俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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 二話連続投稿です。


俺と経過とバカなお兄ちゃん

「ど、どうしたんです? やけに傷だらけのようですが……」

 

「血気盛んな親友たちに制裁されちまったんだよ」

 

 本当に死を覚悟したな、と虚ろ気な瞳で言い放つ小春に美春は引き攣った笑みを返す。

 坊主頭とモヒカン頭をスタンガンでノックアウトした騒動が原因で明久と雄二から肉体言語でお話しされた小春は傷だらけの身体に鞭を打ち、二回戦が行われる特設ステージへと移動していた。美春とは特設ステージに向かう途中で合流して、先ほどの会話は特設ステージに足を踏み入れた瞬間に行われたものだったりする。

 赤く腫れた頬を「イテテ……」と摩りながら、小春は美春に問いかける。

 

「俺はトーナメント表見てねえから知らんのだけど、二回戦の相手って誰なんだ?」

 

「対戦表を見た限りだと、勝ち上がってきそうなのは――っと、どうやら向こうの方からお出ましの様ですよ?」

 

「へ?」

 

 ほら、と突き出された美春の指の先に視線を向かわせる。

 そこにいたのは、小春が良く知る二人組だった。

 

「よーっす、こはるん、みはるん! ついにオレ達と対戦っすね!」

 

「普段であれば味方同士な私たちでございますが、今回は正々堂々と敵対させていく所存でございます」

 

 無造作な黒髪と青のバンダナが特徴の男子生徒と長い黒髪と大きな髪飾りと豊満な胸が特徴の女子生徒が、こちらに向かって親しげに声をかけてきていた。

 鈴木一郎と香川希。

 どちらも二年Dクラスに所属している生徒達で、小春や美春ともかなり仲の良い生徒達だ。

 ぶんぶんぶん! と元気よく右手を振ってくる一郎に小春は「はぁぁ」と溜め息を吐き、

 

「なーんだ。香川の尻に敷かれてるお調子者のイチローかよ」

 

「だ、誰が誰の尻に敷かれてるって!? オレとのぞみーるは対等の関係なんす! どっちが上とかどっちが下とか、そういうのはオレ達には当てはまらな――」

 

「あらあら? なにを言っているのでございましょうか、一郎さま? 私が一郎さまと対等の立場だ、そうおっしゃっているのでございますか?」

 

「いっ!? え、ちょ、のぞみーる? オレたちって対等な恋人っすよね……?」

 

「いいえ? 一郎さまは私の婚約者で――唯一無二の奴隷でございます」

 

「ハッキリ言いやがったぁあああああっ!」

 

 ……相変わらず仲の良いカップルだなー。

 Dクラスの教室でも毎日のように繰り広げられている夫婦漫才に、小春と美春は呆れながら肩を竦める。今から敵同士として戦うというのに、この緊張感のなさは一体全体何事か。これでは必要な力まで抜けてしまって、まともな勝負が出来なくなってしまうかもしれない。

 桃色というか凄くどす黒いオーラを放つDクラスカップルをあえて視線から外し、小春は二回戦の担当の遠藤先生の方を振り返り、

 

「遠藤先生ー。あのバカップルは放っといて、さっさと始めちゃってくださーい」

 

「あ、はい、分かりました。――それでは皆さん、召喚してください!」

 

試獣召喚(サモン)!』

 

 小春と美波の呼び声に応える形でいつも通りの召喚獣が姿を現し、頭上にそれぞれの獲得点数が浮かび上がる。

 

『Dクラス 清水小春  &  Dクラス 清水美春

  英語  122点  &        98点』

 

「あら。小春さん、いつもより点数が少し低いのでございますね」

 

「今回はちょろーっと失敗しちまってさぁ。……まぁでも、ちゃんと相手は出来っから問題ねえよ」

 

 口を手で隠しながら皮肉を言ってくる希に小春はイラつく様子も無く返答する。

 そして。

 小春と美春の召喚獣に向かい合う位置に、一郎と希の召喚獣が姿を現した。

 

『Dクラス 鈴木一郎  &  Dクラス 香川希

  英語   74点  &      361点』

 

 あ、これもう負けたかも。

 

「……か、香川さん? その点数は一体どういう事でしょうか……?」

 

 頬をヒクヒクと引き攣らせながらもなんとか質問だけはぶつけることに成功した小春に、相変わらずの大和撫子風な態度で希はお答えする。

 

