俺の恋路に何故か実姉が立ちはだかっている   作:秋月月日

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 大学合格祈念、ってことで新作投稿。

 受験が終わって時間に余裕が出来たから問題ないです…………ないです、よね?

 とりあえずのコンセプトは『アンチじゃない、原作通りの雰囲気の作品』ということで。

 バカテス新作、スタートです。


俺と恋路と同性愛

 文月学園、と呼ばれる私立高校がある。

 とある都道府県のとある街。その中でもさらに急な坂の上――という凄く悪い立地条件をあえて臨んだかのようなエリアに、文月学園は存在する。

 そして、その文月学園までの坂道にて。

 どこか似た容姿の少年少女がギャーギャー騒ぎ立てながら歩を進めていた。

 

「いい加減にしろよミハ姉! アンタの言い分は間違ってるって、何度言ったら分かるんだ!?」

 

「いいえ私は間違ってません! いくら血の繋がった愚弟といえども、その理論を受け入れるわけにはいきません!」

 

 互いにオレンジ寄りの茶髪の持ち主だが、性別及び外見には大きな違いが存在する。

 まず、少女の外見を挙げてみよう。

 長い髪をツインドリルにした特徴的な髪型に、意志の強さが現れたようなぱっちりとした琥珀色の瞳。身体の凹凸は平均以下といった感じで、口からは特徴的な八重歯が覗いている。

 次に、少年の外見を挙げてみよう。

 前髪は目にかかるほどに、横髪は耳にかかるほどに、後髪はブレザーの襟に着く程に長い。男子にしてはやけに中性的な顔の中で透き通った琥珀色の瞳が存在を顕著に表していて、百六十中盤程の体躯は程よく引き締まっている。

 このような外見的特徴を除けば、怖ろしいほどにそっくりな少年と少女。

 二卵性双生児。

 俗に云う『双子』である少年と少女は互いのネクタイを掴みながら睨み合い――

 

「美波の良さはあの明るい性格に決まってんだろ!」

 

「慎ましい胸をシカトするなんて私にはできません!」

 

 ――今日も仲良く一人の(・・・)女子生徒(・・・・)を奪い合う。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 西村宗一、と呼ばれる教師がいる。

 趣味はトライアスロンで、嘗てはアマチュアレスリングにも手を染めていた――という生粋の筋肉教師である彼は、その外見と教育方針から『鉄人』という渾名で生徒達から呼び慕われていたりいなかったり。

 問題児には鉄拳制裁。

 バカ共には鬼の補習。

 悪ガキには教育指導。

 そんな俗に云う『恐怖のフルコース』をいとも簡単に発動してしまうことで怖れられている西村は、一学期の初日――つまりは今日、第二学年の生徒に所属クラスを発表するという重大な任務を任せられていた。

 振り分け試験、と呼ばれる試験によってAクラスからFクラスまで分けられるこの文月学園は、クラスのランクによって教室内の設備が異なる。設備が豪華なクラスは怖ろしい程に豪華だし、逆に貧相なクラスは怖ろしい程に貧相な設備を与えられてしまう。もちろん、クラスごとに教室の広さも異なっていたりするというオマケ付きだ。

 あえて極端な例を挙げるなら。

 

 Aクラス→システムデスクとノートパソコン。

 

 Fクラス→卓袱台と座布団。

 

 ここは本当に教育機関なのか? とツッコミを入れたくなる気持ちも分からないではないが、ここはれっきとした進学校です。

 そんないろんな意味でギリギリな文月学園の正門で生徒一人一人を相手にしていた西村は新たな生徒の登場に――

 

「……ついにお前らの番か、清水姉弟」

 

 ――心底疲れたような顔で溜め息を吐いた。

 思いもよらない西村のリアクションが気に食わなかったのか、清水弟――もとい清水小春(しみずこはる)は抗議の声を荒げ始めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください鉄人先生!」

 

「その呼び名を許可した覚えはないんだが?」

 

「いやそんなどうでもいいことは置いといて! 何で俺とミハ姉が同種族扱いなんですか!? 俺はこれでも普通で平凡で清廉潔白な一般生徒ですよ!?」

 

