今年もよろしくお願いします。
それではどうぞ。
私は今セイガさんとステージで向かい合っている。
「さあ、ついに始まります二次審査、コンテストバトル第一回戦A組、相対するはセイガ選手とメイ選手です!」
いよいよだね。いくぞ、ライカ。
「メイちゃん、お手柔らかにお願いするわ」
セイガさんは柔らかい笑みを浮かべてそう言う。
「それはこちらのセリフですよ。何せこっちは初めてなんですから」
「あらあら? それにしては随分と自信満々な様子だけれど?」
! まあ、バトルにはちょっとした自信があるからね。隠しているつもりなんだけど、セイガさんにはわかっちゃうか。
「さあ? どうでしょうね。それはバトルに入ってからのお楽しみってことで」
「うふふ、それは楽しみね」
そして私とセイガさんは一気に雰囲気を戦闘態勢に変える。
「では! さっそく第一回戦A組、試合開始!」
ブ――――――
試合開始のブザーが鳴る。私とセイガさんはお互いにポケモンを出す。
「ライカ! Go on Stage!」
『ようやくアタシの出番ね!』
「出てきなさい! シャンデラ!」
『ギウウウウウウン!』
お互いのポケモンが出揃い、向かい合う。
「おや? フライゴンってあんな色でしたっけ? ま、まあいいです。いよいよ試合開始です!」
シャンデラは宙に浮けるので今回は空中戦になるだろう。制限時間は五分、その間にバトルオフだ!
「先手必勝! ライカ! すなじごく!」
『いくわよ!』
ライカはシャンデラのいる位置に砂の竜巻を発生させ、動きを封じる。
「甘いわ! シャンデラ! 火炎独楽!」
『っしゃあおらあ!』
! 火炎独楽!? そんな技は聞いたことがないぞ! するとシャンデラは火炎放射しながら体を高速回転させ砂の竜巻を消し飛ばした。
「おおっと、フライゴンのすなじごくをシャンデラはいとも簡単に無効化!」
くぅ、やられた。チラッと巨大モニターを見るとポイントが大きく減っていた。
「次はこちらからいくわ! シャンデラ! おにび!」
『おらっ!』
今度はシャンデラから多数の青白い炎の玉が発射され、ライカに向かってくる。
「ライカ! りゅうのいぶきで薙ぎ払え!」
『はあっ!』
ライカは指示通り、赤紫色のブレスを吐くりゅうのいぶきで放たれたおにびを掻き消す。
「ライカ! 瞬影からの集束のじしん!」
『喰らいなさい!』
「! シャンデラ! ちいさくなるで回避!」
『うおっ!? わかった!』
シャンデラの目には突然ライカが消えたように見えるはずだけど、ライカの渾身の尻尾の一撃はちいさくなるで避けられてしまった。
「今よ! シャンデラ! れんごく!」
『喰らいやがれ!』
まずい! 今ライカはシャンデラの至近距離にいる。避けられるか? シャンデラは小さくなった体を元に戻してれんごくを放つ。
「ライカ! 無影で回避!」
『くっ!』
ライカはシャンデラの背後に回り込み、れんごくを回避しようとするが、セイガさんのシャンデラのれんごくは体から全方位に広がる攻撃だった。そのため背後に回っても意味はなく、れんごくがライカにヒットしてしまう。
「シャンデラのれんごくがフライゴンにヒット! これはフライゴンピンチか!?」
くそ、まずい。瞬影と無影にこんな弱点があったとは。さらにれんごくの追加効果でライカが火傷状態になってしまった。火傷状態になった今、徐々に体力が減っていくから長期戦は不利。短期決戦でいくしかない。メイン火力の集束のじしんの威力が半減してしまったが、それでもまだ特殊技よりは威力が出るはずだ。問題はどうやって集束のじしんを当てるかだ。
「ライカ! 瞬影からのドラゴンクロー!」
『はあっ!』
「シャンデラ! かげぶんしん!」
