調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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番外編14章 内羽

 

 

戦艦アースラの中で集められた魔導師たちは一様に暗い顔をしていた。原因は先程の戦闘。闇の欠片らしき騎士たちと管理人格とリニス、そしてそれらを率いる男との戦闘の結果、この世界の魔導師たちは大敗した。

 

 

「・・・・・・出動した武装管理局員二十人全員殉職、歩は意識不明、雀は右眼を失い・・・何より酷いのはシグナムだな。両腕を粉砕骨折させられた後に歪んだ状態で治療が施されている。もはや剣すら持てず、日常生活が困難になるようなレベルだ」

 

 

クロノが疲れきった表情で報告書に書かれた内容を読み上げる。武装管理局員の殉職に加えて歩、雀、シグナムの主力とも言っていい三人が事実上動けなくなったことはこの世界の管理局にとって大きな痛手であった。シグナムがやられたときの光景を思い出しているのかフェイトとアルフは互いに抱き合って震えを押さえ合っていた。

 

 

その時の光景をダイジェストで伝えるとこうである。

 

 

『さて、これはどうしましょうかね?』

『殺すだけでは生温い、生かして苦痛を味合わせるべきだ』

『ならシグナム、貴女が辛いことはなんですか?』

『・・・・・・剣が持てなくなることか?主を守ることが出来なくなるし、何よりこの世界の私も自身の剣に誇りを持っているはずだ』

『なら両腕を砕いて使えなくしちゃいましょう』

『それなら砕いた骨を雑に繋ぎ合わせるのはどうだ?』

『それは名案です。私は右を殺りますね』

『ならば私は左だな』

ボキバキベキバキバキゴギ

 

 

まさにいとも容易く行われるえげつのない行為、平行世界に行くことができる大統領も真っ青である。

 

 

この場にこの世界のはやてとシグナムを除く夜天の騎士たち、そしてリインフォースはいない。未だに意識が戻っていないシグナムの看病に向かっているからだ。

 

 

管理局はしばらく動くことは出来ない。しかしその内に再び立ち上がるのだろう。何故ならここには不屈の魔法少女と、それに立ち向かった運命の名を持つ魔法少女がいるのだからーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ねぇ、私たちなんか場違いじゃない?」ヒソヒソ

「ク、クロ!そんなこと言っちゃダメだよ!!」ヒソヒソ

「(・・・・・・眠い)」

 

 

そんな中ちゃっかりと管理局に保護されている別世界の魔法少女たちだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうするべきかね?」

 

 

管理局から逃げ切ったワラキアは町の裏路地で小休憩を取りながらリニス、シグナム、ザフィーラ、スノウ、ギルガメッシュに告げた。彼らの目的は元の世界に帰ること、それらしき物は見つける事ができたがこればかりは時雨が復活するまでどうすることも出来ない。ならば拠点の確保をするべきなのだが、管理局を警戒していたリニスの考えからわざと人目のある場所を使っていたのだが今回の襲撃でそれは使えないとわかった。それにヴィマーナに乗っているであろうはやてたちとの合流も急がなくてはならない。彼女たちにはマテリアルの二角とシャマルが着いているであろうがそれでも不安が消えることはない。

 

 

故に彼らが取るべき行動とその優先順位は以下の通りである。

1、はやてたちとの合流

2、拠点の確保

3、管理局への警戒

 

 

「ねぇ、君たちが王様とシュテルんが言ってた人たち?」

 

 

意見を出し合い、これからの行動を決めたワラキアたちが立ち上がりはやてたちと合流しようとしたとき、その場に一人の少女が現れた。黒いレオタードのような服装にマントを羽織った水色のツインテールの少女。一見してみれば容姿はフェイトの物と全く同一なのだがその口から出たのはマテリアルである二人の名前だった。

 

 

「誰だね君は?君は私たちの事を知っているようだが我々は君の事を知らないのでな、紹介をしてもらえるとありがたい」

「いいよー!僕の名前は雷刃の襲撃者!!(レヴィ・ザ・スラッシャー)王様たちと同じマテリアルの一人だよ!!ふふん♪僕は強いんだぞ!!速いんだぞ!!」

「それでレヴィ。貴女はどうしてここに?」

 

 

これからの成長が楽しみな胸を張りながら自己紹介をしたレヴィにリニスは首をかしげながら訪ねる。

 

 

「あっそうだった!!王様とシュテルんに君たちを案内するように言われてるんだった!!ごめん!!僕に着いてきて!!」

 

 

 

