光輝き、蒼炎が猛る。今この場を説明するとすればそれだけで良かった。
サーヴァントたちは、魔術師たちは、魔導師たちは、そして時雨の家族たちはそれを分かっていながらも動かなかった・・・・・・否、動くことができなかった。手を出すべきだと分かっている、助けなければと分かっている、共に戦うべきだと分かっている、だと言うのに脳から出される伝令を細胞のすべてが拒絶し、叫ぶ。
この戦いを邪魔するなと。
「ぉぉぉぉぉぉお!!!」
「おっと危ない」
糞ガキから放たれる光弾十を
カイン・J・アダムス。治安の維持だとかなんとか大義名分を掲げて活躍する
それらを踏まえて俺が口にした言葉はーーーーーー
「雑魚だな」
「なにっ!?」
「
俺の言葉に糞ガキが気をとられた瞬間に消失と呟く。俺は何ら特殊なことはしていない、ただ糞ガキが意識していないところに移動しただけだ。俺の異能は【物の強弱が分かる】という無い方がましではないかと言われるほどにハズレの異能である。ただここが強い、ここが弱いということが漠然と分かるだけの能力を俺は使い続けた。だって俺が持っていたものだし、俺には他に何もなかったから。そうしているとある日視界の中に妙な濃淡があることに気づいた。ただ漠然と感じるだけだった俺の能力が視界に反映されたのだった。そうして俺はあることを思い付き、それを磨いた。
それは相手に注意されていない場所に移動すること。進化した能力のお陰で相手が注意している場所とそうでない場所を見ることができるようになったのでそこーーーーーーつまりは視覚としては捉えているが無意識なので認識できていない場所に潜り込むことで相手に俺が消えたように錯覚させることが出来るのではないかと思ったのだ。形になったそれの実験にゼロに付き合ってもらった結果ーーーーーーそれは成功した。そこにいたはずなのに消えたように見えるそれはをゼロは
糞ガキの注視しているポイントから右斜め前に歩数にして二歩半前に出る。それだけのことで相手は俺のことを見失う。ただ相手に俺が消えたように見えるだけ、といっても大したことではないように思われるだろう・・・・・・それが平時ならば。その大したことがないこれが殺しあいの場面となると危険度は一気に跳ね上がる。何せ相手は敵を見ることができない、それは索敵に長けたものでもない限り相手に先制を許すことを意味する。それはつまりは殺りたい放題というわけだ。
俺のことを見失っている糞ガキに接近して回し蹴りを首にぶつける。あえなく吹っ飛ぶと思いきや糞ガキはその場に止まっていた、どうやら俺を見つけるのはやめて攻撃に耐えることを選んだようだ。だから蹴った足をそのまま上げて振り下ろす。俺の踵が糞ガキの肩にめり込む。感じたのは肉の感触ではなく鉄板を蹴ったときのような固い感触、それはバリアジャケットのお陰なのだろう。だからどうした。構わず強引に足を振り切る。固い感触の中でミシリと骨の軋むような手応えを感じた。
「くっ!!卑怯者め!!」
「卑怯者?上等だよ」
糞ガキが光になって姿を消した。そして俺の周りに煌めく光。攻撃の隙を伺っているのだろう。何せ今の糞ガキは光速、俺の目に写っている光の強いところに炎を当てたとしてもそれは残像で本体は別のところに行ってしまっている。だから俺は光を追わない。ただ立って、何となく右に向かって
「うぐっ・・・!!」
手に感じるのは軋む肉と骨が砕ける感触。視線を向ければそこには光を集めて作った剣を振りかざして右胸に鞘が突き刺さった糞ガキの姿があった。別にそこから糞ガキが来ることが分かっていたわけではない。ただ何となく、こっちだろうなと思って鞘を突き出しただけだ。これは直感、といってもセイバーの持っているような未来予知染みた直感ではない。経験則と言えば分かるだろうか。過去にこうしたことがあった、だから次は恐らくこうなるだろうと過去の経験から大体のことは予想できる。俺の過去の経験から糞ガキは右から来るだろうなと思って鞘を突き出した。それだけのことだ。
