「はっ、聖堂教会の番犬のお出ましかい」
「教会の番犬?」
さっきまで楽しかったはずのデートが一転し、神父服の集団に死刑宣告をされてしまった。何を言っているとか聞かれるかもしれないがこれは事実なので了承してほしい。そしてこの場で言えるのはこの神父どもは俺のことを狙ってやって来た敵で、アルフはそれに巻き込まれたということだ。
「そう、教会の番犬、異端者を殺すために異端であるはずの魔術を使って異端者を殺す異端の集団。異端審問会だとか代行者とか呼ばれてる殺しのプロだよ」
「それってこっちで言うところの管理局みたいな?」
「まさか、それよりも質が悪い」
管理局であるなら出てきたとしても捕縛が関の山だろう、しかしこいつらは出てきた時点で殺すことが確定しているのだ。無論実力者であるのなら返り討ちにするなり逃走するなり出来るのだが、教会のある国で大っぴらに歩くことは出来なくなるだろう。
「異端認定の理由は・・・・・・闇の書か」
「えぇそうです。両
「なぁるほど、つまりはお前たちの大好きな上からの意思と言うやつかね・・・・・・これだから教会の番犬は面倒なんだ」
「・・・・・・さっきから犬犬と、黄色い猿はオウムのようにしか話せないのですかね?」
「お前らみたいな神様大好きで銅像だろうが木彫りだろうが見るだけで喜んで尻尾振る連中を俺は犬としか呼べないんだが?それに身内を理由に断って何が悪い。生憎だが俺はお前たちみたいに重みもない大義名分の為に投げ出せるような軽い命は持っていない物でね」
「・・・・・・ッチ!!所詮貴方も【あの八神】の血筋と言うことですか」
「あの・・・八神・・・?」
八神の言葉にアルフが疑問の言葉を漏らすと眼鏡の神父は嬉しそうに微笑みながらアルフを見た。
「おやおや、貴女は【八神】に込められた意味を知らないのですか?それならば教えて差し上げましょう。
八神の一族は魔術師にとって遠坂、アインツベルン、マキリの御三家に並ぶと言われるほどの素養を秘めた家系でしたが表立って舞台に上がることは殆どありませんでした。何故なら、八神の人間は魔術師としては欠落していたからなのです。優れた己を磨くことなどせず、ただただ身内を守れればいいなどと抜かす腑抜けた一族・・・・・・他の魔術師が切磋琢磨しながら己が秘術を研磨しているなかでもまるでただの人間であるかのように振る舞い堕落的な生活を営んでいた愚か者共・・・・・・それが八神なのです。最終的に当時の八神の当主は御三家が考案したサーヴァントシステムを破壊しようと企み、教会によって始末されました」
「・・・・・・それが四年前、でその後に俺がやって来て残された八神の一人娘を引き取ったわけだ」
四年前のあのとき、はやてを引き取ってから俺はコトミネに告げられたのだ。
八神は魔術師の家系
はやての両親であった二人はサーヴァントシステムの破壊を試みていた
しかしそれは失敗、はやての両親は教会によって殺された
そしてーーーーーーーーーーーーその粛清を担当したのはコトミネだと
「おっと・・・おしゃべりが過ぎてしまいましたね、いけないいけない・・・・・・また大司教殿にお叱りを受けるところでした」
眼鏡の神父が手を上げるとそれを合図に後ろに控えていた神父共が俺たちを囲うように広がった。こいつら・・・・・・俺だけじゃなくてアルフも狙っている?
「おい待て、こいつは関係ないだろうが。見逃せ」
「いいえ出来ません。異端者と関わりを持つ者は異端者です。故に、彼女も貴方ごと粛清してさしあげましょう。なぁに、怖がらなくとも良いのですよ?直に神の身元で再会できるでしょう・・・・・・彼女も、それにあの八神の忘れ形見も」
「ーーーーーー待て、お前らまさか」
「えぇ、大司教殿からのご命令です。【八神の血筋を途絶えろ】と。ちなみにこれは貴方は関係ありませんよ?元よりある程度成長し、魔術師の才能があればの話でしたので」
「・・・・・・コトミネは関わっているのか?」
「いいえ、神父コトミネはこの件に関して一切知らされておりません。彼は代行者として苦行を積んだものの異端者と交わっていたのです。知らぬが仏とはこの国の言葉でしたよね?」
「そうかーーーーーーーーーーーー」
あぁ、それなら良かった。コトミネが知らないのなら、そうであるなら、俺はコトミネを
「くっーーーーーーーーーーーーははっ、ハハハハハハ!!!」
安堵すると共に俺の中から笑いが込み上げてきた。
「どうしました?主の身元へ逝けることに感謝の念でも抱きましたか?」
「ざぁんねぇん、俺は無宗教なもんで神なんぞに感謝したことなんぞ一度たりとも無いんだよ。俺が可笑しいのは
「ーーーーーー何?」
この時始めて眼鏡の神父の顔が崩れた。はやてにはギルが、リニスが、シグナムが、ザフィーラが、シャマルが着いている。これだけの実力者なら防衛なんて生温い、それこそ殲滅まで容易いのだろう。それなのに、こいつらはたかだか二十数名程度の人数で俺たちのことを滅ぼせるつもりでいるらしい。これを可笑しいと笑わずしていつ笑うのだろうか?
