調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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気がついたら番外編が無印編よりも話数が越えていたという事実に驚愕が隠せないです。


番外編30章 そーれそれそれお祭りじゃぁぁぁぁぁ!!!!④

 

 

海鳴武闘大会Cブロック第八試合

 

 

Cブロックで行われる最後の一回戦でリングに上がったのは肥満な体躯を惜しみ無く晒し、まわしを着けた男性と顔を【隱】と書かれた覆面で隠した胴着の男性。

 

 

「試合開始!!」

 

 

レフリーの声と共にまわしを着けた男性は右足を高くあげて振り下ろし、左足を高くあげて振り下ろし、前傾姿勢になってリングに拳を着けた。そう、何を隠そうこのまわしを着けた男性は元力士、故に自分の慣れ親しんだ相撲のスタイルで戦うつもりだった。ちなみに彼は海鳴でちゃんこ鍋屋を経営しており元力士が作るという事実もあって満員御礼の毎日を妻と子供二人、従業員たちと過ごしている。

 

 

「・・・・・・」

「・・・ほぅ?」

 

 

それに対して覆面を着けた男性のしたことはあまりにも予想外だったと言える。なんと彼の目の前で堂々と前傾姿勢になってリングに拳を着けたのだから。つまりこれは元力士相手に相撲で勝負することと同じ。モニター越しにこれを見ていた人々は驚き、酔っ払った数人は胴着来てるなら空手やれや!!と怒鳴っていた。

 

 

これを見たレフリーは二人の中間地点から少し離れた場所に立ち、

 

 

「はっけよぉい・・・・・・のこった!!」

 

 

仕切り直した。そしてそのレフリーの声と同時に二人は飛び出してぶつかり、覆面を着けた男性がリングの縁まで吹き飛ばされた。

 

 

それは当然のこと、元力士の方は現役時代から落としたとはいえ体重は150kgはある。それに対して覆面を着けた男性の方は鍛えられた体をしていることは胴着の上からでも分かるがどう見積もっても80kgは無い。倍近い質量の差に覆面を着けた男性が吹き飛ばされることは明確だったのだ。

 

 

吹き飛ばされた覆面を着けた男性はコキコキと首を回しながら元力士の前に戻り、そしてまた前傾姿勢になってリングに拳を着けた。これは懲りていないのか、それとも何か策があるのか。

 

 

「はっけよぉい・・・・・・のこった!!」

 

 

そして再びレフリーの声と同時に二人はぶつかり、覆面を着けた男性が吹き飛ばされる。しかし今度は先程吹き飛ばされた距離も半分近くで終わり、なんと元力士の方が膝をついていた。これにはモニター越しに観戦していた人々も驚愕の声を上げる。

 

 

覆面を着けた男性は元力士の前に戻り、左の人差し指を一本、右の人差し指を一本立てた。一と一、これで一対一だということを伝えたいらしい。これを見た元力士は額に青筋を浮かべながら四股を踏み直した。相手が何をしたのか分からないが相撲勝負で自分が負けたのだ、元力士としての彼のプライドに火が着いた。

 

 

そして三度目となる仕切り直し。

 

 

「はっけよぉい・・・のこった!!」

「ガァァァァァァァァ!!!」

 

 

レフリーの声と同時に元力士は吠えながら張り手を覆面を着けた男性に向けて放った。一般人が受ければ死亡してしまうような、この相手を必ず倒す勢いで放たれた渾身の張り手は覆面を着けた男性を捉えることなく空を切った。

 

 

元力士は覆面を着けた男性がどこに消えたのかを目で追えていた。上だ、彼は張り手を上に飛んでかわしたのだ。そして覆面を着けた男性は宙で回転しながら元力士の頭に目掛けて踵落としを放つ。

 

 

そして元力士はそれを張り手には使っていない逆の手で受け止めた。取った、と思いニヤリと口角を上げたがその後に止められていない足の踵が元力士の頭部に落とされた。予期せぬ一撃をもらった元力士は崩れ落ちてリングに沈んだ。それを見たレフリーは勝負ありと判断して勝者の名前を叫ぶ。

 

 

Cブロック第八試合、(おん)勝利

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ!!予選もAブロックBブロックを終えて残すところCブロックとDブロックになりましたねコトミネさん!!』

