調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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第71話

 

 

 

 

 

最初に異変に気づいたのはアーチャーと魔術師として半人前なはずの衛宮士郎だった。アーチャーは突然霊体化を解いて二人の前に立ちはだかり、士郎は顔をしかめて足を止める。

 

 

「アーチャー?どうしたの?」

「待て・・・・・・何かおかしい」

「なんだこれ・・・・・・」

 

 

一流の魔術師である遠坂凜は気づいていないがサーヴァントであるアーチャーと何故か知らないが士郎だけは異変に気付いていた。今この瞬間、何かが行われていると。

 

 

【ここは少女の夢の中】

「っ!?」

「誰!?」

 

 

廃工場内に響くように聞こえてきたのは三人ではない何者かの声。そしてその声の主は凜のあげた疑問の声に応じること無く言葉を紡ぐ。

 

 

【少女が夢見た夢の国】

 

 

【動物走り、鳥空飛ぶ】

 

 

【この国にはなんだってあるのさ】

 

 

【何故ならここは少女の夢の中なのだから】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで子供に語り聞かせるように優しい声色で言葉は続けられる。凜とアーチャーは警戒し、士郎は訳のわからない違和感に苛まれながら膝をついた。そしてアーチャーと士郎が気付く、世界が()()()()()()()()()()()()

 

 

【さぁアリス、ウサギを追いかけようか】

 

 

最後の言葉が耳に届いた瞬間、世界が書き換えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは・・・・・・」

 

 

不快感が治まった士郎の目に飛び込んできたのは埃っぽい廃工場の通路ではなく鬱蒼と覆い繁った森だった。霧があるのか少しボヤけて見えるがそれを差し引いても木々の間から溢れる差し日は幻想的、まるで童話の世界に飛び込んでしまったかのような感覚に陥った。

 

 

「嘘・・・・・・これって・・・・・・固有結界?」

「固有結界・・・?」

 

 

聞き慣れない言葉に士郎は思わずおうむ返しで凜に尋ねるが凜の顔には大粒の汗が浮かんでいてどう見ても芳しく無いことが読み取れた。

 

 

「・・・・・・術者の心象風景を具現化して世界を書き換える大禁呪よ。まさか工房じゃなくて固有結界で仕留めるつもりとはね」

「固有結界であるなら術者もこの中に取り込まれる。それを倒してしまえば良いだけの話だ」

「シロウ、私から離れないでください」

 

 

アーチャーといつのまにか現界したセイバーが戦闘体制に入りながら周囲を警戒する。固有結界は術者の内部その物、つまり今の四人は時雨の体内にいるに等しかった。

 

 

そして警戒をしながら森の中を進む士郎たちの前にーーーーーー

 

 

「いっそげ~いっそげ~!!お茶会に遅刻しちゃう~!!」

 

 

一匹の白兎が通りすぎていった。それを見た四人は思わず呆気に取られてしまう。そのウサギの格好はタキシードの上だけを羽織り、賢そうに見える眼鏡をかけーーーーーーそして何より、動物だというのに二本足で立って走っていたのだから。

 

 

「ーーーーーーなぁ遠坂、今のなんだ?」

「・・・・・・ウサギじゃないかしら?」

「・・・・・・ウサギって立って走れたっけ?」

「知らないわよ!!そんなこと私に聞かないでよ!!」

 

 

二人が取り乱すのも無理はない。普通の教育を受けた人間であるなら動物は喋らないことも知っているし、二本足で立って走れないことも知っているのだから。まさかの常識をぶち壊す存在に出会ったことで混乱している魔術師たちに対してサーヴァントたちは冷静だった。何故ならここは普通の世界ではなく術者の心象風景が具現化した固有結界の世界だと理解していたからだ。それを弁えれば動物が立って走る程度は生温い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーねぇ、お兄ちゃん?」

「ーーーーーーねぇ、お姉ちゃん?」

 

 

突然聞こえるのはこの場にそぐわない幼い声、そしてその声の方から服の袖を引っ張られたこともあり、凜と士郎は弾けるように振り返った。振り返った先にいたのは白と黒の色違いのドレスに身を包んだ二人の少女。恐らくは双子なのだろう、二人の容姿はまるで鏡合わせのように全く同じだった。

 

 