「あぁーーーーーー履き違えた阿呆共が、
隊列を組んで、方陣を敷きながら、
我が娘に害を、我が家族に
それを八神が!!
死神が!!
そして何より父たるこの俺が見逃す訳がなぁい!!」
無詠唱の投影で攻刀と守剣・・・・・・ではなく、銃剣を編み出す。それは二次元の世界において様々な称号を持った狂信者が扱っていた
「貴様らは震えながらではなく藁のように死ぬのだ!!
さて、俺からのせめてもの餞だ。貴様らのシンボルたる十字を視界に納めてから死ぬといい。
「貴様がそれを語るか・・・・・・!!死ぬがよい!!」
眼鏡をかけた神父ーーーーーーバレンタイン神父の号令の元に、彼の背後で控えていた神父たちが一斉に時雨に目掛けて襲い掛かってきた。先陣を切るのは若い、まだ二十代に届かない見た目の神父。彼は代行者見習いとして教会に所属して、実戦慣れの名目でこの異端者討伐に同行していた。そして手にしていた黒鍵で時雨に斬りかかろうとしてーーーーーー
「シィィィィィイ!!!」
銃剣の振り下ろしを両肩に受け、神父服の防御機能も虚しく無惨にも腰まで切り裂かれて敢えなく絶命した。切り裂かれたことで神父の血が辺りに撒き散らされ濃厚な血の臭いが発生する。まるで虫を殺すかのような呆気ない死に方をした同僚を見て自分もこうなるのではないか?と幻視した神父たちの足が止まる。そしてその隙を突いて時雨は動いた。
「っ!?消えた!?」
「上だ!!上にいる!!」
地面に凹みを残して消えた時雨の姿を追って神父たちは上を向いた。上を見上げれば確かにそこには何かが浮いていた。それを確認した神父たちは上にいらそれに目掛けて手にしていた黒鍵を投擲するーーーーーー
「違う!!
が、離れた場所にいたバレンタイン神父だけはそれを違うと叫んだ。その声とほぼ同時に神父の首が三つ跳ねられる。そして血に濡れた銃剣を振り抜いていた時雨の姿があった。時雨は近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばすことで上に逃げたと認識させ、自分は下に潜っていたのだ。ようやくその事に気付いた神父の首を更に二つ跳ね飛ばす。
集団と戦うことになったときに取るべき手段とは何か?時雨の答えは集団に潜り込むこと。死中に活ありと言う言葉がある。普通ならば集団の方が有利なのだろうが密着戦になった際にはその人数の多さが仇となる。武器を振るえば味方に当たり、離れようとすれば味方にぶつかる。それに対して時雨は楽だ。ただ武器を振るう、それだけで周りにいる敵に攻撃が当たるのだから。
斬る斬る、斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る・・・・・・
「ぉおおおおおおのぉおおおおおおれぇええええええええ!!!!」
神父の集団のほとんどが傷を負ったその時、バレンタイン神父が時雨に目掛けて黒鍵を投擲した。それはまだいる味方ごと時雨を刺し貫く気概で放たれた投擲。確かにそれも有効である。味方の内に敵がいて、それを排除することが困難であるならばその味方ごと敵を殺す。例え健康者がいたとしてもそれごと病気保持者を隔離するのと同じである。
バレンタイン神父が投擲した黒鍵は立っていた神父たちを貫く。しかしその投擲は時雨に当たることはなかった。時雨の姿は神父たちの中から、それどころか時雨に付き添っていたはずのアルフの姿さえ消えているではないか。
「クソッ!?どこへーーーーーーーーーーーー」
苛立ち混じりで吐き出されたバレンタイン神父の言葉は上から降ってきたカードによって中断させられた。落ちてくるカードを見ればそれには小型の宝石、そしてルーン文字で炎を表す言葉が刻まれていた。
「ーーーーーーーーーーーーさぁ、裁きを下せ」
上から声が聞こえた。首を向ければアルフを抱き寄せるような形で街灯の上に立っている時雨の姿があった。
「顕現せよ、
