俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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 ついに始まる強化合宿編!

 バカテスのアンチが生まれたイベントと言っても過言ではない問題行事!

 さて、ここでは一体どうなるのでしょうか――!


俺と脅迫とプロポーズ

「あれ? ミハ姉、今日は随分と家出んのが早ぇんだな」

 

「ええ。今日はちょっと先生に頼まれごとがありまして……誠に心の底から残念なんですが、今日はお姉様との登校を断念せざるを得ない状況なんです」

 

「残念だと思ってんのはアンタだけだろうがな」

 

「懺悔の時間をあげます。今すぐその場に五体投地しなさい……ッ!」

 

「コンパス首に突き立てながら怖ぇ事言ってんじゃねえよ! またお母さんに言いつけんぞチクショウ!」

 

「んなっ!? そ、それだけは! またお尻にお灸を据えられるのだけはご勘弁をぉっ!」

 

「そういえばミハ姉、まだケツに火傷の痕が残ってんだったな……ご愁傷様。いやまぁ、完全無欠に自業自得だけど」

 

「因果応報とも言いますね!」

 

「無い胸張って意味不明な発言してんじゃねえよ。っつーか、早く学校行かなくていいんか? 先生に呼ばれてんだろ?」

 

「あ、そうでした」

 

 ガタガタッ、トントン。

 

「それじゃあ小春。美春は先に行ってますので――」

 

「あン? ンな事わざわざ再確認しなくても……」

 

「――お父さんの朝食、頼みましたよ!」

 

 シュバッ! ズダダダダダッ!

 

「って、オイコラミハ姉! そんな大事な事言い残して去って行くなボケェええええええええええっ!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 新学年になってから二か月が経ち、やけに雨が多くなってきた梅雨時の朝。

 清水小春は島田美波と並んで仲良く登校していた。

 

「明日から強化合宿かぁ……あーあ、期末テスト後の林間学校が待ち遠しくて仕方ねえ」

 

「来年の一年生の行事にするための試験的な行事だったっけ? 何でも、その日に都合が取れたのがウチ達二年生だけだった――って」

 

「そもそも、一年生が都合取れねえのに、一年生の行事にしようとしてる所が間違いまくってる点なんだがな」

 

 はぁぁ、と肩を竦める小春に美波は苦笑を向ける。

 強化合宿。

 正式名称は、学力強化合宿。

 その行事名から内容は凄く察せると思うのだが、要するに第二学年の学力向上を目的に行われる四泊五日の合宿だ。朝から夕方まで勉強勉強勉強、風呂に入って飯を食べてハイ就寝。ある意味では『教育の監獄』と呼べるであろう地獄の合宿でもある。

 そもそも勉強にあまり興味がない小春は強化合宿が面倒臭くてたまらない訳で。楽しみなんて部屋で源二たちと喋るぐれえじゃん、と既に強化合宿の評価を自分の中で確定させてしまっている。

 美波はポニーテールを左右に揺らし、

 

「ウチは結構楽しみだけどね、強化合宿。皆と一緒に寝泊まりしたりお風呂に入ったりする訳でしょう? 友達とキャンプに行ってるって思えば……結構素直に楽しめるんじゃない?」

 

「そういうもんなんかなぁ……」

 

 校門を潜り、校庭を通り過ぎ、下駄箱へと移動する。FクラスとDクラスは校舎が違う訳だが、生徒の下駄箱は基本的に新校舎に作られているため、結局は同じ入口から校舎内へと入らなければならないのだ。

 Fクラスの下駄箱で美波が上靴に履き替えた後、彼女を引き連れてDクラスの下駄箱へと向かう。普段から早めの登校を心掛けているせいか、周囲にはちらほらとしか生徒の姿が確認できない。

 まぁ、遅刻はイヤだしなぁ。相変わらず単独思考が多い小春は首の関節をパキポキ鳴らしながら、下駄箱の扉を開け放つ。

 

「んぁ? 何だこれ、封筒か……?」

 

 上靴の上に重ねられた、一枚の封筒。はて、何でこんな所に封筒が入ってんだろう? 原因が分からずに首を傾げる小春だったが、とりあえずは行動を起こす必要があると判断し、下駄箱の中から上靴と封筒を同時に引っ張り出した。

 

「うん? 小春それ――ナニ?」

 

「落ち着け美波。何の確証もねえまま俺の頸動脈にカッターナイフを突きつけんな」

 