「オイちょっと待てやコラこの愚弟」

 

 ゾォッ! と負のオーラを放つ姉をシカトし、小春は続ける。

 

「アキや雄二たちならともかく、何故に俺までその対応!? 俺があなたに何かしたでしょうか!?」

 

「…………一年生の終盤に吉井と坂本、それに土屋や木下弟と共に我が補習室に連れて行かれたのは何処のどいつだったかな……ッ!」

 

「…………………………き、気のせいじゃねえっすか――ぐめぎゃぁっ!」

 

 露骨に目を逸らした小春の顔面に西村の暑苦しい右腕が襲い掛かる!

 

「いいか清水弟! 今年から貴様らは試験召喚戦争に携わることになる。しかし、戦争といっても貴様らの本文は勉学だ。昨年度のように問題行動が多発した場合、一切の容赦なく生活指導をしてやるから覚悟するように! いいな!?」

 

「わ、わぎゃりましだぁーっ!」

 

「ふんっ。……そして、この騒ぎに乗じて逃げ出そうとしている清水姉!」

 

「ぐぇっ!」

 

 泡を噴いて崩れ落ちる小春を置き去りにして逃亡を図っていた清水姉――もとい清水美春は後ろ首を掴まれ、逃亡を妨害されてしまう。

 ぷるぷると涙目で震える美春に溜め息を吐き、西村は言う。

 

「貴様は弟よりも目立ちはしなかったが、それでも島田関連の問題行動が多く見受けられた。今年は貴様の行動にもちゃんと目を光らせておくから、しっかりと覚悟しておくように!」

 

「はい!」

 

「…………返事は立派なんだがな」

 

 この双子は本当に問題児だからな……、と西村は顔に手を当てる。

 と、そこで何かを思い出したかのように西村はスーツのポケットから二つの封筒を取り出し、小春と美春に差し出した。

 『クラス割り』と書かれた封筒を受け取った清水姉弟が中身を取り出す作業に勤しむ中、西村は疲れたような口調で言う。

 

「去年一年間、貴様らを見てきて、俺は『コイツ等は新種のバカなんじゃないか?』と思ってきた」

 

「いやー、流石にそれは酷いっすよー。バカはアキだけの称号っすから、俺たちにゃ似合いませんって」

 

「小春の言う通りです。いくら問題行動が多いと言っても、流石にバカと言われるのは心外です」

 

「ああ。だから俺は貴様らへの対応を少しばかり遠慮してきたし、少しの優しさを含んで相手をしてきたつもりだ」

 

 しかし、だ。と西村は言う。

 そんな西村の目の前で、ようやっと封筒の中身を取り出すことができた小春と美春は綺麗に折り畳まれた紙をゆっくりと拡げていき――

 

「今年は流石に手加減は出来ないようだ」

 

 

 清水小春:Dクラス。

 

 清水美春:Dクラス。

 

 

「まさか貴様ら二人が同じクラスになるとは思いもしなかった。――本当に問題だけは起こさないでくれよ、清水姉弟?」

 

 睨みながらの西村の言葉に、二人の問題児は引き攣った笑いで応えるしかなくなっていた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 Dクラスの設備を簡単に説明すると、『少し貧相な高校レベル』といった感じだ。

 見慣れた机に見慣れた椅子。教室の広さも普通の高校レベルで、黒板の大きさも何の変哲もない普通の高校レベル。まさに中間としか呼べない程の設備のランクを誇るのが、清水姉弟が割り振られたDクラスの分かり易い特徴であろう。

 そんな、平凡過ぎて逆に特徴的すぎるDクラスの教室に移動した小春と美春は各々に割り振られていた座席に移動し――

 

『つ、疲れた……』

 

 登校早々にぐでーっと机の上に崩れ落ちてしまっていた。

 まぁ、登校中に『島田美波の本当の魅力とは?』という議題で超絶討論、正門で西村先生から軽いジャブ程度の牽制――などというハードスケジュールを経験してしまっている二人が疲れ果ててしまっているのは当然か。そもそも自業自得な結果なのだが、それでもこの身に溜まった疲労だけは何とかしたいという微妙な心境だったりなかったり。