カードから炎が生まれる。それは人々の暮らしを支えるような明るい物ではなく、異端者の魔女に裁きを下すドス黒い炎だった。その炎は一ヶ所に集まることなく津波のように公園に広がり地上にいた神父たちを容赦なく焼き払った。生きたままに焼かれるという有り得ない体験をさせられている息のある神父たちは魔女狩りの炎を受けてのたうち回っている。その光景はさながら地獄絵図のようであった。
「やぁあああああああああがぁああああああああああああみぃいいいいいいいいいいいいいいぃ!!!!!」
そんな地獄絵図の中で、バレンタイン神父だけが
「ーーーーーー
健気にも向かってきたバレンタイン神父にした時雨の対応はーーーーーー魔女狩りの炎と同じ、ドス黒い炎で構成された炎剣でバレンタイン神父の胸を刺し貫くことだった。
術式名【吸血殺しの紅十字】、文字通り時雨が死徒を殺すときに使う吸血鬼を焼殺するための炎剣。
「あーーーーーー」
いかに狂信者とは言えど致命傷を負えば死ぬ。胸を刺し貫かれたことが致命傷となり、バレンタイン神父は地面を焼く魔女狩りの炎に力なく落ちていった。
「終わったな」
魔女狩りの王の炎が全部消えたことを確認してから俺はアルフと一緒に街灯から地面に降りる。公園一面が黒焦げになってしまったが・・・・・・まぁ死体血痕だらけよりはマシだと割り切ろう。この位なら海鳴の常識で多少ニュースで取り上げられる程度で納まるかもしれないし。
「うっ・・・・・・」
アルフは地面に降りると顔を青くして口を押さえていた。まぁこっちの魔導からすればよくある光景なのだが、そっちの魔導からすればこんな光景は滅多に見ることはないだろう。寧ろよく吐かなかったと賞賛してもいい。
「これが俺の生きる世界だ。アルフたちの魔導とは違って非殺傷なんて便利なものはない。人の役立つ物もあれば人を殺す手段にも成りうる。これを見て、魔術を使って人を殺した俺を見て、アルフはどうしたい?罵倒するか?失望するか?怒り狂うか?好きなようにすればいい」
知らない者からすればこれは非常識、受け入れがたい光景なのだろう。その事は俺も理解できているし、アルフから拒絶されようが受け入れるつもりでもある。だけど・・・・・・そうなったら、寂しいな。
「ーーーーーーーーーーーー時雨」
吐き気を堪えながら、アルフが考えを告げようとした時、
時雨の体が大きくのけぞった。まるで、誰かに狙撃されたかのように。
「時雨!?」
「ーーーーーーーーーーーーアルフ、下がって!!」
時雨に駆け寄ろうとしたアルフを制したのは青いドレスと銀の鎧を纏った金髪の少女ーーーーーーセイバーだった。そして手にしていた不可視の剣を時雨に向けて振り下ろしーーーーーー
「ったく、俺じゃなかったら死んでたぞ?おい」
「なっ!?」
時雨によって不可視の剣を白刃取りーーーーーー両の手のひらで挟み込むようにして受け止められた。のけぞった状態から体を起こした時雨の口にはなかったはずの剣が加えられていた。どうやらのけぞった原因は剣が時雨に向けて放たれたようで、時雨はその剣を歯で受け止めたのだった。
「貴様・・・・・・本当に人間か?」
「生物学上的には人間だこの亡霊が」
歯で受け止めた剣を噛み砕き、不可視の剣を押し付けているセイバーの顎へ蹴りを放つ。しかしセイバーはその蹴りを飛び退いてかわし、アルフのいる場所にまで下がった。まるで、時雨からアルフを守ろうとしているようである。
「アルフさん!!大丈夫ですか!?」
そして駆けつけるのは衛宮士郎、遠坂凜、ルヴィアゼッタ・エーデルフェルト、それに
「マスターとサーヴァントが勢揃い・・・・・・今度は協会の方か?」
「えぇ・・・・・・貴方のこれまでの功績から魔術師協会は八神時雨のことを正式に封印指定してわ。今までは依頼で相殺していたみたいだけど闇の書の件で見限られたみたいね」
「異端者認定の次は封印指定と・・・・・・なるほど、豪華すぎて胃もたれするわ」
封印指定、それは魔術師協会が一個人の魔術師に対してその功績を認めてかけられる一種の称号のようなもの。魔術師からすればそれは名誉なのだろうがそれは同時に終身刑を言い渡されるのと同じである。封印指定を受けた魔術師は例外なく協会の保護を受けさせられて監視下の元、魔術の研究をすることを許されなくなる。それは魔術師からすれば死も同然、故にほとんどの魔術師は協会から封印指定を受けた場合逃げ出すことを選んでいた。
