アサシンによって放たれた絶対の必殺がコトミネの眼前で止まっている。それを止めたのは他の誰でもない、この場ににつかわない能天気な声の主であろう。
『何処の誰とかとかずぇ~んぜん存じませんが、
その慟哭、
その頑張り。
他の神さまが聞き逃しても、
私の耳にピンっときました!!
その人を、冥府に落とすのはまだ早すぎ。
だってこのイケメン魂、
きっと素敵な人ですから!!
ちょっと私に下さいな♪』
コトミネの背後にステンドガラスが三つ現れて、真ん中の一つを残して砕け散る。
死にかけの身体を無理矢理動かしてコトミネはその残ったステンドガラスに向かい合う。理由などは無い、ただそうしなければならないという直感があったから。
そしてステンドガラスの前、虚空にぼうっと何かが浮かび上がりつつあった。
その姿はーーーーーーーーーーーー
現れたのは赤に近い桃色の髪の濃紺の着物を着崩して露出を多くした物を来た女性。注目するべき点は頭と腰から人間ではあり得ない獣の耳と尾を生やしている点だろう。外見はほとんど普通の人間とは変わらない。
だが違う、明らかに。
対峙しただけでわかる普通の人間とは比べることすら烏滸がましい力。触れただけで蒸発してしまいそうな、圧倒的なまでの力の滾り。それが体の内に渦巻くのが、嫌でも感じ取れる。
コトミネは嫌でも分からされた。この女性はサーヴァント、ウォルゲンやエイリスが使役しているアサシンやバーサーカーと同じ英霊なのだと。
「謂れはなくとも即参上!!
空気が冷めた。一気に。
それもそうだろう、さっきまでここではコトミネを殺すための死刑が行われていたはず。それなのに現れ出てそんなことを口にすれば空気が冷めない道理は無い。普段は表情を崩すことがないコトミネですら呆気に取られたような顔をしていることからそらがどれ程の物だったのかが伺える。
「あ、なんかドン引きしてません?えっと、貴方が私のご主人様‥‥‥で、いいんですよね?」
さっきまでの自信満々な態度は何処へ言ったのだろう、女性は自信なさげにコトミネにそう訪ねた。
「‥‥お前がサーヴァントで、主が呼び出した者を言うのであれば、この私のことだろうな。他に呼べるような者はこの場にはおるまい」
「やったぁ、契約成立!!よろしくお願いしますね、
コトミネの背筋に悪寒が走る。それはきっとこのサーヴァントの言葉にしていない内心を感じ取ったからなのだろう。そしてその悪寒とは別に熱した鉄を押し付けたような熱を感じた。コトミネが手の甲を見ればそこに刻まれているのはサーヴァントとの契約の証、三度限りの絶対命令権、令呪が刻み込まれていた。
「有り得ん!!有り得んぞコトミネ!!何故御主がサーヴァントを呼び出しておるのだ!?」
「ウソッ!!何でサーヴァントが!?」
コトミネがサーヴァントを呼び出していたところを唖然と眺めていたウォルゲンと朱色のバーサーカーを従えてやって来たエイリスが驚愕の声をあげる。それはそうだろう、呼び出せるサーヴァントの数はセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、バーサーカー、アサシンの七騎と決まっている。そしてそれらのクラスのサーヴァントはすべて呼び出されているのだ。ライダーが脱落したとはいえ新しくサーヴァントを呼び出せる訳がない。
「ふむ‥‥なんと呼べば良い?」
「
「ではビースト、バーサーカーの相手を頼めるか。私はアサシンの相手をしよう」
「大丈夫ですか?人の身でサーヴァントを相手するのは無謀としか言えませんし、その傷で戦えるとは思えないのですが」
「心配無用だ、先の契約の影響か体の調子は頗る良い。三大騎士クラスや狂戦士ならばともかく暗殺者風情には遅れはとらぬよ」