「英語は私の得意科目ですのでございますよ」

 

「よーっしミハ姉! 俺がイチローを相手取るから、ミハ姉は香川を相手してくれ!」

 

「ば、バカ言うんじゃないですよこの愚弟! 余裕でトリプルスコア以上な希を私が倒せるわけないでしょう!?」

 

「大丈夫だ! 鉄扇なんつー露骨な武器を持つ香川の召喚獣相手なら、トリプルスコア以下のミハ姉でもきっと勝てるさ!」

 

「武器の問題じゃないんですよこの愚弟!」

 

 着物に鉄扇という装備の香川の召喚獣から必死に距離を取らせる小春と美春。軽鎧に手斧という装備の召喚獣を従えた一郎がかなーり寂しげな表情で「え? オレだけなんか蚊帳の外!?」とか叫んでいるが、一番点数の低い奴など知ったことではない。雑魚は雑魚らしくステージの隅の方で切腹でもしておいてほしい。

 仁義なきジャンケンの末に希の相手をすることになってしまった小春は顔を少しばかり青褪めさせ、

 

「俺はお前を遠くから狙いまくる!」

 

「それでは私は矢を掻い潜って鉄扇をお見舞いしてあげるのでございます」

 

 ライオンVSハムスターよりも悲惨な戦いが幕を開けた――。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

「――で、結局、鈴木を瞬殺した美春とタッグで香川さんに襲い掛かり、会場にいた女子からのブーイングに耐えながら香川さんの召喚獣をリンチした、と。……どこまでも綱渡りよね、アンタって」

 

「か、勝ったからいいんだよ勝ったから!」

 

 ジトーっと訝しげな視線を送ってくる美波から目を逸らしつつ、小春は「あはははははーっ!」と露骨に哀しい笑いを零した。

 まさかの点数を披露した香川になんとか勝利して三回戦進出を決めた小春は美春をDクラスのお化け屋敷に放り投げた後、大好きな美波がいるFクラスへと再来していた。……Dクラスに一度寄った際に平賀源二から「また島田さんの所に行くのか? ひゅーひゅー」とウザいテンションで囃し立てられたのは良い思い出だ。清涼祭が終わったら、アイツ絶対ぶっ殺す!

 心に深い傷を負いながらも結局はFクラスに来てしまった小春はちょうど試験召喚大会から帰ってきていた美波に声をかけ――先ほどの会話まで到達した、という訳だ。

 隣同士の椅子に座って仲睦まじげに会話をする小春と美波。

 そんな二人を遠目から見ていた明久とムッツリーニ――もとい土屋康太はとてつもない程にイラついた様な表情で――

 

「「チッ!」」

 

「だ、ダメですよ明久君、土屋君。美波ちゃんと清水君は違うクラス同士なんだから、こういった時ぐらいそっとしておいてあげないと……」

 

「姫路の言う通りじゃぞ、二人とも。あのような初心な二人はそっとしておくのが一番なのじゃ」

 

 だよねー、と生暖かい空気を漂わせながら小春と美波を見守る秀吉と瑞希。明久と康太は相変わらず小春に嫉妬の視線を向けているが、この二人はいつか絶対に刺される気がしてならない。

 桃色な空気を放つ二人を見守りながら会話をしていた秀吉たちは教室をぐるっと見渡すや否や、

 

「それにしても、昼時じゃというのに、客足が途絶えてしまったのう」

 

「そうですね。普通なら、ここからが本番なのに……」

 

 二人の言う通り、昼時を迎えたFクラスの教室には客の姿がほとんど見られない。教室の外は大変賑わっているというのに、何故かこの中華喫茶だけは閑古鳥が大合唱をしている状態だ。このままでは、売り上げで設備を向上させる、という目的が果たせなくなってしまう。

 なにが原因かは知らないが、とにかく今は少しでも売り上げを上げなくてはならない。

 そんな訳で、明久と康太は小春の元へと歩み寄り――

 

「ねぇ小春。胡麻団子十人前で島田さんを一時間テイクアウトしてもいい、って言ったらどうする?」

 

「…………飲茶を五人前注文すれば、更に一時間プラスしてもいい」

 

「言うまでも無く購入させてもらう!(そんな、美波を金で買うなんて!)」

 

「……ウチはアンタの心の中なんて読めないけど、絶対に本音と建前が逆になってない? ねぇ、なってない?」

 

