調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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第弐拾久幕 復讐に堕ちる者たち

 

 

心中を怒りの炎に滾らせて、復讐者たちは仇の元へと殺到した。狙うのは彼女たちの思う時雨を傷付けた相井神悟(おろかもの)の首ただ一つ。しかしそれを拒むものたちがいた。それらは過去に偉業を成し遂げて世界に功績を残した英霊たちと、ショックから立ち直って止めなければという焦燥に駆られた魔導師たち。

 

 

「退くぞ」

「良いのか王様よ、お前もあいつのことが憎いのだろう?」

 

 

復讐に燃える彼女たちの姿を見たギルガメッシュは信喜、恭也、キャスター、ランサー、バゼットにそう告げた。信喜の疑問は最もである。退くことには何ら問題はないが、ギルガメッシュの怒りも、彼女たちと同等であるはずなのだから。

 

 

「確かに、あのような不届き者が生きていることは不快ではある。だが、だからといってあやつを放置して良い理由にはなるまい。故にこの場はあやつらに譲ってやるのだ。あやつらの怒りをそのままにさせておくほうが(オレ)からすれば何よりも恐い」

 

 

ギルガメッシュにそうまで言わせた彼女たちの姿はまるで悪鬼の如く見えた。それに彼女たちが出たとなるなら必然的に時雨を守るものは宗蓮一人になる。その事に納得したサーヴァント二人と人間である三人は今まさに行われている殺戮を眺めながら時雨の護衛をすることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亡霊がぁっ!!!退けぇぇぇぇぇえ!!!」

「グッ!!」

 

 

黒き狂気に染まったシグナムは手にした黒い剣を振るい、自身の邪魔をするセイバーに斬りかかる。その様はまるで嵐。荒々しくも洗礼された武の暴力を持ってセイバーを圧倒する。セイバーはシグナムのさっきまでと違う剣技に圧され、そして驚愕していた。何故ならばシグナムが振るう剣は、シグナムが操る剣技は全く自分の振るう物と同じなのだから。

 

 

「貴様ッ!!何故その剣をーーーーーー私と同じ剣を持っている!?」

「消え失せろぉぉぉぉぉぉお!!!!」

 

 

セイバーのもっともであろう疑問の声は復讐に燃える鬼には届かない。シグナムは叫びと共にセイバーに上段から斬りかかる。それを辛くも受け止めることに成功するがその一撃はセイバーの想定よりも重く、足場にしているコンクリートを砕き、さらにセイバーに膝をつかせた。

 

 

「ッーーーーーーハァッ!!」

 

 

このままでは押し切られると判断したセイバーは渾身の力でシグナムの剣を持ち上げて、空いていた腹に蹴りを入れることで窮地から脱する。鍛えぬかれた武人の足は例えそれを主力としておらずとも強力な武器となる。その蹴りを避けることなく、流すことなく受け止めたシグナムは数歩たたらを踏んだ程度で目に見えたダメージを負ったようには見えなかった。

 

 

復讐に堕ちた騎士は止まらない。

 

 

セイバーVSシグナムverセイバーオルタ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤と朱が踊る。赤は黒と白の夫婦剣干将莫耶を振るう。それに対して朱は無手ーーーーーー血が出る程に固く握りしめられた拳を振るっていた。普通であるならば優位なのは剣を持っている赤の方であろう。その理由はリーチの差と殺傷能力の高さ。どちらとも素手とは比べ物にならないくらいに高いのだから。しかしこの場で圧されているのはーーーーーー赤の方であった。朱の振るう拳の突きが、裏拳が、打ち下ろしが、優位に立っているはずの夫婦剣剣を一撃の元で砕く。

 

 

「ーーーーーー中国拳法、それも八極拳か!?」

 

 

赤ーーーーーーアーチャーは朱の振るう拳術の正体を夫婦剣数対を対価に看破することができた。そして驚く。さっきまでとは全く異なる体術を使っているはずなのにその完成度は高いーーーーーーいや、完成されているのだから。

 

 

「ーーーーーー粉ッ!!」

 

 

右の突きと同時に朱ーーーーーーザフィーラは震脚を放つ。本来ならば体制を整える目的で放たれるそれは局地的な地震が起きたのではないかと錯覚させる様な揺れをもたらす。今までのそれとは威力が違うことを悟ったアーチャーは夫婦剣ではなく西洋剣を二本交差させてその拳を防ぐ。

