俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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 三話連続投稿です!

 あと、出来れば評価付与や感想なんかをしてもらえると幸いです(汗



俺と祭と毒殺料理

「いやー、無事に当日に間に合ってよかったなー」

 

「ええ。小春さんの設計図が無駄に複雑回帰していましたから地味に手間取ってしまいましたが、無事に全てを再現する事が出来たのでございますよ」

 

「……なぁ香川。なんか言葉の端々に棘が感じられんだけど」

 

「気のせいでございます。…………多分」

 

「口に出してる本音を口に出しちゃってる」

 

 清涼祭初日の朝。

 少し貧相な普通の高校レベルであるDクラスの教室は凄まじい程に一新され、どこからどう見ても本格的なお化け屋敷にしか見えないように改装されていた。扉を取り外してカーテンを設置した入口を潜った先には足元すら見えないほどの闇が拡がっていることだろう。

 予想外の出来に満足げな表情を浮かべる小春。集計結果をDクラス代表の平賀源二に伝えた後に「じゃあ、設計よろしく」と言われたときにはマジで殺してやろうかと思ったが、準備を終えた今となっては「このお化け屋敷の設計したの俺なんだぜ?」と少しばかり誇らしい気持ちになったりならなかったり。

 とにもかくにも無事に清涼祭までに準備を終了させることができたDクラス生は、眠たそうに欠伸をしながら教室の前に全員集合していた。

 わいわいがやがやと駄弁っているDクラス生をパンパンと手を鳴らして黙らせ、源二は「コホン」と軽く咳払いをし、

 

「今日までの準備期間、本当によく頑張ってくれたと思う。皆の協力が無かったらここまで完璧なお化け屋敷は作れなかっただろうからな。このクラスの代表として、まずはお礼を言わせてもらいたい」

 

 そこで小さくお辞儀をし、源二は続ける。

 

「そして忘れてはいけないのが、このお化け屋敷は小春の活躍があったからこそ実現したものだ、という事だ。皆の意見の集計やお化け屋敷の設計、更にはデザートの差し入れなど、小春はこのクラスの為に本当によく働いてくれた。――とりあえず、この場を借りて感謝の気持ちを伝えさせてもらいたい。本当にありがとな、小春」

 

『ありがとー』

 

「べ、別に大した苦労じゃなかったし、そこまで礼を言われる事でも……ま、まぁ単純に自分のついで? って感じだったから……べ、別にお前らのために頑張ったわけじゃねえかんな!? 勘違いすんなよ!?」

 

『ツンデレ乙!』

 

「誰がツンデレだぁ!」

 

 ニヤニヤとからかうような態度で接してくるクラスメイトに顔を真っ赤にした小春の檄が飛ぶ。

 源二は再び手拍子でクラスメイトを静まらせ、

 

「そこで提案なんだが……今までの活躍を評価して、清涼祭期間中、小春だけはずっと自由行動、という事にしてあげる、というのはどうだろう? これは小春の親友としての個人的な意見でもあるから、異論がある奴は是非意見をして欲しい」

 

「異論はねえっすよー」

 

「私もその意見に賛成でございます」

 

「まぁ、愚弟の頑張りに助けられたのは事実ですし、別に良いんじゃないですか?」

 

「私も賛成!」

 

「オレも!」

 

 源二の提案に次々と賛成の意思表明をするDクラスの生徒達。第二学年の平均的な生徒が集まったクラスであるDクラスは通常クラスに比べてクラス内の団結力が高いため、こういった展開を迎えることが結構多かったりする。

 「お、お前ら……」と割と感極まる小春に、Dクラスの生徒達はニヤニヤとした笑みと生暖かい視線を向け――

 

『だから――今すぐに島田さんに会いに行ってもいいんだぞ?』

 

「その言葉で全てが台無しだよバカヤロウ!」

 

 そうは言っても今から美波に会いに行こうとしていたのは事実なため、小春は口を尖らせながらも「い、行ってきます!」と逃げるように旧校舎のFクラスへと走り去って行った。

 因みに、クラスメイト達の言葉に反応した清水美春はというと――

 

