俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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俺と連覇と戦闘開始

 四回戦の幕が上がった。

 フィールド内で一番高い点数を誇る小春は召喚獣を一歩下がらせ、相手の二人目掛けてクロスボウを連射させ始めた。リロード不要のクロスボウから放たれる矢の雨は相手の逃げ場を数秒と掛からずに奪っていく。

 しかし、相手もそう簡単にはやられるわけにはいかないようで。

 

「芳子! 私があの男子を相手するから、あなたはあの女の子をちゃちゃっと倒しちゃって!」

 

「了解!」

 

 素早い動きで無数の矢を掻い潜り、各々が狙う相手へと素早い動きで突撃した。流石は三年生といったところか。召喚獣の動きは観察処分者の吉井明久に負ける劣らず、といったレベルで、逆に召喚獣を使い始めて半年と経っていない小春と美春は相手の素早い動きに焦りを覚えさせられている。これは油断したら即行で敗北を喫してしまうかもしれない。

 上下左右の四方向から目にも止まらぬ速さで叩き込まれるヌンチャクをグラディウスで防ぎながら、美春は悔しそうに舌を打つ。

 

「重ッ……小春、さっさとその先輩を倒してこっちの助けに入りなさい!」

 

「そうは言うけどミハ姉、流石に操作のレベルが段違いすぎんだって……ッ!」

 

 大きな軌道を描きながら振り回される大鎌をクロスボウで防御しながら、小春は召喚をフィールドのあちらこちらへと移動させていく。基本的に遠距離用のクロスボウは近距離戦闘には全く向かない。相手に近づかれたら攻撃が出来ない、というのが小春の召喚獣が持つ悲しい特性なのだ。

 防戦一方の清水姉弟。点数が高い小春は接近性のせいで攻撃が出来ず、点数が低い美春は相手の攻撃を防ぐだけで手いっぱい。このままでは本当に敗北してしまう。

 そして、そんな状況では点数の消費は避けられず――

 

『Dクラス 清水小春  &  Dクラス 清水美春

  古典  143点  &        41点』

 

 小春の点数はまだ大丈夫だが、問題は美春の方。既にFクラス平均レベルにまで点数が減少してしまっている。心成しか、グラディウスの刀身にヒビが入っているように見える。

 こんなところで負ける訳にはいかない、と小春と美春はほぼ同時に歯噛みする。彼らの目標は優勝賞品の『如月グランドパークのプレミアムチケット』であり、それはこの大会を制しない事には達成できない目標だ。全ての敵を粉砕して打倒して勝利を掴む――これ以外に目標を達成する方法はない。

 小春は美春に視線をやり、美春は小春に小さく頷く。――これで、互いの考えは伝わった。

 小春の作戦を視線だけで読み取った美春は刀身にヌンチャクが叩き込まれると同時にグラディウスを手放し、思わぬ動作に動揺した茅野春香の召喚獣を一瞬の隙を突いて抱え上げ、

 

「全てはお姉様の為にぃいいいいいいいいいいいいいっ!」

 

『え?』

 

 ちょうど小春の召喚獣に斬りかかろうとしていた溝口芳子の召喚獣の大鎌に寸分違わずクリーンヒットさせた。

 縦に振り下ろしている真っ最中だった鎌は茅野の召喚獣が横から激突したことによって弾き飛ばされ、思わぬ形で丸腰となった溝口の召喚獣の顔面に茅野の召喚獣が重力に従う形で直撃する。

 いくら召喚獣の操作に慣れていると言っても混乱と動揺には逆らえないようで、三年生コンビの召喚獣はフィールドの中央付近でもつれ合ってしまっていた。

 そして。

 姉弟での作戦を見事に成功させた小春と美春は各々の得物を構えながらニヤリと目を光らせ、

 

『死にさらせやコラァアアアアアアアアアッ!』

 

『きゃぁあああああああああああっ!』

 

