番外編が長すぎるとの指摘をいただいたので一旦夏祭りの辺りは凍結して本編へと入りたいと思います。
本編を楽しみにしていた方々、この場を借りて謝罪いたします。
第一幕 崩れる日常
色々とあった夏を乗り越えて今は九月、夏の暑さが残る今日この頃に俺は部屋に閉じ籠って黙々ととある作業をしていた。
「ここをこうして・・・・・・そこをそうして・・・あそこをあぁして・・・・・・ちっ!!エネルギーの供給が上手くいかねぇ!!」
部屋に置かれている机の上には電子基盤や工具などが雑にばらまかれており、その中心には大量のコードが繋がれている本のようなものがあった。
「完成度20%・・・・・・たった一月で二割しか出来ていないことを嘆くべきか、それとも知識なしでここまで来れたことを喜ぶべきか」
休憩も兼ねてタバコを加えて火をつける。俺が今しようとしていることはクロノやフェイトが持っていたデバイスの制作、それもただのデバイスではなく闇の書の複製品の完成を目指している。平行世界に行った時の資料からあいつらは闇の書の暴走体を屠ったことで闇の書、もとい夜天の書を消滅させた為に歪んだプログラムを改変することが出来なかったそうだ。なら予めスノウを別の器に移してやれば闇の書を改変することが出来る。もしそれで闇の書の暴走体が出ようがプログラムの中にある転生システムが作動してこの世界から居なくなろうが問題無くなる。簡単に言えばスノウに今住んでいる
だが問題点も山積みである。第一に材料が足りない。デバイスを作るにあたっての材料が地球にはほとんどないのだ。まぁこれは平行世界の管理局からパクったデバイスをバラしたり、忍に頼んで類似品を用意してもらったりでどうにかなっているのだが失敗する可能性を考えるとまったく足りていないのが現状だ。第二にデバイスに関する知識が足りない。今ある闇の書やシグナムたちのデバイスを解析したり、パクったデバイスをバラして構造を把握したりしているがまったくもって情報が足りない。幸いにもリニスがフェイトの使っているデバイス【バルディッシュ】を作った経験がある。ただ俺が作ろうとしている物とバルディッシュはまったくの別物なので参考にはならない点が多いのだがそれでも無いよりはマシだ。第三が闇の書の存在その物。闇の書の存在が時空管理局にバレることが何よりも不味い、最大の問題点と言っても過言ではない。平行世界の管理局からパクった資料によれば管理局は前から闇の書の存在を認知しておりロストロギア認定されてしまっている。闇の書による被害も多く、クロノ少年の父親も被害に巻き込まれて死亡している。つまり管理局にとって闇の書は怨敵と言ってもいい存在なのだ。俺とはやてが闇の書の主で地球に闇の書があることがバレれば最悪管理局総出で地球にやって来る可能性が出てくる。
他にも問題はあるのだが考えるだけで頭が痛くなってくる。どれもこれも闇の書がはやての手元にやって来たことが原因だ。しかしだからと言って俺は闇の書の存在その物を嫌悪している訳ではない。闇の書のお掛けで家族が増えたのだ。家族を亡くしていたはやてを癒してくれたし、家族と呼べる身内を一人しか知らなかった俺に多くの家族を与えてくれた。厄介の原因でありながら今の
「」パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ
「・・・・・・何時入ってきて何故俺のことを激写している」
「たった今入ってきました。そして呆れたような笑みを浮かべている時雨のことを撮るのは当たり前のことです」ドヤァ
「ドヤ顔やめい」
