調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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番外編13章 タタリを冠する吸血鬼

 

 

今、この場は妙な沈黙に包まれていた。シグナムたちは時雨の姿をしてワラキアを名乗った吸血鬼の存在に戸惑って、雀たちこの世界の転生者はこのワラキアが自分達の知っているワラキアと同じなのか図りかねていたのだった。

 

 

ワラキアの夜、正確な名前はズェピア・エルトナム・オベローン。人類の救済を求めて死徒になってまで第六法という神秘に挑み敗北して霧散した。そして生前に完成させていたタタリという駆動術式によって霧散したまま消えることなく世界に留まることに成功する。そして霧散したズェピアは千年単位で航海図を描き、その通りに霧散した自身を流れるルートを計算した。そしてある一定条件が満たされた時と場所で霧散したズェピアはその地域で発生した“噂”に収束し、現世に蘇る。

 

 

ここにいるのがワラキアの夜と同じワラキアであるのなら歩と雀の勝率は限り無く低くなる。歩が死に体で瀕死である上に数の差で劣ってる現状で形のない“噂”を具現化することができる固有結界を使われればーーーーーーー

 

 

「た、タタリのワラキア!?ワラキアの夜だとでも言うの!?」

「その疑問には異と唱えさせてもらおう。私はあくまで奇跡(第六魔法)を求めて死徒になったズェピア・エルトナム・オベローンの名を借りているだけのただの吸血鬼だ。彼のような固有結界を内包している訳ではないし、そもそも人類の救済を求めている訳でもないしな」

「リ・・・リニス、どういうことだ?時雨は・・・人間ではなかったのか?」

 

 

ワラキアの回答に転生者たちが安堵している中でシグナムは困惑した表情でリニスに問いかけた。

 

 

吸血鬼、その名の通りに血を吸う鬼。

日の光に嫌われ、十字架を嫌い、流れる水を渡れず、招いてもらえねば家に入ることが出来ない。そして最たる特徴と言えば、それは人の生き血を啜ること。しかしシグナムから見た時雨は日の光を浴びて、ヴィータと十字を型どったヒーローの必殺技ではしゃぎ、シャワーを浴び、よく恭也の部屋に不法侵入してイタズラをしていた。そして何よりも血を吸ったことなど無かった筈だ。

 

 

「それは私の口よりもワラキアから説明してもらった方が良いでしょう」

「む、ならば恥をさらけ出すように私の誕生秘話(ヒストリー)でも語らせてもらうとしよう」

 

 

「私は時雨の手によって滅ぼされた死徒の残留思念だ。過去に私の本体は代行者の代行を名乗った時雨と相対し、死闘を演じる間もなくあっさりと討ち滅ぼされた。しかしそれでいても吸血鬼の端くれ、一矢報いようと私の本体の心臓を貫こうとした瞬間に自ら首を切り離して時雨の肩に噛みつくことに成功した。吸血鬼に噛まれ血を吸われた者は例外なく魂を汚染され、例え肉体を代えようが魂が同じで有る限り吸血鬼になる。そして時雨はそのまま私と同じ吸血鬼になるはずだったのだが・・・・・・なんと時雨は咄嗟に汚染された魂を切り離すことで吸血鬼になることを防いだのだよ!!このような方法があるとは流石の私も眼から鱗が落ちるような気持ちだったよ!!しかし時雨は汚染された魂を切り離すことはしたがそれを捨てることはしなかった上にあろうことか残留思念である私に語りかけて来たのだよ!!そして私はその語りかけに応じ、時雨の分割思考を授かりワラキア()という人格を形成することに成功した。つまり私は吸血鬼の残留思念でもあり、時雨の別人格でもあると言える。そしてそちらの騎士殿の時雨は吸血鬼であるのか?という疑問には否と声高々に叫ばせてもらう!!あくまで吸血鬼であるのはワラキア()だけだ。時雨()は吸血鬼の恩恵も、災難も、そして宿命たる吸血行為も一切受け継いでいない。安心したまえ騎士殿、時雨は血肉一片余すことなく人のままだよ」

 

 

長々と語られたワラキアの説明を聞いたシグナムとスノウは最後に出てきた時雨は人間だという言葉を聞いて安堵の溜め息をついた。ギルガメッシュはそうでなくてはつまらぬと言いたげな表情で鼻を鳴らしており、ザフィーラは・・・・・・ワラキアの説明が理解できなかったのか頭の上にクエスチョンマークを出していた。

 

 

「そちらの守護獣殿は理解が出来ていないようだね」

「要するに時雨殿は時雨殿ということなのだろう?ならば人間であろうが吸血鬼であろうが私たちの仕える主は時雨殿ということではないのか?」

「ーーーーカ、カカカカ!!確かにその通りだな!!安心したよ、時雨からは聞いていたが彼に仕えている騎士たちが頭でっかちの石頭では無いことにね」

「そんなことどうでもいいわ!!要は貴方が私たちの敵だって言うことには代わりはないのだからね!!」

「それに吸血鬼なら俺の退魔ノ剣で滅せれる!!」

 

 

ワラキアの笑いを遮るように雀は須佐之乎を纏い、歩は左手で剣となった右手を握る。それを見て臨戦態勢に入ろうとしたシグナムたちをワラキアは手で制した。

 

 

「し、ワラキア?」

「済まないがここは私に任せてもらいたい。元が異なるとは言えども私は時雨から産まれた存在だ。ならば・・・・・・親がやられたのであるなら報復に走るのは至極当然のことであろう?」

 

 

そう言ったワラキアは転生者の二人を、正確には雀の方を睨み付ける。

 

