それではどうぞ。
事件の日から一晩明けて、私、ミスティ、アリアは一週間お世話になったホテル、デルフィーノをチェックアウトし、ライモンシティに帰還しようとしていた。ホテルを出る際、明細を見てみると顔が真っ青になるくらいの金額が書かれていた。その時、私たちはしばし無言になり、アデクさんごめんなさいと心の中で謝った。アデクさんや四天王、ジムリーダーたちは事件の後始末に忙しく、今も街の中を奔走している。そして私たちはアマダキシティを飛び立ってライモンシティへと向かう。
「いやあ、大変だったね。100匹以上のポケモンが一斉に出てきたときは焦ったね」
「だが、メイは諦めずにその絶望的な状況を打ち破った。本当に凄い奴だよ、メイは」
うん。あの時諦めなかった自分を褒めてやりたいぜ。
「ホントにそう思う。普通はその状況なら諦める。5匹で1匹を守り、その間に1匹は力を溜め、限界まで守り抜いた後、力を溜めた1匹でポケモンたちを一掃する。こんな作戦を咄嗟に思いつくなんて」
「えへへ~。それほどでも~」
そんなに褒めるなよ、照れるぜ。だけど、ミスティでも出来ると思うけどね。この作戦を思いついたのはゲームの時は積み技を使って無双する戦法を好んで使っていたからだ。その応用みたいなものだ。場を整え、積み技を使える環境を作り、積み技を仕込み終えれば準備完了。後は無双するだけだ。
「……まあ、今回は調子に乗っても仕方ない」
「そうだな。しばらくすれば治るだろう」
ミスティとアリアはやれやれといった様子で言う。
「さて、明日からはまた気ままな旅の続きかな」
「そう。なら、また写真を撮れる。アマダキシティではほとんどいい写真を撮れなかったから楽しみ」
「では、料理教室も再開だな。お前たちは筋がいいからな。教えがいがあるというものだ。それに、ホテルの味をどう再現してやろうか、ふふふ、今からワクワクするぞ」
とまあ、こんな会話をしながらゆっくりとライモンシティへと向かった。
夕方頃、私たちはライモンシティへと帰ってきた。
「ん~、んぅあ~。ふい~。戻ってきたあ」
私は思いっきり伸びをしてしみじみと言う。なんか自分の足で歩いていかないと旅をしたっていう気にならないよね。だから、アマダキシティへは遊びに行っていた気分だ。これもトレーナーの性ってやつか。旅を始めてから早10か月以上、すっかり板についてきたみたいだ。思えば色々あったなあ。沢山の人と出会って、バトルして、大会にも出場したりして、学校で話をしたりもしたなあ。でもやっぱりミスティとアリアに出会ったことが旅をして一番嬉しかったことかな。おかげで毎日が楽しい。ああ、もちろんリオたちのことも嬉しく思っている。皆いい子で、私を慕ってくれているし。前世じゃ考えられなかったくらいに充実している。いいのかな。こんなに幸せで。
「何ニヤニヤしてるの?」
へ?
「何かいいことでもあったのか?」
今私はそんな顔してたのか。
「あ~、うん。まあね。今幸せだなと思って。ミスティが居て、アリアが居て、ポケモンたちが居て。それだけでな~んとなく満たされているっていうかなんていうか。不思議な感じ」
私の言葉にミスティとアリアは一瞬驚いたような顔をして、すぐに微笑みだす。
「ふふふ、私も」
「ふっ、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
「だから、私と一緒に居てくれてありがとう」
私はミスティとアリア、そしてリオたちに向けて言う。
「こちらこそ」
「どういたしまして」
リオたちのモンスターボールも微かに揺れる。
「ははは」
「ふふふ」
「クスクス」
私たちは少しの間笑い合う。
「さあ、今日はポケモンセンターに行って休むとしよう。まあ、あのホテルと比べると幾分か質素だろうけど」
「そうね」
「そう言うな。むしろポケモンセンターは値段の割には十分に豪華なんだから」
そうして私たちはライモンシティのポケモンセンターで久しぶりの感触を味わいながら眠りについた。
次の日の朝、久しぶりのベッドで寝た感想。やっぱり高級ホテルってすごい。いつもの体操、波導の訓練、リオとの組手をこなして朝食をとった後のこと。
「は~い、ではでは、今後の予定について話し合いたいと~思いま~す」
「ふわ~い」
「朝からテンションが高いな、メイ」
ミスティは欠伸をしながら返事をし、アリアは困った奴だ、と言う風な顔をする。私はそれらを無視して話を続ける。
「次は、ホドモエシティだね。ジムバッジ的な意味で」
「そういえば、メイはいくつバッジを持っているんだ?」