「俺は立場からすれば弱者だからな。望み通りの成果を出せずに捨てられ、残っていたのはさほど役に立たない能力だけ。お前のように望んだ物を、立場を用意して与えられた訳じゃない。だから俺が持つ手札を使って戦う。それで卑怯者と呼びたくもなるだろうがそこはあれだ、笑って許せ」
「のぞ・・・んだ・・・もの・・・?たち・・・ば・・・?何を・・・言ってる・・・!!これは僕が・・・自分の力で・・・・・・得たものだ・・・・・・!!」
「ーーーーーーお前知らないのか?自分がどういう存在なのかを」
いや、そうか、こいつに望んだのは都合の良い人形だったな。それなら納得も出来るか。
「さて、俺は機嫌が悪いんだ。だからお前の傷を抉ることをしようか」
そうして俺がこいつの
「ーーーーーーあ?」
俺の胸から、腕が生えてきた。
「時雨!!」
神悟と戦っていた時雨の胸から腕が生えた。どこからどう見ても異常な事態に視線は自然と時雨の背後に集まり、その下手人の姿を捉える。その下手人は仮面を着けた人物。シグナムたちが前に着けていたような半分を隠す物ではなくフルフェイスで顔の晒されている部分はない。体格からして男だろうと判断できる。その下手人をシャマルは見たことがあった。過去に一度、あれを見たことがあったから。
「貴様は邪魔だ、危険すぎる」
下手人が低い声で時雨に話しかける。前に闇の書の騎士を助けるような行動をしたかと思えば今は闇の書の主である時雨に害を成している。下手人の手のひらに魔力が集まる。恐らく時雨の魔力を抜き取ろうとしているのだろう。
「邪魔?お前の方が邪魔だよ」
「ギァァァァァァァァ!!!!」
ズルリ、と時雨の胸から生えていた腕がズレ、そのまま地面に落ちた。下手人は無くなった腕を押さえながら叫ぶ。何が起きたのか?その答えは一つしかない。時雨が自分の胸に生えた下手人の腕を切り落とした、それだけだ。
「邪魔するなよなぁおい、折角人が糞ガキの傷を抉って愉しもうとしているのによぉ」
「前々からウザッてぇんだよテメェラは。人の周りをハエみたくブンブン飛び回ってよぉ」
膝蹴りが下手人の顔に突き刺さる。当たった部位の仮面は砕けるが顎も砕けていて醜くひしゃげている。
「手ェ出してこないから放置しておいてやれば言うこと欠いて邪魔だぁ?気持ち悪いんだよ」
足の裏を押し出すような蹴りが下手人の右膝を、左膝を容易く砕く。下手人の足は通常とは逆の方向に曲がっていた。
「目障りなんだよ、気持ち悪い、俺らに触れるな、消えてなくなれ」
もはや自力で立つことが出来なくなった下手人の頭を時雨は手放す。時雨という支えを無くした下手人は壊れた膝では立つことはできずに無様に地面に崩れ落ちた。そして時雨は地面に転がっている下手人の頭を踏みつける、踏みつける、踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける踏みつける・・・・・・飽きたのか踏みつける足を退けたが下手人の頭部は半分以上埋まっている上に砕けた仮面と顔の肉がグチャグチャに混ざっていて仮面が無くても誰か判断することは出来なくなっていた。
「えぇっと、どこまで話したんだっけ?あぁ、与えられた力とか立場とかのところか」
下手人を容易く半殺しにした時雨はそのことをさも気にした様子もなく語り始めた。
「事の始まりは馬鹿な天才科学者たちの集まりの中で言われた一言だった」
「何を・・・」
「口を出すには早すぎるぜ?その内の一人が言い出したんだ。【どうすれば最強の人間を作ることができるのか】ってな」
語る。
「武芸をさせればいいととある科学者は言ったが即座に却下された。当然だ、現存する武芸すべてを習得させようとすればかなりの年月がかかる。いくら予算がかかっても良いから早く作る、それが目標だった・・・・・・そうして長い討論を交わした結果・・・・・・強い人間の遺伝子を組み合わせて強い人間を作れば良いという結論に至った」
語る。