「・・・・・・子供?」

「気を付けなさい衛宮君、これも八神時雨の罠かもしれないわよ」

「お兄ちゃん、ありすと遊ぼ!!」

「お姉ちゃん、アリスと遊ぼ!!」

 

 

警戒する凜と士郎だが二人の少女はそんなことなど意にも介せぬ様子で無邪気に二人に遊ぼうとせがんでいた。この純粋さに毒気を抜かれたのか凜はやれやれと言いたげな表情でしゃがみこみ、二人の少女ーーーーーーありすとアリスに目線を合わせた。

 

 

「ごめんなさいね、私たちいそいでいるの。だから貴女たちと遊んではいられないのよ」

「鬼ごっこしようよ、ねぇアリス(わたし)

「それはいい考えね、ありす(わたし)

 

 

しかしありすとアリスは凜の言葉など端から求めていないのか、勝手に自己完結をして遊ぶ内容を決め始めた。流石にこの傍若無人ぷりに注意しようと士郎が口を開こうとした時、

 

 

「わたしたちだけだと寂しいからお友だちを紹介するね!!」

「わたしとありす(わたし)のお友だち、きっと貴女たちともお友だちになれるわ!!」

「おいで!!ジャバウォック!!」

「遊んでくれるお友だちが来たわよ!!」

 

 

ズシンと、森の奥底から響く鈍い音。そしてその方向から放たれる濃密な殺意。それに気づいた凜と士郎はとっさに飛び退き、セイバーとアーチャーが二人を守るように前に出る。英霊二人が臨戦態勢に入るほどの驚異が近づいているのにありすとアリスは楽しくてしょうがないといった表情を欠片も崩していなかった。

 

 

「正体不明で消息不明!!」

「火をふく竜とか!!雲着く巨人!!」

「「さぁ!!おいで!!ジャバウォック!!」」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA !!!!」

 

 

ありすとアリスの合いの手に合わせるようにして、森の木々を薙ぎ倒しながら()()が現れた。目測で3mを優に越す巨体にドス黒く紅い肌色、そして何より理性など感じさせずに周囲に殺意をばら撒く姿を見て、サーヴァントたちがあるクラスの英霊を思い浮かべるのも無理はなかった。

 

 

「あれは・・・・・・!?」

「バーサーカーだとでもいうのか!?」

 

 

バーサーカー、それは正気を感じさせない生き様から理性と引き換えに強大な力を得た英霊のクラス。彼女たちにも呂奉先というアインツベルンのマスターが呼び出したバーサーカーがいる。そして原則としてサーヴァントは七クラスでそれぞれのクラスから一体ずつ呼ばれる。もう呂奉先というバーサーカーがいるのに新たなバーサーカーが現れたことにサーヴァントたちは驚愕した。

 

 

「さぁ鬼ごっこを始めましょ?」

アリス(わたし)たちが鬼だから、簡単に捕まらないでね?」

「捕まえたらどうするの?」

「女王様みたいに首を切っちゃうの!!」

「きゃあこわい!!でも見つかったら怒られないかな?」

「ママから借りた針と糸があるから大丈夫よ!!バレちゃう前に縫ってあげましょう」

「ママみたいに上手くできないけど大丈夫かな?」

「大丈夫よありす(わたし)。きっと誰にもバレないわ」

 

 

ジャバウォックと呼ばれた狂獣の方に乗りながらありすとアリスは楽しそうに話していた。サーヴァントたちと魔術師たちが恐れる怪物であっても二人にとっては大切な友達なのだ。好き近づくことはあっても、恐れ離れることなど無い。

 

 

「それじゃあ鬼ごっこを始めましょ?」

「捕まえたら首を切っちゃうから」

「「捕まらないでね?お兄ちゃん、お姉ちゃん?」」

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 

まるで汚れを知らない無垢な笑顔を浮かべたままで二人の少女はそんな残酷な言葉を囁き、怪物はそれに応えるように咆哮をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャバウォック・・・・・・やっぱり怪物といえばこいつだよな」

 

 

廃工場の一室にて、時雨は鏡越しにジャバウォックと二人の少女に追いかけられているサーヴァントと魔術師たちの姿を見ていた。魔術師たちは逃げの一択、怪物のことなど振り向きもせずに一心不乱に前に走っている。サーヴァントたちはジャバウォックから伸ばされる手をそれぞれの武器で弾きながら逃げている。木々を縫うように逃げる四人に対して木々を凪ぎ払いながら追いかけるジャバウォック、それはまるでサバイバルホラーで怪物に追いかけられている主人公たちを見ているような気持ちだった。

