調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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第弐拾捌幕 想い、願い、誓う

 

 

天の鎖(エルキドゥ)がギルガメッシュの手によって回収されて自由になったシグナムたちは覚束無い足取りで寝かされている時雨の元に集まる。全身余すとこ無く突き刺され、刺し貫かれ、抉られ、砕かれた時雨の体は見るも無惨。口から出ている血の泡から何とか呼吸が出来ていることは分かるがどうして生きているのか不思議に思われるくらいにひどい有り様だった。

 

 

「時雨・・・・・・」

「時雨殿・・・・・・」

「時雨・・・・・・ッ!!」

「時雨さん!!」

「コトミネ」

「任せろ」

 

 

シグナムが、ザフィーラが、リニスが、シャマルが自分の身代わりとなって宝具を受けて死にかけている時雨を見て唖然として、崩れ落ちる。そしてコトミネが膝をついて時雨に手をかざす。コトミネは死んでいないのならばどんな怪我でも治療できると豪語するほど、治癒魔術においてスペシャリストである。

 

 

「どのくらいかかる?」

「ーーーーーー傷が深すぎる。生命活動に支障が出ない程度まで治すには三十分といったところか」

「三十分ね」

「長いな・・・・・・」

「時雨・・・・・・さん・・・・・・?」

「そんな・・・・・・!!」

「うそ・・・・・・だよね・・・・・・」

「おい・・・・・・冗談にしては笑えぬぞ・・・・・・!!」

 

 

御門が、シュテルが、レヴィが、ディアーチェが、異変に気がつき駆けつけて、死の手前の状態でいる時雨を見て呆然とする。それはそうだ、ほんの半日前までは殺しても死ななさそうな印象を持っていたというのに今では死体と見間違う様な状態でコトミネに治療されているのだから。

 

 

「まぁ、俺たちで時間稼ぎといこうか、恭也、王様」

「時間稼ぎ?はん、温いな。他は兎も角時雨を傷つけた愚者を三十分も生かしておこうなどと考えるほど(オレ)は優しくはない」

「同感だ・・・・・・馬鹿が身の丈に合わない力を我が物顔で振るっていることが我慢ならない」

 

 

英雄王が、殺人喜が、剣士が一斉に時雨を殺そうとした愚者に襲いかかる。その時、後れ馳せながらワラキアが到着して、何が起きたのかを察した。

 

 

「これは・・・・・・そう言うことか」

「ワラキア・・・・・・」

「さて、時雨が死にかけているが・・・・・・貴様らはここでガキのようにメソメソ泣いているだけでいいのか?」

 

 

シグナムとザフィーラがワラキアの言葉にキレそうになるが踏みとどまる。言い方が悪いがワラキアの言葉は正しい。コトミネが時雨の治療をしている、ならば自分達がすることはメソメソと泣いていることではない。

 

 

「私は行くぞ、敵討ち仇討ち復讐に。定義はどうであれ私が父の如く思っている者を殺されかけたのだ。その様な愚者が今この瞬間ものうのうと息をしていることが我慢ならない。肉片血液細胞の一片に至るまでその存命を赦したりはしない。赦してなどたまるものか」

 

 

ワラキアの顔にあるのはアルフと戦っていた時のような楽しんでいる表情などではなく怒り一色の表情。それを見てシグナムたちはようやく瀕死の時雨から目をそらした。それは死にかけている時雨を見たくないという否定するような理由などではなく、やるべきことを見付けたから。

 

 

その時だった、時雨の胸元からカードが飛び、シグナムたちの目の前にやって来た。そしてそれを見たシグナムたちはそれを驚くでもなく、さも当たり前のようにして受け入れてカードに手を伸ばす。

 

 

「ーーーーーーそうか、お前たちもそうなのだな。私は騎士であることを誇りとしていた・・・・・・だがその結果がこれだ。今からなすことが騎士にあるまじき行為であることなど承知である。だが!!騎士であることを理由にしないというのならば!!私は騎士でなくとも良い!!騎士であることを辞めて、事をなそう!!」

 

 

 

「赦せぬよなぁ・・・赦せないよなぁ・・・我らが守らなければならない主が我らの盾となり、無情にも死にかけていることなど。故に!!これは!!大義名分などないただの自己満足だ!!大義名分など掲げることで正当化などせぬ!!大衆が掲げる崇高な名分などは捨て置く!!我らは!!我らの名分を持って行動する!!」