「み、美春もお姉様に会いに行きます!」

 

「ダメだよハルちゃん。ハルちゃんは試験召喚大会と昼休み以外はずっと当番、って当番割りで決まってるんだから」

 

「美紀!? は、離してください! 美春はお姉様と一緒に清涼祭を過ごすんですーっ!」

 

 その当番割りが実は小春の策略だという事に、ガチレズな実姉は気づいていない。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 Fクラスの教室に足を踏み入れた直後、小春は信じられない光景を目の当たりにした。

 

「目を覚ますのじゃ明久! その川は絶対に渡ってはならん!」

 

「…………救命開始……ッ!」

 

 何でFクラスは清涼祭ですらもこんな調子なのだろう?

 遊びに来たことを心の底から後悔しそうになる小春だったが、「美波に会いたい」という自身の欲求には抗えず、溜め息を吐くと同時に目の前の騒ぎに参加することにした。

 ガシガシと頭を掻きながら、小春は美波に話しかける。

 

「よっ、美波。これって何の騒ぎ?」

 

「あ、小春。Dクラスの準備は終わったの?」

 

「なんか『お前は頑張ったから仕事は免除!』って事でフリーになってな。とりあえず今は暇潰し中。……で? この騒ぎは一体何?」

 

 美波は顎に人差し指を当て、

 

「それが、よく分からないのよね。瑞希の胡麻団子を食べた瞬間、吉井が勢いよくぶっ倒れちゃったのよ。木下と土屋は『筋肉痛だから』って言ってるけど、どうも症状が違う気がするのよね……」

 

「何で胡麻団子食って倒れたのに原因が筋肉痛なんだよ……」

 

「ウチに聞かないでよ」

 

 このクラスは本当、世間の常識からかけ離れすぎている気がする。FFF団なる過激派宗教団体とか、普段からも暴走っぷりだとか。……いや、暴走に関しては人の事は言えねえか。

 ムッツリーニと呼ばれている土屋康太なる男子生徒の蘇生作業によって無事に息を吹き返した吉井明久に歩み寄り、小春はすぐさま疑問をぶつける。

 

「なぁアキ。何でお前はぶっ倒れてたんだ? お前、筋肉痛になるほど軟な体じゃねえだろ?」

 

「あ、小春。そうだね……とりあえず、この胡麻団子を食べてもらえるかな?」

 

「別にいいけど、そういえば雄二はどうした? 姿が見えんのだけど……」

 

「ちょっと野暮用でね。って、いいから早く食べてみてよ」

 

「…………毒を盛ってんじゃねえだろうな?」

 

「あははっ、相変わらず小春は疑い深いなぁ」

 

「あははっ、流石のアキでもそこまでする訳ねえよな」

 

 それじゃあ、いただきます。

 明久に渡された小皿に乗っている美味しそうな胡麻団子を摘まみ上げ、ひょいっと口の中に放り込む。傍で明久と康太と秀吉が『安らかに眠れ、小春』と空を見上げているのが少し気になったが、今はこの胡麻団子を味わうことに集中しよう。

 口に入れた胡麻団子を咀嚼しながら、小春は自分なりの感想を述べてみる。

 

「んぎゅんぎゅ。表面はゴリゴリで中はネバネバ。甘すぎず、辛すぎる味わいがとっても――んゴバっ!」

 

 どたんばたんがたん! と力なく床に崩れ落ちる小春くん。

 ぴくぴくと小刻みに痙攣する小春に「ど、どうしたの!?」と美波は心配そうに駆け寄り、小春の視線の先にいる明久は凄く悪い笑顔を浮かべ、

 

「(これは姫路さんの作った手料理だよ? まさか酷い事なんて言える訳ないよね?)」

 

「(て、テメェ……やっぱり毒を盛ってんじゃねえか!)」

 

「(違うよ。これは姫路さんの実力さ)」

 

 美波に膝枕されながらも明久を睨みつける小春に、胡麻団子の製作者こと必殺料理に――もとい姫路瑞希はあたふたとした様子で小春の前にしゃがみ込み、

 

