苦手な方はご注意を。
それではどうぞ。
「お待ちしておりました! メイさん! 貸衣装のご利用ですよね! ささ、こちらへどうぞ!」
クルヤマさんが案内してくれる。案内されたのはたくさんのきれいな衣装が展示されている部屋だった。そして今度は女性が出てくる。
「では私はこれで。あとはお願いします」
「はい。わかりました」
クルヤマさんと女性はそう会話して、クルヤマさんは部屋から出て行った。
「ここからは私が担当いたします。エイミスと言います」
「よろしくお願いします」
「今日はお二人のご利用ですか?」
エイミスさんが営業スマイルで訊いてきた。
「私は付き添い」
ミスティは素っ気なく答える。いつも通りだ。
「私だけです」
「左様でございますか。お客様はコンテストに出場なさるということでよろしいですか?」
「はい、そのつもりです」
私はそう答える。
「そうですか。ではコンテスト用の衣装ですね。参考までにお訊きしますがどのような演技をなさるおつもりですか? あと出場させるポケモンは?」
「あ~、まだ決めてないんですよね」
まだどんな風にするかまったく思いつかない。
「ふむ、そうですか。ならどのような演技やポケモンでも様になるようなものがいいですね。一流コーディネーターともなると、演技の内容や出場ポケモンで衣装も決めているのですが」
ま、そうだよね。
「そうですか~。じゃあ、演技の内容を決めてからのほうがいいですかね?」
「いえ、そこは私の腕の見せ所です! きっとあなたとあなたのポケモンに合う衣装を選んでみせます! 少し待っていてください!」
そう言ってエイミスさんは部屋の奥に消えていく。
「なんか、かわいい人だね」
「そうね。所々の仕草なんかが特に」
しばらくすると何着かのドレスを持ってきたエイミスさんが出てくる。
「これなんかどうですか? かわいい感じがお客様によく似合っていると思います」
そうして私はエイミスさんに手伝ってもらいながら何着かのドレスを着てみる。
「どう、ミスティ、どれがよかった?」
私は服を選ぶというのが苦手で、普段着ている服も一カ月も悩みに悩みぬいて、お母さんにも何度も相談してようやく決めたものなのだ。……結局主人公と同じ服に決まってしまったが。まあ、とにかく私はそう簡単には衣装を決められないのでミスティのセンスを信じて託す。
「う~ん、メイにはもっと過激なやつが似合うと思うよ。例えば……これとか」
そう言ってミスティが持ってきたのは背中の腰の辺りに大きなリボンのついた純白のウエディングドレスのようなものだった。しかもよく見るとミニスカだった。……これ着るの?
「え? これ? これはちょっと……」
さすがにこれは遠慮したいんだけど。これだとポケモンより目立たない? ポケモンが主役のコンテストで私が目立ってどうするんだ。
「いいからいいから。ちょっと着てみてよ、ね? それとも私のセンスが信じられない?」
ミスティがいい笑顔で言う。
「わ、わかった。着る」
私はなぜか迫力のあるミスティの笑顔に押されて着ることに決める。更衣室に入り、私はエイミスさんに手伝ってもらって薦められたドレスを着てみる。そして鏡を見てみた。こ、これは……!
「エ、エロイ……!」
これは衣装というよりコスプレでしょ! しかもちょっと胸がキツイ。これを観衆の前で披露するの? そう考えるとカァーっと顔が赤くなる。やべえ、めっちゃ恥ずかしくなってきた。
「よ、よくお似合いですよ! あ、髪も下ろしてください!」
隣にいるエイミスさんはなぜか鼻息を荒くしている。だが私は言われた通りに髪を下ろす。
「メイ~? まだ~?」
外でミスティが呼んでいる。
「さあ、お連れさんがお待ちです! 見せてあげてください!」
うう、こんな格好をミスティに見せるのか。顔の火照りが収まらない。くっ、こうなったら覚悟を決めるか。私は意を決して更衣室のカーテンを開ける。
「ふふっ! こ、これは! や、やばい!」
ミスティには珍しく言葉を荒げてどこからか取り出したカメラで私を撮影し始める。
「うわわ! ちょ、ちょっと! ミスティ! やめてよ!」
「いいえ! やめない! これは永久に残すべき世界遺産! ここで逃すわけにはいかない!」
ちょっと待って! 恥ずかしさが有頂天でやばい。恥ずかしさでうまく体が動かない。こんな経験初めてだ。
「メイ! ちょっと顔を上げて! できれば上目遣いで!」
私はなぜかミスティの要求に従ってしまう。私はうるうるした眼の上目遣いでミスティの方を見つめる。
「ぐっ! いいよ! すごくいい!」
そう言いながらミスティはなおも写真を撮り続ける。ははは、もうどうにでもなーれ。
「エイミス! ブーケ! ブーケはない!?」
ミスティは突然ハッとしてエイミスさんに言う。
「! 今、持ってきます!」
あるのかよ。ものすごい速さでエイミスさんがブーケを持ってきて私に持たせる。
「っし! 完璧!」
ミスティはそう言いながらもさらに写真を撮る。……こんなミスティ見た事ない。
「最後に! 不束者ですがよろしくお願いします。って言ってみて!」
私はミスティの最後の要求にも従う。今度は結婚か。いいぜ。ここまで来たんだ。最後までやってやる!
