調律者は八神家の父   作:鎌鼬

63 / 111
第拾幕 セカンドコンタクト

 

「ーーーーーーはぁ!!」

「ーーーーーーふっ!!」

 

 

時雨が魔術師たちとサーヴァント五騎と対峙していると同時刻、結界に捉えられていたシグナム、ザフィーラは武装局員たちと戦闘を行っていた。リニスがいないのはこの結界の解析に向かっている為。武装局員二十人と執務官二人に対してシグナムたちは実質二人で立ち回っていた。

 

 

「また障壁か」

「アシストが上手い、連中集団戦に長けている様だな」

 

 

シグナムがレヴァンティンを、ザフィーラが拳を振るって局員たちに立ち向かうがそれを後方に立つクロノが援護に回ることで阻止される。明らかな遅延行為、援軍があるのか知らないが管理局の戦い方は打倒するような物ではなくシグナムたちの余力を削り取り、追い詰めようとするもの。シグナムたちからすればせっかちなくらいに攻め立ててくれた方が良かったというのに管理局はそんな素振りを一切見せようとしない。

 

 

「惜しいな、これだけの腕前なら戦友(みかた)として戦いたかったものだが」

「残念ながら今は敵だぞ、【烈火】の」

「あぁ分かっている、だから惜しいといったのだ【盾】」

 

 

わざと管理局局員たちに聞こえるような大きさでシグナムとザフィーラは話し合うがそれに反応する様子は一切見られない。淡々と冷静な指示を飛ばすクロノとそれに迷うことなく従う局員たち。味方であったのなら頼もしい限りだが敵に回られると厄介この上なかった。

 

 

「っ!!ふざけるなよ犯罪者風情がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

否、一人釣れた。それはクロノと似通ったバリアジャケットに身を包んだ女性、シリア・ハラオウン。いかにも余裕綽々といった具合のシグナムたちが気に食わなかったのか、シリア一人だけが突貫してきたのだった。

 

 

「この・・・・・・!!馬鹿が!!」

 

 

シリアの行動に初めてクロノが苛立ったような声をあげた。そもそもこれは高町なのはを始めとした管理局が現在所持する戦力たちが来るまでの足止め・・・・・・言ってしまえば時間稼ぎなのだ。それを予め説明したにも関わらずシリアは勝手に激昂して突進していってしまった。

 

 

「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

その時シグナムたちの間から誰かが駆け抜けて行き、シリアにカウンター気味の肘鉄をぶつけた。怒りに我を忘れていたシリアはこれに対処できずに無様に鳩尾へ良い一撃をもらってしまう。

 

 

シリアに攻撃を仕掛けたのはリニスだった。そして肘鉄だけで終わらない。バリアジャケットが守ったとは言え人体の急所に一撃を食らい動きの止まったシリアのわき腹に右フック、左フック、こめかみへのハイキック、顎へのアッパーカット、そして浮かび上がって落ちてくる途中のシリアに砲撃とシューター系の魔法の同時発射という格闘ゲームのハメ技のような華麗なコンボを決めた。

 

 

シリア・ハラオウン撃沈である。

 

 

「荒れているな【従者】」

「結界の解析はどうした?」

「あぁそれですか?思いの外頑丈で解析に時間がかかりそうなので諦めました。外部からの救援に期待しましょう」

「自棄にアッサリとしているな」

「どうせ【主】は結界が張られていることに気づいていると思います、そうなら遅かれ早かれ救援が来ますからね。それなら私たちはそれまで負けないような立ち回りをすれば良いだけです」

「さっきの局員に決めたコンボは一体何なのだ?」

「始めは解析しようと頑張ったんですけどね~上手くいかなくてストレスが溜まって・・・・・・イラッとして殺っちゃいました☆」

「そんな突発的な犯罪者みたいな理由で極悪コンボを決めたのか・・・・・・」

「反省も後悔もしていません!!むしろ触れた清々しい・・・・・・!!」

「ダメだこいつ・・・・・・早くなんとかしないと」

 

 

はっちゃけているリニスにどこか疲れたような表情のシグナム、そしてシャマルから教わったネタをここぞと言わんばかりに使うザフィーラ。一見して見れば隙だらけのように見えないこともないがクロノは気づいていた、あんなどこか飄々とした態度でありながら三人は戦闘体制であると。だから踏み込まず、三人を囲うような形になるようにと局員たちに指示をした。