『そうですね、Aブロックからは高町士郎、Bブロックからは鳳凰院帝王と三王のうち二人は出場を決定しました』

 

 

実況席に座った月村忍とコトミネ・キレイソンがマイクに向かって話す。コトミネの言った通りにAブロックからは高町士郎が、Bブロックからは鳳凰院帝王が出場を決めていて残す試合はCブロックとDブロックの最終試合だけになっていた。

 

 

余談ではあるがコトミネの言った三王とは高町士郎、鳳凰院帝王、そして八神時雨の三人のことを表す。誰が決めたわけでなく自然とそう呼ばれるようになったのだ。

 

 

【高王・剣豪】高町士郎

 

【鳳王・不動】鳳凰院帝王

 

【八王・死神】八神時雨

 

 

それぞれの名字から一字と王を着けた名前と戦い方から自然と二つ名が付けられるほどに彼らは有名だった。

 

 

それぞれにこんな噂話がある。

 

 

高町士郎は素手で剣の型の素振りをしただけで木が斬り倒された。

 

鳳凰院帝王は町で暴走族に絡まれた際に一歩もそこから動かずに全員を倒した。

 

八神時雨は一人でチャイニーズマフィアを物理的、経済的に潰した。

 

 

都市伝説、そう言われてしまえばしょうがない根も葉もない噂話であるが実際にはこれらはすべて事実であるのだ。

 

 

だからこそこの海鳴に住む血気盛んな者たちは三王たちを尊敬し、畏怖しーーーーーーそして彼らを倒そうとする。だからこそこの海鳴の夏祭りは他からすれば奇妙な内容だとしても祭りとして成り立っているのだろう。

 

 

『そして残ったCブロックとDブロックの試合ですがCブロックは三王こと八神時雨さんと初出場の隱さん、Dブロックは三王の高町士郎さんの息子の高町恭也さんと八神時雨さんの身内のザフィーラさんですね』

『今年も三王がと内心思ってましたがこれはもしかすると王の入れ換えがあるかもしれませんね』

『そうですね、もしコトミネさんが出ていたのなら間違いなく王の入れ換えがあったでしょう。どうして今年は不参加を?』

『いつもなら例え死にかけでも出るつもりだったんですがこれからどうしても失敗するわけにはいかない私用がありましてね、万全を期すために今年は不参加とさせてもらいました』

『そうですか・・・・・・来年に期待したいところですね。それでは!!注目の代表決定戦は十分後に開始予定です!!』

 

 

忍の締めくくりと同時にモニターに流れている映像はこれまでの予選の総集編に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次に勝てば決勝進出ですね、時雨」

「そうだな・・・・・・」

「どうしました?そんな顔をして」

 

 

選手控え室として提供されている一室で時雨はサポーターとして着いてきたリニスと話していたがリニスは時雨の表情が気になったらしく疑問をぶつけていた。

 

 

「隱が使った技・・・・・・これは圓明流っていう技だ」

「エンメイリュウ?」

「そう、宮本武蔵や新撰組の土方歳三、名前は忘れたが柔道の開祖や相撲で有名な力士を倒した千年無敗の流派だ」

 

 

そう言いながら時雨はモニターに流れている総集編の映像を見る。そこは丁度隱の試合の映像が流れていた。

 

 

力士相手に使った時間差で踵落としを食らわせる技、斧鉞(ふえつ)

ボクサー相手に使ったクロスカウンターに見えるが腕を折った技、獅子孔(ししこう)

空手家相手に使った零距離で放った拳が陥没するほどの打撃の技、虎砲(こほう)

 

 

どれもこれも時雨の知る圓明流の技ばかりだ。

 

 

「そ、そんなに有名な流派なんですか!?」

「あぁ、漫画の中の流派としてな」(・・・・・・・・・・・)

 

 

そう、圓明流とは架空の流派。実在するはずかない・・・・・・・・・・・・・・・が、海鳴の住人ならやれないことも無さそうということを否定できないのが辛い。

 

 

「あと、隱なんて名前使ってるけどリニスが知ってるやつだぞ、こいつ」

「そうなんですか?」

「あぁ、顔を隠して名前も偽名ってことは顔と名前を知られたくないってことだ。んで俺はそんなことをしそうな奴を知っている」

「誰なんですか?」

「そこは自分で考えなさい。んじゃ、そろそろ時間だから行ってくる」

「はい、行ってらっしゃい」

 