『うおっ!? またかよ!』
瞬影でシャンデラからはライカの姿が見えなくなるはずなのだがセイガさんは予め指示をだすことでシャンデラが混乱するのを防いでいる。くっ、ちいさくなるだけでなくかげぶんしんもあるのか。自分で可能性を考えておきながら忘れるなんて。シャンデラはまたしてもライカの必殺の一撃を避ける。そしてステージに残ったシャンデラの分身はライカを囲む。
「シャンデラ! シャドーボール!」
『はっはー!』
ライカを囲む多数のシャンデラからさらにその数以上のシャドーボールがライカに襲い掛かってくる。
「ライカ! 自分の周りにすなじごく! バリアにしてシャドーボールを弾き飛ばせ!」
『! わかったわ!』
ライカは自分の周りに砂の竜巻を発生させてシャドーボールを弾くことに成功する。
「今度はフライゴンがシャンデラの攻撃を無効化! 熱い戦いが繰り広げられています!」
よし! ぶっつけ本番だったが成功したようだ。
「さらにりゅうのいぶきで分身を消し飛ばせ!」
ライカはすなじごくの中からりゅうのいぶきでシャンデラの分身を次々に消していき、シャンデラの分身は完全になくなる。
「そのまますなじごくを巨大化! シャンデラを巻き込め!」
『はああああ!』
ライカの掛け声とともに砂の竜巻がどんどん大きくなっていく。
「シャンデラ! ほのおのうず!」
『おおおおお!』
それに対してシャンデラも炎の竜巻を発生させてすなじごくに対抗する。ほのおのうずとすなじごくは拮抗している。
「これはすごい! あちち! 熱気がここまで伝わってきます!」
『くっ! はあ、はあ』
ライカの荒い息遣いが聞こえてくる。まずい、ライカの体力が少なくなってきているみたいだ。早く決めないと!
「ライカ! すなじごくを維持しながらフェイント!」
『わかった!』
「避けて! シャンデラ!」
『うお!?』
ライカのフェイントで一瞬気がそれたことでシャンデラのほのおのうずは勢いを失い、すなじごくの威力に押し負ける。そしてライカはシャンデラに接近しすなじごくの中に捕らえることに成功する。よし! おそらくこれが最後のチャンス。絶対に逃さない。
「今だライカ! 集束のじしん!」
『はああああ!!!』
ライカはすなじごくの中に捕らえたシャンデラに集束のじしんを当てて地面に叩きつける。それと同時にすなじごくは解除される。ライカにはもう力が残っていないのだろう。
『ぐうっ!』
地面に叩きつけられたシャンデラが呻き声を上げる。
「さらにだいちのちからで打ち上げろ!」
『いくわよ!』
ライカは素早く地面に降り立ち、地面に力を流し込んでだいちのちからを放つ。
「くっ! シャンデラ! かげぶんしんで避けて!」
『ぐっ、おおおおお!』
シャンデラは力を振り絞りかげぶんしんを使う。生憎ライカのだいちのちからは複数のターゲットを同時に捉えられるんだよねえ! ライカのだいちのちからによって地面から赤い火柱のようなものが多数立ち上りシャンデラの分身を軒並み消し去って本物のシャンデラも火柱によって空中に打ち上げられる。
『ぐあっ!』
「さらに追撃! 瞬影からの集束のじしん!」
『これでトドメ!』
『がはっ!』
ライカは下からシャンデラに接近し天井に向かって打ち上げるように集束のじしんを放つ。シャンデラはそれをまともに喰らって天井まで吹き飛んで叩きつけられる。そして地面に向かって落ちてくる。どうだ? これで決まったか? 私とセイガさん、ライカはシャンデラの様子を固唾を呑んで見守る。シャンデラはピクリとも動かない。
「シャンデラ、バトルオフ! よって、勝者はメイ選手!」
審判によって私の勝利宣言がなされる。や、やった……! 勝った! ウワァ――――!という歓声がステージを包む。