 

 

 

「貴方は何時だってそうですね・・・・・・自分の為と言いながら誰かの・・・・・・私たちの為にボロボロになりながら生きている・・・・・・ですけどね、貴方はそれでいいかもしれないですけど、私たちはそうではないんですよ?貴方が私たちに傷付いて欲しくないように、私たちの幸せを願うように、私たちだって貴方に傷付いて欲しくないですし、貴方に幸せであってほしいんですよ。だから・・・・・・潰す。貴方を傷つけて、貴方の望む幸せを奪おうとしている森羅万象有象無象、例えそれが八百万の神々だろうとも一切の存命を赦さない!!」

 

 

 

「貴方は何時も傷だらけになって・・・・・・治す側の気持ちにもなってほしいですよ?それでも貴方は傷付いていた・・・・・・貴方が守りたい私たちを守る為に。自分でも外れていると分かっている私なんですけど・・・・・・限度ってものがあるんですよ。でも、貴方には当たることは出来ない、だってそれは貴方の気持ちを否定することになるから・・・・・・だから、私は、貴方を、私たちを愛しく思って守ってくれる、貴方を否定する者たちを否定する!!」

 

 

 

「私は・・・・・・貴方を愛しています。ユーリを守る為に造られた(うまれた)私が初めて見た貴方は色の無い世界の中で何よりも美しく見えました・・・・・・だから私は貴方に引かれたのです。えぇ、単純な女だと思ってくれても構いません。どの様な形であれ、貴方に注意を向けられるのならそれは私にとっての幸せなのですから。だから、私はお前たちを赦さない。私が惚れた強く、優しく、そして脆い彼を汚すお前たちを赦しはしない。肉片から魂の欠片に至るまで、すべてを余すことなく焼き尽くす!!」

 

 

 

「僕は馬鹿だから難しいことなんて分からない。お兄さんがいろんな事を考えて行動していたことは知ってたけど、どうしてそんな行動をしていたのかの理由は知らなかったんだ。そんな僕だけど、これだけははっきりと分かる。赦せない。お兄さんを傷つけた奴等が赦せない。これが例えお兄さんが考えていたことをメチャクチャにするような事だとしても、僕は奴等が赦せない!!絶対泣かせて、自分のしたことを後悔させてやる!!」

 

 

 

「我らがお前の家族となった日にお前は言ったよな?【家族を守るのは父親である俺の務めだ。だから心配せずに伸び伸びと、健やかであれ】と。だとするならば、家族を守るお前は誰が守るのだ?そんなことは決まっている。お前の家族である我らが守るのだ。だから父よ、我らが守ろう。だから・・・・・・だから、帰ってこい!!愚か者共を血祭りに上げ!!お前の居場所を守ろう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして騎士であることを辞めた烈火の将は、

 

 

自己満足を通すと決めた盾の守護獣は、

 

 

主の幸福を切に願う従者は、

 

 

肯定する為に否定することを選んだ湖の騎士は、

 

 

愛する者を汚す者を焼き尽くすと吠えた星光の殲滅者は、

 

 

怒りに身を任せることを定めた雷刃の襲撃者は、

 

 

守ってくれる者を守ることを誓った闇統べる王は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ーーーーーー告げる(セット)」」」」」」

 

 

復讐のために、英雄の力に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の書の騎士たちが、従者が、マテリアルたちが覚悟を決めていた頃、サーヴァントたちと魔導師たちに挑む影が三つあった。

 

 

一つは黄金に輝く渦を虚空に浮かべ、そこから有りとあらゆる武器を射出し続けている青年。相井神悟が使った王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の本来の持ち主である神々が現存していた時代に初めて人類として王となった英雄、ギルガメッシュ。彼の宝物庫は神悟のしたことに唖然として固まっている魔導師たちではなく、神悟本人とその取り巻き、そしてセイバーとアーチャーに向けて開かれ、納められている財宝を惜しむことなく撒き散らしていた。

 

 

取り巻きたちを守る為に神悟は彼女たちの前に立ち、ギルガメッシュと同じ様に宝物庫を開いて射出される財宝を財宝で迎撃し続けている。しかし本来の持ち主であるギルガメッシュに敵うわけもなく、ただの盗人である神悟は圧されていた。

