俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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 二話連続投稿です!


俺とリア充とDクラテット

 車窓から覗く緑の多い風景が、いつもの都会から遠く離れた場所へ来たんだなと実感させる。マイクロバスが通りの少ない道路を規定速度で走って行き、それと比例して山や森などの自然が後ろへ後ろへと流れていく。

 座席の肘掛けに頬杖を突いて車窓から外をぼーっと眺める小春の隣で、Dクラス代表の平賀源二は携帯電話を弄りながら言った。

 

「島田さんがいないから寂しそうだな、小春」

 

「何の躊躇いも無くからかってきてんじゃねえよ。っつーか、何で美波がいねえだけで俺が寂しい思いをせにゃならん」

 

「相変わらずツンデレだなぁ」

 

「……今更なんだけどさ。俺ってもうツンデレ確定なの? 捻くれてるって言われるだけならまだ我慢できんだが、流石にツンデレって言われるのは納得できねえ訳なんだけど?」

 

『やーい、ツンデレ脳内小春日和ぃー』

 

「お前ら全員このバスごとぶっ飛ばす!」

 

 示し合わせたかのようなタイミングで一丸となったクラスメイト達に小春の怒号が飛ぶ。

 はぁぁ、と疲れたように溜め息を吐き、小春は再び緑の風景を眺め始めた。電車とバスを乗り継いで四時間ほどかかる場所にある『卯月高原』までの道は、ババ抜きが十回終わってしまう程に長かった。――つまり、普通に暇なのだ。

 隣からの源二の話に空返事をしながらも景色をぼーっと眺める小春。変わり映えのない風景を長時間見ているせいか、小春の瞼は徐々に重くなっていく。このままではあと数分もしない内に眠ってしまうだろう。

 睡眠モード直前といった様子の小春に気づいた源二はニヤァと悪戯っぽく笑い、

 

 カシャッ、と。

 

 眠気に押し潰されそうになっている小春の姿を携帯電話のカメラ機能で激写した。

 シャッター音で眠気が飛んだ小春は気怠そうな瞳を源二に向ける。

 

「…………何してんだよ、源二……」

 

「いや、別に大した事じゃないさ。ただ、お前の寝顔写真を島田さんに送信しただけだから」

 

「いろいろとツッコミてえ所が多すぎる! まず第一に何でお前が美波のメアドを知ってんだ!? そして次に何勝手に本人の許可なく寝顔を写メってんだよ! 最後にそもそも美波に写真を送るとか何考えてんだお前!?」

 

「『小春の情報が欲しいから』という理由で島田さんとはメアドを交換して、『面白そうだから』という理由でお前の寝顔を激写して、『リアクションが見たいから』という理由で島田さんに送信した。――これで返答としては十分か?」

 

「律儀に答えんなムカつくなぁ!」

 

 怒涛のツッコミの直後にやってきた疲労感に小春はお決まりの溜め息を吐いた。最近やけに溜め息を吐く機会が増えてきているせいで、もはや溜め息を吐くことが特技のようになってきている気がする。アキの土下座も大概だが、俺の溜め息も相当だな……。

 ただでさえ眠いのに更に疲れがプラスされてしまった小春は重くなった瞼を手で擦る。

 と。

 いつも通りの漫才を繰り広げていた小春と源二の後ろから、その会話は聞こえてきた。

 

「一郎さま。はい、あーんしてくださいでございます」

 

「あーん。むぎゅむぎゅ……うんっ。のぞみーるの手料理はいつも美味しいっすね!」

 

「まぁ、一郎さまはお上手でございますねっ。もうっ、大好きでございます!」

 

「やはは……オレこそのぞみーるが大好きっすよ」

 

 何だこのイチャラブ空間は……ッ!

 椅子の背凭れを一つ挟んだ後ろ側で展開される桃色空間に、小春と源二は本当の本当に珍しい事に、二人揃って額にビキリと青筋を浮かべていた。このイチャラブなやり取りもそうだが、そもそもイチローの野郎がリア充だってのが気に食わねえ……ッ!

 やけに据わった目でアイコンタクトを交わす小春と源二。基本的に仲の良い二人はアイコンタクトのみで結構な意思疎通を可能としている。作戦を相手に伝えるぐらいならば、目の動きだけで申し分ない。

 そして。

 ムカつくリア充への制裁方法を決定した小春と源二は椅子の背凭れから上半身を覗かせ、

 

「「くたばれリア充野郎っ!」」

 

「ぐばらぁっ!」

 

 渾身の右ストレートが鈴木一郎の眉間にクリーンヒットした。

 「い、一郎さま!?」と心配そうな様子で一郎を抱き寄せる香川希。その行為だけで彼女の豊満な胸が一郎の顔面に押し付けられ、それに比例するように源二と小春の青筋がより深く刻まれていく。この野郎、どこまでいってもラッキースケベしやがって……ッ!

