調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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今回はほのぼの系になればいいなと思って書きました


読んでいる読者が砂糖を吐くほどに甘い話を書いてみたい・・・・・・っ!!


第8話

 

 

あのジュエルシードの暴走による大樹の発生から一夜明けた、時間的に言えば月曜日の朝、目が覚めると同時に異常なまでの体のダル気と喉の痛み、そして頭痛が俺を襲った。魔女狩りの王を無理に使ったことによる副作用かと思いながら体を起こす。そして着替えようとしてベットから立ち上がると、

 

 

「はぁ?」

 

 

力が全く入らずに体が崩れ落ちた。え?なにこれ?シャレにならないんですけど?いくら力んでも足どころか腕に至るまで力が入らない。

 

 

「時雨、朝ですよ・・・・・・っ!?時雨!?」

「おはようリニス・・・どうしてだかだるくて力が入らないんだが?」

「すぐにシャマルを呼んできます!!」

 

 

床の冷たさを味わいながらドタバタと響く足音を聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪、ですね」

 

 

時雨の診察を終えたシャマルがリビングで待っていた家族全員に診察の結果を告げる。

 

 

「昨日のシグナムとの戦闘から間を置かずにジュエルシードですか?それの封印、加えて防御のために大魔法クラスの魔術の行使。これらの疲れが一気に出てきたと思います。熱はあるみたいですが意識ははっきりしているのでゆっくり休ませれば回復するでしょう」

「シャマルが本来の仕事してるの久しぶりに見た気がする」

「怒りますよ?ヴィータ」

「同感だ」

「私もだ」

「シグナムにザフィーラまで!?」

 

 

ヴィータの純粋な感想に追従するなシグナムとザフィーラの発言にシャマルは精神的なダメージを受けて床に手を着き項垂れる。

 

 

「にしてもお父さんが風邪ひくなんて珍しぃな」

「そうですね。少なくとも私は時雨が体調を崩しているところなんて一度も見たことがありません。あ、二日酔いは別ですよ」

「それでも「頭いてー頭痛がいてー」言いながらいつもとかわらんように動くけどな」

 

 

時雨が風邪を引いたというのにはやてとリニスはいつもと変わらない様子で話し合う。若干時雨が不憫である。

 

 

「まぁお父さんが風邪ひぃたんはしょうがないことや。今日一日ゆっくり休ませたろ」

「なら私はお粥作りますね」

「あの、私たちはどうしたら?」

 

 

いくら闇の書の騎士とはいえこういった時の対処法は心得ていなかったらしく、珍しく困り顔でシグナムははやてに指示を仰いだ。

 

 

「そうやなぁ・・・・・・取り合えずシャマルはお父さんの部屋に近づかんといて」

「どうしてですか!?」

「最近お父さんがシャマルの扱い方が分からんゆうてストレートのウイスキーらっぱ飲みしながら愚痴っとったから」

「OH SIT!!」

「あとは皆交代しながらお父さんの様子見たっといてな。いつも皆のために頑張ってくれるから今日は私たちがお父さんのために頑張ろうな?」

 

 

切り返しに頭を抱えながら叫ぶシャマルを無視しながらはやては指示を出す。見事なまでに色物枠に染まってきているシャマルを視界に入れないようにしながら闇の書の騎士たち三人は頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっべ、暇だ」

 

 

場所は変わって時雨の寝室、シャマルに風邪宣告された時雨はベットの上で横になっているが暇を持て余していた。時雨は風邪を引くなどほとんど経験したことがないため、こうしたときにどうしたらいいのか分からないようだ。

 

 

「取り合えず言われた通りに寝てるか。腐っていても医療系のスペシャリスト様の言葉だし」

 

 

一先ず肩まで布団をかけてもう一度寝ることにする時雨。

 

 

「父ちゃん元気か!」

「うん、風邪引いてるから一概には元気と言えないね」

 

 

そこへヴィータが突入した。シグナムとザフィーラはどう看病したらいいのか分からなかったために出遅れたらしい。

 

 

「そうか、なにか用があったら私に言えよ!」

「うん、分かったよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

沈黙が続く。

 

 

「なにかない?」

「大丈夫だよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

沈黙が続く。

 

 

「なにかない?」

「大丈夫だよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

沈黙が続く。

 

 

