調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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番外編20章 対立、そして時雨の過去

 

 

「やぁやぁこれはこれは、時空管理局と平行世界の魔術師とついでに未来から来た少年少女まで一同に集結してお目通りとは・・・・・・重ねて言うがばっかじゃねぇの!!」

 

 

ケタケタと馬鹿にするような笑いをあげながら時雨はこの場にやって来た全員を嘲笑う。実際にそうだろう。いくら危険物があるからと言って全員を出動させれば本拠地の守りが手薄になる。本来なら二、三人は残しておくのがベストなのにそうしなかった。これを笑わないでいつ笑う?

 

 

「シグナム、腕の調子はどうだい?」

「・・・・・・すこぶる順調だ」

「ヴィータ、アイスを食べ過ぎてはいないかい?」

「うっせーよ!!なんでお前にそんなことを言われなくちゃいけねーんだ!!」

「シャマル、変態」

「なんで私は断定なんですか!!あ、皆離れないでください!!」

「そこのマッチョマン、誰よ?」

「盾の守護獣ザフィーラだ」

「・・・・・・マジかよー有り得ねえわー世界が変わるとザフィーラが筋肉ムキムキマッチョマンの変態になるとか誰得よーマジナイワー」

 

 

騎士たちに疑問をぶつけ、それに反ってきた解答ーーー特にザフィーラの物に頭を抱えて悩む素振りを見せる。時雨からすれば女性であるザフィーラが正しくてムッキムキのマッチョマンであるザフィーラが間違いなのだからこの反応は仕方のない。

 

 

「聞きたいことがある。なぜこんなことをしたんだ」

「んー・・・・・・こんなこと、とは管理局に危害を加えて対立するような素振りを見せたことでよろしいかね?クロノ少年」

「そうだ!!君はこの世界の平行世界から来たはずだ!!ならば管理局がどういう組織で、この行動がどういうことなのか理解しているはずだ!!」

 

 

クロノ少年の怒り混じりの言葉に時雨はくわえていたタバコの火をコンクリートで擦って消し、新しいタバコに火を着けて煙を吐き出した。

 

 

「大まかな理由は二つ」

 

 

指を二本立ててそれを差し出す。

 

 

「一つ、先にそちらから危害を加えてきた。ハンムラヒ法典を知っているだろう?目には目を、歯には歯を、やられたのならやられたことと同じことをやりかえしてもいいという法だ。この世界のシグナムに俺は殺されかけたと感じたからな、それなら殺し返してしまってもしょうがない。片目をやられたらな両目を、前歯を折られたなら奥歯まで、殺されそうになったなら殺し返す。分かりやすいだろ?」

 

 

時雨の言葉にクロノは思わず背筋に嫌な悪寒を感じ取った。今時雨の言ったことは子供の身勝手な我が儘と同意義だ、まともな法が敷かれている場所であるなら間違いなくその思考は悪であると断じられてもおかしくはない。それなのに時雨の言葉にはそれが正しいことであるかのような凄みがあった。思わずクロノは半身程無意識に時雨から遠ざかる。

 

 

「まぁ俺個人としてはぶっちゃけどうでもいいんだけどね、そこのシグナムにしたことは俺の家族たちがやったことだから。俺が重要だと思ってるのは二つ目だ」

「二つ・・・目・・・?」

「お前ら、はやてを泣かせただろう」

 

 

時雨の口から出た名前は今この場にもいる八神はやての名前、しかしそれはここにいるはやてではなく時雨の娘、この世界からすれば平行世界の八神はやてのことだった。

 

 

「ご丁寧に結界まで張って守ってたって言うのにお前らはその囲いを壊してはやてに危害を加えようとした、ヴィータに傷を負わせた、御門君に要らない負担を負わせた」

 

 

そのときの光景を思い出しているのか時雨のタバコを手にした手が震え、そして火の着いたタバコを火種ごと素手で握り潰した。

 

 