「科学者たちは有名どころから遺伝子を分けてもらえないかを交渉し、いくつかの遺伝子を手に入れた。そして一番の期待を集めたのは【魔王】と呼ばれていた男甘粕正彦の遺伝子と【聖娼】と呼ばれていた女の遺伝子、【魔女】と呼ばれていた女の遺伝子をそれぞれ掛け合わせた物・・・・・・結果作られた人間たちは科学者たちを満足させるだけの能力を示した、特に【魔王】と【聖娼】の掛け合わせはな。逆に【魔王】と【魔女】の掛け合わせは脆弱、能力もありきたりという残念な結果になり廃棄処分・・・・・・分かりやすく言うならば捨てられた訳だ」
語る。
「【魔王】と【聖娼】の掛け合わせの成長は止まることを知らず、高い身体能力と高い知能を示した。そしてその掛け合わせはスポンサーであったアダムス家の要請によってその家に養子に入り、カインを名乗ることになる」
「ま・・・まさか・・・・・・!!」
「アダムス家と言えば名家中の名家、カインはその頭角を直ぐ様現して
「改めて名乗るぜ?神人類創成計画ロストナンバーだ。ナンバーセブンーーーーーーいや、兄弟」
「兄弟・・・・・・?お前と僕が・・・・・・?それに僕が作られた人間で【魔王】の遺伝子が使われている・・・・・・?」
「あぁそうだ」
「う、嘘だ!!僕は父と母に育てられた!!それに出生届だってあった!!」
「記憶なんて操作すれば良いだけの話だ。それに役所だって金をつかませれば簡単に書類の訂正だってやってくれる。ほら、喜べよ、お前の力も立場も、全部与えられただけの物でお前が自力で手にした物は何もないんだ。泣いて喜べよ」
「嘘だ・・・・・・嘘にきまっている!!!」
効き目は薄い、か・・・・・・まぁこの独り善がりに現実突き付けたところで信じないのは何となく察しがついてたから別に驚くことでもない。それに証明だって済んでいる。このことを知ってからすぐにカインの毛髪と俺の毛髪とでDNA検査したからな。結果は黒、母は違うが父は同じとの事だった。当時はだからどうしたという心境だったな。カインと兄弟だったことがわかっても歓喜も憎悪もない。科学者たちにだって感謝も恨みもしていない・・・・・・いや、ゼロに拾われたことには感謝してもいいか?
まぁそれだけの話だって訳だ。それとこれとは今では関係ない。今あるのは俺がこの糞ガキを殺したいという殺意だけだ。
「殺す。まずは左腕から、そのあと右腕左足右足と順繰りに切り落とす。手首足首切り落としてから徐々に削るように肩まで、股関節まで切り刻む。次いで首から下の胴体の皮を剥いで肉を見せびらかしてから五臓六腑を引きずり出す。あぁ、その光景を見逃さないように瞼をとって、舌を噛みきらないように歯を全部砕いてしまわないと。そいで鼻と耳とを削ぎ落としてお前の口に捩じ込んでやろう・・・・・・あぁ安心してくれ、お前の一物は残してやろう。男としてそれが無くなる恐怖は分かるし、俺も触りたくない。なぁに、簡単には死にゃしないさ、脳と肺と心臓と、それにある程度の血液があれば人間は生きていられる。んで俺の気が済むまでいたぶらせてもらうとしよう」
手放した
「まずは宣言通り左腕の手首からだ」
俺は俺の復讐を果たさせてもらうとしよう。
この時、時雨は油断していた。己の母が殺される元凶を二度も殺せると分かれば興奮するもの無理はない。いや、例え油断していなかったとしてもこうなるとは予想できなかったかもしれない。
悪性は感じた、今こそが自分の動くべき時だと。
悪性は喜んだ、この場には餌がたくさんいると。
悪性は顕現した、虚ろな存在である自分を一時的とはいえ現に現存させるために。
「ーーーーーーあ?」
二度目になる抜けた声を時雨はあげた。一度目は下手人に背後から胸を貫かれた時に。その時は時雨の魔力が目的だったのか不快感だけで痛みはなかった。しかし今回は違った。ベタな例えかもしれないが腹部からまるで真っ赤になるほどに熱された鉄棒を突っ込まれた時のような熱を感じた。
目を自分の腹に向けるーーーーーーーーーーーーそこには獣の爪の様なものが腹から生えている光景があった。
闇の書の闇が、動く。