「‥‥‥そうでございますか。ならば私はマスターのお言葉を信じるのみでございます。御無理はなされぬよう、もし何かあればその令呪を使って私に御命令ください」
「承知したビースト」
ウォルゲンの疑問の声など聞く耳持たぬといった態度でコトミネは己が呼び出したサーヴァントーーーーーービーストと会話をする。そしてコトミネはウォルゲンとアサシンに、ビーストはエイリスとバーサーカーに向かって接近した。
コトミネは己の過去に一区切りをつけるために、
ビーストはこれから過ごすであろうコトミネとのイチャラブ甘々新婚生活のために、
‥‥‥‥‥‥‥‥ビーストはなんか違う。
「ーーーーーーさて、覚悟は出来たか?ウォルゲン、アサシン」
「ギィーーーーーーアサシン!!」
死にかけのはずのコトミネがサーヴァントを呼び出して自分の前に立っていることを苛立たしく思ったのか、ウォルゲンは怒鳴り声に近い指示をアサシンに下す。それと同時にアサシンが放ったのは先と同じ
「ーーーーーーフン!!」
コトミネは指の間に挟むように握った黒鍵三本で弾いた。
ビーストとの契約の影響か、コトミネの体は死にかけているにしてはあまりにも調子が良すぎた。衰えた今のコトミネではなく、代行者として激務をこなしていた頃の体と見劣りしない程の好調。それを踏まえてコトミネはーーーーーーーーーーーー
「ーーーーーーシィッ!!!」
投擲された短刀の御返しと言わんばかりにコトミネの手から黒鍵が三本投擲される。空を切り裂きながら唸りをあげて迫る様は正に弾丸。二本はアサシンへ、一本はウォルゲンに向かっていく。
しかし、相手は山の老翁と呼ばれた暗殺者と五百年以上を生きる妖怪。アサシンは左手に持った短刀で黒鍵を弾く。そしてウォルゲンは避けれずに黒鍵が胴に突き刺さるも僅かに悲痛な声を出しただけ、身体を崩して虫に変えて、離れた場所で新たに身体を再構築した。
相手は歴史に名を残す程の偉業を成し遂げた暗殺者、そして人間を捨てて生にしがみついている妖怪。どちらを相手をしようにも高々四十年に届かない年月を生きたコトミネには荷が重すぎる。
故に、それこそがコトミネの必殺となる。
「アサシン!!宝具じゃ!!今一度こやつを殺せ!!」
「ーーーーーー御意」
ウォルゲンの指示を受け、アサシンの悪魔の翼が再び羽ばたく。
なるほど、確かに決まればいなかなる存在だろうと殺すことができるその宝具はアサシンの名に相応しい物だ。心臓を無くし、代わりに使っている宝石を潰されればいかにコトミネとはいえど今度の死からは逃れることはできない。
「ーーーーーー死ネ」
悪魔の翼がコトミネの胸に向かう。一度は殺し損ねたというのに
二度目の死を与えようと迫る悪魔の翼を前にしてコトミネはーーーーーーーーーーーー
「愚かな、二度も通用すると思ったか」
「ギャァァァァァァァァァァア!!?!!」
アサシンの手のひらをかわし、手首と肘の中間に目掛けて
雑多が相手ならばともかく、一流が相手となると一度見せた手札は何かしらの対策を立てられることが多い。それは戦いに身を置く者であるならわかりきったことのはずだ。だというのにアサシンは二度も同じ手を使ってしまった。それもそのはず、アサシンの本分はその名の通りに暗殺にある。サーヴァントであるが故のスペックの高さからアサシンは本来の自分のスタイルを見失ってしまっていた。
その結果ーーーーーーアサシンは宝具である己の腕を失い、コトミネはまだ生きている。
「ギギィーーーーーー!!」