 青いバンダナ越しに殴られた額を希に摩られながら、一郎は涙目で声を荒げる。

 

「い、いきなり何するんすか二人とも!」

 

「黙れリア充。そのまま胸に溺れて死ね」

 

「っつーか窓から飛び降りて死ね。今すぐ飛べ。You must fly!」

 

「命令形!? い、いやいやいきなり意味分からないっすよ! オレが何か悪い事しましたか!?」

 

「「存在が罪だ」」

 

「アンタ等今人類史上最低な悪口言いやがったっすからね!?」

 

 バチバチバチ! と火花を散らすバカ三人。しかし一郎は希に顔を抱き寄せられている体勢の為、他の二人とは比べ物にならない程の勝ち組感を身に纏ってしまっている。勝ち組VS負け組コンビというこの構図、正直言って社会の縮図な気がしてならない。

 そんな中。

 内戦を勃発させている小春と源二と一郎に介入する、一人の勇者が現れた。

 その勇者は、小春達と通路を挟んだ位置に座っている一人の男子生徒だった。

 

「まぁまぁ三人とも、もうそこら辺にしときんさいな。バスの中で暴れるんは良くないと思うで?」

 

「「「黙れエセ関西弁」」」

 

「人の必死なキャラ作りにケチつけんなやボケェ!」

 

 仲裁の言葉をかけたのに結局はキレてしまった男子生徒。

 特徴としては、キツネの様な糸目と跳ねの少ない黒髪か。口調が一番の特徴だと言われてしまえばそこまでなのだが、小春達の言った通りこの関西弁は偽物だ。そもそもの問題として、北海道出身であるこの男子生徒が関西弁を使うところが間違っている。

 そんな残念な方向にキャラの濃さが特化してしまっている男子生徒の名は、笹島圭吾。

 小春と源二と一郎。この三人とツルむ事がやけに多い少年で、自分と小春たち三人を合わせて『Dクラテット』だと他者に自慢するように言っている――まぁ言うまでも無く残念な少年だ。因みに、『Dクラテット』は『Dクラスカルテット』を略したものである。

 唯一の弱点『エセ関西弁』を指摘された圭吾は顔を真っ赤にしながら叫びを上げる。

 

「せっかくボクが仲裁してやろうしてたってゆうのにその言い草は何なんや! キミ達には感謝の心ゆうのが足りてへんと思うねん!」

 

「いろんな地方の方言が混ざりすぎてもはや何を言ってるのか分からねえんすよ! せめて一つに絞れ一つに!」

 

「イチローの言う通りだ! 大体お前、関西弁を自称してるくせに『ボク』とか『キミ』とか意味分かんねえんだよ! 本当に関西弁に染まりてえんなら『ワイ』とか『おまん』とかに変えろや!」

 

「というか、関西弁キャラなんて今更過ぎるんだよ! もはや時代遅れ! 昭和の世界に帰ったらどうなんだ!?」

 

「三人まとめて心にグサグサ来るセリフ吐くなぁあああああああああああっ!」

 

 圭吾は通路を挟んだ位置にいる源二の襟首を掴み上げ、

 

「大体なぁ、ボクだって自分の方向性が良う分からんくなってきてんねん! 関西弁とか京都弁とか博多弁とか江戸弁とか東北弁とか、もう何が何だか分からなくなってきてんねん! もう何やねん、訳分からんわ!」

 

「「「こっちのセリフだ!」」」

 

 ギャーギャー騒ぎ立てながら口喧嘩を勃発させるバカ四人組。まだ掴みあいの喧嘩にまで進展していない事だけが唯一の救いだろう。こんな狭い所で、しかも走行中のバスの中で暴れまわるなんて危険極まりない。出来る事ならそのまま座席から立ち上がらないでほしい。

 乱暴な口調と普通の口調と後輩口調とエセ関西弁がバスの車内に響き渡る。どこまでも濃いキャラしてるなこの四人、とDクラスの仲間たちは口には出さずに一致団結している訳だが、当の四人はクラスメイト達のそんな感想には全く気付かない。

 と。

 今にも掴み合いにまで発展しそうな空気を身に纏っている小春たち四人のすぐ傍にいた香川希は何を思ったのか、一郎を後ろからぎゅーっと抱きしめ、

 

「一郎さま! それ以上の罵り合いは不毛でございます! ほらっ、私のお胸で少しは頭を冷やすのでございますよ!」

 

「わぷっ。の、のぞみーる……これ以上は、ちょっちヤバいっす……」

 

 男の夢と希望が詰まった双丘に顔面を挟まれた一郎の口から腑抜けたような声が漏れる。彼の顔は真っ赤に染まってしまっていて、鼻の下はどうしようもない程に伸びている。これで希が天然じゃなかったら、迷う事無く頭蓋を殴り潰されている事だろう。

 まぁ、そんな事とは関係なく。

 小春と源二と圭吾という負け組トリオが幸せそうな一郎を見逃す訳はない訳で。

 獰猛な目つきをした三人は今まさに天国気分な一郎の背中をロックオンし、

 

「「「唸れ! 俺(ボク)の小宇宙ォオオオオオオオオオオッ!」」」

 

「ひぎゃぁあああああああああああああああっ!」

 

 己が持つ全ての力を込めた右ストレートを叩き込んだ。

 

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

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