 クロスボウとグラディウスによって良い子にはとてもじゃないが見せられないほどのリンチに遭ってしまった溝口と茅野の召喚獣は、もつれ合った状態から回復できずにそのまま戦死を迎えた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「雄二。この事を小春に知らせなくてもいいの? 小春だったらどんなに忙しくても血相を変えて助太刀に来てくれると思うんだけど……」

 

「いや、小春にはちょっと別の事で活躍してもらう」

 

「…………小春は明久たちよりも準決勝の時間が遅い」

 

「え? ムッツリーニ、どういう事?」

 

「つまりはあれだ、明久。囚われのお姫様たちを助けるのは俺達の役目で――」

 

「うん」

 

「――クズの魔王どもを粉砕するのが小春の役目って事だ」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 四回戦を無事に勝ち抜いて準決勝進出を決めた小春は小腹を満たす為に運動場の出店を回っていた。運動場に多数展開されている出店は教室内の店とは違い、お好み焼きや焼きそばなどといったボリューム満点の料理をメインとして販売している。昼食がおにぎり一つしかなかったことで絶賛空腹中な小春にとって、この出店エリアは聖域にも近い空間だった。

 とりあえず焼きそばと焼きトウモロコシを購入した小春は運動場の端の方にあるベンチへと腰を下ろし、片手で割り箸を掴みながら何気ない様子でブレザーのポケットから携帯電話を取り出した。

 

「ん? 雄二からメール……?」

 

 新着メールのお知らせをタッチした先にあったのは、今日も大分絡んでいる親友の名前だった。

 試験召喚大会中で電話に出れなかったからかな? と少しばかりの予想をしながら小春は新着メールを開封し――

 

「――――――、え?」

 

 ――小春が掴んでいた割り箸が、真っ二つに粉砕した。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 試験召喚大会、準決勝。

 Bブロックの勝者とCブロックの勝者が決勝進出をかけて全力で戦う総計五回目の戦い。

 その準決勝が行われる特設ステージに、そのコンビはやって来た。

 

「お、お前はあの時のスタンガン野郎!」

 

「まさか準決勝で戦うことになるとはな……あの時の借り、きっちり返させてもらうぜ!」

 

 坊主頭の三年生・夏川とモヒカンの三年生・常村。

 雄二たちの言うところによる『常夏コンビ』。

 ――そして、二年Fクラスの中華喫茶を悉く邪魔しようとしていた悪意の塊コンビである。

 怒りの篭った目で睨んでくる常夏コンビに、美春は肩を竦めながら小春に問いかける。

 

「……あなた、また何かやらかしたんですか?」

 

「何の証拠も無しに俺を疑うなよミハ姉。俺は無実――ってか、正当防衛が適用されて結局は無実、って感じだよ」

 

「は? 正当防衛?」

 

 訳が分からない、と首を傾げる美春に小春は小さく溜め息を吐き、

 

「あの先輩コンビは美波の接客態度にケチをつけたばかりか、美波が一生懸命作り上げた中華喫茶を潰そうとしたクズコンビだ。そんなアイツラに粛清を仕掛けた俺が、罪に問われる訳がねえだろう?」

 

「……それは本当ですか、小春?」

 

「微塵も嘘は吐いちゃいねえよ。アイツラは美波に悪意を持って営業妨害を仕掛けた。だからアイツラは――俺達清水姉弟の敵だ」

 

 しかも、と小春は両の拳を爪が食い込むほどに強く握り締め、

 

「さっき雄二から連絡があったが、ついさっき、美波を始めとしたFクラスの女子が誘拐されちまったらしい」

 

「なっ……!?」

 

「美波たちは雄二たちが無事に救出したみてえだが、問題はそこじゃねえ。……問題は、俺達の目の前にいる先輩方がその誘拐犯共とグルだっつー事だ。――ここまで言えば、ミハ姉ならきっと分かってくれるよな?」

 

「……上等じゃないですか」

 

