ポケットモンスター鳴   作:史縞慧深

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デー……デッデン♪デデッデデン♪
……それではどうぞ。


15話 転生者と私

 プラズマ団との一件が終了し、私とM、トウコとトウヤはプラズマ団の元アジトにいた。

 

「さて、これからどうしようか」

 

 トウコが尋ねてくる。

 

「その事なんだけど俺はメイちゃんと二人だけで話がしたいんだ」

 

 トウヤからのナンパが来た!? え? うそ? いくら私がかわいいからっていきなりそれ? いやさすがにそれは自意識過剰か。一体何の用だろう?

 

「ちょっとトウヤ! メイちゃんと話ってなに!?」

 

 トウコは嫉妬か何かか、突っかかってくる。おや、この反応は……。

 

「え、でもいきなり話がしたいっていっても……」

 

 私はさすがに初対面で二人っきりっていうのは勘弁願いたいのだが。あ、Mは特別。だって美少女だし、むしろラッキーだ。

 

「そこを何とか、頼む、この通りだ」

 

 トウヤが頭を下げてくる。

 

「えっと、そこまで言うのならいいですよ。しかし、条件があります」

 

 あまりに真剣なのでつい、条件付きで了承してしまう。

 

「出てきて、イヴ」

 

 イヴが出てきて私の肩に乗る。

 

「イヴがいいと言ったらです」

 

 トウヤとトウコは訝しげにしているが、そんなことは気にせずイヴに耳打ちする。

 

「(イヴ、これからトウヤ、目の前の男の子と話をするんだけど嫌な予感、ある? あったら首を横に振って、ないなら頷いて)」

「へえ、エーフィか」

 

 トウヤはエーフィを知っているらしいな。肩に乗ったイヴは頷く。

 

「どうやら大丈夫みたいですね。わかりました。トウヤさんの話に乗りましょう」

 

 イヴ、お前の判断を信じるぜ。もうイヴの出番は終了なのでモンスターボールに戻す。

 

「そうか、助かる。今からでいいか?」

 

 さっそくか、まあ早いほうがいいか。

 

「ええ、いいですよ」

 

 それに了承する。

 

「もう! 二人だけで話を進めて、何なのよ! もう知らない!」

 

 横で黙って見ていたトウコは憤慨してこの場を去ろうとする。

 

「ま、待ってくれ! 理由は後で説明する! 必ずだ!」

 

 トウヤは慌てて弁明する。するとトウコは足を止める。

 

「本当に?」

 

 トウコはまだ信じられないようだ。いやあ嫉妬って怖いね。

 

「ああ、必ず説明する」

「……わかった、でもちゃんと説明しないと許さないから!」

 

 トウコは怒りの矛を収めてトウヤに説明を確約させる。

 

「先にポケモンセンターに戻っていてくれ」

 

 トウヤはトウコに先に戻るように言う。

 

「わかった」

 

 トウコはそれに承諾する。

 

「Mも後でポケモンセンターで会おう」

「…………」

 

 Mは私の話を聞いていないのか返事をしない。

 

「M? どうしたの?」

「え? ああ、うん、わかった。先にポケモンセンターに戻ってる」

 

 M、大丈夫かな。もしかしてさっきのゲーチスとのやり取りを気にしているのか? いったいどうしたんだろう。まあ今はわからないか。

 

「じゃあ、スリムストリートのカフェ、憩いの調べでいいかな。そこに行こう」

「わかりました」

 

 トウヤからの提案に乗りM、トウコと別れ、憩いの調べに行く。憩いの調べに着くと、中はゆったりとした雰囲気のシックなお店だった。かすかに聞こえるBGMが心地よい。席についてメニューを開く。

 

「いらっしゃいませ。カフェ“憩いの調べ”へようこそ。ご注文はお決まりでしょうか」

 

 少ししてから店員さんが近づいてきて聞いてくる。

 

