「よっす」
「む、来たか」
海鳴の商店街の一角にある中華料理店【泰山】、そこで俺とコトミネは待ち合わせをしていた。予定されていた時刻よりも30分早く来て腹を満たそうと思っていたのに先に来られているとは何故だ?
「積もる話もあるだろうが先に済ませることだけ済ませてしまおうか」
「それもそうだな」
いらっしゃいアルーだなんていう店長のどこからどう見ても中国人に喧嘩を売っているようにしか思えないゴビと共に運ばれてきたお冷やに口を着ける。
「はやての体調は順調、と言っても良くもなっていないが悪くなっていない状態だけどな。今日退院の予定でギルに迎えに行かせてる。図書館によってから帰るそうだ」
「・・・・・・やはりそう簡単には良くならぬか」
「闇の書の呪いってばスゲェのな、治癒においてはスペシャリストのコトミネの治療を受けといて現状維持がようやくなんだぜ?」
「はやてのことはこれまでと同じく時雨に任せよう」
「おう、任された」
「次はこちらの番だな」
そう言いながらコトミネが懐から封筒を取り出す。中身を確認すればそこには十四枚の紙が入っていた。
「よくもまぁ持ってこれたな、今代で呼び出されたサーヴァントとそのマスターの情報なんて」
「闇の書の封印、破壊は
「・・・・・・向こうからしたらまさか身内で裏切り者がいるだなんて考えないだろうよ」
「何を言うか、私は元より魔術師には嫌悪しか抱いていない。まぁ友人である数人は別ではあるがな」
「宗次さんと奏さんか?」
「・・・・・・そうだな、彼らのお陰で今の私があるのだ。恩しか無いし、この様なやり方でしか恩を返せないのが心苦しい」
「そうか・・・・・・」
宗次さんと奏さん・・・・・・はやての実の親の名前を出した途端、コトミネは昔を懐かしむような、罪悪感に囚われたような顔になる。その辺の事情は俺はコトミネ本人からはやての父親となった日に聞いている。だが俺がこれを解決しようとは思わない。これははやてとコトミネの問題であるし、それにはやての義父でコトミネの友人であるとしても部外者である俺が入り込むことが間違っているからだ。いつもなら面白半分で引っ掻き回したりするのだろうがこればかりは別だ。当人だけで解決すべき問題、俺はなにもしない。
そんなコトミネを視界から外して渡された書類を確認する。並びはマスター、サーヴァントの順、マスターはその人物の経歴や得意魔術、サーヴァントはクラスと予想される英雄の名前がいくらか挙げられている。衛宮士郎にセイバー、遠坂凜にアーチャー、ルヴィアゼッタ・エーデルフェルトにライダーは予想まんま。この辺りは飛ばすことにしてさらに読み進める。
「ーーーーーーっと、マキリにアインツベルンまでかよ。遠坂と合わせて御三家勢揃いじゃないか」
「うむ、マキリの当主とアインツベルンの時期当主に聖痕が浮かび上がったらしい。両家、特に落ちつつあるマキリは喜んで闇の書の封印、破壊に乗り出したそうだ」
「はっ、魔術師って連中はどいつもこいつも業が深い!!」
「それをお前が言うのか?魔術師」
「便宜上名乗りやすいから名乗ってるだけだけど俺って本質的には魔術使いの方が近いから」
アインツベルン
マキリ
遠坂
魔術関係者にとってこの名前を知らないものはモグリと呼ばれても過言では無いほどのビッグネームである。始まりは数百年前に地球に現れた闇の書に対する対抗策としてこの三家が過去に偉業を成し遂げた英雄たちを現代に呼び出して使役するサーヴァントシステムを組み上げたからだそうだ。本来の闇の書の蒐集はリンカーコア、魔力の源を根こそぎ奪い取るというもの。魔導師のリンカーコアが魔術師の魔術回路に当たると言えば魔術師がいかに闇の書の蒐集を恐れていたか想像するのも容易い。魔術回路は祖先が積み重ねていった努力そのもの、生まれた時点でその本数は決まっており、その本数はハイリスクローリターンな移植でもしない限り増えることはない。だからこそ一本でも多くの魔術回路を子孫に残そうと躍起になる。それなのにその努力を根こそぎ持っていく闇の書の蒐集は嫌われもの以上の存在だろう。
アインツベルン時期当主のエリアスフィール・フォン・アインツベルンはバーサーカー、マキリ現当主のウォルゲン・マキリはアサシン・・・・・・想像通りだな、まぁ下手に外されるよりも分かりやすくていい。
「ん?キャスターのマスターとキャスターの情報が書いてないぞ?」
「ーーーーーーあぁ、その事なのだがな」
「・・・・・・何かあったか?」
