ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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予約投稿ミスってた。
それではどうぞ。


44話 アレを見た反応と興味

 私とミスティは再びポケモンセンターに戻ってきていた。今はそろそろ夕方になろうかという時刻だ。

 

「う~ん。誰を出すか、どんな演技を見せようか。……まったく思いつかんぞ!」

 

 なんとかアニメを思い出せ。主人公たちは何をしていた? 参考になるところはないか?

 

「とりあえず、ジョーイさんと一緒にコンテストの映像を見てそれを参考にすれば? 何もないまっさらな状態から何かを思いつくっていうのは難しいと思う」

 

 ミスティはそう提案する。

 

「やっぱり? そうだよね」

 

 ミスティの言うとおりだよね。このまま粘っても思い出せそうなことはない。

 

「今日はこれからどうするの? もう何かを始めるにはちょっと遅い時間だけど」

「そうだね~。今日はもうここで時間を潰そうかな。なんか疲れたし。主にさっきの撮影会のせいで」

 

 私はじと目でミスティを見つめる。

 

「私は楽しかった」

 

 ミスティは晴れやかな笑顔で言う。くそ、こいつまったく反省してねえ。

 

「はぁ、あれ、残すつもり?」

「もちろん。あれは永久保存もの。捨てるなんてとんでもない!」

 

 ミスティは拳をぎゅっと握りしめ、力強く宣言する。

 

「そういえばエイミスさんに写真と動画売りつけてたけど、もしかして商売道具に利用するつもり!?」

 

 私はハッとしてミスティに迫る。

 

「そんなことはしない。エイミスは偉大な協力者だから特別。これは私のお宝」

 

 ミスティはとても嬉しそうな顔で言う。そうでございますか。もういいぜ。好きにしろよ。

 

「……わかったよ」

 

 ミスティは私の言葉を聞いて更に顔を明るくさせる。そんなに嬉しかったのか。なら、着た甲斐があったというものだ。もうそういうことにしておこう。そうして私とミスティは夜になるまで時間をつぶした。

 

 

 

 

 

 

 そろそろ晩御飯の時間だ。

 

「ミスティ~。どうする? アリアを待たずにごはん食べちゃう?」

 

 私は待っていてもいいんだけどミスティはどうなんだろう。

 

「それはちょっとかわいそうじゃない? それともメイは待てないほどお腹すいた?」

「ううん、そんなことないよ。私はミスティがいいなら待つつもり」

「私もそれでいい」

「じゃあ待ってるということで」

「異議な~し」

 

 そうして会話しているとアリアが姿を現した。

 

「メイ、ミストラル、待たせたな」

 

 そう言って私とミスティのところまで近づいてくるアリアは今朝と違って荷物を持ってきている。

 

「晩御飯はもう済ませてしまったか?」

 

 アリアが訊いてくる。

 

「いんや、まだ」

「そうか、私もまだだ。一緒に食べるとしよう」

「じゃあ、食堂に行こう!」

 

 そうして私たちは談笑しながら晩御飯を食べた。

 

「旅の準備、お疲れ様。家を片づけなくちゃいけなかったから大変だったでしょ」

「そうでもない。基本的にいつもきれいにしているからな。旅に必要なものをまとめていただけさ。あとは足りないものを購入するだけだ。お前たちこそコンテストの方はどうなったんだ?」

「無事に参加申請を終えたよ。それがさ~、参加者がまだ私を含めて4人しか決まってないんだって。なんでも、他の地方のコーディネーターのせいでイッシュ地方の参加者が集まらないんだってさ」

 

 まあ、きっとイッシュ地方初めての大会だしみんな戸惑ってるんだろう。

 

「ほう、そうなのか。そんな大会なのによく参加する気になったものだな」

 

 アリアは若干呆れているような気がするがここは好意的に受け止める。

 

「いやあ、それほどでも~」

「褒めてない、褒めてないから」

 

 ミスティのツッコミが入る。

 

「あ、そういえば、はい観戦チケット、アリアの分」

 

