調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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クリスマスが仕事の関係で忙しかったので短いですけど慌てて投稿しました。


クリスマスなんて滅べばいいのに・・・・・・


第拾伍幕 狼の恋愛模様~デート編終~

 

 

フワフワとした微睡みの空間の中にアルフはいた。丸でぬるめの温度に設定したお湯の中に頭の先まで浸かっているのに息苦しさが微塵も感じられない、例えるならそんなところだろう。

 

 

フワフワフワフワと、アルフは目を閉じたままその空間を漂っていた。

 

 

そんなとき、何処からか声がーーーーーーいや、歌が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

さよならは別れの言葉

それは別れることを肯定する悲しい言葉

だから私はまたねと言おう

別れるだけではなく

再会を願う優しい言葉を口にしよう

 

 

 

 

 

 

その歌は丸で眠れない子供をあやす子守唄のようにアルフに染み込んでいった。声色は優しく、普通ならば聞いているものを更なる微睡みにへと誘う歌、だけどアルフはその歌が悲しい物にしか聞こえなかった。

 

 

「(どうしてこの歌が悲しいなんて思うのかわからないーーーーーーだけど、起きないと)」

 

 

そう思うとアルフの意識は急激に覚醒し、ついにアルフは夢から覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーう、ん?」

「ーーーーーーおう、やっと起きたか」

「ーーーーーーえ?」

 

 

眠りから目覚めたアルフが始めに目にしたものは上から覗き込んでくる時雨の顔だった。突然の事に驚きながら目をキョロキョロと動かして状況を確認しようとする。そしてーーーーーー自分が時雨に膝枕をされていることに気がついた。

 

 

「ご、ごめん!!」

「いんや、こっちも寝顔を堪能できたから役得さ」

 

 

慌てて飛び起きて謝罪をするが時雨はケラケラと笑ってそれを許した。アルフの記憶に残っているのは喫茶店【コペンハーゲン】を出たところまで。それ以降の記憶はスッポリと抜け落ちていたのである。

 

 

「ど、どうしてあたしは膝枕をされてたんだい?」

「コペンハーゲンを出たあとアルフが急にウトウトし出してさ、一先ず公園で休ませてコーヒーでも買ってこようと思ったんだが寝たんだよ。それで固いベンチに頭乗せるものなんだと思って膝を入れておいた」

 

 

どうして膝枕をされていたのかの経緯を聞いたところアルフには心当たりがあった。それは昨日、プレシアとリンディに強引に服を買いに連れていかされ、帰ってきてからも服のコーディネートだかおしとやかに見える仕草だとかなんとかで二人に付き合わされ、最終的に寝たのは夜中の三時だったのだ。寝不足気味ではあるが興奮で午前は紛らさせていたのだろう、しかしコペンハーゲンで食事をしたことで気が弛み眠気が出てしまったのだ。つまり、原因はプレシアとリンディである。しかも空を見れば茜色から黒色に代わりつつある・・・・・・つまりは日が暮れかけていた。

 

 

「うぅ~ごめんよ~!!」

「はいはい、俺は気にしてないから気にするな。どうせあれだろ?プレシアとリンディがはしゃぎ過ぎて寝不足だったんだろ?」

「そ、そうだけど・・・・・・」

 

 

時雨は気にしていない様子だがアルフの方はそうは問屋が許さない、結局後日アルフが時雨に食事を奢ることで手打ちとなった。

 

 

「そう言えば時雨、あたしが寝てるときに歌っていたかい?」

「あぁ聞こえてたか・・・・・・俺が母に歌ってもらってた歌を少しばかしね」

 

 

寝ている最中に聞こえた歌の正体を聞くと時雨は隠す事無く自分が歌っていたことを認めた。やはりと思いつつ、アルフはどうしてあの歌が悲しい歌と思ったのかを確かめることにした。

 

 

「ねぇ、もう一度歌ってよ」

「・・・・・・歌ってくれと言われてみると割と恥ずかしいものだな。まぁ良いけど」

 

 

その方法とはもう一度、あの歌を聞いてみること。そうすればアルフは歌の正体がわかると思ったし、時雨も少し恥ずかしそうにしながらも歌うことを了承した。そして二、三度喉の調子を確かめるように咳払いをし、時雨はあの歌を歌い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅立つ貴方を見送ろうとやって来た私に

旅立つ貴方は“さよなら”と言って別れを告げた

戦へ向かう貴方にエールを贈る私に

戦へ向かう貴方は“さよなら”と言って戦に向かった

“さよなら”と“さよなら”と

もう会えないと悟ったかのように

貴方は別れの言葉を紡ぐ

 

さよならは別れの言葉

それは別れることを肯定する悲しい言葉

だから私はまたねと言おう

別れるだけではなく

再会を願う優しい言葉を口にしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優しい声色で歌われる歌詞は丸で大気に溶けるかのように広がり、アルフの耳へと届く。

 

 

「(あぁそうか・・・・・・この歌は)」

 

 