 

支給されていたスポーツドリンクを一気に飲み干して時雨は控え室から出ていった。そしてリニスはモニターに流れている映像を見ながら隱の正体が誰なのかという謎解きをしていた。

 

 

リニスの反応が冷たいような気もするがこれが彼らの間としては正しいことなのだ。

 

 

リニスは時雨の勝利を疑問に抱く間も無いくらいに信じている。だからリニスがすることは当たり前のように勝利を取ってきた彼を迎えることなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは隱の控え室、ここにいるのは隱一人でサポーターは誰もいない。換気扇のモーター音だけが響く中で隱はただただ座禅を組んで瞑想をしていた。

 

 

隱はこの大会で優勝するつもりはなかった。ただ自分の力がどれ程の物なのか力試しの為だけに出場したのだ。そしてCブロックの決定戦にまで残り、時雨と対戦する。

 

 

隱からすればこの試合こそが彼にとっての決勝戦、次のことなど考えずにこの試合だけに死力を尽くして時雨に勝つ。その事だけを考えていた。

 

 

そして控え室の扉がノックされる音を聞いて隱はリングへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで来たなザフィーラ」

「そうっ!だなっ!」

 

 

場所は代わりここはザフィーラの控え室。次の試合に向けてウォーミングアップをしていたザフィーラにサポーターとして着いてきたシグナムが声をかける。

 

 

ザフィーラがこの大会に出場した理由はただ一つ、時雨と戦ってみたい。それだけだった。時々家でするような組手ではなく勝つか負けるかの二択しかない勝負をしてみたいとザフィーラは思い、それを時雨に打ち明けたらこの大会のことを教えられたのだ。そして時雨はこう言った。

 

 

『もしこの大会で当たったなら手加減はするけどわりかし本気で殺ってやるよ。そんで俺に勝てたら・・・・・・よし、一日だけなんでも言うこと聞いちゃる』

 

 

時雨の手加減というのは言ってしまえば殺すか殺さないかのことだ。平行世界でその加減をしない時雨を見ているザフィーラだったが内心では時雨が最大限に譲歩したことを知っていた。

 

 

時雨は身内が傷つけられることを嫌う。それなのに時雨は身内(ザフィーラ)を傷つけることを肯定してしまったのだ。

 

 

ザフィーラは嬉しかった。自身の決めたことと自分の願いを秤にかけて、自分のことを決めてくれたことが。ザフィーラの頭の中には時雨が一日だけなんでも言うことを聞いてやると言ったことは無い、ただ自分の決めたことを覆してまで望みを叶えようとしてくれた時雨と戦うことだけに集中していた。

 

 

その為には次に戦う相手ーーーーーー高町恭也を倒す必要がある。故にザフィーラの関心は高町恭也の必倒だけに向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに場所は代わり、高町恭也の控え室。恭也は持ってきていた木刀を握ってひたすら素振りをしていた。

 

 

彼は幼い頃から父である高町士郎に剣を教わり、子供ながらにして剣士になることを誓っていた。そうして成長していく内に彼は一つの空虚を抱くことになる。

 

 

父と母と、妹二人と過ごす生活は暖かいものだった。

 

学校で学友たちと過ごす学校生活は楽しかった。

 

 

しかし何か物足りない、調味料が一つ欠けて完成された料理を食べたときのような物足りなさを感じていた。しかしそれは剣を振るっているには少しだけ緩和される。恭也はその空虚を抱えたまま成長した。

 

 

そして起こったのが四年前の高町士郎の負傷、ボディーガードをしていた高町士郎が対象を庇って銃に撃たれて瀕死の重傷を負ったのだ。そして偶然にもその頃始めていた喫茶店の経営が乗り始めていた為に母と妹の美由紀は喫茶店の経営に回り、もう一人の妹のなのはは喫茶店が落ち着くまで親同士の交遊のあった藤峰家に預けられることになった。

 

 

普通なら恭也も喫茶店の経営に回るべきなのだがその本人は父の敵をとると剣を振るっている毎日だった。そんな中で恭也は一人の男と出会うことになる。

 

 

『お前さん、なんでそんなに怖い顔して剣振ってるの?』

 

 