 

 

「ーーーーーー我が八極に二の打ち要らず」

 

 

西洋剣は砕けなかったが、そこはすでにザフィーラの領域。ザフィーラの放つ気がアーチャーを呑み込み、アーチャーはそれに自身の死を幻視した。

 

 

「ゼイッ!!ハァッ!!」

 

 

流された手とは逆の左の突きをアーチャーに見舞う。それにアーチャーが起こした行動は逃げることでもなく、防ぐことでもなくーーーーーー立ち向かうことだった。ザフィーラの拳を防いだ西洋剣二本で今度はザフィーラの拳を迎撃する。そして剣と拳はぶつかり合いーーーーーー剣は砕けた。しかしそのお陰かザフィーラの拳はズレ、直撃はせずにアーチャーの右肩を掠った程度におさまる。そしてアーチャーは直ぐ様距離を取ったーーーーーー掠っただけのはずの右肩を押さえながら。掠った程度にしか当たっていないはずなのに右肩はまるで後付けされた物のように重たく、指一本も動かすことができない。

 

 

「ーーーーーーその霊格、まさか二の打ち要らずと呼ばれた李書文か」

 

 

李書文ーーーーーー中国拳法史史上有数の拳法家。八極拳の達人で有りながら“神槍季”とあだ名されるほどに槍に長けた人物であったとされている。槍術家としても名高い彼であるが何よりも恐ろしいのは八極拳の方である。神槍无二打(李書文に二の打ち要らず)との称号が着くほど。李書文の剛打は牽制やフェイントの為に放ったはずの一撃ですら敵の命を奪うに足るものであった。その正体はいわゆる“気”。己の気で満ちた空間を形成することで完全に自分のテリトリーを作り、その中に相手が入ることで“気に呑まれた状態”ーーーーーー一部の感覚が眩惑され緊張状態となり、この状態で相手の神経に直接衝撃を打ち込むことで迷走神経反射によって相手の心臓は停止、則ちショック死にいたる。

 

 

アーチャーが生き延びた理由はザフィーラのテリトリーに呑まれた瞬間に攻めに転じたから。もしこれが守りや受けに入っていたのなら全身から血を撒き散らして絶命していたであろう。

 

 

しかしザフィーラにそんなことは関係ない。“无二打”(二の打ち要らず)と呼ばれた李書文の拳法ですら、今の彼女にとってはただの仇を殺すための手段に過ぎないのだから。例え手足をもぎ取られ、胴体が消失して頭だけになったとしても、その残された牙を相手の首に突き立てるだろう。

 

 

復讐に堕ちた守護獣は止まらない。

 

 

アーチャーVSザフィーラver李書文

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーヌゥッ!!」

 

 

ビルの合間を縫うようにして駆ける戦車(チャリオット)に乗るのはライダー。いつもであるならば彼は上空から戦局を見渡し、その場に駆け付けるようにしているのだが今は違う。何故ならば、今彼は狩る者ではなく狩られる者だから。戦車(チャリオット)を引く戦牛の動きが鈍り、狩る者が現れる。彼女は空を飛べる技術を持っていながらそんなものは必要ないと言わんばかりに手にした鎖付きの短剣をビルに伸ばして空を翔る。迫り来る殺意にライダーはマントで身を隠しながら剣を一閃。響く金属音と飛び散った火花から一撃を防げたことを知る。

 

 

「ーーーーーー」

 

 

弾かれながらもビルの壁面に捕まりライダーを睨むのは全身よりも長い髪を靡かせた女性ーーーーーーリニスだった。さっきまでライダーと戦っていた彼女だったが時雨が殺されかけたことで変わっていた。

 

 

まずは雰囲気、先程までは真剣でありながらもどこか楽しんでいるような、余裕を含んでいたものだったが今感じられるのは怒り一色。眼帯を外されたことで露になった双眼の視線は心の弱いものであるならば失禁してしまいそうなほどにおそろしくあった。

 

 

そして眼帯を外したことで露になった双眼。彼女の視界に入るだけでライダーと戦牛はまるで体が石になったかのように動かなくなる。その正体は魔眼、ただ見るという一行程(シングルアクション)を行うだけで魔術を発動できるという一流の魔術師ならば垂涎物の物だった。リニスの持つ魔眼によって発動する魔術は石化ーーーーーー文字通り視界に入れたものを石にする凶悪極まりない物である、しかもその魔眼は石化の魔眼の代名詞と言っても過言ではない魔獣ーーーーーーゴーゴン三姉妹の末女、メデューサの物と同一であった。一流の魔術師は愚か、対魔力を持っていないのならサーヴァントですら石化させるそれをリニスはライダー一人に向けていた。

