俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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俺とミハ姉と一回戦目

「えー。それでは、試験召喚大会一回戦を始めます」

 

 いつもだったらそこまで人でごった返す事はない校庭は、主に一般生徒で怖ろしい程に賑やかな状態となっていた。

 その原因は校庭に造られた特設ステージで、そこでは清涼祭の目玉イベント――試験召喚大会が行われる。この大会は三回戦までは一般公開されない決まりとなっているが、その三回戦の後からははたしてどれほどまでに混雑する事になるのか。――それは、その時になってみないと分からない。

 そんな、特設ステージの一つにて。

 互いにオレンジ寄りの茶髪を持つ双子――清水小春と清水美春はトーナメント表を見て思い思いの感想を口にしていた。

 

「へー。アキと雄二がDブロックって事ァ、Bブロックの俺達がアキ達と戦う為にゃ決勝戦に行くしかねえって事か……」

 

「決勝戦程度で止まる訳には行きません。美春たちの目標は優勝賞品――如月グランドパークのプレミアムチケットなんですから!」

 

 少し冷めた様子で冷静にトーナメント表を見つめる小春と、瞳の奥に闘志の炎を燃やして気合を入れる美春。

 因みに、小春達がエントリーされているBブロックの一回戦目の対戦科目は数学だ。それ故に数学教師の長谷川がBブロックのステージの中央付近に立っている。召喚フィールドは教師を中心として展開されるため、そういった位置取りじゃないとステージ全体を包み込む事が出来ないのだ。

 そんな裏事情を抱えた長谷川はBブロック全域に聞こえるほどの声量で声を張り上げる。

 

「三回戦までは一般公開もありませんので、リラックスして全力を出し合ってください。――それでは、召喚してください」

 

 長谷川先生の指示を受け、小春と美春、そしてその対戦相手の女子生徒コンビは口を揃えて――言い放つ。

 

試獣召喚(サモン)!』

 

 呼び声に反応するように魔法陣が出現し、その中から毎度おなじみの召喚獣が姿を現した。

 狩人装束にクロスボウという格好の小春の召喚獣、グラディウスにロリカ・セグメンタタという格好の美春の召喚獣。――そして、甲冑に刀という格好と弓道着に弓矢という格好の召喚獣がステージ上に現れた直後、召喚獣たちの頭上に召喚者の数学の点数がそれぞれ浮かび上がってきた。

 

『Eクラス 曽根崎琴葉  &  Bクラス 峯川汐梨

  数学    87点  &       217点』

 

 相手は学年ワースト2のEクラスとトップ2のBクラス。いろんな意味でバランスのとれたチームだと言えるし、いろんな意味で足を引っ張り合っているチームだと言える。……しかし、Bクラスって本当に点数高いな。これ、結構ヤベーかもしんねえ。

 対する小春&美春ペアの点数はというと――

 

『Dクラス 清水小春  &  Dクラス 清水美春

  数学   18点  &       187点』

 

 穴があったら潜り抜けたい。

 

「……オイコラ愚弟。一体どういう事ですかその点数は!?」

 

「…………正直、悪かったと思ってる」

 

「…………」

 

「…………」

 

 周囲からの視線が心に突き刺さるなぁ……ッ!

 文系科目が比較的高得点である代わりに、理系科目がとんでもない程に低くなる――というのが清水小春の特性だったりする。姉は理系で弟は文系。これはある意味でバランスのとれたチーム編成だと言えるだろう。……まぁ、教科が入れ替わる毎に足手纏いが必ず一人は現れてしまう計算になってしまうのだが。

 予想もしなかった点数に対戦相手の女子二人がぽかーんと絶句する中、美春は頭をガシガシと掻きながら不甲斐無い実弟に指示を出す。

 

「あぁ、もうっ! それじゃあ私がEクラスを倒すまでの間、あなたはBクラスを足止めしておきなさい!」

 

「ジャスタモーメン、ミハ姉! その役割分担は数秒と持たない内に崩壊する未来しか見えねえ!」

 

「それでは行きますっ!」

 

「あーもう相変わらず話聞いてくんねえし!」

 

 弓道着と弓矢を装備したEクラスの召喚獣にグラディウスで切りかかる美春の召喚獣を横目で確認し、小春は自分の召喚獣を甲冑と刀を装備したBクラスの召喚獣へと向かわせた。

 甲冑を装備しているせいでクロスボウが防がれてしまう可能性があるが、それなら剥き出しになっている顔面を狙うのみ。点数差は十倍ほどだが、攻撃さえ喰らわなければ戦死することはない――はず!