「先日、キャスターのマスターだと思われる人物の遺体を発見した。そしてその遺体からは令呪、並びに魔術回路が存在しなかった」
「なるほど、マスター殺しか」
それを聞いて心で思ったのはバカじゃねぇのという嘲りの感情だった。
キャスター、それは魔術方面に秀でた存在に与えられるクラス。如何にサーヴァントとしての位が低かろうがその神秘は現代の魔術師のそれを軽く凌駕する。そして魔術師というのは大なり小なりプライドを持っている物である。その事から分かると思うがキャスターを呼び出した魔術師は恐らくキャスターの魔術に嫉妬したのだろう。そして仲違いによる不響でキャスターに殺された、それが真相なのだろう。
そして思うことはその魔術師は相当なアホだったのだろう。魔術特化のサーヴァントに嫉妬してどうなる?その領域に至れる程の際があるならともかく無いのに嫉妬して仲違いしたというのなら救いようがない。まぁ
「
「放置だな、戦うつもりが無いのならそれに限る。で、敵ときて現れるようなら」
「容赦なしに潰す、だな?」
「分かってるじゃないか・・・・・・ん?こいつは・・・」
書類の最後にあったのはランサーのマスターの情報・・・・・・よりによってランサーのマスターがこいつかよ。
「おい、こいつだけど・・・・・・」
「知った顔だったか?」
「何度か依頼をした程度だが知らない仲ではないな・・・・・・こいつが敵に回るとなると相当厄介だぞ」
「安心しろ、
「ーーーーーーへぇ、どんな手段使ったんだ?」
「人聞きの悪いことを言うな、彼女とは友人でな、その縁を辿ってこちらの事情を話しただけだ」
「裏切らないという保証は?」
「ある」
「なら大丈夫か」
コトミネの一言だけで彼女が裏切らないことを確信する。性格が品曲がっていて地で外道を行くコトミネなのだが人を見る目は確かなのだ。そのコトミネが裏切らないというのなら大丈夫なのだろう。
「そんなところか」
「あぁ、そんなところだな」
「ーーーーーーーーーーーーお待たせアルー」
話が終わった時に見計らったかのようなタイミングで真っ白い陶器の皿に乗せられたマグマーーーーーーーーーーーー麻婆豆腐が二人前運ばれてくる。俺が注文した覚えが無いということは・・・・・・こいつ、俺よりも先に来て食うつもりだったのか?
「それではいただくとするか」
「そうだな」
交わす言葉はそれだけ、俺とコトミネは添えられていた蓮華を手に取り紅蓮の悪魔に立ち向かっていったーーーーーーーーーーーー
「うーん・・・・・・どれにしょうかな~?」
「たくさんあるからね~」
海鳴の一角にある図書館、そこではやてとギルは本を選んでいた。入院生活が短かったとはいえはやては本好き、入院で読めなかった分の本成分を補充する為に本を選びに来たのだ。
「・・・・・・決めたで!!これにする」
「それって・・・・・・」
悩みに悩んではやてが決めたのは【ギルガメッシュ叙事詩】と書かれた一冊の古めかしい本。それはギルことギルガメッシュ王が死後に集められた逸話を集めた書籍だった。
「どうしてそれを?」
「なんとなくやな~それにギル君の名前に似てたし」
「・・・・・・そう」
正確にはギルがそのギルガメッシュ叙事詩に書かれているギルガメッシュそのものなのだがギルがそれを話すことはない。時雨に止められているからではなく、ただなんとなく自分の正体をはやてに教えたくなかったからだ。それでも自分のことを書かれている本を読まれるというのはどこか恥ずかしいらしく、ギルは恥ずかしそうに少しだけ頬を赤くしてポリポリと掻いていた。
偶々それを見ていた司書さん(34歳既婚)は青春しているな~と思いながらその光景を微笑ましそうに眺めていた。
しかし古今東西、今であろうが古かろうが、東に行こうが西に行こうが、その微笑ましい光景を壊す
「見つけたぁ!!」
心地よい静寂を保っていた図書館の中に叫び声が響く。突然の外界からの刺激を受けて利用者の何名かはビクンと過剰に反応してしまうがそれは仕方の無いことだった。はやてとギルも例外なくその声に驚いて過剰な反応を見せる。そしてはやての元に叫び声をあげた愚者がバタバタと走って現れた。
「やっと見つけたよはやて!!良かった、まだ元気なんだね!!」
「え、えっと・・・・・・どちら様?」
現れたのは黒髪の少年、覚えている方はいるのだろうか?そう、彼こそがヘイトを稼ぐ天才として有名なオリ主(笑)系転生者こと相井神悟である。突然現れて親しそうに話す神悟に軽くではなくドン引きしているはやてだったが神悟はそんなことお構いなしに勝手に話を進めていく。