「わ、私の胡麻団子、美味しくなかったですか!?」

 

「い、いや、そんな事はねえよ。―――凄く、個性的な味だった」

 

「あの、それってあまり褒められている気がしないんですけど……」

 

「ほ、褒めてるさ。この胡麻団子は本当に凄い。是非、アキのためにもっと多く作ってきた方が良い。そうすりゃきっと、アキも喜んでくれるだろうよ」

 

「ほ、本当ですか!? 分かりました。私、ちょっと調理室に行ってきます!」

 

 トタタタタッ! と可愛らしい足音を奏でながら教室を後にする必殺料理人。天然で純粋な彼女を止められる者などこの教室には一人もおらず、再び儚い命が散らされるフラグが一瞬にして建築されてしまった。

 美波に支えられながらもふらふらと立ち上がる小春に明久は勢いよく掴みかかり、

 

「貴様ァーッ!」

 

「当然の報いだバカヤロウ! 来客に毒殺料理食わせやがって! 椅子と机を貸し出してやった恩を忘れたとは言わせねえぞ!?」

 

「うぐっ。そこを突かれると何も言えない……ッ!」

 

「そうよ、吉井。ウチ等は小春に感謝しないといけない立場なのよ? 反撃したいのなら試験召喚大会でぶつかった時にしなさい」

 

「って、あれ? 小春って試験召喚大会に出るの?」

 

「ああ。ミハ姉が『如月グランドパークのプレミアムチケットを勝ち取って、お姉様と結婚式を挙げるんです!』って凄い形相でペアを強制してきてな。まさかの清水姉弟での参加って事になっちまったんだ」

 

 相変わらず勝手だよなー、と小春は呆れたように肩を竦める。

 と。

 小春に肩を貸していた美波は少しだけ頬を朱く染め、小春の顔を真正面から見つめ始めた。

 

「ど、どうしたんだよ、美波。そんな真正面から……」

 

「小春。小春は、そのチケットを使って一体誰を誘う気なの?」

 

「へ? ……ああ。そういえば、チケットは二人分あるんだっけ。一枚はミハ姉がゲットしたとして、もう一枚は俺に回ってくる訳か」

 

「そんな今更過ぎる計算はいいの。――そのチケットで誰を誘う気?」

 

 どうしよう。ここで冗談を言ったらすぐにでも全身の骨をぐちゃぐちゃにされてしまいそうな気がしてならない。

 何故か感じる威圧感と圧迫感に妙な寒気を覚えながらも、小春は自分の平和な未来を護る為に正直に且つハッキリとした口調で質問に対する答えを提示する。

 

「み、美波が拒否らなかったら、その……お前を誘うつもりだよ」

 

「え? そ、それって、もしかして……」

 

「あ、ああ」

 

 突然漂い始めた桃色の空気に小春と美波は思わず固唾を呑む。準備期間中にも経験したこの居た堪れない空気。決まって小春と美波が初心な反応を見せた時に出現する空気だったりするのだが、当の本人たちはその原因が自分たちにある事には全く気付いた様子もない。

 腰の辺りで手を組んでもじもじとする美波と、照れ臭そうに頬を掻く小春。

 周囲の秀吉や姫路(・・・・・)たちが見守る中、小春は意を決して口を開き――

 

「諸君、ここはどこだ?」

 

「「「最後の審判を下す法廷だ!」」」

 

「異端者には?」

 

「「「死の鉄槌を!」」」

 

「男とは?」

 

「「「愛を捨て、哀に生きる者!」」」

 

「宜しい。これより――2-F異端審問会を始める」

 

「っていくらなんでもタイミング悪すぎんだろしかもそん中にアキとムッツリーニ混ざってんじゃんもう嫌だこんなじれったい展開ぃいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 

「あ、小春!? 返事がまだ聞けてないんだけど!」

 

「返事する前に殺されちまうだろうがぁあああああああっ!」

 

 突如として現れたFFF団の包囲網を突破するべく、小春は涙を流しながら一般開放前の文月学園を駆け抜ける。

 

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

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