『さて、それでは本日のメインイベントに移りたいと思います!!!』
あれから時間がたち、日は完全に落ちて暗くなった夜の九時。祭りに参加した人々は商店街のあちこちに設置されているモニターの前に集まっていた。これから始まるのは祭りのメインイベント。始めにあった盆踊りも、屋台も、袋たちの暴走も、海鳴女王様コンテスト~女王様とお呼び!!~もこのイベントのための前座にすぎなかった。
『これより第7回海鳴武闘大会の予選を開始いたします!!実況はこの私月村忍と!!』
『コトミネ・キレイソンです』
マイクの置かれた実況席には無駄にハイテンションな月村忍と姿勢よく椅子に座っているコトミネの姿があった。そして実況席に置かれているのはペットボトルに入った水と麻婆豆腐、このコトミネどこまでいっても平常運行である。
『皆さん知っていると思いますがルールの説明をしたいと思います!!』
『とはいってもルールは二つです。【一対一】、そして【素手であること】。この二つと十五歳以上という年齢制限さえ守っていただければ性別年齢関係無く参加することができます』
『今回で七回目となる今大会ですがコトミネさん、注目されている選手はおられますか?』
『そうですね、高町士郎と鳳凰院帝王、そして八神時雨の三人、それに八神時雨の身内であるザフィーラ、そして私の知人たちも参加しているので粒は多いと思います。そちらには注目されている選手は?』
『もちろん私の恋人兼婚約者の高町恭也、それとこの
『ふむ、過去の出場者を見ても彼は今年が初参加のようですね。どこまで勝ち残れるか気になります』
『そして大会の方式ですがABCDの四つに別れてのトーナメント方式、それぞれで一位になった選手で決勝トーナメントを行うようになっています』
『予選は商店街に設置されているモニターで確認できるのでご安心を。決勝トーナメントは商店街の東西にリングを設置して行います』
『それでは!!第7回海鳴武闘大会!!開始します!!』
そう言って忍の手元にあるゴングが鳴らされると共に、あちこちから歓声が上がった。
~海鳴武闘大会が開始される少し前~
「海鳴武闘大会か・・・・・・」
御門は配られていたビラに書いてある大会の詳細を見てため息を漏らす。時雨と会ってから自分がどれだけ強くなったのか知りたいと御門は思っていた。そう思うのは当たり前の事だ。そしてそこにやってきた武闘大会の報せ、しかし参加制限に年齢十五歳以上ということが書かれていてそのせいで御門は大会に参加することが出来なくなっていた。
「(十五歳っていったらあと六年後か・・・・・・)はぁ」
「どうしたの御門?その大会に出たいの?」
「うん・・・・・・でも参加条件に十五歳以上ってあるから出られないんだけどね・・・」
「だったらアーカードがいれば参加出来るんじゃない?」
「アーカードか・・・」
確かにユニゾンデバイスであるアーカードとユニゾンしている状態なら御門は大人になれる。しかしそのアーカードだが・・・・・・
「アーカードの奴朝からどこかに行っちゃってる見たいで見つからないんだよね・・・どこに行ったんだろ?」
そう、その肝心のアーカードだが朝からどこかに出掛けていて姿が見えないのだ。蛇足だがアーカードは現在鳳凰院家で暮らしている。放火で家と親を亡くし、残った遺産も心ない親戚にすべて盗られて行く当てがないというどこからどう見ても嘘のような理由を御門の両親はガチ泣きしてここに住むように言ったのだ。
「ほんと、どこに行ったんだろアーカード」
「ん?呼んだかねマスター」
突然かけられたジョージヴォイスに御門とヴィータはそちらを見る。するとそこには白地に紫陽花の模様の着いた浴衣を着て林檎飴をかじっているアーカードの姿があった。
「なにやってんの・・・・・・」
「見ての通り祭りを謳歌しているだけだが?」
「これで出られるな!!」
御門、年齢を詐称して武闘大会に参加
「これだわ!!」
「なにやってんだよ遠坂・・・」