 

 

「で、どうしましょうか【烈火】?敵は持久戦を御所望の様ですけど」

「そうだな・・・・・・将の連度は高く、兵も将の指示に従う良い兵と来た」

「ならやることは一つだな」

「「集団の頭を殺る()」」

 

 

そこからのシグナムとザフィーラの行動は素早かった。ハンドサインどころか目配せ一つした様子無く、全くの同時でクロノへと目掛けて己の最高速度で迷うことなく突進した。それを察していたのかリニスもシグナムたちが動き出したコンマ一秒後にクロノの正面にいた局員たちが動けない様にバインドで拘束する。リニスのお陰で動けなくなった局員たちを素通りしてシグナムたちはクロノを仕止める為に剣と拳を振るう。

 

 

団体行動に秀でた集団がいる、そいつらを止めるためにはどうしたら良い?簡単な話だ、指示を出している引率者を潰せば良い。引率者に依存している集団であるならそれで簡単に瓦解する、そうでないとしても動きが止まることは間違いない。

 

 

だからクロノを仕留めようとしたシグナムたちの行動は間違いではない。余計な邪魔が入っていなければクロノはシリア同様に撃沈していただろう。

 

 

シグナムとザフィーラが局員たちを通り抜けたと同時に結界に閃光が突き刺さった。問題ないと判断する。

 

 

そして剣と拳がクロノに届く直前に白い影と黒い影が割り込んできて白い影がザフィーラの拳を、黒い影がシグナムの剣を受け止めた。

 

 

シグナムとザフィーラはこの二人に見覚えがあった、この二人はヴィータが勝手をしたときにいた少女たちだと。

 

 

リニスは黒い影の少女を知っていた、彼女に戦い方を教えたのは他でもない自分自身なのだから。

 

 

高町なのは、フェイト・テスタロッサがこの場に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ【湖】の、行けそうか?」

「うーん・・・・・・」

 

 

時雨が戦っている場所とは真反対に当たる場所で【湖】の仮面を被ったシャマルと【雪】の仮面を被ったスノウはいた。シャマルは結界に手を伸ばして結界の解析をしているがその表情は良いものではなかった。

 

 

「複数人の魔導師が張っているからか結界の構築が把握しきれない・・・・・・普通に解析するのは無理そうね。力技で壊そうと思ったら【烈火】のファルケンか【主】の力がいるわね。一瞬穴を開けるくらいなら【雪】でも行けそうだけど・・・・・・」

「それでは意味がないか・・・・・・」

 

 

実質的に八方塞がり、そんな状況で二人は結界に閃光が突き刺さったのとその後それを追いかけるように四つの影が結界内に入るのが見えた。

 

 

「今のは多分管理局の魔導師ね」

「その後に続いたのは【銃剣】に・・・【星光】と【雷刃】と【闇総】か」

「あの子達が行ったのなら大丈夫ね」

「そうだな。【烈火】と【盾】と【従者】、それにあの四人がいれば普通の相手なら問題はない」

 

 

シグナムたちは勿論、御門とマテリアルたちの実力は十分。なら問題はないだろうとシャマルとスノウは判断し、少しばかり気が緩んでしまった。だからだろう、

 

 

「動くな」

「動かないでください」

 

 

後ろから近づく二人の魔導師に気づかなかったのは。スノウは首筋に剣型のデバイスを、シャマルは腰の辺りに杖型のデバイスを突き付けられる。僅かに視線を向けて確認すればそこには金髪の少女のような顔つきをした少年と黒髪の少年ーーーーーーーーーーーー藤峰アリスと相井神悟の姿があった。

 

 

「武装を解除して手をあげろ」

「デバイスを離してください」

 

 

二人は抵抗できないであろうシャマルとスノウに武装解除を促すがそれに従うかと聞かれれば否である。ここで確保されるのは間違いなく悪手であり、捕まれば情報を引きずり出されるだろう。それならば例え死に体になったとしても逃走することを選ぶ。だから二人の行動は一致した。

 

 

スノウは勢いよく振り返り拳を握り、シャマルがクラールヴィントの糸を伸ばし二人の拘束を狙う。そのままいけばスノウの拳は黒髪の少年にぶつかるはずだったがーーーーーー

 

 

「ーーーーーーハァッ!!」

「クッ!?」

「なぁっ!?」

「グボァ!?」

 