「あ、はは。じょ、冗談に決まって四の字固めが見事に決まって腕の関節が悲鳴を上げぎゃぁあああああああああああああああああっ!」

 

 ビキリと額に青筋を浮かべた美波に肉体言語でツッコミを入れられ、小春は床の上でぴくぴくと痙攣にまで追い込まれてしまった。あー失敗したなー、とがっかりしていた明久と康太は美波にギロリと睨みつけられた瞬間、「「すんませんっしたー!」」と恥も外見もかなぐり捨ててその場で土下座を決行した。

 数秒でダメージを回復させた小春が全身の関節をポキポキ鳴らしながら立ち上がっていると、

 

『お兄さん、すいませんです』

 

『いや。気にするな、チビッ子』

 

『チビッ子じゃなくて葉月ですっ!』

 

 教室の外からそんな会話が聞こえてきた。片方は雄二であることは間違いないが、その片方は一体誰なのかが明久たちには分からない。因みに、小春と美波は第二ラウンドの開幕をかけてのやり取りをしている真っ最中なため、そもそも会話自体が耳に入っていない。

 

『んで、探しているのはどんなヤツだ?』

 

 ガラッと音を立てて教室の扉を開き、雄二が中へと入ってきた。会話の相手であるのは小さい子供なのか、雄二の大柄な体のせいで姿が確認できない。

 と。

 そんな雄二の元に暇を持て余していたFクラスの生徒達がぞろぞろと歩み寄り、数秒と経たない内に扉付近に人混みが出来上がってしまっていた。

 

『お、坂本。妹か?』

 

『可愛い子だな~。あと三年、いや、あと五年成長してたらな~』

 

『ねぇお嬢ちゃん、五年後に俺と付き合わない?』

 

『いや、逆にこの年齢だからこそ付き合いたい』

 

 このクラスの男子は今すぐ警察に捕まるべきだと思う。

 あまりにも予想外すぎる発言に明久たちが苦笑を浮かべる中、Fクラスの男子生徒達に囲まれた少女は少し躊躇いながらもしっかりとした口調で雄二の質問に答え始めた。

 

『あ、あのっ。葉月はお兄ちゃんを探しているんですっ』

 

『お兄ちゃん? 因みに、名前はなんて言うんだ?』

 

『えっと……このクラスじゃないお兄ちゃんの名前は分かるんですが、このクラスのお兄ちゃんの名前は分からないです……』

 

『? 因みに、その違うクラスのお兄ちゃんというのは、どんな名前なんだ?』

 

 雄二の質問に少女は明るい口調で返事をする。

 

『清水小春って名前のはずです!』

 

『『『ああ、あのクソ異端者の事か』』』

 

 あはは、嫌だなぁ。泣いてなんかないよ?

 

『そうか。まぁ、ついでに聞いておくが、このクラスの方のお兄ちゃんの特徴を聞いてもいいか?』

 

『えっと……バカなお兄ちゃんでした!』

 

『そうか』

 

 そう言って、雄二は自分の周囲にいるFクラスの男子たちをぐるっと見渡し、

 

『……沢山いるんだが?』

 

 心の底から否定できないのがこのクラスに所属しているものの定めだろう。……因みに、美波と瑞希を除く。

 雄二の返答が予想外だったのか、少女は少し焦った様子で言葉を並べる。

 

『あ、あの、そうじゃなくて、その……』

 

『ああ、もっと具体的な特徴があるのか?』

 

『えっと……すっごくバカなお兄ちゃんでした!』

 

『『『吉井だな』』』

 

 その名前が挙げられると同時に小春達は明久の方に視線を向けるが、明久は大量に冷や汗を掻きながらぷいっと視線から逃げるように顔を逸らした。

 目的の人物が見つかった事でばらばらと教室のあちこちへ男子生徒達が散って行き、包囲網の中にいた少女の姿が露わとなった。

 赤寄りの茶髪をツインテールにした小学生五年生ほどの少女は明久と小春をほぼ同時のタイミングで見つけるや否や、

 

「あっ! 春のお兄ちゃんとバカなお兄ちゃん! やっと見つけたです!」

 

「小春、小学生から頭の中が春とか言われてるよ?」

 

「そういうお前は小学生からバカ呼ばわりされてっけどな」

 

「「――ちょっと表出ろこの野郎!」」

 

 喧嘩は同レベルの人間同士でしか発生しない、という言葉が、美波たちの頭にふと浮かんだ――。

 

 




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 次回もお楽しみに!

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