 ミスティがそう言ってアリアにポケモンコンテストの観戦チケットを渡す。

 

「おお、ありがとう。いくらだ?」

「◎◎円」

「わかった。……ほら、代金だ」

「確かに」

 

 ミスティとアリアの間でやり取りが行われる。

 

「あー!」

 

 私は唐突に思い出す。

 

「? どうしたの?」

 

 ミスティが訊いてくる。

 

「サッカーとテニスの試合とミュージカルのチケット、アリアの分がない!」

「! そういえばそのチケットの予約はアリアと出会う前にしたんだっけ」

 

 ミスティも今気づいたという顔をする。

 

「なんだ、そんなことか。私のことは気にしないでいい。二人で楽しんでくるといい」

 

 アリアはあまり気にしていない様子だが、それでは私が気になる。

 

「いやいやそういうわけにはいかない。今日はもう閉まってるだろうから明日、朝一でチケットを取りに行こう」

「わざわざすまないな」

 

 アリアは申し訳なさそうにする。

 

「いいって。これくらいなんともないよ」

 

 するとミスティは徐にカメラを取り出す。まさか……あのときの写真を見せる気か!

 

「ミスティ~? 何する気?」

 

 私はじと目でミスティを見つめる。

 

「まあまあ、アリア、ちょっと見てみてよ。今日、メイのコンテスト用に衣装を借りることになったんだけど、そのときの写真」

 

 ミスティは私のほうを見てニヤリと笑う。こいつ、私の反応を楽しむつもりだな!

 

「ほう。コンテストでは衣装を着るのか。どれどれ? どんな衣装なんだ……」

 

 アリアは写真を見て固まる。

 

「ふふふ、どう? メイ、かわいいでしょ」

 

 ミスティはドヤ顔でアリアに写真を見せる。やばい、また恥ずかしくなってきた。

 

「こ、これは、なんという破廉恥な! だが、しかし、なんというか……」

 

 アリアは若干顔を赤くしながらも「うむ」とか「いや」とか唸りながら写真を見るのをやめない。

 

「で、最後にこの動画」

 

 そう言ってミスティは例のあの場面を再生する。

 

 “ふ、不束者ですがッ! よろしくお願いします!”

 

 私の上ずった声が聞こえてくる。

 

「ぐおっ! こ、これは人間が番になるときの言葉だろう! しかし、これは、破壊力が凄まじいな。とてもじゃないが男どもには見せられん。刺激が強すぎる」

 

 あ~、恥ずかしい。また顔が赤くなっている。

 

「で、ほしくなった?」

 

 ミスティがアリアに尋ねる。

 

「言い値で買おう」

 

 アリアよ、お前もか。

 

「全部で◆◆円ね」

「交渉成立だな」

 

 ……やっぱ商売に利用してるじゃないか。

 

「ミスティ~? 商売には利用しないっていったよね?」

 

 くっ、こいつはどこまでやれば気が済むんだ。

 

「アリアは仲間でしょ? それに~男の子のメイからすると女性に好かれるのはうれしいことじゃないの?」

 

 ミスティはニタニタしながら言う。それは、確かにうれしいが、こんなもので好かれても。

 

「男? メイはれっきとした女じゃないか」

 

 アリアはミスティの言葉に疑問を持つ。

 

「あ~それはね。大っぴらに言いふらすことじゃないけど、私、実は体は女でも心は男なんだ」

 

 そうなった理由は転生のせいだがさすがにまだアリアに話す時ではない。

 

「それは、人間の病気じゃないのか? そんな悩みをメイが抱えていたとは。すまない、嫌なことを訊いてしまったな」

 

 アリアは申し訳なさそうに謝る。

 

「ああ、いいよいいよ。私はこのことは気にしてないし。むしろアリアの方がいろいろ気になるんじゃない?」

 

 もともと余り気にしてなかったけど完全に吹っ切れたのはミスティの言葉があったからだ。

 