剣を振る自分に唐突に話しかけてきたのは黒いコートを着てタバコを加えた男性。恭也は警戒しながらもポツリポツリと濁しながら事情を説明した。溜め込んでいた胸のうちを打ち明けたかったというのもあるのだろう。恭也の話を聞いた男性は恭也に疑問をぶつけた。

 

 

『なぁ、なんで家のことを手伝わない?父親が守りたかった家庭をお前が守らないでどうする?』

 

 

男性に指摘されて恭也は雷に打たれた時のような衝撃を受けた。恭也は士郎から自分がいない間家族を頼むと言われていたのだ。それなのに今は仕事をしている家族をほったからして自分はのうのうと剣を振るっているだけ。そして何よりも衝撃的だったのがこの事を指摘されてなお、剣を手放せない自分がいることだった。

 

 

『どーやら他にも悩みがあるみたいだな。話してみろ、毒を食らわば皿までだ』

 

 

そして恭也は男性に自分の中に空虚を抱えていることを話した。

 

 

『ふん・・・・・・いくつか聞くぞ。それが満たされるときは何時だ?

家族と話している時か?

友達と遊んでいる時か?

それともーーーーーー試合やら戦いやらをしている時か?』

 

 

最後の言葉に恭也はピクリと反応を見せ、それを見た男性は満足げに頷いてこう告げた。

 

 

『戦いでしか満たされない飢え、それは戦闘意欲。つまりーーーーーーお前さんは戦闘狂、バーサーカーやベルセルグって奴だ』

 

 

その言葉を聞いた恭也は意外にもそれを拒むことなく受け入れていた。そして自分に失望する。つまり自分は死にかけている父や喫茶店の経営で忙しくしている母と妹や寂しい思いをしているであろう妹よりも戦いを取ろうとしていたのだ。これに失望しない訳がない。絶望している様子の恭也を見て男性は楽しそうな笑みを浮かべながら告げた。

 

 

『お前は確かに戦闘狂であるが同時に家族を大切にしたいとも考えている。戦闘を求めながら家族の平穏も求める。その二面性、何故拒む必要がある?受け入れて飲み干してしまえ。どちらかになるのではなくてどちらにもなってしまえ。そうすれば良いじゃないか』

 

 

男性の言葉は甘い蜜のように恭也に染み込み、そしてその結果平穏を望みながらも戦闘を望むという相反する思考を持つ一人の人間が生まれた。奇跡的に回復した父と喫茶店が落ち着き余裕ができてきた家族たちと過ごす日常を味わいながら、たまに父や男性、そして自分たちに害をもたらそうとする輩たちと戦う正反対の非日常。真逆の二つを恭也は楽しみながら過ごしていた。

 

 

そしてその男性ーーーーー八神時雨とは今では親友と言える仲になっている。時雨が弄り恭也が怒るという歪な関係だと思われるが恭也からすれば時雨は隠し事をせずに本心で話し合える相手だった。実際には月村忍と付き合うことになったときには家族よりも先に報告したこともある。その結果忍は大いにはっちゃけてしまうことになったのだが・・・・・・・・・

 

 

素振りを止めて備え付けられている時計を見れば試合の開始時刻が近づいてきている。それを確認した恭也は汗をタオルで拭き、水分を補給して、

 

 

「ザフィーラか・・・・・・時雨の身内ということは戦えるんだろうな」

 

 

ーーーーーー俺を満足させてくれよ?

 

 

獣のような狂暴な笑みを浮かべながらリングへと向かった。

 

 

 






(おん)の試合と時雨、隱、ザフィーラ、恭也の試合前の光景でした。


時雨、隱、ザフィーラはともかく・・・・・・恭也が戦闘狂になっているのは時雨が原因です。空の境界風に言えば荒耶=ジョージヴォイスが先輩の起源を覚醒させた感じに近い。しかし時雨は対話によって本性をさらけ出させているのでどちらかと言えば/zeroの言峰=ジョージヴォイスとギル様の問答の方が正しいかもしれないです。


その結果、恭也は日常(平穏)非日常(戦闘)を愛する異常者になっちゃいました♪


このことを士郎さんは気づいていますが本人がそれで満足しているようなので深くは言いません。しかし行き過ぎた場合にはO☆HA☆NA☆SHIが待ち受けています。


感想、評価をお待ちしています。


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