腕を失っても闘争心は失われていないのか、アサシンはコトミネに向かって短刀を投擲する。コトミネはそれを容易くかわし、アサシンの腹に目掛けて黒鍵を投擲する。人間であるコトミネに宝具をかわされた動揺からかアサシンはその黒鍵を避けることも弾くこともしなかった。
その判断ミスがアサシンを殺す。
胸ーーーーーー心臓からは外れているがーーーーーーに刺さるはずの黒鍵はアサシンに刺さることはなかった。代わりにアサシンは弾かれるようにしてその場から飛ばされる。これは鉄甲作用と呼ばれる投擲技術の一つ、本来なら刺突になるはずの力を吹き飛ばす力に代える技法。まるでトラックにでも衝突したかの勢いでアサシンは吹き飛ばされ、墓地の境にある木にぶつかって止まる。
そして放たれる追撃の黒鍵が八つ。二本はアサシンの両肩に、二本は両肘に、二本は両膝に、一本は左手に、一本は腹に、かなりの力で投げられたのだろう黒鍵八つはどれも例外なく根本まで深く突き刺さっていてアサシンをまるで昆虫の標本のように飾り付けていた。
「くっーーーーーー!!」
それを見たウォルゲンの選んだ行動はーーーーーーアサシンを見捨てての逃走だった。確かにアサシンという手札を失うのは痛手であるがそれでもウォルゲン自身の命には変えられない。それにウォルゲンにはまだ未使用の令呪三画が残っているのだ。アサシンが消滅したとしても他のマスターからサーヴァントを奪えばいいだけの話。御三家と呼ばれているのは伊達ではなく、マキリの当主であるウォルゲンはそこらの辺りの技術にも詳しかった。
しかし、それはコトミネがウォルゲンを見逃せばの話である。
「ーーーーーー逃すか」
アサシンを串刺しにしたコトミネはウォルゲンが逃げようとしている気配を察知し、魔力を一切使わずに力を溜めに溜め、限界まで引き絞った筋肉を解放し、数十mの距離を零にする超人芸。その冗談じみた加速は砲台の弾丸その物だった。
「
翻る神父の黒衣、それはアサシンの背後に立ち、コトミネの処刑の様を特等席で愉しもうとしていたウォルゲンの頭を一瞬にして“掌握”した。
「ぬーーーーーーア、アサシン!!何をしておるか‥‥‥‥!!」
アサシンが何をしているのか語るまでもない。ウォルゲンが頼みとしていた護衛は八本の黒鍵によって木に磔られている。アサシンにとっては致命傷にもなり得ない傷。だがそれは妖怪の救助を不可能とする聖なる楔。
「
私が殺す。
私が生かす。
私が傷つけ私が癒す。
我が手を逃れうる者は一人もいない。
我が目が届かぬ者は一人もいない。
」
コトミネは言っていた、暗殺者風情には遅れはとらぬと。それはつまりアサシンをどうにかして無力化できる手段を持っていたということ。現にアサシンは木に磔られて身動きもとることが許されていない。
「おーーーーーーおのれ、貴様‥‥貴様‥‥‥‥!!」
「黙っていろ、舌を噛むぞ」
コトミネは身体を虫に変えて逃走しようと目論んでいた妖怪の頭を鷲掴みにし、そのままの勢いで墓石に叩きつける。
「ギィーーーーーー!!」
「
打ち砕かれよ。
敗れた者、老いた者を私が招く。
私に委ね、私に学び、私に従え。
休息を。
唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる。
」
容赦など欠片もかけない。妖怪の肉体を墓石に叩きつけ、墓石を砕きながらも全身の骨を砕き、頭部を鷲掴みにしたまま別の墓石にぶつけ、
「はーーーーーーそうか、儂を殺すか!!よかろう、好きにするがいい。だがそれで何が変わる。お前が今さらただの人らしく生きられると思うておるのか!!」
「
装うなかれ。
許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、
光あるものには闇を、生あるものには暗い死を。
」