「やったぜ! ライカ!」
私は体全体で喜びを表現する。
『すごい。勝てた……。勝てたわ! メイ!』
ライカは戦いの疲労も忘れて抱き付いてきた。
『やった! やったわ! メイ! アタシでも勝てるんだ! あははは! すごいすごい!』
「ね? だから言ったでしょう? あなたは強いって」
『そうね! アタシもやればできるのね!』
ふと巨大モニターを見てみると、私の残りのポイントがあとわずかだった。一方セイガさんはまだ少し余裕があった。ポイント的にもバトル的にもかなり追い詰められていたんだな。
「はあ~。負けちゃったわ。おめでとう、メイちゃん」
セイガさんが近づいてきて私の勝利を祝ってくれた。
「あ、ありがとうございます」
「私に勝ったのだから当然目指すはコンテストリボンよね?」
「はい! そのつもりです!」
『もちろんよ!』
ライカもセイガさんの言葉に頷く。
「それを聞いて安心したわ」
「お二方、語らいは控室にてお願いします」
ステージ上でセイガさんと話していると、係員の人に注意された。
「「は~い」」
「じゃ、いきましょうか」
「はい」
そうして私とセイガさんはステージから控室に戻った。
その後もコンテストは何事もなく順調に進み、私は見事優勝しコンテストリボンを手にすることができた。まさか優勝できるとはね。イヴもルカも頑張ってくれたけど今日のMVPはセイガさんのシャンデラとの激闘を制したライカだね。本当によくやったと思う。準決勝、決勝についてだけど、こう言うとあれだがセイガさんとのバトルが実質的な決勝戦だった気がする。多分私が負けていたらセイガさんが優勝していたと思う。そう思うくらいに準決勝、決勝は簡単だった。セイガさん、いったい何者なんだろう? 一次審査の演技にしても二次審査のバトルの強さにしても他の選手たちと比べて別次元の仕上がりだった。セイガさんに訊いてみよ。私は衣装から着替えて普段の服装に戻り、髪型もお団子ならぬドーナツツインテに戻した。そして更衣室から出るとちょうど帰ろうとしているセイガさんがいたので私は話しかける。
「セイガさん」
「あら? メイちゃん。今日は優勝おめでとう」
セイガさんも髪をおろしてカジュアルな服装をしていた。衣装じゃなくてもセイガさんは綺麗だ。
「ありがとうございます。あの、今日は色々教えてくださってありがとうございました。おかげでとても助かりました」
「いいのよ。私が好きでやったことだから。少しでもコンテストの魅力を知ってもらって、コーディネーターになってくれる人が増えればもっともっとコンテストは盛り上がる。そうなってくれれば私は嬉しいの」
セイガさんはそう言って微笑む。……セイガさん、もしかして……
「セイガさんってもしかしてトップコーディネーターとかだったりします?」
ちなみにトップコーディネーターというのはグランドフェスティバルで優勝した人たちのことを指す。
「まさか。そんな大層なものじゃないわ。ただの一般コーディネーターよ」
あれほどの実力を持ちながら一般って。
「なんか、怪しいです」
「うふふ、そんな目で見つめられても何もないわよ?」
くっ、表情を見ても何にもわからん。何かありそうなんだけどなあ。
「はあ、ま、いいです。セイガさんはこれからどうするつもりですか? 」
「私? う~ん。そうねえ。どうしようかしら。メイちゃん、あなたはどう思う?」
「私に訊かないで下さいよ。何も考えてないってことですね」
なんていうか。能天気な人だな。
「そうとも言うわね。とりあえずホテルに帰って考えることにするわ。そういうメイちゃんはこれからどうするの?」
ホテルに泊まっているということはお金持ちなのかな?