 

 

怒りに燃えていながらもリニスの頭の一部は冷静であった。

 

 

時雨を殺そうとした神悟()を殺そうとしたときにサーヴァント(あいつら)が邪魔をした。なら、サーヴァント(あいつら)を殺してから神悟()を殺せば良い。

 

 

復讐に堕ちた従者は止まらない。

 

 

ライダーVSリニスverメデューサ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ語ろう、この復讐に相応しき物語を」

 

 

英霊の力を宿したシャマルは虚空に手を伸ばすとそれに従うようにして周囲に浮かぶ本の一冊がシャマルの手の上にやって来た。直接的な戦闘能力の低さを見抜かれてかシャマルに注視する者は誰もいなかった。

 

 

それは正しい。そもシャマルの領分は他の騎士たちのバックアップにある。シグナムのような万能に戦える訳でもなく、ザフィーラのように守護できる訳でもなく、ヴィータのように突破力に優れている訳でもない。ただ支えることこそがシャマルの役目だった。

 

 

英霊の力を宿す、それまでは。

 

 

「汝石より生まれた化身、理外の妖し者」

『どこまでも伸びる素敵な棒!!乗ることができる不思議な雲!!』

 

 

シャマルが本を読み上げているときに別の同じ声が聞こえた。ノイズのような耳障りでありながらその声は不思議と耳に残る。

 

 

「天に逆らい封印され、閉じ込められること数百年」

『助けてくれたのはサンゾー様!!従うことを決めました!!』

 

 

シャマルの姿がブレる、そうしてシャマルの隣にもう一人のシャマルが現れた。しかしその事にシャマルは動じない。なぜなら彼女はシャマル自身、己が宿した英霊の力なのだから。

 

 

「さぁ、力を見せて。貴方の名前はーーーーーー」

『さぁ、名前を聞かせて?貴方の名前はーーーーーー』

 

 

シャマルともう一人のシャマルが呼び出した者が形を作り、顕現する。武道家のように赤い胴着を来て、手に持つのは一本の棍、しかしそれは人ではなかった。人では考えられないほどに毛深い顔、腰から生えるのは一尾ーーーーーーそれは二足歩行で立つ猿だった。

 

 

「『斉天大聖孫悟空!!!』」

 

 

そう、二人のシャマルが呼び出したのは書籍【西遊記】の中で登場する三蔵法師、猪八戒、沙悟浄と共に天竺を目指した猿の妖怪、孫悟空。二人のシャマルが呼び出した孫悟空は乗ることができる雲【金斗雲】に乗り、どこまでも伸びる棒【如意棒】を握って空へと飛んでいった。

 

 

狙うのは隠れ潜んでいる魔術師たち。目的を成すことを邪魔する輩がいるのならば、まずはその輩から片付ける。

 

 

復讐に堕ちた湖の騎士は止まらない。

 

 

シャマルverナーサリーライム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!」

 

 

朱色の狂戦士が咆哮をあげながら武器である戟を振るう。その姿はまるで嵐、近くにあったものは何であれ斬られ、砕かれ、破壊される。同質のサーヴァントであるならば兎も角、人間ならば近くに立つだけでその風圧に負けてしまいそうだ。その嵐に立ち向かっているもう一つの嵐がある。

 

 

「ど■ぇぇぇ■ぇぇぇ■ぇぇ!!!!!」

 

 

その嵐の正体はーーーーーー年端もいかぬ少女だった。彼女は自身の身の丈よりも巨大な石斧を振り回されることなく、まるで木の棒を振るっているかの如く振るい、朱色の嵐とぶつかっていた。

 

 

狂戦士の正体はかつて三国に分立していた中国において天下無双と呼ばれた武将【呂奉先】。天下無双(てんにならぶものなし)と称された彼の武は前に行われた模擬戦で、狂化していながらもセイバーですら圧倒する程の技量を誇っていた。

 

 