 

 

本来ならばこの宝物庫は神悟だけに向けられていて神悟は抵抗など許される間もなく蒸発していただろう。しかしそれは出来なかった。何故ならギルガメッシュを狙ってセイバーとアーチャーが斬り込んでくるからだ。

 

 

ギルガメッシュの戦い方と言えば王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から射出される宝具による圧倒的な質量戦。雑多な英雄だろうが名高い英雄だろうが容赦無く蒸発させるような宝具の射撃を浴びせ続ける。そのあり方は宝具の原典と言う名の軍勢を率いる王そのもの。しかし、この場に呼び出されたセイバーとアーチャーにはその戦い方は通じなかった。

 

 

セイバーーーーーーー真名アルトリア。かつてブリテン国を導いたアーサー王。神造兵器にして人々の理想が形になった聖剣約束された勝利の剣(エカスカリバー)を握る彼女は己に降りかかる宝具の射撃をかわし、受け、凪ぎ払う。全ての宝具の原典を持つギルガメッシュからすれば白兵戦に一点特化されたセイバーは相性の悪い相手であった。

 

 

アーチャーーーーーーー真名■■■。時雨から正義の味方、錬鉄の英霊と呼ばれる彼が使うのはごくありふれた魔術であるはずの投影。本来ならば世界からの補正によって形しか作れないはずの投影が、アーチャーの手によって真作に迫る贋作として存在する。アーチャーは自身に迫る宝具の原典を投影し、相殺させている。

 

 

セイバーによる究極の一点特化、アーチャーによる投影の剣群、どちらともギルガメッシュからすれは相性の悪い相手であった。故に神悟にだけ向けられるはずの宝物庫は二人に向けられている。しかし疑問に思うだろう。ギルガメッシュに対して相性の良いはずの二人が、何故宝具の軍勢を乗り越えてギルガメッシュに迫れないのかと?その答えは宝具の軍勢に紛れて動く二つの影にあった。

 

 

セイバーに迫る一つの影、地面に這っているかのように見間違うほど低く保たれた体制はまるで蜘蛛のよう。殺人喜ーーーーーー七夜信喜はそうして宝具を遣り過ごしながら宝具を凪ぎ払っているセイバーに肉薄し、手にしたナイフを人体の急所である首へと振るうーーーーーー!!

 

 

「ーーーーーーッ!?」

「いい反応するね」

 

 

当たると確信したその瞬間、セイバーは自身の保有するスキル【直感】に従って左の籠手を上げて首筋を守る。その結果ナイフは籠手に阻まれて首に届くことはなかった。そして信喜は悔しそうに称賛を送りながら再び地面を這うように動き、必殺の隙を伺う。

 

 

アーチャーに迫る一つの影、背後から高速で飛翔する宝具の射撃など気にも止めずに愚直なまでにアーチャーに接近する様はまるで戦いに喜びを感じる修羅のよう。剣士ーーーーーー高町恭也は殺傷範囲に入った弓兵に目掛けて手にした小太刀二本で凪ぎと突きを見舞う。狙いは人体の急所である首と心臓ーーーーーー!!

 

 

「ーーーーーーハァッ!!」

「届かない、か」

 

 

恭也の接近に気づいたアーチャーはギルガメッシュの宝具と相殺されて砕けた宝具を投げ捨てて自身の愛剣である夫婦剣干将莫耶を投影、首目掛けて放たれた凪ぎと心臓目掛けて放たれた突きを弾く。自身の必殺が払われたはずなのに恭也は嬉しそうに呟きながらアーチャーから距離を取る。その時にもギルガメッシュの宝具を気にも止めていないはずなのに恭也には一切当たることはなかった。

 

 

本来なら、信喜と恭也の攻撃をセイバーとアーチャーは気に止める必要はない。サーヴァントである彼らにダメージを負わせるにはサーヴァントと同じ神秘をぶつける必要があるのだから。それだと言うのに彼らは信喜と恭也の攻撃を防いだ。何故ならば、二人の攻撃は間違いなくサーヴァントである自分達を殺せる一撃だと判断したから。

 

 

「ッ!!こ、のぉ!!」

 