「そうなのか? 私は気にしないぞ。人間にはいろいろなやつがいる。お前のように体と心の性別が一致していないやつを見たことがあるしな。そういうものだと受け入れている」

 

 アリアも大丈夫みたいだ。よかった。

 

「それならいいんだ。受け入れてくれてありがとう」

「この程度のことは礼を言われることではない。気にするな。だが、お前は心の性別に外見を近づけようとはしないのだな。私が見たことあるやつらは皆、そうしていたぞ。女らしくすることに抵抗感はないのか?」

 

 アリアの疑問も確かに言えてる。

 

「それは、幼いころに諦めました。だって、外面が完全に女の子なのに男の格好をしても不自然でしょ? それに女の子みたいな格好をするのも結構楽しいんだよね」

 

 改めて思ったけど体が男のままだったら私って女装癖のある変態じゃね?

 

「お前は女としての自分を楽しんでいるのだな。じゃあ、男に恋愛感情を持つのは?」

 

 アリアは興味があるのか結構質問してくる。

 

「ありえないね。断言できる。男を好きになるとか無理。気持ち悪くて吐き気がする」

 

 うん、絶対ないな。

 

「じゃあお前は女が好きなのか」

「うん! 大好き!」

 

 私は笑顔で答える。

 

「と、いうことは、ミストラルは狙われているということか」

 

 アリアは何かに納得したような顔で言う。

 

「いやん」

 

 アリアの言葉にミスティが反応する。

 

「む、待てよ、では私も……? いやさすがにポケモンと人間とでは」

 

 アリアはぶつぶつと呟く。

 

「大丈夫、メイは紳士的だから無理やりなんてことはないから」

 

 ミスティが私を庇ってくれる。さすがミスティ、よくわかってる。

 

「そうか、なら安心だな。それに例え襲われても私なら撃退できる。まあその時は旅の終わりを意味するがな」

 

 ですよねー。まあ、私にはあなたたちを襲う勇気なんてものはこれっぽっちも、塵すらありません。むしろあなたたちに襲われたいです。なんてことを心で呟く。

 

「それはそうと、そろそろジョーイさんとの約束の時間じゃない?」

 

 私は話を切り上げて話題を変える。

 

「そうね。私は結構興味ある。デモ映像だけじゃ物足りなかったし」

 

 ミスティはコンテストに興味を示していたからね。将来はコーディネーターにでもなるつもりかな。

 

「私は初めて見ることになるな。どのようなものなのかじっくり見させてもらうとしよう」

「じゃあ、ジョーイさんの所に行こう」

 

 そうして私たちはジョーイさんの所に向かう。

 

「あなたたち、待っていたわ。丁度今日の仕事が終わったところよ。じゃあ、こっちに来て」

 

 ジョーイさんに案内されたのは大画面のスクリーンのある広い部屋だった。

 

「ここは会議室、他の部屋じゃちょっと狭いからここにしたけどいいかしら」

 

 ジョーイさんの言葉に私たちは了承する。

 

「あの、ポケモンたちにも見せてあげたいんですけどいいですか?」

「あ、私も」

 

 私とミスティはジョーイさんに尋ねる。

 

「ええ、いいわよ」

 

 ルカが大きいから少し狭くなるかもしれないがまあ大丈夫だろう。

 

「みんな出てきて!」

 

 私とミスティはポケモンたちを出す。さすがにみんなを出すと狭くなった。しかし窮屈になるほどではない。

 

「じゃあ、始めるわね」

 

 そう言ってジョーイさんはコンテストの映像を流し始める。しばらく映像を見た後、周りを見てみる。さて、リオたちは興味を示すかな? ジョーイさんはノートを取り出し何かをメモしながら映像を見つめている。ミスティとアリアも興味深そうに画面を注視している。リオたちの方を見てみるとリオ、カティは興味無さそうにしている。特にリオなんかはあくびをしている。これは完全に脈なしだね。一方イヴ、ルカは特に一次審査の映像を興味深げに見つめていた。それに対してユウヒ、ライカは二次審査のコンテストバトルの映像をよく見ていたように思う。となると、一次審査はイヴ、ルカの二人、二次審査はユウヒとライカのどちらかということになるかな。まあ、今私が見た感じだから後で全員に訊いてみるけど。そうしてコンテストの映像を見終わる。

