ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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気がつけば投稿開始からもうすぐ一年……。
このまま完走まで走り切りたいです。
それではどうぞ。


54話 贅沢と遊撃

アマダキシティに着いてから3日経った。この3日間は私たち3人は思い思いに過ごした。私は体を動かしたり映画をみたりしてリラックス。ミスティはルームサービスやレストランのスイーツを蕩け顔で制覇して満足し。アリアはこのホテルのあらゆる料理を食べ比べて自分の料理で再現するために鬼気迫る勢いでメモをとる。とまあこんな風にフリーダムな私たちとは対称的に、プラズマ団との決戦まであと3日のアマダキシティは徐々にピリピリとした緊張ムードが漂ってきている。私たちは余り外には出ていない。ホテル内だけでも十分に暇を潰せるし、外に行くことで余計ないざこざを起こしたくなかったからだ。初日のような事態にならないとも限らないからね。態々嫌な思いをしに行く必要はないだろう。そして現在私とミスティは同じ部屋でマッサージを受けている。

 

「あ~、気持ちいい~」

 

全身がほぐれていくのがわかる。

 

「ふぅ~」

 

ミスティも気持ちよさそうだ。ちなみにアリアもゾロアークの姿に戻って別室でリオたちポケモン組と一緒にマッサージを受けている。マッサージは天へ上るような気持ちよさで腕はまさに超一流。なんて言ってみるが他の店のマッサージを受けたことがないので実際のところはよくわからないんだけど。これが普通だったらマッサージ店に毎日通っちゃうレベルだね。……それにしても気持ちいい。ふわ~あ。眠くなってきた。このまま一眠りしよ。じゃあ、お休みなさい……。

 

 

 

 

 

 

 

んぅ? 私が目を覚まして辺りを見渡すと隣にミスティはいなかった。

 

「お目覚めになられましたか」

「あ、はい。あの、私と一緒に来ていた女の子はどこに?」

「お連れの方でしたら、先に部屋に戻っているとのことです」

「そうですか。ありがとうございます」

「またお越し下さいませ」

 

そうして私は着替えて、リオたちを回収した後部屋に戻る。私が部屋に戻るためにエレベーターが来るのを待っていると誰かが近づいてくる気配がした。振り返るとそこにはトウコがいた。私はトウコの顔を見た瞬間顔を顰める。

 

「あの、メイちゃん――」

「何の用ですか? 私は今物凄く機嫌が悪いんですけど」

 

せっかくマッサージで気持ちよくなっていたのに台無しだ。

 

「ごめんなさい! 私、あなたたちに酷いことを言った。今日はそのことを謝りたくて来たの。本当にごめんなさい!」

 

そう言ってトウコは頭を下げる。はあ、違うだろ。

 

「謝る相手が違います。謝るならミスティに、です」

「あ、そ、そうよね。ごめんなさい。その、ミスティってMのことよね?」

「はい。そうです。これは忠告ですけど、トウコさんがミスティと呼ぶのはやめておいた方がいいですよ。ミスティは私以外にそう呼ばれることをひどく嫌っているみたいなので」

 

ミスティがあれ程の怒りを露にしたのは初めてだったし余程嫌なんだろう。

 

「わかった」

 

この前の勢いはどうしたんだろうか。随分としおらしいじゃないか。どうやらかなり反省しているみたいだね。ミスティが許すなら私も許してあげようかな。そこで丁度エレベーターが着いて私はそれに乗り込むがトウコは乗ろうとしない。

 

「どうしたんですか? 謝りに来たんでしょう?」

「う、うん」

 

そう言っておずおずと乗り込んでくるトウコ。扉が閉まり、エレベーターが動き出す。

 

「ねえ、メイちゃんはMが許してくれると思う?」

「さあ? それはミスティ次第じゃないでしょうか」

 

私はトウコの問いかけに素っ気なく返す。その後は会話することなくエレベーターが目的の階に着く。私はこっちです、とだけ言ってトウコを部屋に案内する。トウコは黙って私の後についてくる。私は部屋の扉を開け、トウコを部屋に招き入れた。

 

「ただいま~」

「お、お邪魔します」

 

リビングに居たミスティとアリアはトウコを見た瞬間、私ほどではないが顔をムッとさせる。

 

「ここにいるトウコさんは話があるそうです。ミスティ、アリア、聞いてあげてくれる?」

「わかった」

「いいだろう」

 

しばしの沈黙の後トウコが話し始める

 

「あの、M、ごめんなさい!」

 

トウコは頭を下げながら謝罪を続ける。

 

「私、あなたに酷いことを言った。今日はそれを謝りたくてここに来ました。許してもらえないかもしれないけど、謝ることだけはしたくて。本当にごめんなさい!」

「いいよ。許す」

 

はやっ!? 即答かよ。トウコも顔を上げてぽかーんとしている。

 

