俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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俺と赤面と決勝戦

 そして、清涼祭二日目がやって来た。

 二日間行われる清涼祭の最終日という事もあってか、文月学園の校舎内には朝早くから多くの生徒が遅刻もせずに集合していた。やはり最優秀クラス賞を取るのが目標なのか、初日に負けない程に念入りに自分たちのクラスの出し物のチェックを行っている。

 そんな、朝から騒がしい文月学園にて。

 小春はFクラスへとやってきていた。

 

「あ、小春。こんな朝早くにどうしたの?」

 

「あーいや、ちょっと美波が心配で……美波、ちゃんと学校に来てっか?」

 

「心配は要らないよ――って僕が言うよりも直接話した方が信憑性はあるよね。おーい、島田さーん! 愛しの小春が心配だからって顔を見に来ぐぶるへぇいっ!」

 

「あー手が滑っちゃったーごめんねー吉井ー。……これ以上余計な事言うとぶっ殺すわよ?」

 

「ふぁい! ほうひふぁへほはいふぁへん!」

 

 右頬に決まった右ストレートで竹蜻蛉のように空中で錐もみ回転を強要された明久は恥も外見も殴り捨て、美波に向かって全身全霊の土下座を決行する。

 はぁ、と疲れたように溜め息を吐き、美波は小春に小さく微笑みを向ける。

 

「おはよっ、小春。昨日はよく眠れた?」

 

「俺の事よりお前だよ、美波。今朝は大丈夫だったか? 変な奴らに絡まれたりはしなかったか? 昨日の事で気にしてる事とかねえか? 身体に傷とか残ったりしてねえか?」

 

「気を遣い過ぎよ、小春。ウチは平気だし、瑞希や葉月も大丈夫。確かに昨日は大変だったけど、今日は不思議なぐらいに落ち着いてるわ」

 

「それもこれも愛しの小春のおか――おっと黙りまーす」

 

 美波の背後で要らぬ事を言おうとした雄二は、美波を中心に放たれた闘気の渦に敏感に反応し、両手で降参の姿勢を見せながら奥の方へと引っ込んでいった。やはりこの学園には男子より強い女子が多すぎるような気がする。

 これ以上からかわれてたまるか、とFクラスの面々をギロリと睨みつける美波。

 美波の行動の理由が分からない小春が「???」と首を傾げる中、クラスメイトを視線で黙らせた美波は少しだけ頬を朱く染め、

 

「そ、それでね、小春。――後夜祭の後、何か用事とかある?」

 

「後夜祭の後? えーっと……Dクラスの打ち上げは明日だから、別に暇だと思うけど……」

 

「そ、そうなんだ!」

 

 無駄に演技がかったリアクションを取る美波にFクラスの生徒達はニヤニヤと悪戯っぽい笑みを浮かべる。いつもならば異端審問会が小春を拘束して怒りの鉄槌を下すのだが、今回は美波の反応がとてつもない程に可愛いので活動は自粛するつもりでいます。

 クラスメイト達からの奇異の視線を背中でバシバシ受け止めながら、美波は思いっきり空気を吸って両目を瞑り――

 

「き、近所の公園でFクラスの打ち上げするんだけど小春も来て、っていうか来なさい! お、遅れたりしたら許さないんだからねーっ!」

 

「お、おう――ってそんな全力ダッシュでどこに行くんだ美波ぃっ!?」

 

 過去最大級に顔を紅蓮に染めた美波は、朝の文月学園を駆け抜ける。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 美波の謎の行動により謎の混乱を与えられてしまった小春はFクラスを後にし、Dクラスのお化け屋敷へと戻ってきていた。

 クラスメイト達が最後の一般公開に向けての最終チェックを行う中、代表として指示を出していた平賀源二が小春を発見するなりニヤニヤ笑顔で結構な速度で近づいてきた。

 源二は露骨に嫌そうな顔をする小春の肩に手を回し、

 

「朝早くから島田さんと逢引だなんて、小春も隅に置けないなぁ。このこのっ」

 

「お前マジでいつかぶっ飛ばしてやっからな。今の内に遺書でも何でも用意しとけよバカヤロウ」

 