歩いた。墓石を妖怪の腐敗した血肉で染め上げながら、淡々と歩き出した。
「ははは、ははははは!!なんと救いようの無い男よ、いまだ人並みの幸福とやらを求めているのか!?そのようなもの、御主には絶対に無い、と理解したのではなかったか!!」
墓石によって削られていく妖怪の体、もはや妖怪に残されているのは頭だけしかない。ずるずると墓石という鑢に摩り下ろされた。その頭部も、残るは半分以下。ぐちゃりと脳みそをペーストにされながら、妖怪は最後の嘲笑をあげる。
「
休息は私の手に。
貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。
永遠の命は、死の中でこそ与えられる。
ーーーーーー許しはここに。
受肉した私が誓う。
」
「そう、お前には永遠にない。コトミネよ、主は生まれながらの欠陥者にすぎん。この世の道理に溶け込めぬまま、静観者であり続けるがよい‥‥‥‥!!」
「
ーーーーーー
」
ーーーーーー消えていく嘲笑。目には見えぬ重み、人の目には映されないカタチが薄れていく。
洗礼詠唱。彼らの聖典、“神の教え”は世界に
肉の身より離れ、腐り狂いながらも世に迷う魂を“無に還す”摂理の鍵。
それは大いなる慈悲を以て、五百年を生きた妖怪の妄念を昇華した。
一方でこちらはエイリスとバーサーカーに向かっていったビースト。
「■■■■ーーーーーー!!!!!」
理性の欠片も感じられない咆哮をあげながら嵐となって墓地を破壊しているのは朱色の狂戦士【呂奉先】。狂っておらずともその霊格は一級であるのに狂化による底上げを受けてその力は接しただけでも破壊する暴力に成り下がっていた。
「ほぉんと、イヤですねぇ、バーサーカーってのは。暴れるだけの脳筋でしかないのに私の嫁入り前のお肌に傷がついたらどう責任とってくれるんですか?」
それに立ち向かうのはコトミネが呼び出したサーヴァントのビースト。彼女はバーサーカーの振るう戟の破壊をヒラリヒラリとまるで舞いでも踊っているかのような軽やかさで回避していた。
「バーサーカー!!」
後ろに立つエイリスの指示を受けてバーサーカーは戟を地面に向けて叩きつけた。それによって生まれるのは衝撃波、本来ならば全方位に無差別に走るはずのそれはまるで意思を持っているがごとく地面を砕きながらまっすぐにビーストへと向かっている。
「氷天よ、砕け」
それに対してビーストがしたのは一枚の御札を取り出して、投げつけること。御札はビーストからの魔力供給を受けて巨大な氷山を作り上げる。そして氷山と衝撃波がぶつかり合いーーーーーー衝撃波は氷山に罅を入れたという結果を残して止められた。
「ウソ‥‥なんで‥‥なんでキャスターでもないのにそんな魔術が使えるのよ!!」
「おやぁ?先程のマスターとの会話を聞いてはおりませんでしたか?ワタクシの本来のクラスはキャスターなのです。だからこんな呪術ならば容易く使用することが出来ますしーーーーーー」
と、会話を切り上げてビーストは彼女の周りをフワフワと漂っていた鏡でバーサーカーを思いっきり殴り抜いた。その一撃の重さからか、バーサーカーは思わずたたらを踏んでしまう。どう見てもキャスターの筋力では有り得ない。
「御覧の通り、エキストラクラスの補正も合いあって脱ひ弱サーヴァントを果たすことができました。これでキャスターは紙装甲とか言って笑われることはありません!!」
キャスターとはその名の通りに魔術の方面で英霊となったサーヴァントを指すクラスである。その戦い方は魔術に頼りきった者が多く、余程の変わりダネでもない限りは筋力、耐久、敏捷のステータスが低い者が多い。故にキャスターは紙装甲と呼ばれることがあるのだがキャスターでありながらビーストのクラスも兼ね備えた彼女には当て嵌まらなかったようだ。