シュテルの奇行に慣れてしまった自分が怖い。未だにシャマルの奇行には慣れていないのにシュテルの奇行には慣れるってどういう事だよ。そしてシュテルは俺がやろうとしている事を察してか作業が中断している時を見計らってやって来る。その気遣いは正直嬉しかったりするのだが決して本人には言ってやらない、教えてやらない。
「それでどうしたんだ?」
「朝食が出来たので降りてください」
「ゲェッ!?もう朝かよ・・・・・・気付かなかったぞ」
確かにカーテンを見れば作業を始めた時には見えなかった光が隙間から溢れている。集中しすぎた。
「それとはやてがまだ起きていないようなので起こしてください」
「珍しいな、寝坊か?」
「かもしれないですね」
そう言い残してシュテルは部屋から出ていった。そして俺は階段の手前にあるはやての部屋に向かう。本当ならはやての足の事を考慮して一階に部屋を用意するべきなんだろうがはやては二階がいいと断固拒否、妥協案として俺の部屋の隣で階段の近くの部屋にすることで合意してもらったのだ。
「はやてー、はーやーてー?」
ノックしながらはやてを呼ぶが返事がない。寝ているのか?育ち盛りなのだから好きに寝かせてやろうと思い、ドアから離れようとした時にゾワリと嫌な寒気が走る。この寒気の感じは・・・・・・
「はやて、入るぞ!!」
心の中で謝罪しながら部屋の中に入る。部屋の中は年のわりには落ち着いた雰囲気の物になっていた。勉強机とベットと本棚、そして窓際にあるベットの上でーーーーーーーーーーーー
「っ!?はやて!?」
はやてが、苦しそうに胸を押さえてうずくまっていた。
あれから時間が経って夜。俺は公園のベンチで何をするでもなくただ夜空を見上げていた。
“下半身の麻痺が、内臓器官にまで影響しています”
苦しそうにもがくはやてを病院に連れていき、はやての主治医から言われた言葉。そう言われた時に頭の中が真っ白になり、ナースから帰るように促されるまで俺は意識の無いはやての側から動くことが出来なかった。はやての足は闇の書のせいで麻痺をしていた。その範囲が広がったのだとすれば内臓器官に影響したことに納得が出来る。管理局から奪った資料からはやてが早かれ遅かれこうなることは理解できていた。でも、脳が理解し納得しても心がそれを許さない。
「時雨・・・・・・」
「・・・・・・」
俺の前に現れたのはシグナム、ザフィーラ、シャマル、そしてスノウだった。ヴィータははやてのことを聞いて泣き、そして疲れたのか寝ているのでこの場には居ない。
「時雨、御命令を」
「・・・・・・何を命じろと?」
「闇の書を破壊すればはやてにかかっている呪いは解かれます。そのために、我々に自害しろと御命令ください。闇の書を破壊する際に我々は恐らくそれを阻止するために抵抗するでしょう。ですから我々が居なくなれば闇の書の破壊は速やかにーーーーーー」
「ーーーーーー世界における幸福と不幸の割合は決まっている」
「ーーーーーーは?」
俺の発した言葉にシグナムの口が止まる。それを確認したわけではないが俺は続きを発した。
「俺の持論さ、世界における幸福と不幸の割合は決まっている。誰かが幸福であるとするならどこかで誰かが不幸である。
肥満で悩んでいる奴がいれば今日食う物の調達に悩む奴がいる。
笑いながら水を捨てる奴がいれば泣きながら泥水をすする奴がいる。
一日で数千万もの金を簡単に得る奴がいれば数十の金を命を削りながら得る奴がいる。
そして赤子が生まれたことを喜ぶ奴がいれば隣人を殺されて嘆く奴がいる。
幸不幸何てものはそんな物だ。幸福であるならどこかで不幸であり、不幸であるならどこかで幸福である。そうやって世界は上手く循環しているんだ」
俺の言葉を四人はただ黙って聞いていた。
「
親を亡くし、足は訳のわからない物のせいで不自由に、これを不幸と言わずしてなんと言う?