「俺はミックスオレで」

「じゃあ私もそれで」

 

 私とトウヤは同じミックスオレを注文する。少しの間待っているとミックスオレが出される。

 

「ご注文のミックスオレです。どうぞ」

 

 そうして出されたミックスオレを一口飲む。

 

「今日は話に乗ってくれてありがとうメイちゃん、君とは一度話をしてみたかったんだ」

 

 トウヤがゆっくりと話し始める。

 

「それで、一体何の用ですか。私なんかと話をするよりトウコさんといたほうがいいんじゃないんですか?」

「……メイちゃん、君は転生って信じるかい?」

 

 は? こいつ、もしかして……私と同じ?

 

「てんせいって輪廻転生の転生?」

 

 ふむ、これはどうしたものか。

 

「今から話すことはすべて事実だ。俺は以前このポケモンの世界ではなく別の世界で生きていた。前にいた世界のことを前世とするが前世では俺は病気で、寿命がほとんどなくてな。あるところを境に記憶が途切れているんだが、おそらくその時点で俺は死んだんだろう。そして気づくとこの世界に赤ちゃんとして生まれおちていた」

 

 ふ~ん、そうかそうか。私と状況が似ているし同じ転生者で間違いないだろう。だがなぜ私を転生者だと思ったのだろう。それがわからない。

 

「それが本当だとして、どうしてそれを私に言うのですか? それとも頭でもやっちゃってるの?」

 

 少し遊んでやろうかな。

 

「断じて違う! ……いや普通はそう思うか。もし何もないなら妄言と思ってくれて構わない」

 

 むう、なんだつまらない奴だな。もう少し慌ててくれてもいいのに。遊ぶのはやめにしようか。

 

「ふう、なんてね、あなたの言うとおり。私は転生者。でもどうしてわかったの?」

 

 正直に白状する。相手は紳士に対応してきているからな。こちらもそれに応えよう。

 

「そうか! やっぱりそうだったのか。いやなに、メイちゃんが俺たちと一緒の時期に旅立つというのが気になっていたんだ。俺たちと同じ時期に旅立つのはゲームでは俺もしくはトウコ、チェレン、ベルの三人だけだったから。BW2の主人公の格好をした君をみて確信した」

「それだって、私が転生者であるということにはならない。ただのイレギュラーの可能性だってあるじゃない」

「いや……それは……たしかに……」

 

 どうやらその可能性は考えてなかったらしい。

 

「まあ、そんな細かいことはどうでもいいとして。よくもまあこのことを話す勇気がもてたね」

「はは、まったく本当にね。少し焦っていたのかもしれない。この世界で唯一、事情を分かってくれる人がいるかもしれないってね」

 

 そうかそうか、つまりは仲間がいなくて心細かったということか。

 

「まあそんなに深く考えなくてもいいんじゃない? どんなことがあろうと私たちがこの世界で生きているということに変わりはないのだし。大いに第二の人生を楽しめばそれでいいじゃない」

 

 そうさ、せっかくこんな面白い世界に生まれおちることができたのだから楽しまないと損だ。

 

「確かにそうだな。せっかく手に入れた第二の人生楽しまないとだな。ところで俺は高校生の時に病気で死んだんだが、そっちはどうなんだ?」

「私? 前世はニートでちょうどポケモンをやっていて寝落ちして、気づいたらもう赤ちゃんになってた。年は25。まあ、たぶん心臓麻痺にでもなったんじゃない? ちなみに前世は男だったから」

 

 そうなんだよ前世は男だったんだよ。性転換とか誰得だよまったく。目の前のミックスオレを一気飲みする。

 

「……ええ!? じゃ、じゃあ今も男――」

「に見える?」

「いや見えません」

「そうなんだよ今は女なんだよ。まったく困ったものだよ。今じゃ慣れたもんだけど昔は大変だったよ」

 

 そう昔はな……慣れって怖い。

 