「それに、私たちは貴方が闇の書に何らかの関わりがあると思っている。だから私たちは封印指定執行者代行として貴方を捕縛するわ」
「あぁ・・・・・・至極、最上級に、この上無く面倒なことになりやがって」
遠坂凜からの言葉を受けた時雨は心底面倒臭そうな表情をして足を持ち上げ、地面を踏み鳴らした。その
「ーーーーーーアルフ」
「っ!!」
光の中、時雨はアルフの側にまで近づき、アルフにしか聞こえない音量で話しかけていた。
「悪いな、休みをこんな形で潰させて」
「(待ってーーーーーーーーーーーー)」
時雨の声からは申し訳ないという謝罪の気持ちが伝わり、アルフはさらに別のことを感じていた。
「(言わないで、言わないで・・・・・・!!)」
アルフの中に巡る感情は焦燥。だって、時雨のこの態度はまるでこれから別れを告げようとする人その物であったのだからーーーーーー
「(言っちゃダメ・・・・・・!!お願い・・・・・・!!)」
だか、アルフの祈りは虚しく届かない。
「
時雨の中で、再会を願う言葉ではなく、別れを告げる言葉がアルフにかけられた。やがて宝石に込められていた魔力が尽き、視界が回復する。そこには時雨の姿はなかった。残ったのは時雨を逃がして悔しそうな顔をするマスターたちとサーヴァントたち、そしてーーーーーーーーーーーー
「時雨・・・・・・・・・・・・っ!!」
別れの言葉を告げられて泣き崩れているアルフだけだった。
あとがき説明会復活です。
~代行者
要するに神様の敵及び人に害をなす物、異端者をコロコロするために教会が作り上げた武闘派の集団。コトミネも以前はここに所属していて、その時の
~魔術師【八神】
遠坂、アインツベルン、マキリに優るとも劣らないと称されていた魔術師の家系。素質は御三家クラスまであるとされているのだが八神の家系の本質が魔術師には向いておらず、一般人のそれであった為に他の魔術師たちから“自己の研鑽を怠る者=八神”という認識をされている。
~サーヴァントシステム
型月の世界における聖杯代わりにサーヴァントを現世に繋ぎ止めているシステム。詳しい詳細は不明。
~先代の八神当主
はやての実父である八神宗次のこと。妻の八神奏と共にサーヴァントシステムの破壊を目論み失敗した。
~コトミネ
サーヴァントシステムの破壊を目論んだ八神夫妻の粛清を担当した。直接か、間接的に手を下したかは分からないが死の一因となっていることに違いはない。
~アンデルセン時雨
声までは変えてない。でもそっくり。神父キャラの真似事をして代行者たちを煽るためにやった。
~銃剣
本来なら銃口の辺りにつけて近接戦を行えるようにする為の物。しかしある神父は普通に銃剣だけで切ったり投げたりして
~
ニコチンとタールをこよなく愛するバーコード神父(未成年)が使っている魔術と同質の物。時雨もルーン文字を使い、そこに宝石の魔力を上乗せすることである程度の自立行動を保てるようにした。
~アルフの思い
語ろうとしたら神父やら弓兵やらに遮られて言葉にすることができなかった。アルフさんめっちゃ不憫。
~封印指定
よーするに「お前の魔術危険だから研究するな、しないようにこっちで保護する。だけど研究内容はすべて献上しろ」みたいなジャイアニズム溢れる物である。
~異端者認定
よーするに「貴方は神の教えを無視したからキルしまーす。は?無神論者?そんなの関係ありませーん。私たちの神以外全部糞なのでーす。つー訳でGo to hell!!」みたいなキチガイ染みた物である。
~さよなら
時雨の中で別れの言葉としている言葉。それが意味するのはもう会うつもりがない、もう二度と会えないだろう。時雨はどちらを思ってアルフにこの言葉を言ったのだろうか・・・・・・
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