配られていたビラに顔を近づけて興奮しているのは今日の朝に海鳴教会訪れていた三人組の一人、遠坂凜だった。
「これを見なさい!!優勝景品のところよ!!」
「なになに・・・・・・【優勝には八神時雨執筆の小説セット、翠屋の年間フリーパス、現金1000万円】・・・ってマジかこれ」
そこに書かれていたことに三人組の一人、衛宮士郎は驚く。前者二つは兎も角、後者の優勝景品は凄まじい。こんな祭りの催し物ではなくキチンとした大会の賞金クラスだ。
「この大会で優勝すれば欲しかった研究資材も買える・・・・・・!新しい宝石の補充も出来る・・・・・・!」
どうやら遠坂凜は金欠らしくギラギラと目を燃やしていた。金が絡むと余裕が無くなる人の典型的なタイプらしい。
「よし、エントリーをすませるわよ!!あ、当然士郎も参加ね。少しでも勝率を上げないと」
「俺は良いけど・・・ルヴィアはどうするんだ?」
「・・・参加させとけば良いんじゃない?あいつ目立ちたがり屋の馬鹿だから喜んで参加すると思うし」
「なんでさ」
遠坂凜の適当な理由に衛宮士郎は口癖の言葉を口にしつつ、射的で盛り上がっているルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトに少しばかりの同情を浮かべた。
後にこの話を遠坂凜から持ちかけられたルヴィアはノリノリでこれに了承したという。
しかし彼らは知らない。この海鳴という町がどれだけの魔境であるかということを・・・・・・・・・
衛宮士郎、遠坂凜、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、賞金目的で武闘大会に参加
海鳴武闘大会、Aブロック第一試合
「(これに勝って賞金を・・・・・・!!)」
「お手柔らかに頼むよ」
大会に参加した凜の第一試合の相手は人の良さそうな優男の言葉が似合う青年だった。
「試合開始!!」
「先手必勝!!」
レフリーの開始の言葉と共に凜は飛び込み青年の腹に目掛けてコトミネから習った中国拳法の一撃を放つ!!
「うん、悪くはない。でも温いね」
「・・・・・・は?」
間抜けな声を出してしまっても無理はない。凜の放った渾身の一撃は青年の
「その年でそれなら見込みはあるんだけど彼らと比べるとどうしても見劣りしてしまう。だから・・・・・・」
そう言いながら青年は空いた方の手で凜の頭を掴んだ。
「諦めろ」
青年が手ごと凜の頭を、正確には凜の脳を激しくシェイクした。左右に振られることに脳は着いていけず、守ってもらうはずの頭蓋骨に何度も叩きつけられる。こうして脳震盪を起こされて倒れた凜を見てレフリーは即座に試合を止めた。
Aブロック第一試合、高町士郎勝利
海鳴武闘大会Bブロック第一試合
「オーホッホッホ!!」
「・・・・・・」
高笑いを浮かべるルヴィアの前に立つのはいかにも鍛えていますよ的な雰囲気を出している筋肉隆々の男。しかし武道の経験があるのはルヴィアも同じ、彼女もレスリングを習っているのだ。
「試合開始!!」
「行きますわよ!!」
開始の言葉と同時にルヴィアは地面すれすれまで体制を低くして男に向けてタックルをした。
「(まずはタックルで体制を崩してから投げてマウントを取れば勝利も同然!!そのまま華麗に勝利してトオサカリンが悔しがる所を見下ろしてやりますわ!!)」
脳裏に凜が悔しがりながらライトを当てられている自分を見ている光景を思い描きながらルヴィアは男にぶつかった。予定ではそのまま体制を崩し、マウントを取って優位に立つはずだった。
「ーーーーーーなっ!?」
ぶつかって驚いたのは仕掛けたはずのルヴィアの方だった。それなりの勢いを持ってぶつかったはずなのに男はその場から一歩も動いていない。
「ーーーーーー嗚呼、何と哀れなことか」
「・・・・・・は?」
男は自分にタックルをして崩そうとしているルヴィアを可哀想な物を見るような目付きで見下ろしていた。
「このような弱者が自分が優れていると勘違いしてこの舞台に上っている、それを哀れと言わずして何というのだ」