慌てたように話ながらレヴィは空を飛んでどこかに行ってしまった。嵐のように現れて去っていったレヴィに唖然としながらワラキアたちはゆっくりとレヴィの後を着いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー皆遅いよー!!」

「お前が速いのが悪い」

「ここは・・・・・・」

「家、だな」

「しかも日本家屋の」

「ふむ、手狭ではあるが・・・・・・まぁ及第点と言ったところか」

 

 

勝手に先に行ってプンスカ怒っているレヴィにあしらうようにスノウが返して案内された先には日本家屋、それも武家屋敷に近い造りの建物があった。ギルガメッシュは手狭だと言っているが普通の一軒家に比べればかーなーり広い。

 

 

「王様ー!!シュテルんー!!連れてきたよー!!」

「ぬ、ようやく来たか」

「お帰りなさいませ貴方。お風呂にしますか?食事にしますか?それとも私ですか?」

「何をほざくか、この戯けが」

 

 

レヴィの呼び出しに応じて現れたのはディアーチェとシュテル。ディアーチェは普通に出迎えてくれたがシュテルの出迎え方に思わずワラキアは突っ込んでしまった。

 

 

「・・・・・・誰ですか?」

「ふむ、一言交わすだけで気がつくとは流石といったところか。私の名はワラキア。簡潔に説明すれば多重人格といった物だ」

「そうですか・・・・・・では時雨に変わっていただけますか?」

「そうしたいのはやまやまなのだが・・・・・・」

 

 

そう言うとワラキアは突然倒れた。

 

 

「大丈夫か!?」

「ひ、久しぶりの顕現なのに慣らしもせずに暴れたからな・・・時雨の体が吸血鬼の動きに着いていけなかったのだろう。十二時間だ、それまでに時雨の意識を取り戻しておく」

 

 

慌てて駆け寄ったシグナムにそう返してワラキアは眠りについた。それを確認したシグナムたちは思わず安堵のため息をつく。それと同時に家屋から一人の老人が姿を現した。髪、髭、眉に至るまで真っ白に染められており眼は閉じられていて一見すれば好好爺と言うのが妥当だがシグナムとザフィーラはその身のこなし方から何かしらの武道を嗜んでいると判断して警戒した。

 

 

「おやおや、どうやらお疲れのようじゃな」

「紹介しましょう。彼はこの家の主の内羽雲雀さん(うちはひばり)です」

「内羽・・・・・・あの子娘と同じ!?」

「なんじゃい、お前さんらもあの堕孫の被害者かいの。ほれ、こんなところにいないで早く家に上がりなさい。茶でも入れてやろう」

 

 

そう言うと雲雀は倒れていたワラキアを俵を運ぶように肩に担いで家の中に入っていった。敵意は無いと判断したシグナムたちは警戒しながらも雲雀の後を着いて家の中に入る。そうして案内されたのは囲炉裏の置かれている広い部屋。そこの隅の方に布団を敷き、ワラキアを寝かせると雲雀はシグナムたちに座るように指示をした。これといって逆らう理由もないので指示に従い畳の上に座る。

 

 

「始めにすまんかったのぅ、一族の恥さらしである堕孫のせいで迷惑をかけてしまって」

「堕孫、ということはあの女は貴方の」

「そう、孫に当たる。それに一族とは言っても今残っているのは儂とあの堕孫だけじゃ」

「それは何故?」

「堕孫が、一族に伝わる眼を奪うために殺したからじゃよ」

「ーーーーーーなっ!?」

「お前さんらは内羽の一族のことを知らんのじゃったな?ちょうどいい、説明することにしようかの」

 

 

そう言って雲雀はポツリポツリと内羽一族に着いて語りだした。

 

 

内羽一族、戦国の時代から忍びとして活躍してきた一族。独自の忍法も然ることながら内羽一族の最大の特徴と言えば内羽の血を引くものが開眼する眼にあった。その眼の名前は写輪眼。一度開眼すればすべてを見切り、無限に続く幻覚を見せ、すべてを燃やす黒炎を生み出し、空間すらも歪め、絶対的な防御を誇る荒武者を呼び出すことができるとされている理から外れた眼。利点だけを話せば無敵に聞こえるかもしれないがもちろん写輪眼にも欠点はある。それは使う度に視力は落ちていき、最終的には失明してしまうのだ。

 

 

「無論、これを回避する手段はある。それは写輪眼を移植することじゃ」

「ーーーーーーまさか」

「察しの通り、あやつは失明してしまったときの予備の眼を得るためだけに、一族を皆殺しにして眼を奪い取った」

 