「なにかない!!」

「アイスでも食べてきたら?」

 

 

寝ることが出来なかったのでヴィータを優しく追い出すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼する」

「ようザフィーラ」

 

 

ヴィータを部屋から追い出して数分後、今度はザフィーラがやって来た。手にはカットされたリンゴが乗せられたお盆がある。

 

 

「病人は栄養を取ることが大切だからな、リンゴを持ってきた」

「そいつはありがたい」

「では」シャリシャリ

「おい待てやゴラ」

 

 

時雨が突っ込むのも無理はない、時雨のために持ってきたと言ったリンゴをザフィーラが自分で食べたからだ。

 

 

「ん」

「だから待てやコラァ!!」

 

 

そしてそのまま顔を時雨の顔に近づけるザフィーラ。流石にこれは無視できないために時雨はアイアンクローでこれを阻止する。

 

 

「何で口移しでたべさせようとしてるの!?おとーさん怒らないから訳を言って!!」

「ングッ。シャマルが病人にはこうして食べさせるのが一般的だと」

「シャマルぇ・・・・・・」

 

 

風邪を治したらシャマルにお仕置きすることを決めた時雨はザフィーラからリンゴを奪い取り口に運ぶ。

 

 

「確かにそう言う食べさせ方もあるけど俺には必要ないからね」

「了解した」

 

 

ザフィーラに新しいことを学習させて満足しながらリンゴを食べ終えるとゾクゾクと寒気が襲う。どうやら今のやり取りで熱が上がったらしい。

 

 

「寒いのか?」

「少し熱が上がったみたいだ。心配しなくても重ね着すれば・・・・・・って!!何で服脱いでんのぉぉぉぉ!?」

 

 

何の前触れもなく服を脱ぎ出したザフィーラに慌てて目を反らす時雨。白いブラとショーツ姿のザフィーラを目にしたとしても彼に一切の責任はない。

 

 

「寒いときには裸で暖めるのが普通だとシャマルが」

「シャマルぅぅぅぅぅう!!!何ふざけたこと教えてるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!ザフィーラ良くも悪くも純粋っ娘だからマジで信じちゃってるじゃないのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

「さぁ時雨も服を脱いで」

「脱がねぇよ!!こっち来んなぁ!!あちょ!?力入んないからマジで止めて!!」

「時雨、お粥ができま・・・・・・」

 

 

その時、お粥を手にしたリニスが部屋のなかに入る。その時の状況を簡単に纏めてみよう。

①半裸のザフィーラ

②ザフィーラに服を脱がされかけてる時雨

③二人はベットの上、ザフィーラが上で時雨が下

結果、

 

 

「・・・・・・一時間ぐらいしたらまた来ます」

 

 

盛大な勘違いをしながらも笑顔を崩さないでリニスは部屋から出ていった。

 

 

「リニスはどうして出ていったのだ?」

「お前も出てけやぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

風邪で弱っている体を酷使して時雨はザフィーラを部屋から追い出した。ちゃんと服を着せてから追い出した辺り時雨の優しさが見える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

「おう・・・今度はシグナムか」

 

 

病気だというのに寧ろこちらを攻め立てるような勢いでやって来ていた前二人のせいか不機嫌さを隠すことなく対応する時雨。シグナムの目には心なしか・・・いや、確実に時雨が疲れているように見えた。

 

 

「すいません、ヴィータとザフィーラが」

「いや裏目に出たけど二人はこっちを気遣ってしてくれてんだ、一応感謝はしてる。でもシャマルは駄目だ」

「ザフィーラから事情は聞きました。今はやてとリニスがシャマルの秘蔵の本を燃やすとか言って庭に出ています」

 

 

なるほど、確かに耳を済ませば何かが燃える音とシャマルの悲鳴が聞こえてくる。いい気味だと時雨は密かに笑った。

 

 

「にしても汗でベタついて気持ち悪いな、シャワーでも浴びてくるか?」

「そう言うと思ってお湯とタオルの準備をしてきました」

「シグナムナイス」

 

 

ザフィーラとのやり取りのせいか熱のせいか汗まみれになったシャツを脱いでシグナムからタオルを受け取ろうとするが、

 

 

「私が拭きますから動かないでください」

「お、おう」

 

 