 リロード不要のクロスボウを間髪入れずに放ちながら、敵の刀が届かない範囲を忙しなく移動させる。

 

「このっ、このっ! もう、観察処分者でもないくせにちょこまかと! いいから黙って斬られなさい!」

 

「ンな点数と武器で斬られたら一溜りもねえっての! 悔しかったらこっちに近づいてみろってんだ!」

 

「くっ……矢の本数が多すぎて近づけない……ッ!」

 

 ブンブンと我武者羅に刀を振る峯川汐梨だったが、装備の甲冑がその動きを阻害しているせいで小春に攻撃を当てる事が出来ずにいた。逆に小春の召喚獣は遠距離攻撃を専門としているため、ここぞとばかりに矢を放って放って放ちまくっていた。

 と、そこで。

 ようやっとEクラスの生徒の召喚獣を撃破した美春の召喚獣がBクラスの峯川汐梨の召喚獣に真横から斬りかかってきた。

 

「やっと助太刀かよミハ姉! あと少し遅かったらヤバかったっての!」

 

「黙りなさいこの愚弟! 元はといえば、あなたがクズみたいな点数を取るのがいけないんです! きっちり約束を守ってあげた実姉に感謝しなさい!」

 

「了解だけど――それはコイツを倒してからだな!」

 

「言われるまでもありません!」

 

 相手の鎧を叩き壊すことを前提として造られたグラディウスに鎧を何度も何度も斬られ、逆側から鎧の隙間を狙った矢が放たれてくる状況に、峯川はギリィッと悔しそうに歯噛みする。いくら点数が高いからといっても、それが優勢になるのはあくまでも一対一の場合のみ。近距離と遠距離のダブルで攻め込まれた場合、その点数は宝の持ち腐れとなってしまう。――まぁ、それをものともしないほどの高得点を取っているのならば、話は別だが。

 

『Bクラス 峯川汐梨

  数学   56点』

 

 そうこうしている内に相手の点数が結構減少していることに気づいた。点数差は結構あったが、やはり一方的に攻撃していたのは大きかったらしい。DクラスコンビでBクラスの生徒をここまで追い込めるとは、俺達もまだまだ捨てたもんじゃねえな。

 飛んでくる矢と迫りくるグラディウスを必死に刀で迎撃する峯川の召喚獣。――しかし、清水姉弟の攻撃の手は緩まるどころか激しさを増し、

 

「これで――終わりです!」

 

「あぁっ!」

 

 美春の召喚獣のグラディウスに両断され、峯川の召喚獣は姿を消した。

 

「勝者、清水姉弟ペア!」

 

 長谷川先生が勝者の名を告げ、それに応えるように観客席から歓声が上がる。敗北した峯川と曽根崎はしくしくと悲しそうにステージから去って行く。……後で慰めの言葉でも掛けた方が良いんだろうか。

 そんな要らぬ気遣いに思考回路を回す小春の背中を美春は平手でパァン! と叩き、

 

「二回戦の教科は英語ですから、その時はちゃんと活躍なさい!」

 

「りょ、了解でーす」

 

 凶悪な睨みを利かせてくる美春に、小春は冷や汗交じりに頷きを返した。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 一回戦を終えた小春は小腹を満たす為と美波に会う為、Fクラスの中華喫茶へとやってきていた。

 

「中華喫茶なのは聞いてたが、まさか『ヨーロピアン』って名前だとは思いもしなかったなぁ」

 

 どうせアキが名付けたんだろうけど、と肩を竦めて嘆息し、手作り感溢れる飾りつけが施された入口を頭を掻きながら潜り抜ける。――ちょうどすれ違った生徒達は、何故か凄く幸せそうな表情をしていた。そんなに美味しかったのだろうか、この中華喫茶の料理は。……まぁ、あの料理は姫路のらしいから、他の料理にまでは適用されねえんだろうなぁ。

 そんな心配に苦笑を浮かべる小春に気づいた美波はトタタッと歩み寄り、

 

「Bブロック一回戦の中継、見たわよ! 小春、点数が低い割に凄かったじゃない!」

 

「あ、あはは……あの点数が学校中に曝け出されたって事実には、少し絶望しそうになっちまうけどな……」

 

「ま、結局は勝ったんだから結果オーライでしょ? とにかく一回戦目、お疲れ様っ」

 

