鈴木一郎という尊い犠牲が払われ、無事に卯月高原へと到着した小春達は予め割り振られていた部屋へと移動した。もちろん、小春のルームメイトは源二と一郎と圭吾である。……なんか問題児だけ集められた感が拭えないんだけど。
とまぁ、そんなことを思ってはみるけれども、せっかくの仲良しカルテットでの宿泊なのだ。これは普段よりも羽目を外して遊んで好きな人暴露大会とか開いちゃったりして盛り上がれという神からの啓示に違いない。いや、俺は美波との事なんて話したくねえけど、他の三人のは聞きてえんだよ。悪いか!
和風な部屋の隅の方に鞄を置き、制服からジャージへと着替えを始める。
「そういえば、これからの予定ってどうなってんの?」
「今日は到着が遅れたから風呂と夕食だけのようだな。明日からは勉強合宿が本格的に始まるみたいだぞ?」
「うへぇ……勉強一色は嫌っすよ……?」
「まぁ、ボクらはここに勉強しに連れて来られてるし、仕方がない事なんやけどな」
「「「お前は関西弁を勉強し直せ」」」
「ぶっ飛ばすぞワレェ!」
上着に手を通しながら睨みつけてくる圭吾を小春たち三人はドスの利いた目つきで迎撃する。これだけ見たら凄く仲が悪い感じなのに本当は凄く仲が良いというのだから、本当、男の友情というのはよく分からない。
着替えを終え、制服を綺麗に畳んで鞄に丁寧にしまう――と同時に強化合宿のしおりを取り出し、部屋の中央に四人で集まってぱらぱらとページをめくり始めた。
「俺達は九時からの入浴なんだな。おっ、アキ達と一緒の時間か。……大変そうだな」
「というか、アイツ等は逆に覗き騒動とか起こしそうだけどな。Fクラスだし」
「あっはっは。流石にそれはないっすよ。いくらなんでも覗きなんてやばすぎるっす」
「そうやな。覗きなんて言語道断、言い訳無用な最低な行為や」
「「「「あっはっは」」」」
凄くワザとらしい笑いを部屋に響き渡らせるDクラテット。顔は笑っているかもしれないが目は全く笑っていないところがなんとも恐ろしい。
――というか、
(美波の鎖骨美波の鎖骨美波の鎖骨……ッ!)
(三上さんの太腿三上さんの太腿三上さんの太腿……ッ!)
(のぞみーるのおっぱいのぞみーるのおっぱいのぞみーるのおっぱい……ッ!)
(中林はんの尻中林はんの尻中林はんの尻……ッ!)
凄くマニアックな四人が爆誕していた。っつーか少しは自重しろ。
顔にはニコニコ笑顔を張り付けているのに脳内は桃色一色なDクラテット。それぞれの想い人(?)の裸を妄想しながら顔を仄かに赤らめるという荒業までもを発動してしまっている。思春期男子の妄想力は怖ろしい。
そして。
すくっ、と四人はほぼ同時に立ち上がり、壁に掛けてある時計を一斉に目視した。
七時四十三分。
「あ、あー。く、九時ぐらいに夜風に当たりたくなりそうだなー!」
「そ、そうだな。俺も同行させてもらうよー!」
「い、いいっすね! オレも風情を楽しみに行きたいっすー!」
「ここの夜空は綺麗って評判やし、いいかもなー!」
やけにテンションが高い棒読みを披露する四人。目は忙しなく宙を彷徨っていて顔には大量の冷や汗が浮かんでいるが、これでも四人は平静を保っているつもりだったりする。ポーカーフェイスという言葉を知らんのか。
カチ、カチ、と時計の針が進む音だけが部屋の中に響き渡る。
小春たち四人は決してふざけてはいない瞳を四人で同時に交わし、
「作戦を考えるぞテメェらぁっ!」
「「「全力で協力してやんよォおおおおおッ!」」」
いつの時代も男はバカな生き物なのだ。
☆☆☆
そして、九時五分を回った頃。
小春と源二、一郎と圭吾は扉を蹴り破る勢いで男たちの理想郷への突撃を開始した。
「結局いい作戦が思い浮かばなかったぁーっ!」
「で、でも、正面突破ってのもオレ達らしいじゃないっすか!」
「猪突猛進ってのも大事やとボクは思うねん!」
「猪突猛進以前に先手必勝の方が大事だ! 教師に捕まったら終わりと思え!」
「「「応っ!」」」
発案者の清水小春を先頭に、変態達は編隊を組んで女子風呂へと向かっていく。
☆☆☆
まぁ、五秒でばれましたよね。
「こーはーるー? ウチが入ってる時間に覗きを決行しようだなんて、イイ度胸じゃない……ッ!」
「平賀君? 私、少し幻滅しちゃったなぁ……ッ!」
「一郎さま? 私のおっぱいがどうとか叫んでたのはどういう事でございますか?」
「笹島君? アンタ、覚悟はできてんでしょうねぇ……ッ!」
覗きの途中で島田美波に見つかったDクラテットは小春を囮にして逃亡を図ったが、美波の人並み外れた戦闘力を前に数秒と掛からずに叩きのめされ、無理やり自室へと連れ戻されてしまっていた。因みに、美波はトイレからの帰りだったようです。なんて不幸なんだよ俺たち……。