それはつまり、ビーストは接近戦もこなせる魔術師の英霊であると証明された訳だ。そのことが余程嬉しかったのかビーストは戦闘中だと言うのにガッツポーズを決めるほどである。
「っ!?バーサーカー!!こいつおかしい!!油断なんかしないでこいつのこと殺しちゃって!!」
「■■■■■■■■■ッ!!!!!」
ビーストの異常性にようやく気づけたのかエイリスはバーサーカーにビーストを殺すための魔力を供給する。その魔力の量は並の魔術師ならば死んでもおかしくない程であり、バーサーカーもそれを拒むことなく受けとめている。
エイリスフィール・フォン・アインツベルンは正確に言えば人間ではなく、人工的に作り出された
顕現し、戦闘をしているというのにその魔力の消費をさらに上回るほどの魔力をエイリスから提供された。それはつまり、宝具の発動の前兆である。
バーサーカーは咆哮をあげながらビーストに襲いかかる。魔力の供給が増えたからかビーストは避けきれずに鏡を使ってバーサーカーの戟を防ぐ場面が増えてきた。そしてバーサーカーの凪ぎ払いが鏡を盾にしたビーストを弾き飛ばす。
「■■■ーーーーーー」
バーサーカーの持つ戟が砲へと変わる。
これがバーサーカーである【呂奉先】の持つ宝具。君主を裏切るたびに窮地に陥っていく呂布の為に、軍師である陳宮な考案した中華ガジェットの傑作である。軍師・陳宮は呂布の強さ、姿に軍神を見た。中国の古い軍神・
それが呂奉先の主武器として知れ渡っている両手武器・方天画戟。切断、刺突、打撃、薙ぎ、払い。大型両手武器の特徴をすべて活かした万能武器。
【
砲から放たれるのは純粋なる暴力、射線上に存在する物を例外なく破壊する一撃。例えアーサー王であるセイバーやそれこそギルガメッシュであってもこれをまともに食らってしまえば消滅を免れることができない程の威力。それはビーストとして召喚されたこのサーヴァントも例外ではなかったーーーーーー
「これが私の主戦力です♪」
ーーーーーーはずだった。しかしどうであれこの結果は変えようの無い事実である。バーサーカーの
呪層・黒天洞、それがビーストの使っている呪術の正体。相手からの攻撃を防ぐだけでなく、その攻撃の威力に比例してビーストが魔力を吸収するという防御と次の攻撃への準備を兼ね備えた呪術。この呪術の特性上、並の攻撃程度ならば元が取れずに魔力をいたずらに消費するだけになってしまう。が、この攻撃は宝具の一撃。還元される魔力は呪層・黒天洞の消費分の数倍はあった。
「流石は天下に名高い飛将軍と言ったところでしょうか。予想を遥かに越えるほどの一撃でした‥‥‥‥ですが!!それでも!!私を倒すのには!!足りないんですけどね!!」
多少の傷はあれど五体満足のビーストはバーサーカーの
「さて、次は私のターンですよ!!」
そしてビーストはバーサーカーに向かって駆け出す。ビーストのクラスになったとは言っても彼女の本分はあくまでキャスターのクラスのような呪術の撃ち合いにある。それなのになぜビーストはバーサーカーに接近したのか?それは今からの攻撃が呪術でありながら接近戦用の物だからである。
「ーーーーーーまずは金的ぃ!!!」
第一打、ビーストの放った鋭いけりがバーサーカーに叩き込まれるーーーーーーそれも、バーサーカーの股間に向かって、吸い込まれるように。
「ーーーーーー次も金的ぃ!!!」
第二打、ビーストの放った鋭い蹴りがバーサーカーに叩き込まれるーーーーーーそれもまた、バーサーカーの股間に向かって。