「ありがと。――で、中華喫茶は盛況か?」

 

「おかげさまでね。小春が椅子と机を貸し出してくれなかったら、ここまで上手くはいかなかったわ。本当にありがとね、小春っ!」

 

 そう言って可愛らしくウィンクをする美波に小春は思わず顔を赤――

 

「…………今の島田の写真、お値段なんと六百円」

 

「いきなり登場すんなビックリするわ六百円だなすぐ買うよ」

 

「…………毎度あり」

 

 ――突如として現れた寡黙なる性職者(ムッツリーニ)と怪しい売買をしていた。その時間、僅か九秒ほど。

 購入した美波の写真をポケットにしまい、美波に促されるがままに空席へと腰を下ろす。店内は意外と賑わっており、中には家族連れやカップルなどの姿も見受けられる。この調子で行けば卓袱台なんてすぐに買えるかもな、と小春はあくまでも他人事な感想を心の中で述べてみる。

 そんな小春の肩を美波はペンで突き、

 

「そんなぼーっとしてないでまずは注文しなさい。因みに、この店のオススメは胡麻団子よ?」

 

「…………胡麻団子にはいい思い出がねえから小龍包と飲茶をお願いします」

 

「…………今度、ウチが瑞希に料理を基礎から教え込んでおくわ」

 

 お願いします、と小春は青褪めた顔で頭を下げる。あの必殺料理人の腕が一般人レベルにまで上達するまでは代表としてアキを生贄に捧げなければならないだろうな、とか思いながら。

 注文を伝票にメモした美波が奥の方へと引っ込んでいくのを見送る小春。あれでチャイナドレスさえ着てくれたらなぁ、と己の欲望に頬を緩ませることも忘れない。

 と。

 そんな幸せの絶頂期にいる小春の耳に、凄く場違いな声が入り込んできた。

 

『おい、まだ注文取りに来ねえのかよー!』

 

『こっちはずっと待ってんだぜー?』

 

 声がした方を見てみると、そこには文月学園の制服を着た二人の男子生徒の姿が。小さなモヒカンと坊主頭、という凄く目立つ外見のコンビだった。……あれ、よく見たら三年生じゃん。三年にもなって営業妨害とか、よくやるよなぁ。

 ――と、これが二年Fクラスが対象でなければ、小春はそう思っていただろう。

 しかし、ここは二年Fクラスの中華喫茶『ヨーロピアン』。小春が好意を寄せている島田美波を始めとした、彼の友人たちが一生懸命作り上げた喫茶店である。

 つまり、それが一体何を指しているのかというと――

 

「ったく、こっちは忙しい中来てんのあばばばばばばばばば!?」

 

「な、夏川ぁ!?」

 

 肩を竦めて文句を言っていた坊主頭(夏川というらしい)がおかしな悲鳴と共に崩れ落ち、それを見ていたモヒカンの男子生徒が椅子から立ち上がりながら叫びを上げる。

 そして、夏川をテクニカルノックアウトした張本人――清水小春はバチバチと露骨に電源が入っているスタンガンを構えながらニコニコと裏の読めない笑顔を迷惑客コンビへと向け――

 

「おや? 筋肉痛でダウンしちゃった感じですか、先輩? これはいけない、早く保健室へ連れて行って差し上げないと!」

 

「いやお前がスタンガンで黙らせただけだろうがぁっ! テメェ、喧嘩売ってん――「美波の敵は俺の敵じゃぁあああああああっ!」――あばばばばばばばばばばばばば!?」

 

 一分と掛からない内に二人分の焼死体が完成した。

 とりあえず怒りだけは収まった小春はスタンガンをポケットにしまい、「ふぅ」と高ぶっていた気を落ち着かせる。

 と、ちょうど試験召喚大会から帰ってきた雄二と明久が小春の元までやってきて、

 

「うわーお……相変わらずのスタンガン使いだね、小春……」

 

「小春。コイツ等か? うちの営業を妨害していた三年生ってのは」

 

「……俺、無関係なんでっ!」

 

『オイコラ騒ぎだけ起こして去って行くなバカ小春っ!』

 

 額に青筋を浮かべて襲い掛かってくる雄二と明久から逃げるべく、小春は人生史上最高速度で文月学園を駆け抜ける。

 

「って、せっかく頼んだ小龍包と飲茶食い損ねたぁあああああああああっ!」

 

 




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 次回もお楽しみに!

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