しかし、それに対する少女ーーーーーーシュテルが宿す英霊の武は呂奉先に並ぶ、いや追い越しているかもしれぬ。英霊【ヘラクレス】、それがシュテルの宿す英霊の正体。王となり、自分の犯した罪から奴隷になり、その罪を償うために十二の試練を乗り越えた神話に名を残す武人。人相手に無双した天下無双?何を馬鹿な。彼はその時代に闊歩していた幻獣をその身で滅ぼしているのだぞ。

 

 

「ーーーーーーッ!?」

 

 

朱色の狂戦士の戟が弾かれ、体制が大きく崩れる。シュテルとの打ち合いに負けたのだ。そしてそのがら空きの胴体目掛けーーーーーー

 

 

「き■ろ■!!!」

 

 

一息、呼吸を入れるよりも速く、百度の斬撃が叩き込まれた。かつてヘラクレスが十二の試練の最中に戦った不死身の毒蛇(ヒュドラ)、それを殲滅した弓技を他の武器でも行えるようにと研鑽された技ーーーーーー射殺す百頭(ナインライブズ)、それをシュテルは狂戦士にぶつけた。

 

 

「■、■■■■■■ーーーーーー!!!」

 

 

それでも狂戦士は沈まない。何故ならば彼が狂戦士だから。理性など狂っていて残っていない。死ぬまでーーーーーーいや、例え死んだとしても、戦い続ける。それが狂戦士だから。

 

 

それに出したシュテルの答えは実にシンプルな物だった。

 

 

ーーーーーー死なないのならば、死ぬまで殺し続ける。

 

 

復讐に堕ちた星光の殲滅者は止まらない。

 

 

バーサーカーVSシュテルverヘラクレス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗殺者のサーヴァントであるアサシンは圧されていた。自身の得意とする隠密はバレることなく行われている。であるのならば敵が気づかぬ内にその無防備な頭に、首に、心臓に短刀を投げつける。それだけで終わるというのにーーーーーー

 

 

「ーーーーーー遅いよ」

 

 

投げられた短刀は当たる直前に少女が握る長刀の一振りで全て弾かれてしまった。いや、それだけならばまだ納得は出来よう物なのだ。驚くべきはここから、短刀を払った少女をアサシンは見失い、代わりに自身の首目掛けて振るわれている長刀に気がつく。

 

 

「ーーーーーーギイッ!?」

 

 

間一髪、首と長刀の間に短刀を差し込むことで首を跳ねられることは回避出来たがその衝撃までも殺せない。少女の細腕で振るわれたとは思えない速度から放たれる一撃はアサシンを軽く吹き飛ばす。

 

 

「ーーーーーー馬鹿な」

 

 

アサシンは自身の攻撃が防がれたことよりもその後のカウンターに驚いた。暗殺者(アサシン)という言葉はアサシンーーーーーー山の翁【ハサン】が語源となっている。暗殺者の起源である彼の隠密はまごうことなく最高峰の物である。それをただの少女に破られたことがアサシンに衝撃を与えていた。

 

 

少女ーーーーーーレヴィが宿した英霊は聖杯戦争において暗殺者の適性が無いながらにアサシンのクラスとして呼び出された剣士【佐々木小次郎】である。剣客としてのレベルは疑うことなく最高峰、この世界に呼び出されたセイバーですら圧倒する程の腕前である。しかし前記の通りにアサシンとしての適性は無い、そして一対一であるのならば無類の強さを誇るがその反面一対多、もしくは白兵戦以外では脆い。それはアサシンの行う暗殺も例外では無い。故にレヴィは佐々木小次郎の力に自身を上乗せした。レヴィが持つ魔力を電撃に換えるスキル発電変換、それを使って周囲に微弱な電流を流していた。いうなればソナーと同じである。電流によるソナーで隠密を行っているアサシンを探知、持ち前のスピードを生かして接近、そして佐々木小次郎の技量を持って斬りかかる、言葉にすれば簡単であるがレヴィはこれだけのことをしていた。

 

 

「この程度なら消え失せろ。僕の、僕たちの邪魔をするな」

「ーーーーーー殺す」

 

 

レヴィにこの程度の言葉が山の翁となったアサシンの琴線に触れた。アサシンが自身の右腕にしていた拘束具を取っ払うとーーーーーーそこから、異形の腕が現れた。人間の腕の長さ多少の誤差は有るものの大体は同じである。しかしアサシンのそれは違った。目測だけで見れば少なくとも左腕の三倍の長さを誇る。

