どこからか差し込む光と冬特有の空気の締まった寒さに意識が戻る。眼を覚ませばそこは見慣れぬ日本家屋の一室だった。
「ここどこ・・・・・・あぁ、内羽のジイサンの家だったな」
一瞬自分がどこにいるか分からなくなったがワラキアと共有していた記憶からここが内羽雲雀の家であることを思い出した。
『悪い、迷惑かけたな』
『何、気にするな。私も私なりに楽しめたのだからな』
頭の中でワラキアに謝罪するとその本人から返事が帰ってきた。体の所有権は俺にあるのだがそれでもワラキアが眠りについていない限りこうして話すことは可能である。それでもこいつは一度寝るとなかなか起きないので話せること自体少ないのだが。障子で遮られていた戸を空けて外を見ると雲の少ない冬の空は白み始めていた。これでこの世界に来て三日目か・・・・・・早く帰りたいものだ。
「時雨・・・ですか?」
「ん?おぉ、シグナムか」
かけられた声に反応してそちらを向けば木刀を片手に持ったシグナムが立っていた。俺の名前を呼んではいるが疑問符なのはしょうがないと思う。だって昨日まではワラキアだった訳だし。
「日課の素振りはこっちに来ても忘れてないようだな。関心関心 」
「ーーーーーーーっ」
「ーーーーーーーーはい?」
手に持った木刀を床に落としてシグナムが抱きついてきた。咄嗟のことに変な声を出してしまった俺を許してほしい。え、ちょ、どゆことなの?なんでシグナムいきなり抱きついてきてるの?
「良かった・・・・・・っ!!」
今にも泣き出しそうな、いや、もう泣いているのだろう。その声でシグナムがどうして抱きついてきたのか理解できた。俺のことを心配していてくれたのだ。不注意で月読を食らい、トラウマと向き合わされただけで動けなくなってしまったこの俺をだ。不謹慎かもしれないがこの嗚咽が、この体温が、この思いが俺に向けられていることが純粋に嬉しかった。
「悪い、心配させたな」
シグナムの抱擁に答えるように左手を腰に回し、右手は頭の上に乗せてやる。気の効いた言葉なんてかけてやれる立場ではない。だからこうすることが心配してくれたシグナムに対する一番の礼儀であるように思えた。
「ーーーーーーーーん?」
なんか視線を感じる。しかも後ろから複数。何となく首を回して後ろを見てみれば、
「」ニヤニヤ
「」ニヤニヤ
「」ニヤニヤ
「」ニヤニヤ
内羽のジイサン、シャマル、はやて、ギルがトーテムポールのように重なりながら廊下の曲がり角からニヤニヤしながら覗き込んでいた。
この後俺とシグナムが鬼となってリアル鬼ごっこが開催されたことは言うまでも無いだろう。
「いった~……お父さん酷いでぇ」
「全くじゃのぅ。老人を労るつもりは無いのかいの」
「うっせぇ、出歯亀どもを労るつもりはないわ」
「~~~~~!!」カーッ
「パクパク!!」
「ハグハグ!!」
「(羨ましいな・・・・・・ん?なぜ私はシグナムを羨ましがっているのだ?)」
「パルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパルパル・・・・・・」
「シュテル落ち着けぃ!!折角の朝食が不味くなるであろうが!!」
「お代わり!!」
「あの皆さん!!平然と食事されてますけどここに安否が不安な方々がいますからね!?」
「」シーン
「」シーン
俺の目覚めから時間が経って今は食事時、食事の席が賑やかなことは良いことだ。まぁ壁際のところで黒ひげ危機一髪よろしく樽の中に納められて剣やら槍やら刺されて大人しくしている英雄王と変態がいるけどそれは放置しておこう。ちなみにはやて、ヴィータ、御門君の子供組も確りと復活している。特に御門君の状態が心配だったがシャマルが頑張ってくれたらしく後遺症なども見られていない。
「さて内羽のジイサンよ、復讐したいのかい?」
「・・・・・・突然吹っ掛けてきたのぉ。どうしてそう思う?」
「職業柄そう言うのはわかる質なんだよ。自分の歳を言い訳に押さえ込んでいるみたいだけど仕返しをしたいってのはヒシヒシと伝わってくるぜ?一宿一飯の恩だ、したいのなら手伝ってやる」