 

突然仮面をつけた男が二人を蹴飛ばした。それによりクラールヴィントの糸はその仮面をつけた男に絡まり、スノウの拳は仮面をつけた男の鳩尾に突き刺さる。ビルの屋上に二回、三回とバウンドして仮面をつけた男は動かなくなった。

 

 

ちなみに声は上から仮面をつけた男→金髪の少年→黒髪の少年→仮面をつけた男である。

 

 

「・・・・・・逃げるか」

「・・・・・・そうね」

 

 

何が起こったのか理解できていない二人の少年を脇目にシャマルとスノウはその場から逃げることを選んだ。ただし転移魔法を使わずにジャミングを全開にして。転移魔法の魔力を辿られることを嫌っての行動である。ある程度逃げたら別の世界に二、三度転移して撹乱するつもりではあるのだが。

 

 

そうしてビルの屋上に残ったのは何が起こったのか理解できていない二人の少年とワンパンで落ちた仮面をつけた男だった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーくっ!!全員回避だ!!」

 

 

視点は戻り結界内、【銃剣】の面をつけた御門が銃を乱射したところである。始め局員たちはそれをただのシューター系の魔法と判断し障壁で防ごうとした。しかし御門の放った魔弾はその程度では止まらない。貫通に特化した魔弾は局員たちの障壁を容易く貫き顔面に突き刺さる。御門が非殺傷に設定していたので魔弾は顔面を弾いて気絶させる程度に留まっているのだがもしこれが殺傷設定であったのなら赤い華が咲いていたであろう。

 

 

初撃によって落とされた局員の数は五人、他の局員たちとクロノは距離があったから回避を選んだ為に魔弾の餌食にならずに済んだが障壁を容易く貫通する御門の魔弾は驚異である。その為クロノは局員たちに回避することを次週したのだが、

 

 

「【雷刃】、【闇総】、任せますよ」

「はぁ~い!!」

「アロンダイト!!」

 

 

バインドで拘束され、視認できない速さで動く影と着弾後に衝撃波を放つ砲撃の波状攻撃によって瞬く間に落とされていった。

 

 

「ここで新手か・・・・・・なぜ君たちはあいつらの助けをする?」

 

 

自らの敗北を察したクロノは情報収集するために会話をすることを選択した。この会話はアースラに繋がっており、余すこと無く記録されているだろう。それを察して起きながらマテリアルたちの三人は、

 

 

「惚れた男の為です」

「お兄さんの為だ!!」

「父の為に子が働くことの何が悪い」

 

 

分かる人が聞けば分かりそうな返答を返してクロノに目掛けて非殺傷設定の魔法を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様たちはあの時の」

「高町なのはです!!」

「フェイト・テスタロッサ」

 

 

シグナムが中場無意識に呟いた言葉に対してなのはとフェイトは馬鹿正直に答えた。二人ともこの蒐集には何か事情があるのだと分かっていてそれを確認するために話し合うつもりだったのだ。

 

 

「高町なのはにフェイト・テスタロッサか・・・・・・すまんがこの身には名乗る自由は与えられておらんのだ、烈火と呼べ」

「我が名は盾だ」

「そして私は従者です☆」

「烈火さん!!どうしてこんなことをするんですか!!」

 

 

シグナム、ザフィーラが仮の名を告げ、それに続くようにリニスが某銀河の歌姫のようにキラッ☆とでも言いたげな紹介をするもなのはにアッサリとスルーされてやや落ち込む。

 

 

「何か事情があるなら話してください!!私たちが力になります!!だから訳をーーーーーー」

「「「黙れ」」」

「っ!!」

 

 

異口同音、異なる口から全く同じ言葉が放たれたことでなのはは口を閉じる。シグナムから、ザフィーラから、そして落ち込んでいたリニスからもある感情が向けられていることに気が付いた。その感情はーーーーーーーーーーーー怒りだ。

 

 

「貴様たちが我らの何を知る?」

「お前たちが我らの主の何を知る?」

「何も知らないクセに簡単に力になりたいだなんて口遊んでるんじゃねぇよ、ガキが」

 

 