 

神悟によって守られていた取り巻きの一人がギルガメッシュや信喜と恭也ではなく、コトミネの治療を受けている時雨に向けて砲撃魔法を放った。神悟によって与えられた魔法の力、しかし管理局から推奨されるはずの非殺傷ではなく殺傷の機能を持った魔法。守るべき相手に危機が迫れば誰であろうと反応を見せるはず。だと言うのに三人は一別しただけでそれ以外の反応を見せることはなかった。何故ならば、必要ないと分かっているから。

 

 

治療を続けるコトミネと死にかけている時雨に迫る殺傷の砲撃魔法はーーーーーー彼らから5m離れた場所で見えない壁にぶつかったかのように弾かれた。

 

 

「ーーーーーー粛ッ!!」

 

 

いつの間にか治療を続けるコトミネと死にかけている時雨の近くに男が現れ、手で虚空を握り潰すような行動をした。それだけで砲撃を放った取り巻きの周囲の大気が圧縮される。バリアジャケットの守りによって傷は見られないのだがもしそれが無ければ彼女は圧縮された肉塊に成り果てていただろう。

 

 

魔術師荒耶宗蓮ーーーーーー彼は元は一介の僧侶、日本で言うところの坊主に当たる。とある人形遣いは結界魔術を外界と遮断する神域を作る魔術だと言い、それのスペシャリストは坊主であると断言した。その言に外れず、僧侶である荒耶は結界魔術のスペシャリストであり、限られているという前提があるのならば空間操作を容易く行える魔術師であった。現在この場は魔導師の結界によって'限られた空間'になっているならば荒耶がそこに介入して自身の都合の良いように空間操作を行えたとしても疑問ではない。

 

 

ミシリという嫌な湿った音をたてながら圧縮されている取り巻きの一人に気づいた取り巻きたちだったが彼女たちの上空から光弾が雨の様に降り注ぐ。咄嗟にシールドを張るものの、まるで豪雨と見間違う程に降る光弾を前にして一人、また一人とシールドを砕かれて光弾の豪雨に晒されてしまう。

 

 

取り巻き全員のシールドが砕かれたタイミングでようやくそれに気づいた神悟が上を向いて見たものはーーーーーー一人の人間だった。身に纏うのはおとぎ話に登場する魔女が着ている様な暗い色合いのローブ、それをまるで翼の様に広げて飛翔しているのは成熟していない見た目だというのにどこか妖艶な雰囲気を漂わせている少女。その少女は光弾を放ち続け、取り巻きたちが意識を失う寸前のところでそれを辞めて、街灯の上からセイバーの隙を伺っている信喜の側へと降りてきた。

 

 

「もう辞めたのか?キャ()()ター()?」

「えぇ、だって気絶させたらつまらないでしょ?」

「・・・・・・確かにそうだな」

 

 

信喜の少女に対する呼び方でセイバーとアーチャーは気付く。あの少女こそが己を呼び出したマスターを殺害して逃げ出した、この世界に呼び出された魔術師のサーヴァントであるキャスターだと。そしてキャスターの戦いを見て皮肉なことにセイバーとアーチャーはキャスターに見覚えがあることに気づいた。この世界ではない、別の世界によって行われた第五次聖杯戦争、その場で呼び出されたキャスターの戦いに瓜二つであると。

 

 

それと同時に合点がいく。キャスターに親しげに話しかけられた信喜はキャスターのマスターである、そう仮定するのなら信喜の武装にキャスターの魔術がかけられていても不自然ではない。後付けであるといえども神秘を込められているのならサーヴァントに傷を与えられる。

 

 

ギルガメッシュの宝具の射撃が止み、恭也の持つ小太刀を見たアーチャーは、何故あれが自身の殺せる一撃だと判断したのかを察した。

 

 

「その小太刀・・・・・・妖刀か?」

 

 

妖刀ーーーーーー作られた刀が何らかの作用をもって呪詛を孕んだ存在。そうであるのならば呪詛は神秘の存在。であるのならばサーヴァントに傷を与えられる。

 

 

「あぁ、そうだ。刀匠村正と正宗が生涯の最後に打ったとされる小太刀だ。まともな奴じゃ発狂すると言って時雨がくれた物だったがな・・・・・・どうやら俺とは波長が合うらしい」