「はやて、君のことは僕が救うからーーーーーー」
「ーーーーーーちょーっと待った」
勝手に話を進めようとする神悟の前に立ち塞がるようにギルが入る。いきなり話しかけられて怯えてしまっているはやてを守るために割り込んだのだ。それにはやては助かったといった表情でギルの服の裾を握って後ろに隠れる。
はやてのことを知っていてこの時期に接触するということは神悟は管理局、もしくは時雨や御門と同類の転生者と呼ばれる部類の人間なのだろう。事前に時雨と御門に話を聞いていたギルは神悟のことを警戒していた。例え違っていたとしてもはやてを怯えさせたのだ、そしてギル本人も神悟のことを嫌っていた。子供の状態とはいえギルは人類史における最古の王になった男、人の本質を見抜く目はしかと持ち合わせている。そのギルの目から見た神悟の評価はーーーーーーーーーーーーただひたすらに甘いだけの男。
覚悟も理想も何も持っていない、それなのに自分が否定したい事柄を認めようとはせずに自分が肯定したい事柄だけを歪曲して認める。時雨も歪んでいるといえば歪んでいるのだが彼には自分が信じた一本の芯がある、どれだけ歪んだ生き方をしていようがその芯を曲げることはその一生を終えるまで無いだろうとギルは確信していた。しかし神悟は違う。歪んでいて、それでいて通すべき芯が存在しない。歪んで歪んで歪んで歪んで・・・・・・終始において歪んだ存在、しかもそれを正しいと思い込んで他者にまで押し付けようとするからなお歪んでいると言える。それがギルが見抜いた神悟の本質だった。
「どこの誰かは知らないけどはやてが怯えてるじゃないか、一旦落ち着きなよ」
「お前、誰だ」
「いやだから落ち着きなって」
「まさか・・・・・・鳳凰院と同じ転生者か!?くっ!!アイツみたいに人の気持ちを考えずに自分の好きなようにしようとしているんだな!!」
「・・・・・・もうやだコイツ」
可笑しいな、会話が成立しないぞ?と目の前にいる神悟の異常性を目の当たりにしてその恐ろしさを身をもって知ることになったギルだった。時雨も人の話を聞かないような素振りを見せるときがあるがそれはわざと、もしくはその相手と関わりたくないと思ったときだけなので普通に意思の疎通を図ることはできるのだ。しかし神悟は感情の一方通行、自分の意思だけを押し付けて相手の話を聞こうとしない。少しだけ胃がキリリと締め付けられるような感覚を味わうギルだった。
「こうなったら・・・・・・ブレイブ!!」
どう結論付けたのか分からないが神悟は翼を模したアクセサリーの様なものを取り出した。それはデバイス、魔法使いの杖のような物。それを一般人がいる図書館の中で神悟は秘匿性を一切考えずに使おうとしていた。
「ーーーーーーーーーーーーお客様」
その時、ギルと神悟の間に人が入ってきた。カッターシャツに身を包んだ男性、そう彼こそがこの図書館の職員の司書さん(34歳既婚)だった!!
「お客様、他の利用者の方に迷惑になるのでお静かにお願いします」
「くっ!!退いてください!!」
神悟を押さえながら司書さん(34歳既婚)は一度だけ、背後にいるギルとはやてのことを見た。はやては理解できなかったがギルはその時司書さん(34歳既婚)が伝えようとしたことを理解していた。
「(ここは私に任せて行きなさい)」
「(し、司書さん!!)」
一瞬だけのアイコンタクトで司書さん(34歳既婚)の顔は神悟の方へと戻る。しかし、何も語ることができないその背中から司書さん(34歳既婚)の意思はひしひしと伝わってきた。
それを読み取り、ギルははやてを連れてその場から立ち去った。
後日、司書さん(34歳既婚)の家に金塊の山が送られることになるのだがそれは別の話。
「いや~買いすぎちゃいましたね~♪」
「前が見えん・・・・・・」
「セールだったからな・・・・・・それにしてもあのスーパーは大丈夫なのか?肉類98円とか正気とは思えんのだが」
「あそこは不定期で色々やってますからね、この間は魚介類50円セールでしたし」
夜の道をリニス、シグナム、ザフィーラが歩いている。手にはパンパンに膨れ上がった買い物袋が持たれていてザフィーラに至っては前が見えなくなるほどに積み上げられた段ボールを持っていた。今日ははやてが退院する日、ゆえにこうして買い物をして退院祝いをしようとの企みなのだ。時雨もこの事には賛成で、今日ばかりは拠点にしている廃工場ではなくキチンと家で寝ると言っていた。
端から見れば仲の良い三人の買い物帰りというありふれた光景なのだろう。