「ふ、不束者ですがッ! よろしくお願いします!」
私は恥ずかしさから声を上ずらせて言う。
「……ふう。もういいよ、メイ、ありがとう」
ミスティは何かをやりきった顔でカメラを下ろす。
「もう、着替えていい?」
結局最後まで顔が火照りっぱなしだった。いや顔だけでなく体全体だね。
「あの、その写真、私にもくれませんか?」
エイミスさんがミスティに頼む。ええー。欲しいの?
「さっきの結婚発言の動画もあるよ。いくら出してくれる?」
ちょっとミスティ。いくらなんでもそれは。
「その動画も写真も全部いただくわ。◎◎円だしましょう」
「交渉成立ね」
ミスティとエイミスさんががっしりと握手を交わす。……成立しちゃったよ。
「あのー、私、もう着替えていい?」
私はおずおずと尋ねる。
「うん、名残惜しいけどもういいよ」
「仕方ありません。手伝います」
ミスティとエイミスさんはとても残念そうに言う。はあ、やっと終わった。今ってコンテスト用の衣装を決めてたんだよね。どうしてこうなった。私はエイミスさんと一緒に更衣室に入って着替える。
「さすがに今のやつはコンテスト用の衣装としては刺激が強すぎるので、こちらのワンピースタイプのものはどうでしょう」
エイミスさんは先ほどとはうってかわってすでに仕事モードに戻っていた。渡されたのはフリフリのついたかわいいドレスだった。それを着てみて鏡を見る。
「かわいいです! お似合いですよ」
さっきのがインパクト強すぎて少し地味に見えるがポケモンが主役のコンテストで着る衣装だ。これくらいで十分だと思う。私は更衣室のカーテンを開けてミスティに見せる。
「どう? ミスティ、似合ってる?」
「あ~、いいんじゃない? かわいい感じで」
なんだその適当な返事は。もうどうでもいいって感じだよね。
「はあ、もういいよ。エイミスさん、これにします」
私はそういって普段の服装に着替える。
「はい。ありがとうございます。ではこちらに必要事項を記入してください」
エイミスさんに言われて私は用紙に必要事項を記入する。それが終わるとエイミスさんから注意事項を説明された。
「コンテスト前日と当日の二日間の貸出となります。衣装は貸出の日に当事務局まで取りに来てください。もしそれまでに衣装を変更したいときはお申し付けください。貸出当日まではいつでも衣装の変更は可能です。変更する場合は選べる衣装の種類が減っている可能性がありますのでそこはご了承ください。お代は衣装を貸し出す日で構いません。値段はこちらになります」
お、意外と安い。これなら懐も痛まない。
「ご了承いただけましたか?」
「はい。これでいいです」
よし、衣装は決まったな。
「ご利用ありがとうございました。ああ、忘れていました。衣装の貸出をご利用のお客様にはボールカプセルの貸出を無料で行っております」
おお、ボールカプセルもあるんだ。
「ボールカプセルって何?」
ミスティは知らないようだ。
「ボールカプセルというのはモンスターボールに装着してシールを貼ることで、ポケモンをボールから出すときに特定の演出効果を加える道具のことです。例えば、このように……出てきて! ミネズミ!」
そう言ってエイミスさんはボールカプセルのついたモンスターボールを投げる。すると、ポケモンが出るときの光に加えて星の形をしたエフェクトがきらきらと弾ける。
「このように、特定のエフェクトを追加することができます」
エイミスさんが実演で説明してくれた。
「へえ、そんなのがあるんだ」
ミスティが関心を示す。まあ私は知ってたけどね。もちろん原作知識で。
「ボールカプセルをご利用なされますか? もちろんシールも無料で貸し出します」
せっかくだしこれも使おう。無料だしね。
「じゃあそれもお願いします」
「はい、承りました。どのようなシールをお使いになりますか?」
そう言ってエイミスさんはカタログを出してくる。どうしようかな。
「そういえば、まだ出すポケモンを決めていないのでしたね。ボールカプセルとシールは足りなくなることがないようにたくさん用意してありますのでまた今度お決めになってもよろしいと思いますよ」
そうなのか。なら、コンテストに出すメンツを決めてからでいいかな。
「じゃあ、また今度にします」
ポケモンに合わせたシールじゃないと意味ないし。
「わかりました。ではボールカプセルとシールについてはまた後日ということで。本日はポケモンコンテスト貸衣装サービスをご利用くださいましてありがとうございます」
エイミスさんはそう言って礼をし、素晴らしいスマイルを見せる。
「はい、こちらこそありがとうございました」
「ましたー」
そうして私たちはコンテスト事務局を後にした。
ありがとうございました。