 無駄に据わった瞳で死刑を執行しようとしていた美波を宥め、小春は封筒に手をかける。

 封筒の中に入っていたのは、一枚の便箋と――三枚の写真だった。

 問題は便箋だな、と写真を封筒から出さずに折り畳まれた便箋をゆっくりと拡げていく。隣から美波が便箋の中身を覗き込んでいるのだが、まぁ今更止めたところで彼女は聞かないだろうし、このまま放っといた方が良いだろう。

 桃色の可愛らしい便箋の中に書かれた文章に目を通す。

 

『清水小春さまへ』

 

「…………ほぅ?」

 

「だから待てって拳構えんなまだこれがラブレターだと決まったわけじゃねえ!」

 

 っつーかラブレターだったとしても美波以外の女子からだったら願い下げだ! いや、恥ずかしいから口には出さんけども!

 このままでは美波が修羅レベルの化物になってしまう。怒りは女を強くする、とはまさに今の美波を指すのだろう。……俺、生きて教室まで行けんのかなぁ。

 美波の殺気に脅えながらも、小春は続きに目を通す。

 

『あなたの秘密を握っています』

 

「…………は?」

 

 まさかの脅迫文だった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「む、ムッツリーニィィ――――ッ!」

 

 Dクラスの教室に鞄を置いた後、小春は迷う事無くFクラスへと向かった。目的はただ一つ。この学校で最も情報収集力に長けている少年に力を貸してもらうためだ。

 Fクラスの教室の扉を開け放ち、目的の人物の居場所を数秒で特定。Fクラスの生徒達の注目を一身に浴びながらも、小春はその人物の席まで急ぎ足で向かった。

 土屋康太。

 通称『寡黙なる性職者(ムッツリーニ)

 最近はムッツリというよりもただのスケベ野郎と化している気がする友人の元に、小春は涙目で駆け寄った。

 

「ムッツリーニ! お前の力を貸してほしい!」

 

「後にしろ。今は俺が先約だ」

 

「あン? 何で雄二が?」

 

 小春に立ちはだかるように現れたのは、大きな体とツンツン頭が特徴の友人だった。

 Fクラス代表、坂本雄二。

 嘗ては『神童』とまで言われた元天才で、現在はAクラス代表の霧島翔子の許婚として毎日頑張っている憐れな仔羊である。

 疑問の声を上げる小春に康太はちらっと視線を向け、

 

「…………雄二の結婚が近いらしい」

 

「は? 別にそんなの今更だろ? そんな事より俺の方がヤベーんだって! さっき確認したら無駄に精巧な加工画像(小春・メイド服&チャイナドレス&ゴスロリver.)が入ってたし!」

 

「テメェは元から女装が似合いそうだとか言われてただろうが! 今更噂が現実になったところで慌てふためいてんじゃねえ!」

 

「ンだとコラ! 大体テメェ、あんな美人な嫁さんの何が悪ぃんだよ! 顔良しスタイル良し頭脳良し運動良し――まさに理想のお嫁さんじゃねえか!」

 

「それとこれとは話が別だ!」

 

「うるせえ! さっさと人生の墓場に帰れこの妻帯者!」

 

「テメェはさっさとオカマバーに出勤しろ!」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………互いに口が悪いんだから、何も言い合わなければ傷つかないのに」

 

 べ、別に傷ついてなんかねえ! これは汗だ! 目から汗が出る新人類だかんな、俺は!

 互いに涙目で互いに歯を食いしばる小春と雄二に、康太は呆れたように肩を竦める。どこまでいっても似た者同士だな、という感想を忘れずに。

 小春は場の空気を変えるために口を開く。

 

「いやでも、まだ結婚程度で済んでんだからまだ良くね? 普通に考えて、あの霧島の様子じゃ既に子持ちって設定になっててもおかしくねえんじゃ……」

 

「それ以上余計な事を言うとぶっ殺すぞ。翔子は偶然その言葉を耳にしちまったら、俺は、俺の未来は……ッ!」

 

 既に手遅れだったみたいです。

 

「……まぁ、いいや。最初にお前の事情を聴いてやんよ」

 

「その上から目線が癇に障るが、まぁいいだろう」

 

 教室の中央で明久と秀吉が瑞希と美波を足止めしているのを確認した後、雄二はとても重苦しい声色で話を始めた。

 

「実は今日、翔子からMP3プレーヤーを没収したんだ」

 