「|この世界のいざこざなんて知ったこっちゃなかった《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。

闇の書の欠片なんてどうでもよかった(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

テメェらが勝手にすればいいと思っていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

なのにお前らは俺たちをお前たちのいざこざに巻き込み、あまつさえ無力なはやてに武器を向けて、怯えさせて泣かせた。それだけで十分だ。例え世界を敵に回そうがはやてを脅かす存在に俺は赦しを与えはしない。俺が決めた絶対事項だ。管理局に背くことがどんなことか理解しているか?そんなもの気に病む障害にすらなりもしないわ!!」

 

 

時雨の言葉にこの場にいる全員が言葉をなくした。思い付くのはプレシアの存在。病に身を蝕まれ、フェイトというクローンを作り出し、闇の書の欠片として再現されたとしても(アリシア)を甦らせたいと願う狂気染みた愛情。それと同じものを時雨から感じ取っていた。

 

 

「ーーーーーーー狂ってる」

 

 

誰が口にしたのか、その言葉は静まり返っていた結界内によく通り誰もの耳に届いた。それには当然時雨も含まれる。その言葉を聞いた時雨はせせら笑った。

 

 

「狂ってる?はっ!!何を今さら、四半世紀ばかり言うのが遅い!!人の欲の渦巻く底にて産まれたこの身が清廉潔白であるはずがないだろうが!!」

「ええそうね、流石は魔女子飼いの死神といったところかしら?」

「ーーーーーーへぇ」

 

 

固まっていた空気の中で一人だけ、言葉を発した者がいた。現代にはいないはずの白を基調とした忍者が纏うような服装に身を包んだ女性の名は内羽雀。雀は死神と呼んだ時雨のことを憎悪の籠った目で睨み、時雨は自身のことを死神と呼んだ雀のことを興味深そうに見ていた。もちろん目を合わせるような真似はしない。

 

 

「俺のこと、知ってるんだ?」

「もちろんよ、SSS級(トリプルエスクラス)の超一級犯罪者不可視の死神(インビジブル・デス)の八神、いえ五月原時雨さん?」

「はぁ・・・・・・その厨二くせぇ名前で呼ぶってことは、お前もしかして同郷者か?」

「雀、インビジブル・デスというのはいったい?」

「私の前世の世界で恐らく最も最悪だったと言われていた犯罪者よ。

 

 

曰く、姿は屈強な男であり可憐な女であり、

 

曰く、血を好み血を嫌い、

 

曰く、この世を嫌悪しこの世を愛している、

 

 

ふざけた噂に要人殺害に建築物への破壊行為、その他諸々の犯罪行為で最警戒人物であるSSS級に指名され、その現場を誰も目撃したことがないことから不可視の死神と呼ばれていた最悪の犯罪者・・・・・・まさかこんな優男だったと思わなかったわ」

「そこまで知っているとは・・・感服したよ。ちなみにその噂は俺が適当に広めたものだ。それを踏まえて聞かせてもらおう。お前は何者だ」

正義の法(ジャスティス・ロウ)、これでわかるでしょ?」

 

 

正義の法、その言葉が出てきた瞬間に時雨の全殺意、全敵意は全て雀に向けられた。

 

 

「あぁそうか、お前もあの独り善がりの連中の一味か。でもお前の顔は俺は知らない。有名どころはもちろん末端の組員、その家族血縁に至るまで全員の顔と名前を覚えているがお前の顔なんて見たことがないぞ」

「顔が変わったからでしょうね。私は聖円卓の第十四位、戦乙女(ヴァルキリア)のデュミナよ!!」

 

 

時雨の敵意と殺意に気がつかないのか堂々と胸を張って名乗りをあげる雀。その背中からは戦乙女の名の元になったであろう純白の翼が一対生えていた。

 

 

「戦乙女・・・・・・戦乙女・・・・・・あぁ!!色狂い(コスプレビッチ)の売婦か!!」

「っ!!そ、その呼び方は辞めなさい!!」

「ハハハッ!!何を今さら!!表では規律を良しとするお堅い(たち)でありながら裏では老若男女問わずに肉欲を貪っている!!これを色狂いと呼ばずしてなんて呼んだらいい!?あとその呼び方は俺が広めた!!仕事でお前の評価を落として欲しいと頼まれたのでな!!」

「お・・・お前がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ま、待て!!雀!!」

 

 

