あ、あと、ここらで一つ宣伝をば。
那家乃ふゆい様作『Cクラスな日々!』というバカテス二次が連載を開始しました。
こちらも拙作と同様、【アンチじゃないバカテス】なので、是非読んでみてください。
それでは――本編スタート!
「ミハ姉。俺が腕輪でアイツラを足止めすっから、その間に怒りを込めた連撃を叩き込んでやれ」
「ふんっ。愚弟に言われるまでもありません。お姉様に手を出したアイツラは――完膚なきまでに死刑判決なんですから!」
「右に同じだ。そんじゃ――行くぜぇっ!」
狩人装束とクロスボウという身軽な装備の小春の召喚獣が素早い動きで常夏コンビの召喚獣の懐に入り、相手が反応をするよりも先に腕輪の能力を発動した。
麻痺。
自分の点数を百点消費するのと引き換えに、相手を十秒間だけ行動不能にする特殊能力。
現代国語以外の教科では絶対に使用できない小春の最強の切り札を諸にくらった常夏コンビの召喚獣は始めの位置から一歩も動くことなく――動きを完全に停止させた。
制限時間は約十秒。
そのあまりにも短い――いや、攻撃する側にとっては凄まじい程に大きなチャンスを、清水姉弟は最大限に徹底的に利用する。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!」
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス!」
常村の召喚獣の眉間の寸分違わぬ位置にクロスボウの矢を連続で放つ小春と、夏川の召喚獣の脳天にグラディウスを連続で振り下ろす美春。相手の急所を的確に突く攻撃は常夏コンビの点数を急速に消費させていく。
そして、十秒が経過した。
きっちり十秒を感覚で数えていた小春と美春は『麻痺』の効果が切れる直前に常夏コンビから距離を取り、反撃に対応するためにそれぞれの得物を自らの敵に向かって構えた。
『Aクラス 常村勇作 & Aクラス 夏川俊平
現代国語 6点 & 102点』
やはり十秒という時間は少なすぎたのか、六百点台という超高得点でも常村を戦死に陥れることは敵わなかった。常村がもう少し低い点数だったら話は変わったのだろうが……相手側もそう簡単には倒されてはくれないらしい。
予想もしない展開に酷く顔を歪めながら、常村と夏川は怒りの篭った言葉を並べる。
「くそっ……何でAクラスの俺達がDクラスの二年坊なんかに後れを取ってんだ!」
「有り得ねぇ……こんなの、有り得てたまるかよ!」
常村の召喚獣が投擲円剣で小春の召喚獣に斬りかかるが、小春はその攻撃をクロスボウで受け流し、ハイキックで常村の召喚獣の頭部を消し飛ばす。――これで、残るは一体。
常村が戦死したことで更に精神的余裕がなくなった夏川はハンマーで美春のグラディウスを叩き折ろうとするが、既に点差は逆転してしまっているため、逆に攻撃を押し返されてしまった。
数秒の抗戦で点数に変動が生じ、再び彼らの点数が表示される。
『Aクラス 常村勇作 & Aクラス 夏川俊平
現代国語 DEAD & 83点』
『Dクラス 清水小春 & Dクラス 清水美春
現代国語 569点 & 96点』
Aクラスだからとかいう意見が余裕で黙殺されてしまう程の圧倒的な点数差に、観客席が沈黙に包まれる。既に戦死している常村は茫然自失といった様子で膝から崩れ落ちていて、ギリギリ戦死を免れている状態の夏川は冷や汗を流しながら奥歯が割れそうになる程に歯を食い縛っていた。
小春の残りの点数だけで言うならば、腕輪を少なくとも残り五回は使用できる。相手を確実に戦死に追い込むには、打って付けの戦力だろう。
しかし、小春はもう腕輪なんかには頼らない。
このクズには自分たちの手で――召喚獣単体の実力で、徹底的に叩き潰す必要がある。
急激な点数減少で動きが少し緩慢になってしまっている夏川の召喚獣をロックオンし、小春と美春は召喚獣の武器を放り捨てさせる。
そして。
右の拳を握り締めた召喚獣を夏川の召喚獣に向かって一直線に突撃させ――
『美波(お姉様)に手を出したらどうなるか、その身を持って思い知れぇッ!』
原始的な暴力の音が鳴り響くと同時に――この戦いの勝敗が喫した。
☆☆☆
こうして、清涼祭一日目が終了した。
といっても、清涼祭自体は二日間かけて行われる行事なため、明日も今日と同じように自分のクラスの出し物に全力を注がなければならないのだが、やはり一日目が終了したというのは大きいと思う。区切り、といえば上手く伝わるだろうか? とにかくこの一日目の終了時点こそが、明日へと続く折り返し地点になるという事なのだ。
そして。
試験召喚大会で決勝進出を決めた事でDクラスのお化け屋敷が更に大繁盛になり、その健闘を称えてクラスメイト達から大喝采を浴びた小春と美春はとてつもなく珍しい事に――
「お姉様! ついに、ついに美春の愛を受け止めてくれたのですねーっ!」
「別にそんなんじゃないわよ! というか、こんな道中で抱き着くなくっつくな頬擦りするなぁあああああああああああっ!」
「コラッ、美波から離れろよミハ姉! 美波が嫌がってんだろうが!」
「美春とお姉様のイチャラブに嫉妬ですか? はんっ、器が知れる愚弟ですねぇ」
「ンだとコラーッ!」
まさかのトリオで下校していた。
通常ならば絶対に有り得ない光景なのだが、今回ばかりは少しばかり特別な理由があるわけで。