高町なのはは幼少期の経験から人に真摯に向かい合おうという気質を持っていた。その為にフェイトとは友人になることが出来たことを考えるならば、なるほど、確かにそれは美徳として扱うに相応しかろう。しかしそれが必ずしも良いことであるとは限らない。フェイトの時には上手くいった、それは必然かもしれないが同時に偶然であるかもしれない。少なくともシグナムたちにとってなのはのこの言葉は龍の逆鱗を逆撫でするのと同じ行為であった。

 

 

シグナムはザフィーラはリニスは、三人は主である時雨のことを知っていた。

 

 

皆で話しているのを少し離れたところから微笑ましそうに眺めていることも、その輪に入り楽しそうに笑っていることも、いつかの平行世界で家族(はやてたち)が傷ついた時に本気で怒っていたことも、はやてが倒れたときに人知れず慟哭していたことも、

 

 

そして、時雨がもう二度と、大切な者を無くさないようにと、もう二度と日の光の当たる場所に立てなくなってもいいから、はやてを、闇の書の騎士たち(原因である者たち)を救おうとしていることも、

 

 

「なるほど・・・・・・主がこのような声をかけられた時になぜ不機嫌そうにするのか分かったような気がする・・・・・・確かに、これは不愉快だ」

「偽善と、この世界では言うのだな・・・・・・確かに、これは偽りの善だ。わかりあってもいない相手にわかっているような声をかけることは如何に善き言葉であろうと偽りでしかない」

「まるで物語の主人公が持ってくるような甘い言葉のフルコース・・・・・・吐き気がしますね。優しくすることが相手を救うことだとしか信じていない理想主義者(ロマンチスト)の甘ったれです」

 

 

シグナムたちがなのはの言葉にそれぞれの意見を返して臨戦態勢に入る。それはアースラで見ていた時のような守りを主にした構えではなく、外敵を滅する為だけの攻めの姿勢だった。

 

 

「なのはっ!!」

「どうしても・・・・・・話してくれないんですか?」

 

 

それを見たフェイトはなのはに注意を促すがなのはの反応は悲しそうに顔を上げるだけだった。そしてシグナムたちの返答は、

 

 

「「「くどい」」」

 

 

一蹴、話すことなどない、それだけだった。会話が出来ないと判断したなのはは悲しそうな顔のまま改良されたデバイスーーーーーーレイジングハート・エクセリオンを構えた。

 

 

「だったら・・・・・・無理矢理にでも話してもらうんだから!!」

 

 

そして両陣営が動きだそうとしたその瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭上から、巨大な石の槍が結界を砕きながら落ちてきた。

 

 

 






~管理局式対闇の書の騎士たちとの戦闘方
着かず離れずを基本とした時間稼ぎを目的とした物。削れるなら御の字程度、本命であるなのはたちが到着するまでの時間稼ぎ。

~シリア・ハラオウン
暴走した結果がこれだよ。

~リニス式エアリアルコンボ
鳩尾への肘鉄→ボディーブロー→ボディーブロー→アッパーカット→砲撃+シューターの合わせ技。

~イラッとして殺っちゃいました☆
どこかの突発的な犯罪者みたいな理由。

~シャマルとスノウ
外から結界を解こうとしたが無理だと判断して撤退。シャマルはそのまま逃げて、スノウは時雨と合流に向かった。

~相井神悟と藤峰アリス
原作知識によってシャマルの行動を予測した結果の行動。

~仮面をつけた男
一体何処の猫姉妹なんだ・・・・・・そしてワンパンで沈んだ模様、草不回避である。ザマァwww

~【銃剣】の魔弾
ただひたすらに貫くことだけに特化した御門のシューター。武装局員の障壁すら簡単に貫通する。高町なのはでも気を抜けば貫通するレベル。まさに魔弾。

~惚れた男の為です
~お兄さんの為だ!!
~父の為に子が働くことの何が悪い
どれが誰の台詞かな?分かったら感想欄に答えを書いてみよう!!

~高町なのは
原作では主人公だがこの小説においては影が薄くなっている人、名無しの森にでも迷い混んだのかな?→知らん顔
作者の意見としては確かに彼女の考えは良いものだとは思う。しかしそれを気に入らない、勘に触ると思う人がいるもの事実。シグナムたちには受け入れられなかった模様です。ちなみに作者はその考えをわかった上で否定するタイプです。

~無理矢理にでも話してもらうんだから!!
高町なのは式会話術【O☆HA☆NA☆SHI☆】がウォーミングアップを始めたようです。


感想、評価をお待ちしています。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。