 

 

それを見たレヴィの感想はーーーーーー無だった。アサシンの速さはもう分かっている、レヴィは傲ることなく自身の速さと比較して、自分には及ばないと判断していた。確かに長いがそれがどうした、どのような能力があろうが触れなければ問題ない。

 

 

復讐に堕ちた雷刃の襲撃者は止まらない。

 

 

アサシンVSレヴィver佐々木小次郎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

上空でディアーチェは目の前にいる魔導師二人ーーーーーー正確には一人を、どこか冷めた目で見ていた。目の前にいるのは高町なのはとフェイト・テスタロッサ、ディアーチェと同じマテリアルであるシュテルとレヴィのオリジナル。フェイトはディアーチェと対面しながらも視線は時々地上にいる時雨に向けられる。前に時雨がテスタロッサ家とは関わりがあったことを言っていたので心配はしていはいるが立場上敵対している者に近づくわけにはいかないしどうしていいか分からずに混乱しているのだろう。それはまだ理解は出来る。それよりも問題はーーーーーー

 

 

「ねぇ!!どうしてこんなことをしたのか聞かせてよ!!」

 

 

そうこいつ、高町なのはだ。とディアーチェは表情を隠す努力を止めて顔を歪ませながら歯軋りをする。分からないことを人に聞くのはまちがいではない、むしろ推奨すべき行為なのだろう。しかしそれは相手が会話が通じる相手であることが前提である。平常時であるならば会話出来るかもしれないがその相手がもし怒り狂っていたら会話が成立すると思うだろうかーーーーーー答えは否である。

 

 

「      」

 

 

なのはの質問の答えの代わりにディアーチェの口から出たのはこの代において誰も理解することができない神代の言葉。そして返って来たのは視界を覆い尽くす程の光弾だった。

 

 

「ッ!?フェイトちゃん!!」

 

 

なのははフェイトを庇うようにして前に立ち、シールドを展開する。そして光弾が放たれた。神悟の取り巻きが作ったシールドは僅かな拮抗を見せて砕かれていたのに対してなのはのシールドは光弾の弾幕を受けてもヒビ一つ入らなかった。それは素質の違いか練度の違いか。

 

 

「話してって・・・!!言ってるでしょ!!」

 

 

光弾の弾幕が止んだ一瞬の隙になのはは砲撃をディアーチェに放った。神悟や神悟の取り巻きとは違い非殺傷設定がされている魔法だがまともにぶつかれば紙装甲であるディアーチェは耐えられないだろう。しかしその砲撃はディアーチェに当たる直前にまるで壁にぶつかって跳ね返って来たボールの様になのはに反射された。光弾を放つと同時にディアーチェは魔法魔術を反射する反射平面を展開していたのだ。

 

 

「嘘ッ!?」

 

 

放ったはずの砲撃が自分に返ってくるということに驚くもなのははシールドを展開して砲撃を防いだ。そしてディアーチェはフェイトの姿が見えないことに気づく。

 

 

「ーーーーーー取った!!」

 

 

フェイトの姿を確認出来たのは自身の後ろ、しかもデバイスであろう鎌を振りかぶっているところだった。意識の切り替えに成功したのかその行動には迷いは見られない。間違いなく当たると確信したフェイトはデバイスをディアーチェ目掛けて一気に振り抜きーーーーーー

 

 

「ーーーーーーえ?」

 

 

それは空を斬った。間抜けな声が出てもおかしくはない。空間転移、ディアーチェがしたのはそれだった。かつての聖杯戦争において陣地を作り魔力を集めることで可能とした大魔術をディアーチェは僅かな自身の魔力と周囲に漂っている膨大な魔力を使うことで可能としたのだ。そしてディアーチェは自身を見失って唖然としている二人の上空に現れ、容赦なく光弾の雨を降らせた。

 

 

復讐に堕ちた闇統べる王は止まらない。

 

 

なのは&フェイトVSディアーチェverメディア

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずるずると、身の丈に合わない長さのコートを引き摺って歩いているのは鳳凰院御門だった。デバイスであるアーカードと融合することで大人の状態になれるのだが御門の精神状態が不安定な為に大人の状態を維持することが困難になったからだ。御門は覚束ない足取りで歩く。辺りからはシグナムが、ザフィーラが、リニスが、シャマルが、シュテルが、レヴィが、ディアーチェが戦っているであろう音が響くが御門の耳には届かない。人が死にかけるーーーーーーそれも自分にとっての恩人が死にかけている場面を見るということは想像を遥かに超える負荷を御門に与えていた。こうなることを考えていなかった訳ではない。そうなるかもしれないと時雨が言っていたことを覚えている。だからといってそれに直面したときに耐えられるかどうかは別である。