色狂いの売婦、それは元の世界において雀となったデュミナが消してしまいたい汚点であった。情事の現場を撮られた写真とその時の音声を録ったボイスレコーダーがメディアのあちこちに匿名で提出され、ネタに飢えていたマスメディアは迷わずにそれを号外と称して世間に広めた。しかも相手の顔と名前を伏せたインタビュー付きでだ。その結果デュミナの社会的地位は下落、なんとか誉れ高き聖円卓には残っていたが組織内部からはイメージの悪化に繋がるとデュミナの首を求める声が多々あった。故にデュミナは復讐を誓っていた。

 

 

ぶっちゃければただの自業自得で、これはただの逆恨みである。

 

 

そして雀となった今、その犯人がこの場にいて自白している。脳内全てを怒りに支配された雀はクロノの制止を振り切り、フェイトのソニックフォームには及ばないもののそれなりの速さで時雨にへと向かっていった。

 

 

「おお、恐い恐い。あの時に決めたことだが俺は正義の法その物とそれに関わった連中全員をぶち殺すと決めていてね」

 

 

迫る雀を視界に納めながらも時雨はその態度を崩さない。何故なら、この世界には自分と同等か、以上に(ビッチ)のことを憎んでいる奴がいるから。

 

 

「だが、今日この場においては特例を作ってやろう。出番だぞ?内羽のじいさん」

 

 

雀が時雨の眼前にまで迫ったその時、何処からか雀以上の速さで黒い影が現れて横合いから思いっきり雀にへとぶつかった。時雨だけに意識を向けていた雀にその突進を避けることは出来ず、吹き飛ばされて近くにあったビルの壁面にぶつかってしまう。

 

 

「ーーーーーーーーー貴様の相手は俺だ」

 

 

ひどく静かで透き通った声で乱入者はそう告げた。体つきは細身で黒を基調とした朱色の雲が縫い付けられたローブを身にまとった青年(・・)は時雨の側に立ち、魔導師たちのことなど意にも介せずビルに沈んだ雀の方だけを憎悪の籠った視線を向けていた。

 

 

「さて、誰だこいつと思っている阿呆どもの為に紹介といこうか」

 

 

立ち上がり、ズボンに着いた砂を手で払いながら時雨は青年の横に立つ。

 

 

「こいつの名前は内羽雲雀、正真正銘内羽雀の実祖父で内羽雀の身勝手な我が儘の為に血縁関係のある一族全員を皆殺しにされて死体を弄ばれた哀れな復讐者だ」

「内羽・・・・・・っ!?いや、雀以外の内羽は事故や病気で途絶えているって聞いたぞ!!それに祖父って・・・・・・!!どっからどう見てもそいつ二十歳前半だろ!!」

 

 

時雨の言葉が信じられないと言わんばかりに歩は否定の声をあげる。その表情を見た時雨と雲雀は雀が自分の行いを誰にも話していないことを悟った。

 

 

「話すのだりぃ・・・・・・内羽雀がやったことは俺は言わない。そしてこいつは間違いなく内羽雀の祖父だ。俺がちょちょいのちょいと魔法をかけてやって若返らせた」

「穢れた魔女の技術ね・・・・・・!!」

 

 

ビルの壁面が爆ぜてそこから須佐之乎を纏った雀が現れる。服には汚れが多少着いているが目立つ負傷は見られない。

 

 

「あぁそうさ、魔導時返し(ときがえし)。対象者の時を戻す簡単な効果の魔法さ。効果は二日、ただし定着に一日かかるから実質的には一日しか使えない、そして対象者は二日過ぎれば戻した時の数十倍の歳を一気にとって間違いなく老衰で死ぬ」

「なっ・・・・・・!?」

 

 

クロノが時返しの副作用に驚きの声をあげる。若返る、と言えば聞こえは良いがその代わりに死んでしまっては元の木阿弥、意味がない。クロノの考えを察した時雨はふざけた笑みを崩して真剣な顔つきになった。

 

 

「何だ?死ぬと聞いて怖じけづいたか?それともどうしてこんなことが出来るのかと言いたいのか?