「は? 何でMP3プレーヤーを持ってるだけで没収したんだ? 別に音楽を聴くぐれえ誰でもするだろうに……」

 

「いや、アイツは極度の機械オンチだからな。そんなものを学校に持ってきている時点で怪しいんだ。――だから、俺は迷わずに没収したわけなんだが……」

 

「訳なんだが?」

 

「そこには何故か俺の捏造されたプロポーズが録音されていたんだ」

 

「…………(ちらっ)」

 

「…………(ふいっ)」

 

 訝しげな視線を向けてくる小春から露骨に目を逸らす康太。……あぁなるほど、コレの原因を作ったのはお前ら三人だって事か。だから無駄に罪悪感に襲われている、と。――バカだろコイツ等。

 いつも通りに足を引っ張り合っている様子で安心した、とやや捻くれた安堵をし、小春は雄二に先を促す。

 

「しかも翔子はその言葉を、父親に婚約の証として聴かせるつもりのようだ」

 

 コイツの人生はもう本当に駄目かもしれない。

 

「という訳でムッツリーニ。この録音をしやがった犯人をお前に突き止めてもらいたい。さっきも言ったが、翔子は機械オンチだからな。こんな高度な真似が出来るとは到底思えない。絶対に真犯人がいるはずなんだ」

 

 なるほど。つまりは雄二も俺と同じことを頼みに来たって訳か。まぁ確かに、犯人探しならムッツリーニがこの学園の誰よりも最適だしな。任せておいて安心できるってのは頷ける。

 雄二の言葉に康太は一度だけ小さく頷く。

 そして、次の小春の方を振り向き、

 

「…………小春は?」

 

「俺の恋路が他人に崩壊させられちまいそうなんだ」

 

「…………それは、いつもの事」

 

 その言い草は友人としてどうなんだろう。

 

「あぁ、ごめんごめん。流石に端折りすぎたな。えっと、つまり、どういう事かというと――」

 

 ――事情説明中――

 

「――っつー訳で、俺も雄二と同様、この脅迫の犯人を突き止めて貰いてえんだ。盗撮とかそれ云々以前の問題として、画像の加工技術に長けている奴が犯人だと思う」

 

「なんだ。小春も俺と同じような境遇か」

 

「…………似た者同士」

 

「口を慎めムッツリーニ。今お前は人類史上最悪の悪口を言った!」

 

「おいテメェそれどういう意味だコラ」

 

 バチバチバチ! と火花を散らす小春と雄二に康太は本日二度目の溜め息を吐く。そういうタイミングの良さが似た者同士だと言われる所以だという事に、この二人はいい加減に気づくべきだ。

 と。

 教室の扉をガラガラと開き、Fクラスの担任の西村先生が大きな箱を抱えて入ってきた。

 

「送れてすまないな。強化合宿のしおりのおかげで手間取ってしまった――って、オイ清水弟。既にホームルームの開始時刻は過ぎているぞ?」

 

「えぇっ!? チャイムの音とか全く聞こえませんでしたけど!?」

 

「今日はチャイムが故障していてな。自分で時刻を逐一確認しながら行動しなければならないんだ」

 

「それを先に言えよこの鉄人! しかもそれで責められるって流石に酷いっしょ!」

 

「西村先生と呼ばんか!」

 

 まぁいい、と西村は頭を掻き、

 

「今回は機材のミスだからな。特別に見逃してやろう」

 

「ありがとうございます鉄人先生」

 

「…………そんなに補習室に行きたいのか?」

 

「ありがとうございます西村先生! このご恩は十分間ぐらい忘れません!」

 

「貴様の記憶力は吉井以下か」

 

「待ってください先生! なんでそこで僕を引き出しに出すんですか!?」

 

「それを言うなら『引き出し』ではなく『引き合い』だろうが」

 

「そんなことはどうでも良い! 撤回を、発言の撤回を要求します!」

 

「おのれ鉄人! よりにもよって俺の記憶力をアキ以下だと!? これは人権の侵害だ!」

 

「小春!?」

 

「ええい、いいからさっさと教室に戻れ! これ以上騒ぎ立てるというのなら、明日の強化合宿に貴様だけ徒歩で行かせるぞ!?」

 

「職権乱用!?」

 

 流石にそれだけは勘弁してもらいたいのか、小春は脇目も振らずにDクラスの教室へと全力疾走する。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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