そして部屋の中で強制土下座を強要された四人は美波の視線から逃れるように畳と永続睨めっこ。途中から三上美子と香川希と中林宏美が合流し、現在の状況に陥ってしまう――という訳だ。
だらだらだら、と大量の冷や汗を流しながら、バカルテットは心の中でこう叫ぶ。
『(絶対に見つかってはならない奴らに見つかっちまった……ッ)』
他の女子ならまだ良かったのに、よりにもよってこの歩く戦闘機械ガールズに見つかってしまうというこの不幸。特に美波と宏美の戦闘力がヤバすぎる。肉体全てが武器の美波と常に小型バットを持ち歩いている宏美。確実に骨の一本は持っていかれるであろう未来に小春と圭吾は青褪めた顔で絶望する。
小春の足の上に重石を乗せながら、美波は満面の笑みを浮かべる。
「社会の常識が分からない小春に、ウチからのプレゼントよ☆」
「ふぐぅっ! み、美波さん? どうしてこの卯月高原にそんな大昔の拷問道具が用意されているんですかねぇ……ッ!?」
「覗きという大罪を犯したバカを粛清するためじゃない? はい、次いくわよー」
「んぎゃぁああっ! あ、足が、潰れるぅ……ッ!」
とてつもないオーラを放ちながら淡々と刑を執行する美波に小春は心底恐怖する。
呻く小春の右にいる圭吾は顎を宏美に掴まれる形で顔を上げさせられ、
「笹島君。バットと拳と重石、どれがお好み?」
「で、できればすべて勘弁してもらいたいなぁとか言ってみたり……」
「そう、分かった。――フルコースで行きましょうか」
「お慈悲を、お慈悲をくれや中林はん! 流石にそのコンボは命に係わると思うんよ!」
「大丈夫よ、笹島君。――目を瞑ってる間に終わってるから」
「それはボクの命がって事やろ? そうなんやろ!?」
「はい、一枚目ぇー」
「ふぐおぉぉっ!?」
全く笑っていない超絶無表情で重石を抱える宏美に圭吾は恥も外見も無く悲鳴を上げる。やばい、このままじゃ本当に殺されてまう……ッ!
アグレッシブ系女子コンビに小春と圭吾が痛みを快楽に変える力を与えられている傍ら、源二は心に直接的なダメージを負わされていた。
「バカ」
「ぐっ!」
「覗きなんて最低」
「ぎっ!」
「平賀君がそんな最低な事をする変態だとは思わなかったなぁ」
「ぐっはぁっ!」
「平賀君は社会不適合者なんだね。絶対にやってはいけないことを平気でやってしまう、最低の変態さんなんだね」
「もう勘弁してください三上さん! そして冷たい視線がなんとも怖い!」
「汚物が喋るなぶち殺すよ?」
「全力でごめんなさい!」
まさかの毒舌美子さんだった。
腕を組んで仁王立ちした状態から放たれる罵倒の数々。個人的には毒舌キャラは嫌いではなかったが、ここで考えを改めさせてもらおう。――毒舌の女性、マジ怖い。
源二が精神的に地獄へと送られているその隣で、一郎は四人の中でも最も辛い刑を執行されていた。
「一郎さま」
「はい」
「革の首輪と鉄の首輪、どちらがお好みでございますか?」
「あの、えと……どうして、首輪を?」
「飼い主の命令に逆らうペットを躾けるために必要な道具だからでございますわ」
「く、首輪じゃないので頼むっす……」
「そうでございますか。それでは――この合宿後、一郎さまの部屋にあるエロ本をすべて焼却させてもらうのでございます」
「…………」
「巨乳系から始まりお姉さん系、近親相姦系、凌辱系、痴漢系。その他。多種多様なものをお揃えなさっておりましたよね? 和服巨乳との和姦系だけは残して差し上げるとしても、その他のエロ本は――地獄送りでございますわ☆」
「ちょ、ちょっち話し合おうっすのぞみーる! さ、流石にそれは酷すぎるっす!」
「御主人さま」
「へ?」
「のぞみーるではなく、御主人さま、でございますでしょう?」
「え、いや、あの、流石にここでその呼び方はきついというかなんというか……」
「一郎さま?(ニコッ)」
「………………モウシワケゴザイマセンデシタ、ご主人様」
「はい、良い子良い子、でございますわ」
氷の微笑に逆らう余裕を失った一郎は畳に顔面を押し付ける形で土下座をし、彼の後頭部に希はそっと鉄の首輪を乗せた。――ああ、これ着けないと殺される流れっすね。
小春の足に十枚目の重石が載り、圭吾の右頬を金属バットが掠り、源二の心に冷徹な罵倒が突き刺さり、一郎が首輪をつけた――その瞬間。
『もう反省できた?』
『…………すいませんっっっしたーっ!』
ニッコリと笑う女性四人にバカルテットは全力で部活の後輩風に謝罪した。
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次回もお楽しみに!