

「「「「応ッ!」」」」

 

「よしっ、それじゃあ強化合宿最終夜――出陣だぁっ!」

 

「「「「よっしゃぁあああああーっ!」」」」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 まぁ、鉄人一人に捕縛されちゃいましたよね。

 

「まったく……最後の夜だからもしやと思って警備に就いてみれば……まさか本当に覗きをしようとするバカがいようとはな」

 

 数分前に出発したはずのFクラス問題児ルームで、坂本雄二率いるバカ五人は土下座を強要されていた。一応は小春はDクラスなのでこの部屋とは全く関係ないのだが、共犯者としての参加なのでその言い訳は通用しない。というか、小春に至ってはこの強化合宿中だけで二度目の罪を犯しているので、純粋な観点から言えば雄二たちよりも重罪だったりする。

 西村は大きく溜め息を吐き、

 

「とりあえず貴様らには、これから夜が明けるまで永続的に数学の問題を解いてもらう。大丈夫、無駄に量はあるからな。流石に一〇〇〇ページもあれば起床時間までの勉強は可能だろう」

 

「待ってください先生! それじゃあ汗を流す時間がありません!」

 

「勉強で汗を流せばいいだろうが」

 

「そういう意味じゃねえんだよこの筋肉だるま! シャワーとかで汗を流すって意味だそれぐれえ分かれやこの鉄人二十八ごぎゅめぎゃぁあああああああっ!?」

 

「西村先生と呼ばんか! 清水弟、しかも貴様は初日に引き続いての覗き騒動だ。貴様だけは特別として、この問題集をもう一冊追加してやる!」

 

「ひぎぃっ!」

 

「西村先生! ここは小春一人でどうか手を打ってはくれませんか!?」

 

「そうです! そもそも今回の覗きだって小春が言いだしっぺなんです!」

 

「…………俺たちはただの被害者……ッ!」

 

「わ、ワシらは何も悪くないんじゃ!」

 

 

 俺にはコイツらが言っている言葉の意味がよく分からない。

 

 

「て、テメェら俺を売る気か!? あの時のチームワークは一体どこへ!?」

 

「ふん、仕方がないな。貴様らの素直な証言に免じて、今回は清水弟一人で許してやる」

 

「ジャスタモーメン鉄人先生! それは結局何の解決にもなっていない!」

 

「それじゃあ達者でな、小春!」

 

「「「グッドラック!」」」

 

「あっ! ちょ、待っ、待てやコラ! 俺だけ放置すんなせめてアキだけでも置いて行けぇええええええええええええええええええええっ!」

 

 結局その後、朝日が完全に上がるまで苦手強化を解かされた小春は起床時間を知らせるチャイムが鳴ると同時に崩れ落ち、帰りのバスでも一秒も目を覚ますことはなかったというが――それはまた、別のお話。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「そういえば、明久」

 

「ん? どうしたの、雄二?」

 

「まだ一か月以上あるにはあるが、そろそろ期末試験の季節じゃないか?」

 

「………………あいきゃんのっとすぴーくじゃぱにーず」

 

「去年の島田みたいなこと言ってんじゃねえよ」

 

「お願い、その現実だけは突きつけないで! 期末テストなんてただの拷問でしかないんだから!」

 

「相変わらずだな、お前は……」

 

「くっ、その余裕綽々な表情がムカつく……ッ!」

 

「でもまぁ、そろそろそのバカな成績を何とかしないと、母親か何かが帰ってきて一人暮らしが終わりを迎えるかもしれないな。お前の家、そういう事には何か異様に厳しそうだし」

 

「あははっ、それは流石に無いよ。母さんたちは基本的に忙しいからね。そんなことのために僕の一人暮らしを妨害するわけ―――あ」

 

「ん、どうした? なにか思い当たる節でもあったのか?」

 

「いっ、いいいいいいやいや別に何もないよ正常正常!」

 

「なんだその露骨に怪しい言い回しは……まぁ、別に俺には関係ないから良いんだが」

 

「うん、関係ない関係ない! そ、それよりもさ、雄二。今日帰ったら久しぶりに僕の家でゲームでもしない? 今日こそはレースゲームで貴様に勝ってみせる!」

 

「ほぅ? それは楽しみだな。よし、分かった。それじゃあこうしよう。普通に戦ってもつまらんからな。明日の夕飯でも賭けてみようじゃないか」

 

「オーライ。その条件、乗ったよ」

 

「言質は取ったからな。それじゃあ、準備ができ次第、お前の家に行くわ」

 

「うん、りょーかいりょーかい」

 

「じゃあ、俺はとりあえず学校に着くまで寝るからな。変なテンションで起こすんじゃねえぞ?」

 

「あははっ、流石にそんな事はしないって」

 

「信用ならねぇ……ま、その時は殴り飛ばすからそのつもりでな」

 

「うん。おやすみー」

 

 

 

 

 

「……だ、大丈夫だよね? 成績が下がったら姉さんを向かわせる、としか言われてないもんね? 要は現状維持さえすればいいだけだもんね? うん、そう、きっと大丈夫…………た、多分だけど……だ、だだだ大丈夫であってほしい、心の底から!」

 

 




 次回からは期末考査編です。


 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

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