 

 

「こっちはこれで時間は稼げる。ワラキア、DB、不忍(しのばず)たちも無事に全資料設備を持って逃走を終えた・・・・・・あとはどこまで削れるかだな」

「ゥゥゥゥゥウ・・・・・・」

 

 

無表情のままで鏡を眺めている時雨をみていたのはフードで顔を隠し、体に壊れた拘束具を着けた人物。彼は時雨から独立した分割思考の一つ、その獣性から付けられた名前は(ネロ)といった。

 

 

「暴れられなくて不満か?それはすまないと思うが我慢しろ。ここで一人でも潰されたら拮抗が保てないからな。まぁ・・・・・・いざと言うときの為に切り札は渡してあるけど」

 

 

時雨にそう言われて(ネロ)は胸ポケットに納められている時雨から渡された切り札に手を添えた。(ネロ)の本質はその名の通りに獣であるが、時雨から独立した時に【考えること】を覚えた。その思考のレベルは人間には及ばず、考えることができる獣程度である。しかしそれでも(ネロ)は時雨の思いを理解していた。

 

 

(はやて)を助けたい、だがその過程で大切なものたちを誰一人として亡くしたくない。

 

 

ワガママだと蔑む人はいるかもしれない。しかし(ネロ)はその時雨の考えをどこか愛おしい物のように思っていた。だから(ネロ)は時雨の言葉に従って部屋の隅に下がった。それを見た時雨が再び鏡を見ようとしたとき、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aaaaaaaalalalalalalalalalalalalalalalalalala lalalalalalalalalalalalalalalalalala !!!!!」

 

 

爆音と共に、部屋が爆ぜた。そしてそれと同時に降り注いでくる瓦礫と雷撃。屋根は無くなり、外部と内部を隔てる壁は消し飛ばされ、時雨のいた部屋を遮る物は全て無くなった。

 

 

「ーーーーーーーーーーーー夜襲とは恐れ入るよ」

 

 

そんな中で時雨は襲撃時と変わらない格好でソファーに座っていた。時雨は襲撃に気付くと同時に障壁を張っていた為に無傷だった。(ネロ)はその襲撃をかわすことが出来たのだがわざとせず、瓦礫の下で気配を消して機を伺っていた。襲撃者の正体はライダーだった。ライダーは戦車(チャリオット)に乗って上空から時雨のことを見下ろしている。

 

 

「なに、戦であるならば夜襲強襲は常であろう?」

「流石は覇道を謳う征服王の言葉だ、戦術をかじった程度のガキに比べて言葉の重みが違う」

「ほぅ、貴様余の真名を知っているのか?」

「他の奴に比べればお前のは分かりやすかった。宅配物のサインにアレクサンダーと書いていると聞いたときには噴き出すかと思ったぞ」

「ぬぅ!?そこまで知っておるのか!!大した情報収集能力よ!!」

「お褒めいただき恐悦至極、とでも言えばいいのか?俺は臆病者でな、もしかすると、ひょっとすると英霊連中と戦うことになるかもしれない、そう考えると夜も眠れなくてな、そうなった時の為に情報を集めていたんだ。役立つことがないことを祈っていたんだがまさか役立つとはな」

「ガハハハ!!面白い奴よ!!どうだお主、余と共に征服をーーーーーー」

「いい加減にしてくれませんこと!!ライダー!!」

 

 

ライダーこと征服王イスカンダルが時雨を臣下に誘おうとしたところでライダーのマスターであるルヴィアゼッタ・エーデルフェルトが怒声で遮る。よく見れば顔色は優れていないが怒りでなんとかといった具合でライダーに噛みついているのだった。

 

 

「あの男は封印指定、加えて闇の書に関わりがある疑いがあるのですよ!!勧誘なんて持っての他ですわ!!」

「・・・・・・だ、そうだ。すまんな」

「気にしてないさ。どちらにしろその勧誘は断るつもりだからな」

「ーーーーーーそうかい」

 

 