 

「あら、もうこんな時間。今日はもう遅いからここまでにしましょう」

 

 ジョーイさんがそう言う。時計をみるともう結構いい時間だった。

 

「そうですね。今日はありがとうございました」

「ましたー」

「うむ、ありがとう。楽しめた」

 

 私たちはジョーイさんにお礼を言う。

 

「いいのよ。私は明日以降も勉強する予定だけどあなたたちも付き合う?」

 

 ジョーイさんが訊いてくる。

 

「私は参考にしたいのでよろしければ明日からもお願いしたいです」

「私も」

「お前たちがそう言うなら私も付き合おう」

 

 私たちは全員付き合いたいという希望を告げる。

 

「そう、なら明日以降も同じ時間にここに集合ね。今日はお疲れ様。ゆっくり休んでいってくださいね」

 

 そうしてジョーイさんと別れ、私たちは宿泊する部屋に戻ってきた。

 

「どう? メイ、演技は決まった?」

 

 ミスティが訊いてくる。

 

「うん。まあね、いくつか案が浮かんだよ」

 

 今日のコンテストの映像は非常に参考になった。

 

「ほう、どんなものなのだ?」

「それはまだ秘密。ちゃんと決まってから話すよ」

 

 まだ誰が出るか決まってないからな。といっても今から決めるけど。

 

「とりあえず、みんな出てきて!」

 

 私はリオたちを出す。

 

「さて、みんなに訊くけどコンテストの映像を見てどう思った? 出てみたいと思った子はいる?」

 

 すると予想の通り、イヴ、ルカ、ライカが反応を示す。おや? ユウヒの反応がない。

 

「あれ? ユウヒは?」

 

 そう言って私はユウヒの方を見る。

 

『俺か? 俺はバトルの参考になる部分がないか気になっていただけだ』

 

 左様でございますか。

 

「そう。じゃあ、イヴ、ルカ、ライカの三人がコンテストに興味ありということだね」

『わたしは一次審査の方に出てみたいな』

『私も同じく』

 

 イヴとルカは一次審査の方に興味があるようだ。

 

『アタシは……バトルの方に出てみたい』

 

 ライカはコンテストバトルの方か。概ね予定通り。なら、考えていた第一候補が使える。

 

「すまない。ちょっと訊きたいんだがいいか?」

 

 私とミスティ、リオたちが一斉にアリアの方を向く。どうしたんだろう?

 

「私の思い違いかもしれないが、メイはポケモンたちと会話してないか? 今思えば私が元の姿に戻った時も言葉が通じていたと思うのだが」

 

 ああ、そのことね。

 

「うん。確かに私はポケモンたちの言葉がわかるよ」

「私もわかる」

 

 私とミスティはアリアの質問に答える。

 

「なんと! そうなのか。ではちょっと実験といこうか……コホン」

『光陰矢のごとし』

「今私が何と言ったかわかるか?」

 

 アリアがそう訊いてくる。私とミスティは顔を見合わせる。

 

「せーの」

「「光陰矢のごとし」」

 

 私とミスティは息を合わせて答える。

 

「おお、どうやら本当にわかるようだな。不思議なものだな。お前たちのような人間がいるとは」

「ふふん。まあね~」

「ドヤア……」

 

 私とミスティは揃って胸を張る。

 

「ふふふ。おっと、話の腰を折って悪かったな。話し合いを続けてくれ」

「じゃあ、話し合いを再開しま~す。イヴとルカが一次審査に出場、ライカが二次審査に出場ってことでいいね?」

『うん』

『はい』

『ええ』

「では、まずはイヴとルカが一次審査でする演技のことだけど~……」

 

 そうして夜は更けていった。さて、明日からはコンテストの練習だ。張り切っていこう!

 




ありがとうございました。

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