俺はこいつに問いかけた、死んでも良いから復讐したいのかと?そしてこいつはそれに是と答えた。だから俺は魔導を使った。

例えその利子が二度日が昇れば全てを失うほどに莫大な利子だとしても、

例え担保に己が過去を差し出してもなお足りず僅かに残った余生を投げ渡しても、

こいつにはやらねばならないことがあった。自分の一族を殺した身内を粛清したいという一理の望みがあった。だからこの復讐に手を貸した。そしてこの復讐は内羽雲雀ただ一人だけの物だ」

「時雨よ」

「応、積もりに積もった恨みを晴らしてこい」

「感謝する」

 

 

時雨に一瞥もくれずに、雲雀は山伏しのような須佐之乎を身に纏い雀のいるビルへと向かっていった。雀の相手は雲雀がする、となると残り全ては時雨が引き受けることとなる。

 

 

「さぁて始めようか魔導師魔術師諸君!!演目は血躍り(ブラッドワルツ)だ!!精々綺麗に踊ってくれよ!!」

 

 

アロンダイトを片手に、もう片手を腰に着けた日本刀に添えて、時雨は単体でこの世界の魔導師たちと平行世界の魔術師と対峙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は代わり、ここは海。時雨が目をつけた原因と思われる物のある地点に向かう闇の書の騎士たち、マテリアルの三人、リニス、スノウ、ギルガメッシュ、御門、はやて、ヴィヴィオ、アインハルトの合計十四人がいた。闇の書の騎士たちとマテリアル、リニス、スノウは飛んで、御門、ギルガメッシュ、はやて、ヴィヴィオ、アインハルトたちはギルガメッシュの出したヴィマーナに乗ってだ。案内役として見つけたときにその場にいたシュテルが先頭にいる。

 

 

「それにしても・・・時雨は大丈夫だろうか?」

「心配しているのか?シグナム」

「あぁ・・・相手は時空管理局、(はした)は潰したとは言えど主力クラスはまだいるのだ」

「確かに心配だけど・・・時雨さんなら大丈夫よ」

「父ちゃんは強いから大丈夫だよ!!」

「そうやで。ウチのお父さんは最強なんや!!例え軍隊相手でも負けへん!!」

「はやて、その言い方は何か不味い気がするから辞めなさい」

 

 

どこかの狂戦士の主である蟲使いの伯父さんのような言い方に思わずスノウが諫める。どこかから電波を受信したようだ。

 

 

「大丈夫ですよ、時雨なら。それにあの人は元々一人で戦うのが得意ですから。共闘すればどうしてもこっちに意識を向けてしまうので寧ろ邪魔になってしまいます」

「随分とハッキリとした物言いだな・・・何か心当たりがあるのか?」

「えぇ・・・前に一度時雨は単騎で海鳴に勢力を伸ばそうとした香港マフィアを潰したことがありますから」

「・・・・・・はい?」

「む、なにか見えてきたぞ」

 

 

リニスの語ったことに思わず腑抜けた返事を返すシグナムだったがギルガメッシュの言葉に意識を取り戻す。確かにギルガメッシュのいった通りに目指している前方で誰が戦闘をしていた。目を凝らせばそこには赤髪の青いバリアジャケットの少女とピンクの髪のピンクのバリアジャケットの少女が銃を剣に変え、剣を銃に変えて戦いを繰り広げていた。何か言い争っているようにも見えるのだが生憎遠すぎて聞こえない。

 

 

「駆けよ、隼!!」

「鋼の軛!!」

「闇に沈め、ディアボリックエミッション」

 

 

邪魔になると判断したシグナム、ザフィーラ、スノウはそれぞれが出せる技を二人の少女たちに向けて放った。

 

 

開幕ブッパは強い、真理ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、海面にはさっきまで戦闘をしていた二人の少女が浮かんでいたとかなんとか・・・・・・この世に慈悲なんてないんや。いや、ギルガメッシュが加わらなかっただけ慈悲と呼べるのか・・・・・・。

 

 

 





時雨の過去暴露に雲雀のじいさん若返っての参戦回できた。あえてここではなにも語りません。


そして最後に戦闘していた二人の少女・・・・・・いったい何姉妹ナンダー(棒)


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