シグナムはこれを拒否、ベットに登って時雨の背中をタオルで拭き始めた。この行動に一瞬困惑する時雨だがタオルを濡らしたお湯の温度の心地好さに抵抗を止めてなすがままにされることにした。

 

 

「はぁ、気持ちいいなぁ」

「ありがとうございます」

「・・・・・・看病ってこんな感じだよな、お父さん嬉しくて涙出ちゃいそうだよ」

「・・・どんな扱いを受けたのですか」

「ヴィータは兎も角シャマルの指示を受けたザフィーラが酷かった。そして俺の中ではシャマルのフルボッコはすでに確定している」

「後で紫電一閃を叩き込んでおきます」

「是非とも頼む」

 

 

然り気無くシャマルの死が決定している中でシグナムは時雨の体を観察していた。一見してみればほとんど肉が着いていないように見えるのだが実際にはよく絞り込まれた筋肉が皮膚で覆われている。タオル越しに触れた感触からしなやかで軟らかい実用的な筋肉であることがわかる。

 

 

「(一体どのようにすればこんな体つきになるのだ?)」

「もう後ろはいいよ、前は自分でするからタオル貸してくれ」

「あ、はい。分かりました」

 

 

そう返事をしてタオルを一度洗おうとした時にシグナムはシャマルの言っていた戯れ言を思い出してしまった。

 

 

『あらシグナム、今度は貴女の番なのね』

『ああそうだ、汗をかいているかもしれないので体を拭くつもりだ』

『体を拭く、ねぇ』

『シャマル、どうしたのだ?』

『なんでも無いわよ?ただ気を付けてね、部屋で男女二人っきりなんだから』

 

 

どうしてこのタイミングで思い出してしまったのだろうか。時雨と部屋で二人っきり、しかも他の家族は時雨を気遣って用がない限り部屋に近づこうとしない。平行世界における他のシグナムであれば馬鹿馬鹿しいと言って一蹴するかもしれないがこの世界におけるシグナムは乙女だ。一度意識してしまえば思考の渦に捕らわれる。

 

 

「(な、何故このタイミングで思い出してしまうのだ!?第一時雨は病人で我らの主で!!・・・・・・そう言えばシャマルが貸してくれた本の中に騎士と姫の身分違いの恋愛が書かれていた。あれは羨ましいとは思うが・・・・・・っ!!だから何を考えているのだ私はっ!?!?)」

「シグナム?どうしたんだ?」

「っ!?なんでもありませんわよ!?」

「ほんとどうしたのさ!?」

 

 

シグナムの返事から何故かテンパっていることを知った時雨だったが風邪で体がダルかったので構わないでおいておく。そしてシグナムはお湯の入った桶を持って時雨の元へ向かおうとした。しかしここで思わぬ事態が発生した。

 

 

「きゃっ!?」

「あ」

 

 

シグナムが足を滑らせたのだ。それだけならまだ良かったのだが問題はシグナムが持っていた桶、シグナムの手元を離れた桶は放射線を描きながら飛んでいき時雨が寝ているベットの上にお湯をぶちまけた。幸いだったのが桶の中のお湯が適温で時雨が火傷をしなかったことだろうか。

 

 

「す、すいません!!大丈夫っきゃっ!?」

 

 

起き上がったシグナムはすぐに時雨の元に向かおうとするがここでまたしても不運が一つ、先程まで使われて桶の中に入っていたタオルが床の上に落ちていてシグナムはそれを踏んでしまった。そ し て ま た 足 を 滑 ら せ た。足を滑らせたシグナムは野球で言うところのヘッドスライディングよろしくベットへ、もっと言うならお湯を被って濡れていた時雨に盛大なダイブをかました。

 

 

「きゃっ!?」

「ふごっ!?」

 

 

弱っていた時雨にダイブを避けられる術はなくシグナムに豊満な胸を押し付けられるような形で押し倒された。それは奇しくも昨日のシグナムとの試合のあとの光景に良く似ていた(第6話参照)。

 

 

「時雨!?今の音はいった・・・・・・」

 

 

ここでドタバタとした音を聴いたリニスが料理中だったのかエプロン装備で部屋に突入する。そこで目にしたのは半裸の時雨がシグナムに押し倒されている光景。思考の停止は一瞬、自分なりに状況を把握したリニスは迷うことなく考えを口にした。