「へ? い、いいの?」

「別に元々あまり気にしてなかったし。それに真実はメイが知ってくれているからそれで十分」

 

そう言って私に笑顔を向けてくるミスティ。ぐはっ! 久しぶりに破壊力抜群の笑顔を見たぜ。これで後20年は戦える。

 

「そ、そういうことなら私も許す」

「そうだな。ミストラルが気にしないといっているのだから私も水に流そう」

 

アリアも私と同じように考えていたようだ。

 

「あ、ありがとう」

 

トウコはほっとしたような笑顔を見せた。そういやトウヤは来ないんだな。まあ、どうでもいいことだけど。

 

「あ、そういえば私もごめんなさい。あの時は気が立っていたとはいえ怒鳴り散らしてしまいました」

 

精神年齢はいい加減大人なのに。大人げなかったね。

 

「え? あ、いいのよ。先に酷いことを言ったのは私の方だし。それにあなたたちもあの時はイラついていたんでしょ? ポケモンセンターでのこと、アデクさんから聞いたわ」

 

アデクさん……ペラペラ喋り過ぎだ。まあ、話したこっちも悪いけど。喋るなとも言ってないし。

 

「そのトレーナーたちを集めたのは私たちなの。だからトレーナーを代表して謝るわ。ごめんなさい」

 

トウコが再び謝る。

 

「トウコさんは悪くありません」

「そうだぞ。悪いのは奴らだからな」

 

アリアの言う通り悪いのは全面的に向こうだ。

 

「それに、別にもう気にしてませんし」

 

うん、別に気にしていない。そもそも私はあまりそういうのは気にならない。自分のことに関しては、だが。

 

「そうなんだ。それで、あなたたちはこれからどうするつもりなの? やっぱり協力は、してくれないよね」

 

トウコはおずおずと尋ねてくる。

 

「そうですね~。どうする?」

 

私はミスティとアリアの方を向いて訊いてみる。こうしてトウコが謝ってきたことだし、私としては協力してもいいんだけど。

 

「ま、別に協力してもいいんじゃない?」

「特に断る理由もないしな」

「そっか。じゃ決定ってことで。手伝いますよ。トウコさん」

 

私はトウコさんの方を向いて答える。

 

「ありがとう! あ、でも、トレーナーの皆が納得するかどうか」

 

あ~、それがあったか。あのリーダーとかいう奴、バッジの数が絶対って感じだったもんなぁ。ていうかそもそもこの世界においてもバッジの数は最も分かりやすい強さの証だ。それに拘るのも無理のないことなのかもしれない。アーティさんが言うようにバッジを持っていなくとも強い人はいるみたいだけど。私みたいにな! ……ごめんなさい冗談です。そんなことを考えていると部屋のインターホンが鳴ったので部屋の入り口を映すカメラを見る。そこにいたのはアデクさんだった。おや? 何の用かな? 私はアデクさんを部屋に招き入れる。

 

「おお、メイ。元気にやっておるか?」

「はい。お陰様で。どうぞ」

 

済みませんね。豪遊させてもらってます。アデクさんと共にリビング入る。

 

「あ、こんにちは、アデクさん」

 

トウコはアデクさんに軽く挨拶をする。

 

「「どうも」」

 

ミスティとアリアも会釈する。アデクさんは私たちの雰囲気を察して言う。

 

「どうやら、その様子だとトウコはきちんと謝れたようだな」

「あ、はい。なんとか許してもらえました」

 

トウコは若干恥ずかしそうに笑う。

 

「それはよかった。それならどうするのだ? そろそろこの街を離れないと危険かもしれん。お主らが滞在するのはここらが限界だろう」

「ああ、そのことなんですけど、私たちも協力します。ね、ミスティ、アリア」

 

ミスティとアリアはコクンと頷く。するとアデクさんは少し驚いた表情をする。

 

「よいのか?」

「はい。私としてはプラズマ団の思想には反対ですし」

「私も」

「そうだな。私も無理やりというのは違うと思う」

「そうか。ありがとう。感謝する」

 

アデクさんはいい人だな~。流石チャンピオンマスターを務めているだけはある。

 

「それでアデクさんは何の用でここに?」

「ああ、わしの用は終わった。お主らに協力を頼もうと思っておったのだ。協力の仕方は任せる。好きなように行動してくれ。ただし、相手がプラズマ団だといえども無暗に手を出すことはしないでくれよ」

「了解しました」

「うん」

「心得た」

「では、わしはこれで失礼する。これから会議があるのでな」

 

そう言ってアデクさんは部屋から出て行った。

 

「ねえ、最後にちょっと訊きたいことがあるんだけど、いい?」

 

トウコが少し遠慮がちに訊いてくる。

 

「いいですよ。何を訊きたいんですか?」

「えっと、じゃあ訊くけど、このホテルってすんごい高級ホテルよね? どうしてこんなところに泊まっているの?」

 