だが、【闇】はそのありふれた光景を許しはしない。
「ーーーーーーなっ!?」
道にいた買い物帰りの主婦や仕事帰りのサラリーマンの姿が消える。そしてその場に残ったのはリニス、シグナム、ザフィーラの三人だけ。これの現象を結界だと見抜いたリニスは即座に結界の種類の解析を済ませた。
「・・・・・・ミッド式の魔法、間違いなく管理局ですね」
「管理局か・・・・・・我々には細やかな幸せを祝う暇すら与えられぬというわけだな」
「これも
責めて被害を受けないようにと買った物を空き地に隠し、リニスたちはバリアジャケットに着替え仮面を着けて戦闘体制に入る。
「早く終わらせましょう。はやても時雨も心配します」
「同感だな・・・・・・」
「行くぞ」
三人は地面を蹴って空へと飛び立つ。空で待っているのは武装局員が十五名、そして執務官のクロノ・ハラオウンとシリア・ハラオウンたちだった。
「全く、Shitとしか言えないなぁおい」
民家の屋根を蹴りながら都市部で張られた結界に向かっているのは【主】と書かれた仮面で顔を隠した時雨だった。はやての退院を祝おうと家で買い物をしていたリニスたちを待っていれば突然の魔力反応、シャマルから結界が張られたこととその中にリニスたちが閉じ込められていることを告げられて、はやてのことをギルに任せて一目散に家を飛び出した。シャマルとスノウも着いてきたのだが時雨の指示により二手に別れ、それぞれ逆の位置から結界に侵入する手筈になっている。そうして都市部に入り、結界まであと500mほどまで近づいた時に時雨を止める者がいた。
「こんばんわ、闇の書の主さん?」
時雨の前に立ったのは紫のコートに身を包んだ白に近い銀の長髪の少女だった。この少女に見覚えのあった時雨は足を止める。
「エリアスフィール・フォン・アインツベルンか・・・・・・」
「あら?貴方私のことを知っているのね?」
「もちろん、敵になりそうな奴には目星を着けてあるからな。それにしても一人で・・・・・・いや、霊体になってる奴含めても二人で
「いいえ、もちろんそんなことはしないわ」
エリアスの言葉と共に騎士が、弓兵が、騎兵が、そしてエリアスの背後に目が覚めるような朱色の鎧を着た偉丈夫が現れる。
「ヒュ~♪ランサーとキャスターとアサシンを除くサーヴァント集結とは・・・・・・
「それだけ貴方が危険と言うことよ」
エリアスはそれだけ言うと、まるで聖女のような微笑みを浮かべて、
「やっちゃえ、バーサーカー」
「■■■■■ーーー!!」
己の狂戦士に処刑を命じた。
~中華料理店【泰山】
語尾がアルという胡散臭い中国人が経営している料理店。出される料理はどれも美味なのだが事麻婆系だけに限っては人が殺せるのでは無いかと思えるほどに辛い。
~コトミネ・キレイソン
所属は教会で海鳴における魔術監督役。この立場を利用して時雨に情報を流している。魔術師を嫌悪している素振りを見せるが時雨と極一部の知人は嫌っていない様子。
~八神宗次
~八神奏
はやての実の親。コトミネの友人でもある。
~アインツベルン
~マキリ
~遠坂
この世界の御三家。聖杯を呼び出そうとしたわけではなく闇の書対策に英霊召喚システムを作り出した功績からこう呼ばれることになった。
~キャスター
呼び出されたがマスターから令呪と魔術回路を奪って逃走した模様。消息不明。
~ランサーとそのマスター
コトミネの友人で時雨たち側に着くことを決めているらしい。いったい誰なんだ・・・・・・
~泰山の麻婆豆腐
完食できた者は五人もいないとされている泰山名物料理。時雨とコトミネはお代わりまでいきます。
~はやて×ギル
作者は書いててほのぼのしてました。
~司書さん(34歳既婚)
なんて凄い
~相井神悟
オリ主(笑)、独り善がりに躍り続けるピエロ。それ以外の説明は不要。
~ギルの観察眼
例え子供状態でもアトラスのホムンクルス相手にチェスで圧勝した
~不定期で色々セールをするスーパー
お客様は神様だ!!をモットーに色々とセールをするスーパー。広告では伝えずに開催が不定期な為に連日主婦の皆さんが押し掛けて来るので結果的には元が取れている。
~時雨VSセイバー&アーチャー&ライダー&バーサーカー
一対四、普通ならオーバーキルにも程がある。エリアスフィール以外のマスターは被害を受けないように、アサシンは隙を伺って隠れている。
~「やっちゃえ、バーサーカー」
UBWのイリヤのこのシーンに萌えたのは作者だけでないと信じたい。
感想、評価をお待ちしています。