 

 

刀匠村正、正宗といえば日本人であるのならば聞いたことくらいある名前である。実用品、魔術的な存在どちらをとっても間違いなく一流の品物である妖刀二本を恭也は発狂することなく気軽に振り回していた。それもそうだろう、なぜなら恭也は戦闘狂(戦いに狂っている)のだから。狂っている者に狂っている物を足したところで狂っていることには変わり無い。むしろ調子が良いとでも言いたそうな顔だ。

 

 

「よぅ兄ちゃんたち。何か面白そうなことしてるじゃねぇか」

 

 

まるで偶然出会った友人に話しかけるかの様な気軽さで声をかけ、青い影が手にした紅い槍でセイバーに突きを放った。幸いセイバーの直感が働き、剣の腹で受け止めることで直撃は免れたが威力までは殺しきることができずにビルの壁面へと叩き付けられる。アーチャーがその青い影に注意が行った瞬間、背後から影が迫った。皮の手袋で保護された手で拳を握り、それをアーチャーに叩き付ける。如何に強者で有ろうとも知覚外からの攻撃には反応が遅れる。アーチャーは迫る拳に気がつき、何とか干将莫耶を交差させて受け止めるが体制が整っていなかった為にセイバー同様にビルの壁面へと叩き付けられた。

 

 

「ッハ!!相変わらず人間だとは思えないようなパンチしてるじゃねぇか、マスター」

「ーーーーーーすいません。サーヴァントランサー、ならびにマスターのバゼット・マクミラン。遅ればせながら参上しました」

 

 

青い影ともう一つの影であった女性はそう名乗った。それはつまり、青い影がサーヴァントの一騎であるランサーと、もう一つの影がランサーのマスターであると自身から告げたのだ。キャスターの登場には反応しなかったがバゼットの登場に何か思うところがあったのか、隠れていた遠坂凜とルヴィアゼッタ・エーデルフェルト、その二人を追いかけるようにして衛宮士郎が現れる。

 

 

「バゼット・マクミラン!?どうして貴方がそっちにいるのよ!?」

「知っているのか?」

「知っているも何も・・・・・・私たちが知る限りで最強の執行者ですわ」

 

 

バゼット・マクミラン。古き名家が幅を効かせる時計塔内において、十年前にやって来たアイルランドの名門であるマクミラン家の魔術師。元より異端の集う魔術師協会であるが、彼女の経歴はその中でも一際異彩を放っている。齢十五にして執行者に名を連ね、十年間時計塔から出される封印指定された魔術師の捕縛すべてに成功している。代替わりの激しい執行者に十年も在籍しているのだ。その実力ははかり知れた物ではない。

 

 

「魔術師・・・・・・セイバー、アーチャー、ライダーのマスターたちですね。質問に答えましょう。私の古くからの知人であるコトミネ神父に頭を下げられたからです。彼らの力になってほしいと」

「ランサー!!お前はそれで良いのか!?」

「あぁ、良いね。元々俺たちは過去の人間な訳だ。それが何の因果か現世に呼び出された訳だ。だったらやりたいようにやって何が悪い。俺は強いやつと戦えりゃあそれで十分なんだよ。闇の書の騎士連中と戦うのもいいが呼び出された他の英霊たちと戦えるのも悪くない。それだけの理由だ、小僧」

 

 

士郎の怒鳴り散らすように投げ掛けられた質問にランサーは悪びれる様子も見せずにそう答えた。これがランサーなのだ。聖杯戦争においてもすべてを叶える万能の杯など歯牙にもかけず、ただ呼び出された英霊との戦いだけを望んだサーヴァント。戦えるのであればそれが魔術師側か、闇の書側かなど、ランサーは気にもしない。

 

 

「魔女に獣か、(オレ)の主も妙な奴を引き寄せるものよなぁ」

「・・・・・・英雄王、私のことを魔女と呼ばないでちょうだい」

「すまないな・・・・・・キャスターは魔女と呼ばれることを嫌うんだ」

「獣ね・・・まぁ間違っちゃいないがもう少しまともな呼び方してくれや」

「それはすまなかったな、上部だけの謝罪を詫びよう」

「・・・・・・えらく殊勝ね。貴方本当にギルガメッシュなのかしら?」

「そうだな・・・俺もギルガメッシュを名乗るやつと殺りあったことはあったがこんな素直な奴じゃなかったぞ?」

(オレ)(オレ)だ。例え伝記に如何様な形で書かれていようとも、例え別の世界の(オレ)が傍若無人な振る舞いをしていようとも、この場にいる(オレ)こそが(オレ)なのだ。雑多が何をほざこうが気にも止めぬ」