「そうなのか。それはそうとして、ニートだったんだな……。まあ、その、なんだ? 今は違うんだろ?」

 

 トウヤは何か言いにくそうにする。

 

「まあ、言いたいことはわかる。確かに今はポケモントレーナーだからニートじゃない。私はポケモントレーナーとしてやっていくつもり。ポケモンに関してはそこそこの知識があると思うしね」

「ふうん、そうか、頑張れよ。て言うか前世も含めるとメイちゃんのほうが年上なんだな。なんか偉そうにしてごめん。敬語のほうがいいか?」

 

 トウヤは自分の言動に少し気になっている様子。

 

「いや、いい。むしろ今は私のほうが年下なんだし。そっちが敬語だと不自然でしょ?」

 

 年下に敬語を使う年上なんておかしいに決まってる。

 

「それもそうか」

「そういや、このことを誰かに話したりしているの?」

 

 私は空になったミックスオレのカップをいじりながらトウヤに問いかける。

 

「俺の両親にトウコにベルにチェレンには話してある。未来のことに関しては原作通りにいかなくなる可能性を考えて言ってない」

「そんなにか、まあ私も両親には話してあるけど」

 

 そう、私が転生したということは両親に話してある。

 あれは小学課程一年のころだったかな。私は前世があり記憶を引き継いでいることを話した。話す前はずいぶんと緊張したが話してみると結果は至極あっさりとしていた。お母さん曰く、あなたがどんな子だろうと私がお腹を痛めて産んだ子には変わりはない。だからあなたは私の大事な娘よ、ってな感じで。このセリフを聞かされたときは感極まって泣いてしまった。しかもガチ泣きで、うわんうわん言いながらお母さんに抱きついてしまった。こんなに泣いたのは前世を含めてもなかったんじゃなかろうかというくらい泣いた。お父さんに関してはむしろ前世がある分知識のアドバンテージがあっていいじゃないかとか言ってた。それでいいのか父よ。まあ思い出話はこれくらいにしておこう。

 

「ポケモンのゲーム歴はどんな感じ? 私はBW2までの全シリーズをやってるけど」

 

 私は廃人と呼ばれる人種ほどではないがそこそこにやり込んだ。もちろん対人戦の経験もある。

 

「俺も同じだ。でもストーリーをやったくらいで対戦経験はほとんどない」

 

 トウヤはどうやら廃人ではなかったようだ。

 

「そう、じゃあ一応私たちはこれから起こりうる未来の道筋の一つを知っているわけだ。まあ、未来の話をしなかったのは賢明だね。そのことを知られて誰かに利用される可能性もあるからね。まあ誰も信じないだろうけど」

 

 私はもしもの可能性の話をする。

 

「確かにその可能性もあるだろう。しかしそれに関しては大丈夫だ。まだ誰にも言ってないからな。このことはメイちゃんと二人だけの秘密だ」

 

 トウヤはニヤリと笑う。こんな表情でも絵になるな。さすがイケメン。

 

「ならいい。あと、言っておくけどこの世界はゲームじゃない。間違いなく現実だよ。ゲームと違う部分もかなりある。いろいろ試してみるのもいいと思うよ」

「そうだな。メイちゃん、君はこれからどうするんだ? 良ければ俺たちと一緒に旅をしないか? 仲間が増えれば心強いんだけど」

 

 トウヤは私を旅に誘う。いやいやトウコに悪いし遠慮させてもらう。

 

「誘ってくれるのはありがたいけど私はMと旅をする予定だから断る」

「あのMっていう子か。なんか本名隠しているみたいだし怪しくないか? それにNと似ているし、ゲーチスとは知り合いみたいだし」

 

 トウヤは私を心配してくれているみたいだ。

 

「心配してくれてありがとう。でもMは美少女だし多少の怪しさはモーマンタイです。むしろその怪しさごと包み込んでやります」

「ああ、そう、そんな理由なんだ」

 