その言葉を境にライダーの雰囲気が変わる。時雨のことを勧誘する対象から蹂躙する敵と認めた証だった。それなのにライダーの殺意を受けてなお時雨の態度はかわりない。ソファーに座ったまま、【Alice in wonder land】と背表紙に刻まれた本を開いている。

 

 

「ーーーーーーーーーーーーいざ行かん!!神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)!!!!!」

 

 

ライダーの叫びと共に戦車(チャリオット)が雷鳴を轟かせながら時雨に向かって突進する。宝具による突進、先程の余波は障壁で防げたが直撃ともあれば流石に防げないだろう。

 

 

だから、時雨は別の手でライダーの宝具に対抗することにした。

 

 

時雨はライダーの突進と同時に床にあった本を蹴りあげて手元に持ってきた。それは小説ではなくコミックと呼ばれる娯楽物の本。赤いブックカバーが特徴的な本を時雨は迷うこと無く開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たれ、神の代行者よ」

 

 

そしてその本のタイトルには【HELLSING】と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーおいおい、こりゃあなんの冗談だ」

 

 

いつもの態度ではなく冷や汗混じりの汗を流しながらイスカンダルは呟いた。万敵をも凪ぎ払うはずの神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)による突進。それが時雨の前に立つ一人の男によって防がれていた。その男が握る二本の剣が戦車(チャリオット)を率いる戦牛の角に触れているが止められた原因はそれではない。男の持っている剣と同一の剣が車輪を地面に縫い付けるような形で突き刺さっているのだ。

 

 

その判断力も去ることながらライダーに冷や汗を流させている原因はそれだけではない。この男は突然何もない空間から現れたのだ。空間転移を可能にするような道具も魔法陣も見受けられない。

 

 

聖堂騎士(パラディン)、殺し屋、銃剣(バイヨネット)、首斬判事、天使の塵(エンゼルダスト)、与えられた二つ名は数知れず。しかし求めるものはそんな称賛にあらず」

 

 

ライダーは改めて現れた男を見る。来ているのは神父服、手に握られているのは二振りの銃剣、眼鏡のかけられた顔の口はーーーーーー異常なまでに吊り上げられていた。

 

 

「その身はただの銃剣であれはよかった、ただの化物を滅するための弾丸であればよかった。己が信仰に生きるがいい狂信者よ。敵は前にいるぞ、汝らの神を冒涜する異教徒は眼前にいるぞ」

 

 

ライダーは戦牛を暴れさせることで縫い付けられた銃剣を引き抜き、神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を解放することに成功した。それを見ても男はライダーを追わずにただ、両手に持った銃剣で火花を散らしながら十字架を作った。

 

 

「汝の使命を果たせ、アレクサンド・アンデルセン神父よ」

「ーーーーーーAィィィィィmen(エィィィィィメン)!!!!」

 

 

今ここに、法皇丁(ヴァチカン)が持つ唯一にして最強の戦力、イスカリオテ(ユダ)の名を持つ存在しないはずの第十三課、異端殲滅のプロフェッショナルたちの中でも対化物(アンチフリークス)の切り札とされている男が顕現した。

 

 

 





~固有結界虚構現実(リアルフィクション)
一次元ダロウガ二次元ダロウガ纏メテ三次元二御招待!!作リ話(フィクション)現実(リアル)二変エテ、夢ノ国ヲ作リマショウ!!
文字通りに固有結界内に存在する物語を現実として存在させる。物語というカテゴリーであるならそれが小説だろうがマンガだろうが実現化させることができる。ただし、術者がその実現化させる本を開いていることが発動条件。世界全てを再現するのは固有結界内限定だが、登場人物数人程度なら固有結界から出して顕現させることができる。宝具のランクとしてはA+相当。

~ありすとアリス
見た目はextraに登場するありすとアリスのまんま。あの子達の最後に作者は涙しました。

~ジャバウォック
正体不明で消息不明
火をふく竜とか雲着く巨人、
トリックアートは影絵の魔物。
けだし、大人の話はデマカセだらけ。
真相はドジスン教授の頭の中に。
ARMSのジャバウォックを思い浮かべた人、頑張って反物質を作ってください。
??『力がほしいか?』←やめてください

~アレクサンド・アンデルセン神父
OVAの若本ヴォイスこそが至高也。アニメ番のアンデルセン?知らない子ですなぁ?

感想、評価をお待ちしています。


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