俺が、リニスが、シグナムがザフィーラがシャマルがヴィータがギルがスノウがシュテルがレヴィがディアーチェが、家族が増えてはやてが笑えて・・・・・・間違いなく幸福と呼べるような時間をようやくに得られたんだ。
笑えるよなぁ!!せっかく不幸からようやく幸福を得られたって言うのによぉ!!その代償が命なんだぜ!!神様よぉ!!そんなにはやてのことが嫌いか!?はやてが何かしたのか!?なんで・・・・・・なんではやてにばかり貧乏クジを引かせる!?なんでようやく得た幸福を続かせることをしない!?上げて落として何が楽しいんだ!?聞いているのか糞神様よぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
吠える、ただ吠える。届かないことなど分かりきっている。そもそも相手は存在するかどうかすらあやふやな空想なのだ。それでも叫ばずにはいられなかった。誰にもぶつけられないこの怒りを不確定な存在にぶつけることしか俺には出来なかった。
「ーーーーーースノウ、蒐集をすれば闇の書の侵食はどうなる」
「・・・・・・理論上では400ページ蒐集すれば止まるはずだ。この機能は主が蒐集をしない場合に強制的に蒐集をさせる物なはずだから一定の蒐集があれば止まるはず・・・・・・すまない、この機能は元々の物ではないから私には詳しくわからないのだ」
「十分だ、一定の蒐集さえすれば侵食が止まることがわかればいい」
スノウの答えを聞いて俺はベンチから立ち上がる。
「夜天ーーーーーーいや、
「っ!?時雨!!それは!!」
俺の言葉に食らい付いたのはシグナム。それはそうだろう、蒐集を開始すれば当然管理局が動く、つまり管理局と真っ向からやりあうことになるのだ。様々な時空を管理する組織に対してそれは最悪手にもほとがある。シグナムが言ったように闇の書を破壊した方がリスクの面で見れば有効なのかもしれない、だがーーーーーー
「煩い、家族を殺すような真似をするなら世界を敵に回した方がマシだ」
そう、これは俺のワガママだ。シグナムを、ザフィーラを、シャマルを、ヴィータを、スノウを、家族を失いたくない。だから安全策よりも愚策を選ぶ。
あぁ、俺は馬鹿なのだろう阿呆なのだろう愚かなのだろう。それでいい。家族を殺すことで讃えられるのなら俺は家族を守って蔑まれる方を選ぶ。
ただ、大切な身内を守れるだけの存在で有りたいのだ。
「もう一度言うぞ、誰一人!欠けることなく!最悪蒐集出来なくてもいい!!これは命令だ!!背くことは許さない!!」
「時雨・・・」
「時雨殿・・・」
「時雨さん・・・」
「時雨・・・」
「諦めた方がいいですよ、シグナム、ザフィーラ、シャマル、スノウ。こうなると時雨は梃子でも動きませんからね」
緊迫した空気になっていた俺たちに声がかけられた。声のした方向を見ればそこにはリニスの姿があった。リニスの後ろには誰か着いてきているようだが、
「時雨」
「・・・コトミネか」
現れたのはコトミネだった。無表情に近い顔を今日は何時も以上に強ばらせていた。そして俺に近づきーーーーーー
「ーーーーーーシィッ!!」
「時雨っ!?」
顔に向けて放たれる拳、コトミネの習得している中国拳法のセオリーを一切無視した拳は俺の顔面に突き刺さった。避けることも出来たが俺はそうしなかった。
「終わりか?」
コトミネの拳を受けて、平然とした様子で尋ねる。
「・・・・・・今回の件は予測できなかった私にも責任がある。よってこれで不問とする」
「そうかい、随分とぬるいじゃないか」
「・・・・・・自分を責めるな」
「ーーーーーーーーーーーー」
コトミネの言葉に俺はなにも言えなかった。否定するでもなく肯定するでもなく、余りにも俺の心中を射た言葉だったから。
「はやての治療は私が勤めよう
この町で何か行動するなら私が揉み消そう
何か必要な物があるのなら私が揃えよう
だからはやてを救ってくれ、時雨」
それだけ、それだけを言い残してコトミネは去っていった。
「これはコトミネから公認で行動できるということですかね?」
「そうだな、少なくとも監督役であるあいつに認められたなら俺たちも動きやすくなる」
「ーーーーーーひとつだけ、聞かせてください」
コトミネに向けていた目をシグナムに戻す。
「時雨はどうしてそんなに家族、いや身内に執着するのでしょうか。確かに身内が大事だと言うことはわかりますが貴方のはハッキリ言って異常です」
「・・・・・・それを答えたら、納得してくれるか?」
「納得できるものならば」
やれやれと言うしかない。ザフィーラやシャマルは兎も角シグナムとスノウは下手をすれば影でこっそり自殺とかやりかねない。つまりこれで納得させなければならない。
「わかった・・・・・・見せてやるよ、俺の過去を」
そう言いながら宝石を取り出して辺りにバラ撒き結界を張る。
ここから流れるのは俺の過去
俺の魂に刻みついた俺の歴史
それは誇るべき物でもあり
同時に嫌悪すべき物でもある
A's編開始しました。前半はもう穴だらけなので突っ込まないでください(泣)
次回はようやく時雨の過去が明かされます。
感想、評価をお待ちしています。