そして男は組んでいた腕を解き、静かに振り上げーーーーーー
「だからこそ、私はここに立っている」
一気に振り下ろしてルヴィアの背中に張り手を食らわせた。接触したときにバコォン!!とあり得ない音がしてルヴィアはリングに叩き付けられて動かなくなる。
「弱者の思い上がりを正すのが強者である私の役目だ。だからこそ私は強者としてここに立ち、弱者共の思い上がりを叩き伏せているのだ」
ピクリとも動かなくなったルヴィアを見てレフリーは即座に試合を止めた。
Bブロック第一試合、鳳凰院帝王勝利
海鳴武闘大会Cブロック第一試合
「よしっ」
入念なウォーミングアップを済ませて衛宮士郎はリングに立った。凜に強引に参加させられたからとは言えども出る以上真面目に戦うつもりだ。
「真面目だね少年、堅っ苦しくてお兄さん息詰まっちゃいそうだよ」
衛宮士郎の相手はヘラヘラとした笑いを浮かべた茶髪の男性。これから戦うというのに両手はポケットに仕舞われている。
「・・・・・・あんたこそ真面目にやれよ。手を出さないのか?」
「歳上に対する口の聞き方じゃないっと、それもお兄さん的にはマイナスだよ、少年」
正々堂々とやりたいという士郎だったか男性は全く意にも介せずヘラヘラと笑っていた。話が噛み合わない。どうやら相手は自己完結するタイプらしい。
「試合開始!!」
レフリーの開始の言葉と共に士郎は男性に向かって駆け出した。衛宮士郎は武道の心得があるわけではない。だからこそ自分が出来ることを実行に移しているだけに過ぎない。それは自分の拳が当たる範囲まで近づいて殴ることだけーーーーーーーーーーーー!!
「青いね、少年」
「ーーーーーーガッ!?」
男性に突っ込もうとした士郎の顔面に何かがぶつかってダッシュが強制的にキャンセルされる。
「(なんだ!?なにがぶつかった!?)」
士郎は誰かが物を投げ込んだのかと思い辺りを見渡すが誰もいない。そもそも予選は集中して行えるようにと予選会場の場所は秘匿されていて誰も近づけないようになっているのだ。
「ーーーーーーーーーさぁ、死神様のお通りだ!!」
リングの端まで下がった士郎にぶつけられる無数の衝撃。それは的確に人体の急所を穿って士郎の意識を飛ばしたのだった。
Cブロック第一試合、八神時雨勝利
海鳴武闘大会Dブロック第一試合
「なんだぁ!?俺の相手はこんな嬢ちゃんかよ!!」
「・・・・・・・・・」
リングの上に立っているのはボディービルダーのような筋肉をした男と銀髪の少女。男はニヤニヤと少女を見てイヤらしい笑みを浮かべているのに対して少女は無表情のままである。
「おい悪いことは言わねえからよ、怪我する前に棄権しろよ。じゃないとしばらく病院で生活することになるぜぇ?」
「・・・・・・」
男の言葉に少女はすべてスルーしていた。無視されていると気づいた男は額に青筋を浮かべてレフリーを睨み付けて試合の開始を促す。
「試合開始!!」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
開始と共に男は少女目掛けて拳を振るう。それは大振りのいわゆるテレフォンパンチ。いかに威力を持っていて素人からすれば脅威であっても玄人や達人からすれば児戯にも等しい物である。
「ーーーーーーふんっ!!」
それは少女からしても同じだった。大振りの一撃を狙って紙一重でかわし、がら空きになっている男の鳩尾に拳を振るう。少女が放ったとは思えないような音を立てて拳は男の鳩尾に突き刺さり、容易く男の意識を奪い取ることに成功させた。
Dブロック第一試合、ザフィーラ勝利
魔境海鳴の宴は続く。
高町士郎「諦めろ」
鳳凰院帝王「弱者の思い上がりを叩き潰すことこそ強者の務め!!」
八神時雨「死神様のお通りだ!!」
「「「我ら海鳴三強!!大手を振って罷り通る!!」」」(刀語の虫組風)
海鳴という地方ほど魔境の名に相応しい都市はない(震え声)
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