 観察処分者とA級戦犯程ではないが、それとは別ベクトルで問題児扱いされてしまっている二人は力のない瞳でどことも知れぬ方向を眺めながら、ほぼ同タイミングで溜め息を吐く。

 と。

 

「お、小春もこのクラスなんだな。一年間よろしく頼むよ」

 

 『たれこはる』状態の小春にそんな声をかけてきたのは、太い眉毛が特徴の二枚目野郎だった。

 平賀源二(ひらがげんじ)

 小春とは一年生の頃から親交があり、意外と女子からモテてもいる男子生徒である。

 ニコニコとイケメンスマイルを披露する源二に、小春は急に元気を取り戻したように対応する。

 

「あ、源二じゃん。え、なに、源二もこのクラスなんか?」

 

「このクラスというか……俺、Dクラスの代表だぜ?」

 

「別に威張れるほどのレベルじゃねえけどな、Dクラス」

 

「それを言うなよこっちは自慢したいんだからさ……」

 

「ははっ、ごめんごめん」

 

 小春は軽く手刀を切る。

 

「っつーコトは、試召戦争はお前に任せときゃ安泰って訳ですか。期待してんぜ、平賀代表ー」

 

「おいおい、なに他人事みたいに言ってるんだよ。お前にもちゃんと働いてもらうぜ、清水参謀?」

 

「……えー。俺、参謀とか柄じゃねえんだけど」

 

「はははっ、冗談だよ冗談。――ま、とりあえずは一年間よろしくな」

 

「おー。よろしくー」

 

 パァン! と軽くハイタッチをし、小春と源二は笑い合う。

 (あーよかったー……とりあえずは知り合いがいてよかったー)思いもよらない友人との再会に胸を撫で下ろす小春。

 そんな小春の様子を見ていた源二は急にニヤニヤとあくどい笑顔を顔に張り付け、

 

「で? 相変わらず島田さんにはベタ惚れ片想い中なのか?」

 

「誰が何で何だってェえええええええええええええっ!?」

 

 ガタンドタンバタン! と勢いよく立ち上がる小春に教室中の視線が集まるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 そう、まずやるべきことはただ一つ。

 このバカを黙らせることである!

 

「い、いいいいいきなり何言ってんですか源二!? だ、だだだ誰が美波にベタ惚れ片想い中だって!?」

 

「そこまで露骨な反応見せるぐらいに惚れているんだろ、島田さんにさ」

 

「べ、別に惚れてなんかねえし! いや確かに好意を向けている訳ではあるけれどもいやいやそれでも流石にそこまでは嫌でも今朝からミハ姉と美波の魅力を語り合ってきたばっかだし……ッ!」

 

「予想以上にガチじゃないかよ」

 

「う、うるっさい!」

 

 ニヤニヤヘラヘラニマニマと生暖かいニヤケ顔がDクラス中に拡がって行く――と同時に小春の顔も朱く朱く染まっていく。

 だが、そんなほんわかほのぼの状態での場の転換を許すほど、世界は甘くはない。

 バンッ! と机を叩く音がした。

 その音の主はツインドリルな髪型が特徴の女子生徒で、小春の双子の姉でもある女子生徒だった。

 清水美春。

 小春の想い人(確定)である島田美波なる女子生徒に恋愛感情を(・・・・・)抱いている(・・・・・)美春はギロリと小春を睨みつけ、

 

「お姉様は誰にも渡しません!」

 

「いやアンタ女子だから! 日本じゃ同性愛なんて認められていませんからぁ!」

 

「その幻想をぶち殺す!」

 

「幻想じゃなくて現実だぁ!」

 

 島田美波という女子生徒に恋をする姉と、実姉の想い人に恋をしてしまった弟。

 バカとテストと召喚獣が織りなすハートフルボッコラブコメの傍らで、血の繋がった双子同士の仁義なき恋愛バトルが繰り広げられる。

 

 これは、そんなバカで騒がしい物語――。

 




 感想・批評・評価など、お待ちしております。

 次回もお楽しみに!

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