う~ん。正直に答えてもいいんだけど、な~んとなくそうしない方がいい気がするんだよね。私はひそひそとミスティとアリアに問いかける。

 

「(ねえ、本当のことを言ってもいいと思う?)」

「(う~ん。今の状況だとアデクさんが一人のトレーナーを贔屓しているみたいな噂が立ってアデクさんの印象が悪くなるかも)」

「(確かにそれは有り得るな)」

「(私たちはアデクさんには滅茶苦茶お世話になってるよね。現在進行形で。だからアデクさんの迷惑になるようなことは避けるべきだと思う。ミスティとアリアはどう思う?)」

「(そうね。じゃあ、こんなのはどう? 私たちの中で一番大人に見えるアリアのお金でここにいるってことで)」

「(そうだな。その案でいこう)」

 

考えがまとまったところでトウコの質問に答える。

 

「実はな、自慢になってしまうが、私はそこそこお金を持っている。後はわかるな?」

「へえ、そうなんですか。いいなぁ。私も一度はこういうところに泊まってみたいなぁ」

 

トウコは羨ましそうに部屋を見つめる。まあ、ポケモンセンターのトレーナーたちやトウコたちのおかげでここに泊まれているのだからむしろ感謝しないといけないのかも。いやはや、ありがとうございます。

 

「ねえ、どんな部屋があるかだけでも見てっていい?」

「ええ、いいですよ」

 

部屋の中はどこも綺麗にしているので見られて困るようなところはない。その後、トウコは一通り部屋を見て部屋から出て行った。トウコが出て行った後、私たちはリビングに集合し、今後の予定について話し合う。

 

「さて、今後の予定だけど、アマダキシティでのプラズマ団との決戦に参加するということでいいかな」

「異議な~し」

「異論はない」

「うん。わかった。当日の行動だけど、アデクさんは自由に行動していいって言ってたよね。私の考えとしてはそれだけ信頼されているってことだと思うんだ」

 

大方、カミツレさんから話を聞いたのだろう。そうでもなければ私みたいな子供に頼るわけないし。

 

「そうね。戦力として考えていないのかとも思ったけどそれなら態々頼みに来ないし」

「そうだな。それで、メイはどうするつもりなんだ?」

「私としては遊撃をやろうと思うんだ」

 

遊撃って、カッコイイよね。響きが。野球でも遊撃手ってカッコイイと思うんだ。うん。外野からのレーザービームも捨てがたいけど。

 

「ふむ、戦列で時機をみて待機し、状況に応じてあちこちを動き回り、味方を助ける、ということだな」

「はあ、メイはまた大変なことを言う。言うは易く行うは難しって言葉、知ってる?」

 

はい、知ってます。変なこと言ってごめんなさい。

 

「う~。でも、私にはこれくらいしか思いつかないし」

「でもまあ、いいんじゃない? アデクさんもそういうつもりで言ったんだろうし」

 

ミスティもそう思うか。

 

「そうだな」

「じゃあ、決定で。あ、そういえば、アリアはもう私たちの戦力として考えていいの? あの時は戦おうとしてくれたけど」

「ん? あ」

 

アリアはしまった、という風な顔をする。無意識のうちに戦おうとしていたんだな。うむうむ、やっぱりアリアは優しいな~。

 

「あ~、えっと、まあ、なんだ? その~、こ、今回は特別だ。まだお前たちのことを完全に信じたわけではないぞ。か、勘違いするなよ? お前たちを見極めるためにはプラズマ団が邪魔だというだけだ」

 

アリアは慌てて身振り手振りを交えながら弁解する。ふふふ、必死になるアリアは可愛いな。

 

「わかったよ。ありがとう、アリア」

 

そう言って私はアリアに微笑みかける。するとアリアは若干赤くなって顔を背けてしまった。なんで? そしてミスティも不機嫌そうな様子を見せる。ホントになんで? 若干変な空気になってしまったのを咳払いで騙しながら私は話を続ける。

 

「あ~、コホン。それでね? 戦況をよく確かめるためにミスティのラティアス、ラティオス、私のライカに乗って上空待機しようと思うんだ。そして、ラティアス、ラティオス、アリアの能力で周りからは見えないようにする。そうすることでプラズマ団に奇襲をかけられるはず」

「なるほど。敵を欺くにはまず味方から、ということね」

「いいじゃないか。面白そうだな」

「ラティアスには私、ラティオスにはミスティ、ライカにはアリアが乗るってことでいい?」

「オッケー」

「うむ」

「よし、じゃあ後は当日の状況次第だね。というわけで作戦タイム終了。作戦当日までまたゆったりのんびりしよう!」

 

そうして私たちはプラズマ団との決戦の日まで精一杯の贅沢をして過ごした。

 




ありがとうございました。

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