大学が思いのほか忙しくて……(遠い目
と、とにかく、今後はもっと早く更新いたします!
バカルテットによる覗き騒動から一夜明けた、学力強化合宿二日目。
清水小春を始めとしたDクラスの面々はカリカリと真面目に勉強にふけっていた。
教室にはDクラスの他にCクラスの生徒の姿が確認される。これは強化合宿中の勉強時間が二つのクラスによって行われるからである。上のクラスが下のクラスを見て『ああはなるまい』と頑張り、逆にしたのクラスが上のクラスを見て『ああなりたい』と努力する事を目的とするこの勉強合宿なわけだが、FクラスとAクラスという雲泥の差コンビだったりBクラスとEクラスという噛ませ犬コンビだったりする中のCクラスとDクラスというコンビは、なんというか、こう……
「凄く余り物感溢れるチームだと、俺は思ったりするわけだ」
「それ、小山さんに聞かれたらキーキー叫ばれるから気を付けた方が良いぞ?」
パチーン、と指を鳴らして失礼な事を言う小春に源二の冷静な指摘が炸裂する。
小春は正座から胡坐へと体勢をシフトさせ、卓袱台の上に頬杖を突く。
「っつーか、せっかくの泊まり込み合宿なのに勉強漬けってのはどうなんよ。俺としてはこう、もっと遊びっぽい事がしてえ訳なんだけど?」
「昨日の今日でよくそんな事言えるな。逆に尊敬するよ」
「いや別に覗きしてえとか一言も言ってねえし。そして今の俺の言葉を聞いてあそこのCクラス代表が怒りに満ちた表情を向けてきたのを俺は見逃しちゃいねえ!」
ズビシ、と指をさしながらの咆哮にCクラス代表――
風格だけで格差を見せつけられた小春は不機嫌そうに溜め息を吐く。
と。
一緒に勉強をしていた者の残り一人、エセ関西弁の笹島圭吾が怖ろしい程に綺麗な笑顔で額に青筋を浮かべている姿が小春と源二の視界に映り込んできた。キツネ目の男が静かに怒る光景は、予想を遥かに超えるほどに威圧感が半端ない。
「どしたの圭吾? そんな怒れる九尾状態になっちゃって……」
「粛清対象でも見つけたのか?」
「そんな言葉が迷う事無く出てくるあたり、ボクたちって結構重症やと思うんやけど」
何を今さら。
「で、一体何を見たんだ?」
「あそこ見てみ、教室の中央付近」
「「ふむふむ」」
「香川はんがイチローとイチャイチャしながら勉強しとるんや」
「「死ねぇっ!」」
叫びと共に投げ放たれた消しゴムは見事な放物線を描きながら宙を舞い――
『んぎぁ!? 目が、目がぁぁああああああああああっ!』
『一郎さま!?』
――忌まわしきリア充の視力を奪い取った。
「よっしゃナイスコントロールや二人とも。異端審問会Dクラス支部(通称『DDD団』)の団長として心からお礼申し上げるわ」
「「お褒めに預かり光栄です」」
そんな茶番が繰り広げられている向こう側ではイチャラブカップルによる視力救命作業が行われているのだが、人の幸福が何よりも嫌いな非リアトリオはあえて見なかったことにした。
小春と源二と圭吾が固い握手を交わす中、小春の携帯電話が小刻みに振動を始めた。合宿中はマナーモードにしてるので電話がメールかの区別がつきにくいが、今のは十秒足らずで振動が終わったので、小春が設定を間違っていなければメールである。
小春は教室の前方で居眠りをしている教師から見えない位置――卓袱台の下に携帯電話を移動させ、源二と圭吾からも見えないように画面を確認する。
【From:ムッツリーニ
脅迫犯の特徴が分かった。今から外に出てきてほしい】
「よっしゃムッツリーニ、ナイスだぜ……ッ!」
……もうお忘れかもしれないが、清水小春は謎の加工写真で社会的信用を失うかもしれない位置まで追い込まれている状態だ。その脅迫犯の特定をFクラスのムッツリーニもとい土屋康太に任せていて、ついにその報告をされる時間がやってきた、という訳だ。
感極まって泣き出しそうな自分を抑え込み、小春はすくっと立ち上がる。
「そんじゃ俺ァ、今からトイレに行ってくるんで」
「絶対に吉井とか坂本関連な気がするが、まぁ行ってらっしゃい」
「気を付けるんやでー」
やっぱり良い奴らだよな、と見送られながら思ってしまった。
☆☆☆
教室からの脱出に成功した小春が向かったのは、男子にとっての最強の居城である男子トイレだった。トイレの中には土屋康太と坂本雄二の他、ムッツr――土屋康太と木下秀吉の姿があった。……秀吉が男子トイレにいることに疑問を覚えた俺は悪くない。
小春は長い前髪を手で掻き上げ、
「ンで、俺を脅してる犯人の特徴が分かったって、マジなんか?」
「…………俺の情報網を侮るな」
「いや、侮るどころか崇めてすらいるよ。でも、流石に早すぎねえ? お前は某国のスパイかなんかかよ」
「…………別に大したことじゃない」
どうせエロ目的で上達してんだろうけど。
「っつーか結局、俺を脅す且つ雄二を貶めようとしてる犯人って一緒だったんか?」
「おそらく、な。まぁそれについての説明込みで、今からその犯人の特徴を――明久の口から伝えさせてやろう」
「え、えぇっ!? なんでわざわざ僕にパスするの!? そのまま雄二が言えばいいじゃない!」
「お前の記憶力チェックだ。良かったな、俺が優しい親友で」
「あ、あぁ、そう、かな……? ふん。まぁ、雄二の気遣いを今回だけは素直に受け取っておくよ。ありがたく思え!」
いや、今お前はバカにされたんだけど? 別に親友としての気遣いとか何処にも微塵も含まれてなかったわけなんだけど?