 

 

キャスターは伝記にあるような性格と違うことに戸惑い、ランサーは自身が会ったことのあるギルガメッシュと違うことに疑問を覚えたが当の本人はそれを些細なことと言って切り捨てた。

 

 

ギルガメッシュ、殺人喜、剣士、それに加えてキャスター、ランサーに現役の執行者と予期もしていなかった増援に魔術師勢と管理局勢は足踏みをしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、

 

 

「「「「「「「ーーーーーー告げる《セット》」」」」」」」

 

 

「「「「「ーーーーーーッ!?!?」」」」」

 

 

空気が変わる。それは決して良くないものに。放たれたキーに聞き覚えのあった魔術師勢は同時に同じ方向を見る。そこには死にかけている時雨、彼の前に立つ闇の書の騎士たちと彼の従者、そして正史においてこの場に存在しないはずのマテリアルの姿があった。

 

 

「汝の剣!!汝の命運!!全て余さず我が手中に来たれ!!」

「我が理、我が思想に共感するならば応じよ!!」

 

 

詠唱などという厳かな物ではない。ただの叫び、慟哭に近いそれを魔術師たちは知っていた。

 

 

「我らここに誓おう!!」

「我ら此の世全ての善を否定し!!」

「此の世全ての悪を肯定することを!!」

 

 

それはサーヴァント召喚の詠唱。所々にアレンジが加えられている物のその目的は同一。すなわち、理外の力を得ようとしていること。

 

 

「汝は三大の言霊に反逆せし七天!!」

「抑止の環より抗え!!」

 

 

ここにしてセイバーとアーチャー、そしてライダーと霊体化していたバーサーカーにアサシンが動いた。あれは不味い、理解できていないがあれを完遂させてはならないとーーーーーーもはや本能と言っても良いレベルの判断で向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「ーーーーーー天秤の担い手よ!!!!」」」」」」」

 

 

吹き荒れる魔力の暴風、それを意にも介せずにサーヴァントたちは突っ込んでいき、セイバーは剣を、アーチャーは夫婦剣を、ライダーは戦車(チャリオット)を、バーサーカーは戟を、アサシンは短刀を、己が武器を振るうーーーーーーが、届かなかった。

 

 

セイバーの剣は黒く染め上げられた剣に防がれ、

アーチャーの夫婦剣は拳に砕かれ、

ライダーの戦車《チャリオット》は石になったかのように固まり、

バーサーカーの戟は石斧に弾かれ、

アサシンの短刀は長刀によって払われた。

 

 

視界が遮られる程に濃厚な魔力が無くなった頃になってようやくそれを視認することはできた。

 

 

烈火の将は黒く染まり、

 

盾の守護獣は朱色の胴着を纏い、

 

湖の騎士は数々の本を携え、

 

従者は無機質な黄金の眼を見開き、

 

星光の殲滅者は体躯よりも遥かに巨大な石斧を持ち上げ、

 

雷刃の襲撃者は自身とほぼ同じ長さの長刀を構え、

 

闇統べる王は杖を握る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここに、闇の書の主である時雨に従う者たちは、敵であるサーヴァントと同じ力を宿した。

 

 

 






長々と書いて後書き説明会無しです。ここは自分の持っている予備知識を使って想像を膨らませてください。

因みにカードを使ったのはシグナム、ザフィーラ、シャマル、リニス、シュテル、レヴィ、ディアーチェの七人です。誰がどのサーヴァントか、分かるかな?(震え声)

そして御門君とワラキアにもカードは行っていますがこれ以上書くとダラダラと長くなりそうなのでここで切ります。二人のカードを予想してみよう!!ちなみに二人のカードはもう決まっているので「~~のカードを使ってほしい!!」というような意見をいただいたとしても反映できません。まぁそれが正解だったらそうなるんですが・・・・・・


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