 

 

その御門の前に五つの影が現れた。時雨を殺しかけた張本人である相井神悟と神悟の取り巻きが四人。シグナムたちが神悟を殺そうとして、サーヴァントや他の魔導師たちが立ち塞がる為に神悟たちがフリーになるという事態になっていた。

 

 

何やら騒いでいるが御門の耳には届かない。

 

 

そこへ金髪の少年ーーーーーー藤峰アリスがやって来た。彼の顔は怒りで彩られていた神悟たちに何故あんなことをしたのかと問い詰めているが神悟とその取り巻きたちはそれを聞いて逆上したように捲り立てている。

 

 

「ーーーーーーねぇ」

 

 

ふと、疑問に思ったことがあったので御門は目の前にいる六人に声をかけた。小さいはずなのに不思議とその声は怒鳴りあっていた六人の耳に届き、御門に注意を向けさせることに成功する。

 

 

「あの人はーーーーーー時雨さんは、殺されるような、死にかけるような傷を負わなければならないようなことをしたのか?」

 

 

時雨は何故死にかけているのかと、その理由は時雨が死ぬに値するのかと、御門は問い掛けた。その質問にアリスは答えない。管理局勢と闇の書勢、どちらもどちらの正義があることを理解しているから。管理局勢は過去の被害から闇の書を危険と判断、これ以上の被害を出さないために動いている。闇の書勢はDBチャンネル内では酷い発言をした時雨だったが神悟の王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)からシグナムたちを守るために自身を壁にした姿を見て、あれは演技だと気がついた、そして時雨が闇の書をどうにかしようとしているのではないかと勘づいた。

 

 

管理局勢は多数を守るために行動し、

闇の書勢である時雨は少数を守ろうと行動している。

 

 

どちらも正しく、どちらも間違っていない。客観的に状況を見ることに勤めていたアリスだからその答えに辿り着いた。しかしーーーーーー

 

 

「はぁ!?何を言っているの?悪であるなら死んで当然じゃない!!」

「(っんの!!馬鹿!!)」

 

 

取り巻きの一人がそんな答えを返してしまった。正義に酔っている奴ほど厄介な者はいない。自分達には正義という大義があるのだから悪はどうなろうが構わないと言った考えを取り巻きたちと、恐らく神悟は持っているとアリスは感じていた。その結果が時雨(あくであるもの)に対する過剰攻撃、非殺傷ではなく殺傷設定の魔法の攻撃。ヘタなテロリストよりも厄介である。

 

 

「ーーーーーーあぁ、そう」

 

 

それを聞いた御門は興味無さそうにそう返して、ポケットから一枚のカードを取り出した。そのカードには時雨のと思われる血痕がベッタリと着いていて何のカードか識別することができなくなっている。しかし御門には分かった。このカードはきっと、自分と縁の深いカードなのだと。

 

 

「アーカード・・・・・・これからすることを見て、君は僕のことを蔑むかい?」

『ーーーーーー例え優れてあっても、愚かであっても、それら醜美全てを合わせて貴方は私の主なのだ。貴方が何を成そうが私の忠義は揺らぐことはない』

「ーーーーーーハハッ、そうかよ」

 

 

アーカードの言葉に御門はこの場で初めて楽しそうな、嬉しそうな、それでいてどこか哀愁の漂う微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーかって、これ程までに幸福であったことがあるだろうか

 

 

 

御門が語る。

 

 

 

貴方は強く、優しく、素晴らしい、他人はそう見るだろう

 

貴方は儚く、脆く、か弱い、私たちは知っている

 

 

 

右手には血塗れのカードを持ち、左手には虚空に浮かぶ黄金の渦から取り出されたデュランダルが握られる。

 

 

 

未熟な私は、貴方のことを理解できていなかった

 

もし私が貴方の側にいるべき存在で無いというのならば、このまま消えてしまいたい

 

何よりも幸福だったあの瞬間ーーーーーー私は例え奈落に落ちても決して忘れはしないから

 