「・・・・・・高々気まぐれで泊めてやったというのに共犯を担ぐつもりか?」
「俺が母から教わったことだよ。【一の恩を受けたのなら十の恩で返せ、一の仇を受けたのなら百の仇で返せ】ってな。そして幸いにも手持ちにはこんな物もあったりする」
そう言いながらポケットから時間停止の魔術処理が行われた写輪眼を取り出す。もちろん周りの皆には見えないように、食事時にこんなもの見せられたら食欲なくなるわな。
「っ!?それは!?」
「さて、どうする?誘いに乗って復讐するのか。それとも耐えて死ぬまで屈辱を噛み締めるのか。俺はただ選択肢を与えるだけで選ぶのはあくまでもあんただ。どちらを選ぶ?一族の生き残りの内羽雲雀さんよよ?」
考え込んでいる表情からは内心が読めないし読む気にもならない。皆が御菜を取り合ったり談笑している中で内羽雲雀は考え続け、ようやく答えを出した。
「儂はーーーーーーーー」
時間は正午、午後12時の鐘の音がなると同時に海鳴の町に三角錘の結界、ベルカ式の結界が展開された。これに慌てたのは時空管理局、闇の書の欠片に平行してそれの一部と思われる集団のせいで手痛い打撃を受けているのだ。動かない訳にはいかないが満足に動ける状態でないことも確かである。
「クロノ君!!私行くよ!!」
「私も!!」
「あたしも行くで!!」
そんな中で出撃を申し出たのは地球出身の魔導師三人組の高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやての三人である。なのはとフェイトは町の被害を心配してであろうがはやては違う。
「(シグナムをあんな目に会わせた奴らを許しておけへん!!)」
その心に燃えるのは復讐の炎。大切な家族を瀕死にまで追い込んだ犯人に復讐を。はやての目的はそこにあった。しかしクロノはそれに気づかずになのは、フェイト、はやて、そして夜天の騎士で動けるザフィーラ、シャマル、ヴィータ、そしてリインフォースの計七名に出撃命令を出してしまった。
そして出撃した七名は特にこれといった妨害をうけることなく展開された結界内に侵入することに成功する。
「あら、来たわね」
「こいつらなが父ちゃんを・・・・・・!!絶対に許さねぇ!!」
「来たな、筋肉ムキムキマッチョマン」
「コマンドーか。いや、確かにそうだが」
「ここでオリジナルを倒して時雨の好感度を上げれば・・・・・・ナハ♪」
「シュテルぇ・・・・・・」
「む!!出たな!!オリジナル!!」
結界の中で待ち受けていたのは平行世界の闇の書の騎士のザフィーラ、シャマル、ヴィータ、そしてスノウとマテリアルの三人だった。
七名を送り出したアースラ内で警報が鳴り響く。これは侵入者がいることの証。侵入者してきたのは軍服に身を包んだ男性とそれに追従するように続く猫の耳と尾を生やした女性と剣を片手に騎士甲冑に身を包んだ女性の三人だった。
「よくここの場所がわかりましたね」
「昨日の時にこの世界のクロノ少年にエーテルライトを伸ばして情報を引き抜いておいたのさ。それよりも目的ちゃんと分かってる?」
「この世界の闇の書とスノウのデータの確保です」
「然らば上々、早いこと終わらせるとしようか」
ニタニタと人を馬鹿にするような笑みを浮かべながら時雨は歩を進める。目指すはスノウを直すために必要なこの世界のリインフォースのデータ。その為だけに三人はアースラへと強襲を図った。無論考えなしに突っ込んでいる訳ではない。あらかじめスノウたちに海鳴の町で結界を張らせることで戦力の分断を狙い、それにかかったことを確認してからアースラへと乗り込んだのだ。
時雨は再起したが本調子ではない。だからリハビリ代わりにアースラを落とすことを決めたのだった。
時雨復活です!!久しぶりに時雨視点で書いた気がします。三人視点も楽しかったですけどやっぱり時雨の視点で書いた方が筆が進みますね。
時雨と雲雀との対談。そこで時雨は雲雀の心の内を読み、提案を持ちかけました。それに対する雲雀の答えは?
切りが良さげなところで切り上げさせてもらいます。
感想、評価をお待ちしています。