小春と美春が美波の為に常夏コンビに勝利した――試験召喚大会の準決勝を美波は救出された後に放送部の中継で視聴していた。自分が好きな小春が自分の為に戦ってくれた事に心を打たれて軽く感極まり、更に美春までもが自分の為に戦ってくれた事に思わず涙を流す程に感動してしまったのだ。
そんな矢先に小春と美春が「一緒に帰ろう」とFクラスの教室にまでやって来たため、断る事もできずに一緒の下校を承諾した――という訳だ。
抱き着く為に接近してくる美春を手で抑えながら美波は僅かに頬を染め、
「今日はありがとね、二人とも。ウチ達の為に戦ってくれて。……凄く、嬉しかった」
「お、お姉さくぎゅぅっ!」
獣のような瞳で飛び掛かろうとしていた美春を手刀で気絶させ、小春は清々しい笑みで美波に返答する。
「別に大した事じゃねえよ。俺達が単純にアイツラの事を気に食わねえと思ったから、そのついでってだけさ。だから、別にお前に礼を言われるような事をした訳でもねえって事だな」
「でも……」
「だから気にしなくていいっつってんだろっ」
「あうっ」
俯いたところで額を指で弾かれ、美波は思わず間抜けな悲鳴を上げてしまう。
そんな美波に微笑みながら、意識を失った美春を抱えた小春は美波の隣で歩を進める。
(……ホント、小春には敵わないわね)
隣で空を見上げながら歩いている小春を横目で見ながら、美波は仄かに頬を染める。
一年生で知り合ってから今の今まで、小春はいつも美波の為にいろいろと尽力してきてくれた。日本語が苦手な美波に付きっ切りで日本語を教えてくれたし、友達作りに手間取っていた美波の為にいろいろと手回しをしてくれた。他にも挙げればキリがないが、美波は小春に数えきれないほどの借りを作ってしまっている。
しかし。
小春はその借りを美波に押し付けることは一切しなかった。
別にお前の為じゃない。ついでだついで。ちょうど暇だったから。――そんなあからさまな嘘を吐く事で、美波への貸しを無かった事にし続けてきた。
何で小春がそんな事をしてくれたのかは、今の美波には分からない。彼の事を少しでも多く分かろうとしているのだが、まだまだ全然思う通りには事を進める事が出来ていない。
だけど。
今はまだ、こんな関係のままでいいのかもしれない。焦りは禁物、という言葉があるぐらいなのだから、事を急いて大変な事態に陥る事だけは避けなければならないのかもしれない。――だから、今はまだこのままの関係でいいのだ。
一歩ずつ、一歩ずつ。ゆっくりと時間をかけて距離を縮めていき、気づいた時には小春が自分に惚れてしまっている――そんな順序で攻めていけばいい。恋における切り札は、相手にとっての弱点だ。どれだけ時間をかけようが、小春の弱点を調べ上げ、徹底的に自分に惚れさせてやる!
美春を背負った状態で歩く小春を、ちらっと再び横目で見る。
(焦っちゃダメ。――でも、ちょっとぐらいなら……)
美波は胸の前でギュッと右手を握り締め、タイミングを窺う。今からの行動にはミスというものが絶対に許されない。チャンスは一度、やり直しは不可能。――覚悟を決めろ、美波!
そして、数秒後。
美春を背負っている事で通常よりも姿勢が低くなっている小春の顔が美波の口の辺りまで下がった瞬間――
フッ、と。
美波の唇が、小春の頬に優しく触れた。
「んへぇっ!? い、いきなり何やってんですか美波さん!?」
予想なんて絶対にできない不意打ちに、即座に顔を真っ赤に染め上げてしまう小春。あまりの驚愕に目は大きく見開かれていて、あまりの動揺に心臓の鼓動が急速に激しくなっていく。
そんな、オーバーヒート寸前な小春に向かって。
美波は少しだけ照れくさそうに――それでもどこか嬉しそうに、
「今日のお礼って事で、ウチからのプレゼントよっ」
夕日をバックに太陽のような笑顔を浮かべた。
☆☆☆
小春と美春によって家まで送られた美波は、玄関を潜った直後に膝から地面に座り込んでしまった。
いつも通りに玄関まで出迎えに来た葉月はそんな美波に少しばかりの驚愕の色を見せ、
「ど、どうしたのお姉ちゃん!? 気分でも悪くなったですか!?」
心配そうに駆け寄ってくる葉月に(やっぱり良い子だなぁ)と感心する美波。お世辞とかそういうのは抜きにしても、葉月は最近の子供にしては凄くまともな性格をしていると思う。……まぁ、少しばかりませてはいるが。
あたふたと凄まじく焦っている葉月に「大丈夫よ」と言い、美波は葉月の頭を優しく撫でる。
葉月は気持ちよさそうに目を細め、
「今日のお姉ちゃん、いつもよりも少しだけ嬉しそうだねっ。春のお兄ちゃんと何かあったの?」
「アンタの鋭さは一体どこから遺伝したのかしらね!」
やっぱり母親からかなぁ! と美波は心の中で実母に文句をつける。
このまま葉月を誤魔化すのにも無理があるわね、と美波は小さく溜め息を吐き、
「ウチ、今日で確信した事があるの」
「確信した事?」
「うん」
はぁ、と息を吸い、ふぅ、と息を吐く。
高鳴る鼓動を手で抑えつけ、熱くなった頬をもう片方の手で抑える。
そして。
美波は照れくさそうに嬉しそうにはにかみながら笑顔を浮かべ、
「やっぱりウチはどうしようもないぐらいに――小春の事が好きなんだなぁ、ってね」
島田美波の恋の駆け引きは、まだまだ発展途上である。
感想・批評・評価など、お待ちしております。
次回もお楽しみに!