 小春と美春がひそひそと周りに聞こえないぐらいの声量で不穏な会話をする中、準決勝を担当する山中先生が召喚フィールドを展開した。山中先生が司る教科は『現代国語』。――つまり、小春が最も得意とする教科である。

 冷たく怒る清水姉弟の様子に気づかない常夏コンビはニヤニヤと三流悪党の様な笑みを浮かべ、

 

「お前らクズに俺たちがお灸を据えてやる! 試獣召喚!」

 

「俺達に手を出したことを後悔しやがれ! 試獣召喚!」

 

 二人の呼び声に応え、召喚獣が姿を現す。

 

『Aクラス 常村勇作  &  Aクラス 夏川俊平

 現代国語 213点  &       193点』

 

 流石はAクラスといったところか。Bクラスより下のクラスに比べ、点数はかなりのものと言えるだろう。この点数ならば、召喚獣の強さも見かけ倒しではなく本当に強力なのだろう。

 投擲円剣と鎧を装備した召喚獣を常村が、僧侶を思わせる服装に煙管型のハンマーを装備した召喚獣を夏川が従え、見下したような目つきで小春達を一瞥する。

 

「降参するなら今の内だぜ? いくらお前らが自信過剰のバカでも、流石にこの点数を目の当たりにすりゃあ考えを改めざるを得ないだろうからな!」

 

「まぁ、Dクラスなんかじゃお目にかかれないような点数だからな。無理もないか」

 

 ニヤニヤヘラヘラと人を小馬鹿にするような態度で実際に小春たちをバカにする常夏コンビ。これが小春と美春ではなく明久だったら挑発に乗って激昂してしまうのだろうが、この二人ならばそのような行動を心配する必要はない。

 

「はぁぁ。なーに勝手に勝ち誇ってんだよクソ先輩方」

 

「ですね。美春たちはまだ召喚獣すら召喚していないというのに」

 

「はん。別に強がんなくてもいいぜ、後輩共。Dクラス風情がAクラスに勝つなんて夢物語にもほどがあるってもんだからな」

 

「ゴチャゴチャうっせえぞクソモヒカン。いいから黙って俺の点数でも視界に収めてろこのタコが」

 

「て、テメェッ! 先輩に向かってなんて口利いてやがる!?」

 

「俺たちを舐めるのも大概にしやがれ!」

 

 額に青筋を浮かべて激昂する常夏コンビに小春と美波は逆に怖ろしさを感じさせる笑顔を浮かべ、

 

「ま、そろそろ焦らすのは止めて、さっさと目にもの見せてやろうぜ――ミハ姉」

 

「言われなくても分かってます」

 

『試獣召喚!』

 

 清水小春と清水美春と呼び声が特設フィールドに響き渡り、それに応えるようにいつも通りの二体の召喚獣が魔法陣の中から姿を現した。

 

『Dクラス 清水小春  &  Dクラス 清水美春

 現代国語 671点  &       121点』

 

『なっ!?』

 

 二人の点数――主に小春の点数を目の当たりにした常夏コンビの顔色が変わった。

 小春はDクラス所属だが、現代国語に関してだけは学年トップの成績を誇っている。学年トップという事は、相手がAクラスだろうがBクラスだろうが関係なく等しく叩き伏せる事が出来るという事だ。――それは、目の前の常夏コンビも例外ではない。

 「今回は点数高いじゃん、ミハ姉」「いつまでも姉が弟に負けていてどうしますか」いつも通りの少しだけ仲の悪い清水姉弟の様子を常夏コンビや観客たちに披露した――その直後。

 小春と美春は憤怒の形相で常夏コンビをギロリと睨み、

 

『美波(お姉様)に手を出したテメェらには情けも容赦も必要ない! 今この場で全力で叩き潰してやる!』

 

 召喚獣がクロスボウとグラディウスを構える。

 

 ――さぁ戦え。

 

 ――たった一人の少女の笑顔を護る為だけに、己が点数を糧として。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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