 トウヤは呆れているようだ。

 

「……ふう。でも今日はメイちゃんと話せてよかった」

 

 トウヤは残っていたミックスオレを飲み干して言う。

 

「私もトウヤと話せてよかった」

 

 トウヤとの会談は、まあ良いものであったと言えるだろう。

 

「じゃあ、お勘定は俺に任せて」

「えっ、いいの? 自分の分くらい払えるよ?」

「いやいや、こういう時は男の俺が払うべきだろう」

「そう、ならお言葉に甘えて。一応私も男だったんだけどな。まさかこういうことになろうとは。世界ってのはいつもこんなはずじゃなかったことばかりだ」

 

 これって確か誰かのセリフだったっけ。まあいいや。そうしてお勘定をトウヤに任せて店を出る。

 

「う~ん、長々と話しこんでしまったな。もう昼過ぎか」

 

 ポケモンセンターに行って少し遅い昼飯でも食べるとするか。

 

「お待たせ。メイちゃんはこれからどうするんだい?」

 

 店から出てきたトウヤが言う。

 

「これからポケモンセンターで昼ごはんだけど?」

「そうか、なら一緒だな。一緒にポケモンセンターに行こう」

 

 また一緒か、まあいいけど。そうしてトウヤと一緒にポケモンセンターに行く。ポケモンセンターに着いて早々トウヤはポケモンセンターの玄関口で待っていたトウコにつかまる。

 

「あ、トウヤ! 話は終わったのね? じゃあさっそく理由を話してもらいましょうか。納得できなかったら……わかってるでしょうね?」

「わ、わかったよ理由を説明するから! じゃあねメイちゃん」

 

 そうしてトウヤはトウコに連れられてポケモンセンターの奥に進んでいく。ああ、大変そうだな。さて私もMを探すか。あたりを見渡すと、何かを飲んでいるMを発見する。

 

「ただいま、M」

 

 私はMのところに近づいて話しかける。

 

「おかえり、メイ。どうだった、話は?」

「まあ、有意義な時間だったかな」

「そう。とりあえずお腹すいたからご飯食べない?」

「え、もしかして待っててくれたの? 先に食べててくれてよかったのに」

 

 どうやら私を待っていてくれたらしい。さらに私は言葉を続ける

 

「わざわざありがと。じゃあさっそく食堂にいこうか」

「うん」

 

 そうしてMと一緒に食堂に移動する。そこで料理を注文し席に座る。奥のほうではトウヤとトウコが何やら話しこんでいる。様子を察するにさっきの話のことだろう。理由の説明はうまくいったのか険悪な様子は見られない。ああ、うらやましいな私もMに好かれたいぜ。トウヤ、このリア充野郎め! 閑話休題、料理が届いて、Mと他愛のないことを話しながら昼食を食べる。そして昼食を食べ終わり、

 

「ねえメイ、訊かないの? 私とゲーチスのこと」

 

 Mはついに訊いてきた。ゲーチスとの関係についてはいろいろ気になるところではある。だが、

 

「訊かないよ。Mが話したいと思ったときに話してくれればいい。それまで私は待ってるから」

「メイ……ありがとう。いつか絶対話すから」

 

 Mは感謝の意を示す。いいんだよ、こんなことくらいお安いご用さ。誰だって秘密の一つくらいあるだろうしね。

 

「ところで、これからどうするの?」

「う~ん、今日はまだ時間があるし当初の予定通りジム戦でもしにいこうかな」

 

 ジムに挑みに行ったのにどうしてああなったし。

 

「そう、まあ今度こそ頑張って。多分、楽勝だと思うけど」

「おっけー、Mに励まされたし張り切っちゃうぞ」

「ふふ、変なメイ」

 

 そう言って笑みを浮かべるM。さ、じゃあこれからジムに向かうとするかな。

 

 




ありがとうございました。

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