「まぁまぁ、そう照れるなって。お前とお前の実姉を除いたDクラス四十八名は、お前の恋を全力で応援してる。――だから進展具合を逐一報告してくれよ?」

 

『結納はいつですかー?』

 

「クラス全員で俺を弄ってそんなに楽しいかコノヤロウ! そしてミハ姉は奥の方で『小春死ねマジで死ね』って大声で叫ばない! アンタ本当に俺の実姉なんですか!? 実の弟に対する態度があまりにも酷すぎると俺は思う!」

 

『お姉様を誑かす男は全て豚野郎ですー!』

 

「その認識がすでにおかしいっつってんですけどねぇ!?」

 

 仲良く喧嘩する清水姉弟に、Dクラス全員から笑い声が上がった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「んじゃ、そろそろ行こうぜミハ姉」

 

「美春は絶対にあなたをいつか殺してやると神に誓います」

 

「本人目の前にしてわざわざ殺害予告たぁ根性据わってんなコノヤロウ……ッ!」

 

 空を見上げて手を合わせ、胸の前で十字を切る美春。実の弟に面と向かっての殺害予告など聞いたこともないのだが、この少女は島田美波という少女の為なら一族郎党皆殺しぐらいは平気な顔でやってのけてしまうような大物だ。今までに事例が無いと言ったって、この少女にそれが当てはまるとは限らない。

 バチバチと味方同士で火花を散らしながら、二人は会場へと進んでいく。

 

「って、意外と盛況だな、決勝戦」

 

「無駄に有名ですからね、この学園は。観客の数も他校とは比べ物にならないのでしょう」

 

 観客席どころか立ち見のスペースまで見事に埋まってしまっている校庭に二人して感想を零す清水姉弟。

 そんな二人に気づいた係員の教師は少しだけ慌てた様子で、

 

「清水くんに清水さん。入場が始まりますので急いでください」

 

「分かりました」

 

「了解でーす」

 

 教師の手招きに応えるように入場口へと近づいていく。今までは係員なんて配置されていなかった点から、やはり決勝戦は今までの試合とは違う扱いのようだ。……妙に緊張してしまっているのは、ここだけの秘密事項だ。

 

《さて皆様。長らくお待たせ致しました! これより試験召喚システムによる試験召喚大会の決勝戦を行います!》

 

 聞こえてきたアナウンスの声は、今まで聞いた事のない声だった。おそらくだが、決勝戦の為だけにプロを雇っているのだろう。世間の注目を集めている学園で行われる大会の決勝戦なのだから、十分に有り得ることだ。

 ゴクリ、と固唾を呑む小春に美春は人を小馬鹿にするような笑みを向け、

 

「なに緊張してるんですか、この愚弟。足が竦んで上手く戦えませんでした、なんて言い訳は聞きたくありませんよ?」

 

「別に緊張なんかしてねえっての。っつーか、そう言うミハ姉こそ表情が妙に強張ってんぜ? もしかして緊張してんのそっちなんじゃねえのー?」

 

「あははっ、何を言ってるんですかバカバカしい。――背中に気を付けろよこの愚弟」

 

「あははっ、別におかしな事は言ってねえよ。――俺がいつまでも味方だと思ってんなよこのバカ姉」

 

 バチバチバチィッ! と額に青筋を浮かべながら仲良く睨み合う清水姉弟に、係員の教師は表情をやや引き攣らせていた。

 と。

 そんな不毛なやり取りの間に対戦相手――雄二と明久は入場を終えていたようで、聞きなれないアナウンスが小春と美春の入場を促していた。

 「さ、入場してください」仲良く喧嘩する小春と美春の背中を軽く押す教師。小春達は吐き捨てるように舌を打ち、ほぼ同時のタイミングと速度で観衆の前へと躍り出る。

 

《二年Dクラス所属・清水小春君と、同じくDクラス所属・清水美春さんです! 皆様拍手でお迎えください!》

 

 盛大な拍手が鼓膜を激しく刺激し、小春は思わず「うっ」と顔を歪めてしまう。まさかここまでの盛り上がりを見せるとは思いもしなかったようだ。

 小春と美春が観衆に向かって小さくお辞儀をした後、

 