「サンヨウシティのトライバッジ、シッポウシティのベーシックバッジ、ヒウンシティのビートルバッジ、ライモンシティのボルトバッジの4つだね」
「そうか。なら次は自ずとホドモエシティの方向なわけだな」
このライモンシティからは東西に二つの道路が伸びている。一つはアリアの言ったホドモエシティへと続く5番道路、もう一つはブラックシティへと続く16番道路だ。16番道路の方向へ進んでいくと、ブラックシティ、豊穣の社、サザナミタウン、カゴメタウン、ビレッジブリッジと続いてソウリュウシティに繋がっている。反対に5番道路の方向に行くとホドモエシティ、フキヨセシティ、セッカシティと続いてこれまたソウリュウシティに繋がっている。この二つのルートの内ジムがあるのはホドモエシティ側のルートなのでほとんどのトレーナーはこのルートを通る。
「その通りなのです。というわけなので次の目的地はホドモエシティです。あーゆーおーけー?」
「ああ、いいぞ」
アリアは返事をしてくれるが、ミスティは頷くだけ……って寝てるし。テーブルに突っ伏して、見事に熟睡している。今日は特に目覚めが悪いらしい。
「しょうがない。ミスティが起きるまで出発は待とう」
「そうだな」
するとそこでテレビのニュースが耳に入ってきたのでテレビ画面に目を移す。
“次のニュースです。先日、アマダキシティでプラズマ団襲撃事件が起こりました。この事件の顛末をお伝えします。プラズマ団は事前に送った犯行予告文の通りに突如としてアマダキシティのポケモンリーグ会場付近に現れ、会場を占拠――”
報道された内容は概ね私たちが知っているものと同じだった。まあ、当事者だし。それと、プラズマ団の奴らは罪に問われる者とそうでない者がいるらしい。罪に問われる者もゲーチスの扇動によって動かされていたとして罪は軽いものになるようだ。重い罪に問われるのは人のポケモンを無理やり奪っていた、プラズマ団の中でも過激な少数派らしい。真剣にポケモンの解放を訴えていただけのプラズマ団も少なくないということで、それらの人は厳重注意のみで済まされるみたいだ。
“なお、プラズマ団のトップとみられるN、七賢人のゲーチス、その他の七賢人、ヴィオ、アスラ、スムラ、ジャロ、リョクシ、ロットは現在も逃走を続けており――”
結局幹部クラスは全員逃亡中か。こんなところまで原作通りにならなくてもいいのに。まあ、どうでもいいか。どうせ私には関係のないことだ。
“続いてプラズマ団の城の内部で発見された奇妙な部屋についてですが――”
紹介されたのは子供が遊ぶような部屋だった。ああ、Nの部屋のことか。ん? もう一つある? あ、なるほど、もう一つはミスティの部屋か。私は幸せそうに眠っているミスティの顔をチラリと見る。それにしてもよくゲーチスの呪縛から無事に抜け出せたものだ。ゲーチスなら役に立たないとわかった瞬間処分しそうな気もするんだけどなぁ。その点はゲーチスに感謝だね。こうしてミスティと出会えた訳だしね。
「どうしたんだ? 嬉しそうな顔をして」
アリアに言われて私は頬が緩んでいたことに気付く。
「いや、何でもない」
ミスティの事情に関することだし、ミスティが自分からアリアに話すまでは私の口からは言えない。
「可笑しなやつだ」
そうしてまたニュースに注意を向ける。
“更に続けます。プラズマ団の城の地下で発見された百人余りのプラズマ団とそのポケモンたちについてです”
グフッ!? ……ゲホッ、ゲホッ。私は飲もうとしていたお茶を何とか飲み込み、口から吐き出してしまうのを防いだ。
“プラズマ団とポケモンたちは発見当時、皆気絶していました。ポケモンたちは傷がついていたので戦っていたのはわかるのですが、トレーナーであるはずのプラズマ団まで気絶していたのはどういうことでしょう? ミズキさんはどう思われますか?”
「ねえ、アリア。ちょっと訊くけど、あの時プラズマ団が悲鳴を上げて気絶したのって、ひょっとしてアリアがやったの?」
「ああ、そうだ。少し刺激的な映像を見せてやっただけさ」
アリアはフッと笑みを浮かべる。気絶するほどの映像が少し刺激的で済まされるか!
「それだけじゃないと思うんだけど」
私はジト目でアリアを見つめる。
「よくわかったな。実は五感に訴えかけるような幻影にしたのだ」
「え? 五感って、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚のこと?」
「ああ、そうだ」
「そんなことできるの?」
「メイたちも初めて私の幻影を見たとき、見るだけでなく、音も聞こえただろう?」
「ああ、そういえばそうだっけ」
イリュージョンってすごくね?