 

雲雀から発された予期せぬ言葉にギルガメッシュを除いた全員が唖然とした。確かに五感の一つである視力を失って失明するのは怖いだろう、しかしそれは血の繋がった者たちを殺してまですることか?雀の狂気じみた行動を想像して思わず身体を震えさせた。

 

 

「儂も片眼は取られたが残った眼で幻覚を見せてなんとか逃げ出せたのじゃよ。若い頃ならともかく今の儂ではあやつと戦うことは難しい」

「・・・だから彼女をどうにかするために私たちを使うつもりですか?」

「いや、そう言う企みは一切無い。と言っても信じて貰えぬじゃろうがな」

「なら何故?」

「・・・・・・傷ついて気絶した子供を放ってはおけぬ。昔は畜生などと呼ばれた儂じゃか、それでも人としてありたかったんじゃよ・・・・・・」

 

 

どこか遠い眼をしてどこかを見る雲雀、過去にした自分の行いを思い起こしているのか。しかしそれのことに誰も踏み込もうとしない。過去に何があったかなど知っているのはその当事者である雲雀だけだし、それをどうこう言えるのもまた当事者である雲雀だけだ。わざわざ踏み込んでまでそのことを知りたいと思う者はギルガメッシュを除いてこの場にはいない。それに彼女たちは時雨が自身の過去を自ら話してくれる日を待っているのだ。それなのに雲雀に過去を話すように強要してしまえばそれに矛盾をしてしまう。

 

 

だから彼女たちは何も反応を起こさない。

 

 

ギルガメッシュも、わざわざ口を開かせて諭すような聖人では無いために何も言わない。雲雀の様子を見て愉しんではいるが。

 

 

その場の空気を悟ったのか雲雀は戯けたような笑みを浮かべて切り出した。

 

 

「辛気くさくなってしまったのぅ。そう言えば金髪の別嬪さんが飯を用意してくれるそうじゃ。もうそろそろできた頃じゃろう」

「神よ・・・っ!!」

「死ねと申すのか」

「オゥノゥ・・・」

「これも定めか・・・」

「エルキドゥよ・・・(オレ)も今そちらに行こうぞ・・・」

 

 

然り気無くこの家にいる全員に死刑宣告が下された瞬間であった。

 

 

シャマルの飯マズサにぶちギレた雲雀が須佐之乎を呼び出したのは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・俺は、弱いな」

 

 

ここは仄暗い闇の底、そこには一人の男性が膝を抱え蹲っていた。闇の中で存在感を放っている(過去の記憶)が瞬き、そして消えていく。それらはすべて過程は違えども結末は同じ、過去に母と呼び慕った女性を自身の手で殺すまでの映像である。違うのは時雨の反応、最初は眼をそらし否定するだけだったのだが今ではそれに確りと眼を向けている。

 

 

「あぁ、俺は強くない。だから挫折も良いじゃないか。弱者だもの」

 

 

一度は過去のトラウマから心が折られた時雨だったが、それを否定することはない。悔やみ、悩み、受け入れて成長する。

 

 

時雨の復活の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソクソクソクソクソクソクソ・・・・・・!!」

 

 

時空管理局の所有するアースラ内の医療室で雀はワラキアによって抉られた眼に巻かれた包帯を上からガリガリと掻き毟りながら呪詛を吐き続ける。恨む相手は彼女が踏み台だと認識するギルガメッシュと自身の眼を抉り出した時雨の姿をしたワラキア。包帯が血で滲んでも掻き毟ることを辞めない。

 

 

「待っていなさいよ・・・・・・!!SSS級(トリプルエスクラス)の超一級犯罪者・・・・・・不可視の死神!!(インビジブル・デス)

 

 

邪魔になった包帯を引き千切るとそこには新しい写輪眼が憎悪に燃えていた。

 

 

 

 






やっちゃけ感が酷いですね。それに説明回(笑)なので話が全然進まない。


内羽雲雀は内羽雀の祖父に当たりますが転生者ではありません。


そしてなぜこの世界に内羽一族がいるのかというと、雀は写輪眼を特典にこの世界に転生しようとしましたが直前になって写輪眼のデメリットを思い出して改善するように要求、断られてしまいます。ならばと代わりに出した案は写輪眼を持つ一族に自分を組み込むこと。それは受け入れられ、結果として内羽一族が誕生しました。


それも雀の写輪眼のストックにされて今では雲雀しか残ってませんけど。


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