《なんと、数多の強敵を撃破して決勝戦に進んだのは、仲の良い双子の姉弟です! これは、姉弟揃って同じクラスに所属している彼らのコンビネーションに大いに期待することができるでしょう!》

 

「当たり前です」

 

「そうだな。わざわざ言うまでもねえ」

 

 アナウンスされた内容に得意気に頷く小春と美春。なんだかんだ言って、やはりこの二人は普通の姉弟に比べて凄く仲が良――

 

『――フレンドリーファイアは勝負の基本ッ!』

 

 ある意味では凄く仲の良い姉弟だと言えなくもない。

 

「よう、小春に清水。景気よく叩きのめしてやるから覚悟しておくんだな」

 

「ハッ! 豚野郎が何をふざけた事を。この大会を制するのは他の誰でもない――美春です! お姉様を如月グランドパークに連れて行くのは、他の誰でもない――美春です!」

 

 大事な事なので表現を変えて二度言いました。

 グルルルル、と獣のように唸る美春に少しだけ警戒の色を見せる雄二。

 そんなやり取りの傍らで、明久と小春は喜色満面な挨拶を――

 

「美波の為に俺はお前等をぶっ飛ばす!」

 

「姫路さんの為に僕は君達をぶっ飛ばす!」

 

 ――凄く恥ずかしい事を平気そうに言い放っていた。

 今のやり取りが実は放送部のビデオカメラが音声としてきっちりと拾っている事など知る由もない明久と小春はバチバチバチィッと火花を散らす。Fクラス対Dクラスという構図になった決勝戦に、会場は凄まじい程の熱気に包まれている。これが上位クラス同士の対決だったら、盛り上がりは少しだけ軽減していた事だろう。

 試験召喚大会についてのルール説明がアナウンスで行われ、それが終わると同時に審判役の教師が彼らの間に立った。決勝戦の対戦科目は『日本史』の為、審判役の教師も日本史担当の教師がスタンバイされている。

 

《それでは試合に入りましょう! 選手の皆さん、どうぞ!》

 

試獣召喚(サモン)!』

 

 示し合わしたかのように四人同時に掛け声をあげ、それぞれの召喚獣が姿を現した。

 雄二の召喚獣は白の改造学ランにメリケンサックという装備で、明久の召喚獣は黒の改造学ランに木刀という装備。どう考えても『修学旅行のお土産を携えた不良コンビ』にしか見えない相手を前に、小春は思わず苦笑を浮かべる。

 しかし、だからといって油断しているわけではない。彼らの恐ろしさは、先の試験召喚戦争で痛い程に痛感させられている。

 小春はチラッと雄二たちの点数に視線を向ける。

 

『Fクラス 坂本雄二  &  Fクラス 吉井明久

  日本史 215点  &       166点』

 

 決勝戦の為だけに日本史だけに集中して勉強したのだろう。元々『神童』と呼ばれていた雄二は言わずもがな、Fクラスの看板とまで言われているぐらいにバカな明久がBクラス級の点数を誇っている。彼らには彼らなりの優勝しなければならない理由、というものがある事は明白だ。

 しかし。

 だからといって、小春達も負ける訳にはいかない。

 確かに当初の目的は『美波を如月グランドパークに誘う』だった。それは今でも変わらないし、勝負中もきっと変わらないだろう。

 だが、この決勝戦という場に立って、小春と美春に『二年Dクラスの代表選手としての意地』が込み上げて来ていた。彼らが試験召喚大会に集中できるようにいろいろとサポートしてくれたDクラスの仲間たちの為にも、全力で優勝を狙いに行かなければならない。

 

『Dクラス 清水小春  &  Dクラス 清水美春

  日本史 233点  &       147点』

 

 狩人装束とクロスボウを装備した小春の召喚獣。

 ロリカ・セグメンタタとグラディウスを装備した美春の召喚獣。

 遠距離と近距離、文系と理系、というまさに奇跡的なバランスを誇るコンビは示し合わしたようにほぼ同時のタイミングで雄二と明久をズビシと指差し、

 

『Dクラスの底力、その身を以って思い知れぇっ!』

 

 Dクラス対Fクラス。

 先の試験召喚戦争でぶつかり合ったクラス同士のリベンジマッチの幕が上がった。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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