何故この歌が悲しい歌に聞こえたのかアルフは理解できた。時雨がどんなところで生きてきたのかは知らないが、恐らくそこでは別れてしまえばまた再会するのは難しい世界だったのだろう。だから“さよなら”と言う別れだけを意味する言葉ではなく、“またね”と言う別れてもまた会えることを約束する言葉を、会えなくなるかもしれない相手に言った。この歌は“さよなら”(別れ)ではなく、“またね”(再会)を願って歌われているからこそ悲しい歌なのだ。

 

 

それを時雨の歌を聞きながら理解しているとアルフの目からボロボロと大粒の涙が流れ出した。

 

 

「・・・・・・おいおい、なんでアルフが泣いてるんだよ。これじゃあ俺が女を泣かせてる最低な男に見えるじゃねぇか」

「・・・わからない、でも・・・でも、なんだか悲しくて・・・・・・!!」

 

 

歌うのを止めて時雨が尋ねるも、それでもアルフの涙は止まらない。今日の為にプレシアとリンディが買わせた服を涙で濡らしながらもボロボロと泣いている。

 

 

時雨は周りを見渡した。幸いにもここは公園などと呼ばれているが遊具も何もない、ベンチが一つだけ置いてあるただの広場のような物だった。それ故か、それ以前の問題があるのかは分からないがこの場にいるのは時雨とアルフだけ、人の目を気にしなくてすんだ。

 

 

「泣くな」

 

 

人がいないことを確かめてから、時雨はアルフの頭の上に優しく手を置いた。労るようにアルフの頭を撫でているとようやく涙が治まり、嗚咽程度になってきた。

 

 

「・・・・・・時雨は、さよならと言って別れた人がいるのかい?」

「・・・・・・あぁ、いるよ。俺のことを拾って育ててくれた、本当の母親だと思っている女性がいた」

 

 

服の袖で顔を拭いながらアルフは時雨に尋ねた、そして返ってきた答えは是。歌にあったような別れを経験した、それが実体験であったから時雨のあの歌はこんなにも心に響いたのだろう、そうアルフは納得した。

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

 

そこから流れたのは気まずい沈黙。アルフは急に泣き出したことに対して、時雨は尋ねられたからと言っても簡単に自分の過去を口にしてしまったことに対して。

 

 

「し、時雨!!」

「・・・なんでござんしょ?」

 

 

この気まずい空気を何とかしようとアルフは口を開きーーーーーーーーーーーー

 

 

「あ・・・・・・あたしのことをどう思ってるんだい!?」

「ぶぅぉ!?」

 

 

爆弾を投げた。そんなことを聞かれると思っていなかった為に時雨は思わず吹き出してしまう。それもそうだろう、時雨はアルフが自分のことを好意的に見ていることは朧気ながら察しているのだ。そんな相手から自分のことをどう思ってるのか聞かれれば混乱しても可笑しくない。

 

 

「ねぇ、どうなんだい?」

「・・・・・・」

 

 

再びアルフが尋ねるが時雨は答えることができなかった。時雨は確かにアルフのことを好意的に思っていると思い込んでいる(・・・・・・・)。しかしそれはあくまで友人か親友の範囲内としてだ。もしかしたらそこから異性に向けるような好意に変わることがあるかもしれないが今は違う。だから、時雨は答えることができなかった。どっち付かずの中途半端な答えでアルフを傷付けることを恐れたから。

 

 

「あたしは時雨のことーーーーーーーーーーーー」

「ッチ」

 

 

アルフが自分の思いを口にしようとしたその時、突然の時雨がアルフを抱き締めた。その行動に驚いたのだがその後の行動もアルフを驚かせた。時雨はアルフを抱き締めたまま、その場から大きく飛び退いたのだった。時雨が何をしたいのか分からずに混乱するアルフだったがすぐにその行為の理由を理解することになる。

 

 

さっきまでアルフが立っていた場所、そこに刀身の異常に長い剣が数本突き刺さっていた。

 

 

「ったく・・・・・・空気の読めない奴が多すぎて困る」

「ーーーーーーーーーーーー八神時雨、ですね?」

 

 

公園の入り口辺り、そこにはさっきまでいなかったカソック衣装に身を包んだ集団が現れていた。その集団の先頭に立つ眼鏡をかけた男が嬉しそうな声色で時雨に向けて語りかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今晩は、教会は貴方のことを異端者認定致しました。故に貴方を神の身元に送らせていただきます」

 

 

それは、死刑宣告にも等しい発言だった。

 

 

 





狼の恋愛模様終です。

時雨の歌っていた歌は時雨のいた世界でメジャーな歌で、どちらかと言えば詩に近い歌になっています。これを時雨はゼロから子守唄代わりに聞かされて覚えました。

時雨の心境は皆さんがお好きなようにご想像ください。感想でもいただけるなら幸いです。

そして最後に現れた神父の集団・・・・・・眼鏡かけた狂信者たちを想像した貴方は感想にエェェェェエィメン!!とでも書いてください。

感想、評価をお待ちしています。


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