“本当に不思議ですよね。プラズマ団は何かの病気であったこともなく、何かに傷つけられたわけでもない。まるで何かに化かされたような感じですねえ”
「ほら、アリア、言われてるよ」
「ふふふ、そう褒めるな、照れるじゃないか」
アリアには褒め言葉に聞こえたようだ。
“まだ謎はあります。百人余りのプラズマ団は何と戦っていたのかということです。我々の取材によるとプラズマの城に乗り込んでいったトレーナーはあまりおらず、その内訳は、まず一般トレーナーのトウコさん、トウヤさん、チェレンさん、メイさん、ミストラルさん、アリアさん、アイリスさん、そしてジムリーダーのシャガさん、ハチクさん、フウロさん、ヤーコンさん、カミツレさん、アーティさん、アロエさん、最後にチャンピオンマスターのアデクさん、この14人です。このうちメイさん、ミストラルさん、アリアさん以外の人に取材を行ったのですが、誰も百人余りのプラズマ団と戦った覚えはないそうです。そこで我々はメイさん、ミストラルさん、アリアさんの三人が戦ったのではないかと推測しました。これはどのように考えますか、ミズキさん”
“そうですね。たったの三人で百人余りのプラズマ団と戦ったことも驚きですが、状況を考えると、もしかするとですが100匹以上のポケモンたちと同時に戦ったということも考えられます。普通のトレーナーが持っているポケモンの数は6匹、三人で合計18匹、つまり18対100という状況だった可能性があります”
“たったの18匹で100匹を相手にするなんて可能なのでしょうか? ”
“可能性は低いですが、ないわけではありません。チャンピオンマスタークラスの実力、もしくは伝説のポケモンクラスが居ればあるいは、ということもあるでしょう”
“そうですか。もしそうだとしたらこの三人は凄いトレーナーということになりますね。我々はメイさん、ミストラルさん、アリアさんの行方を捜しているのですが、アマダキシティ内には既におらずどこかに旅立ったのではないかと、チャンピオンマスターのアデクさんは仰っていました。引き続き我々はメイさん、ミストラルさん、アリアさんの行方を捜していきます。続いては今日のお天気です。ジーナさん――”
「ほら、言われているぞ、メイ」
「ウ、ウン。ソウダネ」
まさか、こんな大事になっているとは。これ私がやったってことがばれたら更に騒がれるんじゃない? ……うん。絶対にそうなるね。見つからないようにしばらくは大人しくしてよう。すると周りにいた人たちの声が聞こえてくる。
「100対18とかありえないだろ」
「そうだよな。いくらなんでも無理だって」
「可能性があるとしたらアデクさんとジムリーダーの内のだれかだな」
「でも、取材だとアデクさんもジムリーダーたちもやってないらしいじゃないか」
「じゃあ、いったい誰なんだよ」
「やっぱり、テレビで言ってた三人じゃないのか?」
「でもそんな奴ら聞いたことないぞ」
「だよな。ていうかそもそもホントのことかどうかもわからないことだし、俺らには関係ないことだろ」
「それもそうだな」
そこで周囲の声から注意を外す。いやあ、この様子だと正直に言っても信じなさそうだね。うん。それならいいんだ。余計な騒ぎは起こしたくない。私は平穏に過ごしたいんだ。ならなんでプラズマ団にかかわったかって? プラズマ団を放っておくと私にも影響がくるからだ。それからしばらく経って。
「んぅ~。ふわ~あ」
ミスティが欠伸をしながら起き上がる。ようやく眠り姫のお目覚めか。
「おはよう。ミスティ、よく眠れた?」
「うん。お待たせ」
「では、そろそろ出発だな」
「ミスティはどこに行くか聞いてた?」
「うん。ホドモエシティでしょ」
「オッケー。じゃ、行こうか」
そうして私たちはホドモエシティに向けて出発した。
まず最初に、今回もこの拙作のページを開いていただきありがとうございます。今回は皆様にお知らせがあります。
連載初期の頃から続けてきた週一更新ですが、四月から忙しくなることもあり執筆活動に割く時間が取れなくなりそうなのです。
そこで、きりのいい今回の投稿をもって「ポケットモンスター鳴」の更新を停止させていただきます。
私としても完結まで週一更新を続けたかったのですが、そうも言っていられない状況になり非常に残念に思っています。
また、お気に入り登録してくれた方、評価をしてくれた方、感想を書いてくれた方、毎週更新を楽しみにしてくれていた方、そして、一度でも読んでくれたすべての皆様には申し訳ない気持ちでいっぱいです。本当にごめんなさい。
更新を再開できるかどうかももわからないので、この作品は未完とさせていただきます。
それでは、今までありがとうございました。