小春の憐みの視線に気づかないまま、明久は自信満々にこう言った。
「『火傷にお尻がある女の子』!」
「それ何て新人類!?」
まさか俺はニューカマーに脅迫されてたってのか!?
お尻に火傷があるならまだ分かる。それはウチの愚姉もそうだから、それは普通に納得できる。――だがしかし、火傷にお尻があるってのは一体全体どういう事だ? 火傷をするたびにお尻が増えるなんて悍ましいにもほどがある。というか、そのお尻には一体どんな存在価値があるってんだ? お尻というのは主に体内で処理された不要物を体外に出すための役割を担っている。他にもクッションとか色気を醸し出すとかの役割を持っているが、問題はそこじゃあない。そんなものが火傷の箇所に出現しているというこのイレギュラー。この意味不明で摩訶不思議で理解不能な事実をどううやって説明するかという問題が浮上する!
「……真面目に考察してる所悪いんじゃが、今のは明久の言い間違いじゃぞ?」
「何ィ!? 俺の哲学者的な考察を無駄にするってのかアキ!」
「いや、今のをまともに信じる方が無駄だろうが」
「…………小春は変なところで純粋」
「小春はサンタを今でも信じているぐらいじゃからのう」
「はぁ!? サンタの事を悪く言ってんじゃねえよ! サンタは凄ぇんだぞ? 二十四日から二十五日にかけての数時間で全国各地の子供たちにプレゼントを渡すんだ。きっと国ごとに支部があって、本部からの指示で誰にどのプレゼントを渡せばいいのかを決めてるんだ。夜、子供達が寝静まった時に出動するんだが、もしかしたら大人の誰かに姿を見られちまうかもしれねえから、ステルス迷彩の機能を持つサンタ服を着て空飛ぶトナカイと半重力機能搭載のソリの乗って任務を達成しに行くんだ。そして、プレゼントを渡した後には慈悲に満ちた顔で子供たちの頭を撫でつつ――
メリークリスマス。
――って言って颯爽と支部に帰るんだ! そんな格好いいサンタを、渋くて格好いいサンタを、お前達は存在しないって言うのか!?」
「お前の想像力豊かすぎだろ! どこまでサンタに思い入れあるんだよ!」
「小学一年生の時から将来の夢の欄に『サンタクロース』って書くぐれえには尊敬してんだよ!」
「予想を遥かに超えるほどにマジだった!」
まさかの熱意に驚きを隠せないFクラス一同。小春にはサンタクロース目指して是非これからもがんばってもらいたい。……健闘を祈る。
と、悪ふざけはここまでにして。
バカな言い間違いをした明久が頼りにならないと再認識した雄二は「はぁぁ」と面倒くさそうに頭を掻き、
「今回の件の犯人の特徴は、『お尻に火傷の痕がある女子』だ」
「へー。ミハ姉以外にもお尻に火傷の痕がある女子なんているのかー」
「……………………お前、今なんて言った?」
「へ?」
小春はきょとんとした表情で雄二を見つめ、
「ミハ姉のお尻にも火傷の痕がある、って言っただけだけど?」
『…………はい、今回の事件、これで解決!』
「え? へ? ど、どういう事?」
一人だけ状況が読めない中、学年全体を巻き込むはずだった覗き騒動は始まる間もなく終結した。
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次回もお楽しみに!