二度の蹴りを叩き込まれて、それに如何様な呪詛があったのかーーーーーーそれとも男性にとって致命的な部分を蹴られたからかは知らないが、バーサーカーの体は石のように硬直していた。そしてビーストは爆転数回をしてバーサーカーから距離を取り、助走を着けて飛び上がりーーーーーーーーーーーー
「ーーーーーー最後に止めの金的ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
ーーーーーーやはりと言うべきか、飛び蹴りをバーサーカーの股間に目掛けて思いっきり叩き込んだ。そしてビーストは硬直しているバーサーカーの後ろでキラッ☆という効果音が付きそうなポーズを決め、
「これぞ、一夫多妻去勢拳です♪」
決め台詞と共に、バーサーカーが爆散した。
呪法・玉天崩。ビーストの浮気死すべし慈悲はないという妄執に近い一念が編み出した接近戦用という矛盾した呪術。それは男の尊厳である睾丸を容赦なく蹴り砕くという男からすれば恐るべき技であった。
バーサーカーは泣いてもいい。
「は、はは‥‥」
バーサーカーをビーストによって倒されたエイリスは乾いた笑いをあげることしか出来なかった。アインツベルンが最強を信じて呼び出したサーヴァントが訳の分からない攻撃で倒されたのだから笑うしかない。
「ーーーーーーそちらも終わったようだな、ビースト」
そこに現れたのはアサシンを無力化し、ウォルゲンを消滅させたビーストのマスターであるコトミネ。サーヴァントと戦うという愚行としか言えない行為をしたコトミネだったが蓋を開けてみればコトミネの完勝で終わっていた。
「コトミネ‥‥ッ!!ウォルゲンはどうしたのかしら?」
「殺した。マスターを失ったアサシンも直に消える。残ったのはお前だけだ、エイリスフィール・フォン・アインツベルン」
「あ、御主人様~私勝ちましたよ♪褒めて褒めて?」
「あぁ、良くやったビーストよ」
五百年以上生きた妖怪を消滅させたコトミネと、彼に寄り添うビーストを前にしてエイリスは身動き一つ取ることが出来なかった。そもエイリスはいい意味でも悪い意味でも純粋な魔術師、それがサーヴァントと戦って無事で済むようなコトミネやバーサーカーと正面切って戦うようなビーストと戦って勝てる訳がない。
「さて、エイリスフィール・フォン・アインツベルン。貴様には聞きたいことが山ほどある‥‥‥‥が、その前に」
コトミネの手のひらがエイリスの頭部を掌握する。頭を握り潰されると体を硬直させるエイリスだったが聞きたいことがあると言ったコトミネがそんなことをするわけがない。
「
コトミネが起動のキーを唱えると同時にエイリスの全身に激痛が走る。まるで表皮を引き剥がされるようなそんな痛みだ。その痛みに声にならない悲鳴をあげるエイリスを尻目に、コトミネは服の袖を捲って自分の腕を確認していた。
コトミネの腕には先程まではなかったイレズミのような朱色の紋様が刻み込まれていた。これはエイリスの持っていた令呪、コトミネはそれをエイリスから無理矢理に引き剥がしたのだった。令呪は魔術回路に癒着した物であり、下準備も無しに無理矢理引き剥がせば魔術回路に悪影響を及ぼす恐れがある。しかしそんなことはコトミネには関係なかった。これでコトミネには自身の令呪三画、バーサーカーを従える為に使ったのかエイリスの令呪二画、計五画の令呪が宿った。
「心配するな、楽には死なさん。聞きたいことをすべて聞かせてもらった後で私の娯楽になってもらう」
そう言うコトミネの顔には他人をいたぶるという愉悦を見つけた聖職者とは程遠い笑みを浮かべていた。
「(あぁん♪サディスティックな笑みを浮かべる御主人様も素敵ですぅ♪)」
ビーストはそんなコトミネを見て体をクネクネと揺らして悶えていた。