「私ですか? 次はこの街のバトルサブウェイに行って、そのあとジムに挑戦して、また旅の続き、といったところですね」
「あら? ジムに挑戦ということはメイちゃん、トレーナーだったの?」
「はい」
「なら、コーディネーターに鞍替えしない? メイちゃんならきっと頂点までいけるわ」
「折角ですけど今は遠慮しておきます。ポケモンリーグの方を優先したいので」
「そう、残念。でも、いつでもコンテストは待っているわ。コーディネーターになりたくなったらいつでも歓迎するわ」
「あ、でも、私の仲間がコンテストに興味があるみたいで、もしかしたらその子がコーディネーターになるかもしれません」
「あら、そうなの。それは楽しみね。メイちゃんのお友達だからきっとその子もすごいのでしょうね」
「そうですね。私なんかよりよっぽど才能があると思います」
「あらあら。それは少し謙遜しすぎよ? あなたはコンテストリボンを勝ち取ったのだからそれを誇りに思わないと」
「おっと。そうですね。過ぎた謙遜は競い合った人たちに失礼ですもんね」
「ふふふ、わかっているならいいわ。それじゃ、私はもう行くわ。今日は楽しかったわ。またね、メイちゃん」
そう言うとセイガさんは手を振って去っていった。するとセイガさんとすれ違ってミスティとアリアがやってきた。
「やっほー、メイ。おめでとう」
「私からもおめでとう。お前たちの演技しかと見させてもらった。コンテストというのもなかなかいいものだな」
「ありがとう、二人とも。いやあ、ジム戦なんかよりもよっぽど緊張したよ」
「まあ、いつもやっているバトルとは一味違ったもんね」
ミスティの言う通りだね。
「そういえば、メイがさっき話していた人は二次審査の一回戦でメイと戦った、確かセイガといったか、随分と親しげだったが知り合いなのか?」
アリアが訊いてくる。そんな風に見えたか?
「ううん、今日会ったばかりなんだけど、色々親切にしてくれたんだ。本番前に何をすればいいか教えてもらってね。おかげで緊張も少しは解けたんだ。さっきはそのお礼をしてたとこ」
「そうだったのか。セイガは随分と優しいやつなんだな」
「なんかね、コーディネーターを増やして、コンテストを盛り上げるのが目的みたいなことを言ってたよ」
「そういえば、セイガっていう人、私、雑誌で似た人を見た気がする」
「え? どの雑誌で?」
もしかしてセイガさんって有名人?
「コンテスト関連の雑誌だったんだけど、ハーミットって言う名前でシャンデラと一緒に写ってた」
ハーミット……確か英語で隠者って意味だったっけ。全然隠れてねえ。
「それでそれで? なんて書いてあったの?」
「ハーミットはいろんな地方のグランドフェスティバルで優勝していて、トップコーディネーターの中でも最もコンテストマスターに近い人だって書いてあった」
コンテストマスター!? それってコーディネーターの頂点ってことだろ!? おいおい、じゃあ私はそんなすごい人と戦ったってのか? あ、いや、まだセイガさんとハーミットが同一人物とは限らない。けど、なんだろう、絶対にそうだと思う自分がいる。
「ははは、いや、まさか、ねえ?」
「案外お忍びで遊びに来ていたのかもしれんぞ?」
アリアの言う通りだったとしたら私は凄いことをしたのかもしれない。
「まあ、そんなことはどうでもいいこと。メイはこのコンテストを勝ち抜いたのだからそれを誇ればいいんじゃない?」
それもそうか。ミスティの言うように誰が相手だろうと勝ったのには変わりはないのだから。
「そうだね。あ、そういえば言ってなかった。ええっと、コホン。ライモンリボン、ゲットだぜ!」
私はリボンを取り出しポーズをビシッと決めて言う。この様子を初めて見たアリアは笑い始めた。
「ぷ、ははは。やはり面白いな、メイは」
「むう、なんか可笑しい?」
「いや、可笑しなところなどないさ」
「ジムバッジの時以外でも言うんだね、それ」
「もち! これは私の中の決まり事だからね。さあ、今日はもう疲れたしポケモンセンターに帰ろう」
「うん」
「そうだな」
こうして私の初コンテストは終わりを告げた。
ありがとうございました。