 

 

「・・・・・・私も参加しましょうか?」

「どうしてそうなった!?」

 

 

時雨の突っ込み、説明を受けたリニスは意気消沈しているシグナムを連れて部屋から出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んあ?」

 

 

深夜に時雨はリビングのソファーの上で目を覚ました。どうしてここに寝ていたのかと言えばシグナムの看病の際にベットわびしょ濡れにしたからである。

 

 

「ん~!体は軽いし熱っぽさも無いな」

 

 

軽く体を柔軟で解しながら体調を確認する。一日のほとんどを寝て過ごしていたからか体調の悪さは全くといっていいほど感じられない、寧ろ良くなったと思っているくらいだ。

 

 

ここまで来て時雨はどうしようか考えた。一日中寝ていたから眠気はない、朝が来るまでは少なくとも六時間といったところ。やることがないなと感じていた時雨だったが窓から覗いた夜空を見て月見酒をすることに決めた。足音を立てずに自室に向かい、コトミネからもらい受けた秘蔵の酒の入った瓶を抱えて屋根の上に登る。

 

 

「これはまたいいタイミングだったな」

 

 

夜空に浮かぶのは落ちてくると錯覚しそうなほどの大きな満月、その回りに輝いている星もあって時雨はこの光景を素直に綺麗だと感じた。満月を眺めながら酒瓶に口をつけて酒をあおる。口内を焼き、食道を焼き、胃に落ちる感触を楽しみながら時雨は瞬く間に一本目は空けた。

 

 

「そんなハイペースで飲んでいてはいけませんよ?」

「ん、あぁリニスか」

 

 

二本目を半分近く空けた頃にリニスが現れた。いつもの格好とは違い寝間着らしい薄手の格好で時雨の隣に座る。

 

 

「今日はお疲れ様でした。色んな意味で」

「本当だよ、あれもこれもシャマルが悪いんだ・・・っ!!」

「取り合えずシャマルが持っていた秘蔵の本をすべて焼却処分とお小遣いを減らすことにしました」

「まぁ妥当っちゃ妥当かな?」

 

 

今さらになるのだが時雨とリニスの関係は使い魔とその主で二人の間にはリンクが繋がれていてお互いのことをある程度察知できるようになっている。だからリニスは時雨がシャマルのことで本気で苦労していることを感じていた。

 

 

「それにしてもザフィーラとシグナムが時雨に迷惑をかけたとかで落ち込んでいましたよ」

「ん~別にバタバタとしていたけど俺としては迷惑とは思ってないんだけどな。それにしてもザフィーラとシグナムに事故で押し倒されたのを目撃したときの反応は何だよ?特にシグナムの時の」

「でも満更でも無かったですよね?」

「あ~あ!!出会った時の綺麗なリニスはどこに行ったんだかねぇ!!」

「時雨に染められた結果です♪」

「・・・なんかエロいから人前では言わないようにな」

 

 

気まずくなったのか恥ずかしくなったのか、時雨はそっぽを向いて酒瓶をあおろうとしたがリニスに取り上げられる。文句を言おうとしたが次に手渡されたのは空のグラス、リニスの意図を察知してグラスを差し出せば透明な液体がグラスの中に注がれる。リニスも自分のグラスの中に酒を注ぎ、お互いのグラスを軽くぶつけ合って静かに乾杯をして酒を飲んだ。

 

 

「嗚呼、こういうのを幸せって言うんだろうな」

「ふふっ、そうですね」

 

 

いつの間にか寄り添っていたリニスの体温を感じながら時雨は酒を味わう。夜空に咲いた満月を肴にした主従二人っきりの宴会は静かに続くのであった。

 

 

 






なんか最後が最終回っぽくなったけど・・・・・・まだまだ続きますよ?


というわけで今回は時雨の看病回でした。


ヴィータちゃんは兎も角ザフィーラとシグナムは時雨を思っていただけに空回り感が強いですが時雨は迷惑だとは思っていません。寧ろ看病しようと頑張ったことにかんして好感度が上がっています。


その代わり?ですがシャマルの好感度は偉い勢いで下がっています。すべてシャマルが悪いんや・・・・・・っ!!


そして最後に美味しいところをかっさらうリニスさん。あざとい?いいえ、これが正妻ポジションの力です(震え声)



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