 

 

語る。思いを語る。

 

 

 

故に、父よ、枯れろ、骸となれ

 

私が貴方を守ろう、守ろうとした者ごと貴方を守ろう

 

それが正しいことなのか、過ちではないのかなど、些末なことは投げ捨てよう

 

 

 

語られるのは嘘偽りの無い純粋な御門の気持ち。傲り落ちていた自分に光を見せてくれたヴィータや、自分に目をかけてくれた八神の全員に対する感謝。

 

 

 

父よ、私の籠の中にて一生涯を終えよ

 

誰にも邪魔されることなく、幸福な箱庭の中で朽ちる貴方を私だけが知っているよう

 

 

 

その時、アリスは気づいた。気づいてしまった。語っている御門の周りに、黒い水のような者が集まっていることに。その水の正体はこの土地に元からあった“死んだ命”その物。交通事故自殺他殺流産、現在に有るものから過去の戦の時代に死んだ者たちの命まで、この土地にあった“死んだ命”が全て御門に集まっていてた。

 

 

 

故に、父よ、枯れろ

 

新生ーーーーーー

 

 

 

そして語りを終えた御門はカードを胸に当て、自分ごとデュランダルで刺した。それを見た六人は動揺する。自分の胸に剣を刺すなどどう見ても自殺でしかない。それは間違いではないのだろう。

 

 

御門は自分を殺した、大切な人達を守れない自分を

 

 

御門は望んだ、大切な人達を守れるような力をーーーーーーそう、怪物として名高い、あの血を吸う鬼のような存在に()りたいと

 

 

死の水が御門を覆う。まるで別の存在への新生を望む御門のことを祝福するがごとく。そうして出来上がったのは一つの黒い繭。2m程の大きさのそれは血管のような赤い脈を張り巡らせながら不気味に鼓動を打っていた。

 

 

そこでようやく動いたのは取り巻きたち四人だった。それに生理的嫌悪でも抱いたのだろう、己のデバイスを繭に向けて砲撃を、誘導弾を次々に放った。砲撃がぶつかり、誘導弾が追撃にやってくる。そうして全ての攻撃を受けきった時、繭から黒い何かが放たれた。その数は四本、狙いは攻撃をしてきた取り巻き。それに気づいた神悟は宝物庫を開き、中の宝具を黒い何かにぶつける。そのお陰で黒い何かは取り巻きには当たらず、ビルや地面のアスファルトに突き刺さった。

 

 

黒い何かの正体、それは剣だった。刀身から柄にいたるすべてが真っ黒に染められている異質な剣。そして事が起こるのはそこから。なんと黒い剣が刺さったビルが、アスファルトが朽ちた。まるで何年も年が流れて一気に風化したかのように砂になり、剣は液体になって黒い繭に還っていく。

 

 

繭が砕けた。中から現れたのは一人の青年。黒く染まったバリアジャケットと腰まで伸びた白銀の髪を靡かせ、病的なまでに白い顔と血のように赤い双眼を六人に向ける。

 

 

「オーケー、理解した。お前らと語り合うような言葉は持ち合わせていねぇ」

 

 

青年の肩から、胴から、腕から、足から、剣が飛び出した。それはさっき繭から放たれた異質な剣と同一。

 

 

「ーーーーーーだから、言葉以外で語らせてもらおう」

 

 

人間であることを止めた御門は吸血鬼へと新生し、復讐に堕ちる。

 

 

アリス&神悟&取り巻き四人VS御門withヴラド三世

 

 

 

 




シグナム=セイバーオルタ
ザフィーラ=李書文
リニス=メデューサ
シャマル=ナーサリーライム
シュテル=ヘラクレス
レヴィ=佐々木小次郎
ディアーチェ=メディア
御門=ヴラド三世


でした。ディアーチェまでなら惜しい答えもありましたが流石に御門は分からなかったみたいですね・・・・・・ハッ!?ワラキアがまだだと!?次回の冒頭で出させていただきます。

シグナムたちがver表記なのに対して御門だけがwith表記なのはシグナムたちと御門のカードの使い方が違うからですね。

シグナムたちのは時雨が使うような英雄の力を憑依させるような形。
それに対して御門は英雄の力をすべて取り込む融合の形をとっています。だからこの戦いが終わったとしても御門からはカードは出ない、一生そのままです。

それが御門の覚悟を表しています。


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