 

「いくら物語(ストーリー)を盛り上げるためとはいえど彼のトラウマを開いたことは過ちだ!!故に、貴様には消えぬ傷痕を残す!!それが妥当だ!!」

 

 

ワラキアは魔力を吹き出しながら一歩、また一歩と転生者たちに近づいていく。そうしている間にも時雨の眼は赤一色で染まり、口は半月状に開いていく。

 

 

「キ、キキキキキ!!」

「っ!?黒い霧!?」

「悪性情報の具現化!?マジモンのズェピアじゃねぇか!!」

 

 

ワラキアの魔力に当てられて発生した黒い霧が再びワラキアへと還っていく。そして黒い霧をまとったワラキアは怒りを紛らわそうとしているように見えるほどに笑い狂った。

 

 

「魂魄ノ華燗ト枯レ!!杯ノ蜜ハ腐乱ト成熟ヲ謳イ!!例外ナク全テニ配給スル!!嗚呼・・・・・・是即無価値二候・・・・・・!!蛮脳ハ改革シ衆生コレニ賛同スルコト早一千年!!学ビ食シ生カシ殺シ称エル事サラニ一千!!麗シキカナ毒素遂二四肢ヲ侵シ汝ラヲ畜生ヘト堕落堕落堕落!!堕落セシメン!!」

 

 

黒い霧が爆ぜるようにして晴れるとそこには完全に臨戦態勢に移行した吸血鬼がいた。

 

 

「カ、カカカカ!!カット!!カットカットカットカットカット!!リテイク!!

無作法な愚者共の血肉を以て我我が親の恥辱を雪がん!!」

「言動が完全にワラキアじゃないのよあれ!!」

「でもあれが吸血鬼であるなら俺の退魔ノ剣で滅せれる!!」

 

 

歩が自らを鼓舞するように叫びながらワラキアへと斬りかかる。歩の持つ特典の神の道化師(クラウン・クラウン)、それは人間もその敵であるはずのAKUMAと呼ばれる悪性兵器を愛した少年が使っていたイノセンスと呼ばれる神の兵器。それから派生した退魔ノ剣は人間を傷つける事なくその身に宿した魔のみを切り裂く。吸血鬼の分類は魔であるのだから当たれば効果は絶大である。当たれば、の話だが。

 

 

「キィィィィィィィ!!!」

 

 

耳障りな甲高い声を上げながらワラキアは黒い霧を撒き散らして歩へと突進する。それにタイミングを合わせ、歩は退魔ノ剣を振り抜いた。退魔ノ剣は黒い霧を切り裂き、その向こうにいるワラキアを切り裂いたはずだった。が、そこには誰もいない。ワラキアは黒い霧で視界を遮り、歩の後ろに移動していた。

 

 

バッド・ニュース!!(ライ!!)

 

 

ワラキアの腕が振られると共に黒い霧が三本の黒閃となって歩の脇腹を切り裂く。歩の体は背骨と残された肉で辛うじて繋がっているだけの状態になって地面に崩れ落ちた。

 

 

「このっ!!」

 

 

須佐乃乎から十の手裏剣が飛ばされて互いにぶつかり合いワラキアを囲う。手裏剣によって形成された擬似的な弾道結界。その隙に雀は右手を押さえなが雷を発生させる。それに対してワラキアのしたことは手を伸ばしただけ。

 

 

「リテイク!!」

 

 

そして爪が伸び、結界を作り上げていた手裏剣すべてを串刺しにした。それも正確に中心部を捉えて。

 

 

「この程度の児戯で私を捉えられるとでも思っていたのか?リテイク!!やり直しを要求する!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

須佐乃乎の手裏剣が止められたことなど意に介せず雀は須佐乃乎から抜け出してワラキアに突進していった。右手から雷を生じさせる技の銘は雷切り。コピー忍者が開発したオリジナルの技。そしてその雷切りの別名はヂッヂッヂと鳥の鳴くような音がすることから千鳥と名付けられている。地面を削りながら不快な音を立てて雀は走った。

 

 

レプリカント・コーディネイター!!(キャスト!!)

 

 

それに対してワラキアは黒い霧を自身の前で人の形に形成した。その姿は神父服に身を包んだ男性、コトミネ・キレイソン。雀の千鳥に対してコトミネはそれを受け流し、自身を回転させながら肘打ちを雀の鳩尾に叩き込んだ。ワラキアによって作られた偽者とは言えその性能はオリジナルに遅れをとらない。あまりの衝撃に背中のバリアジャケットを破き、雀は崩れ落ちた。

 

 

「奈落に墜ちた役者に次はない。その深淵の底にて永遠に訪れぬ再演を待つがいい!!フハハハハハハ!!!」

 

 

時間にして僅か数分にも充たない戦闘、結果はワラキアの圧倒的な勝利だった。そもそも吸血鬼と人間では肉体的なスペックからして抗いようのない差がついてしまっている。この結果はある意味で必然とも言えた。

 

 

「・・・・・・あぁ、そうだったな。貴様にはまだ役回りが残っているではないか」

 

 

そう言いながらワラキアはうつ伏せに倒れていた雀を蹴って仰向けにする。雀は息絶え絶えな状態で生きているだけでも行幸だった。しかし動くことは出来ない。雀の未来はワラキアになすがままにされることしかない。

 

 

「まずはその眼だ。他人のトラウマを開くなどという悪趣味な小道具は処分せねばなるまい」

「ぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

 

 

そしてワラキアは躊躇う事なく雀の右目に指を入れ、写輪眼を引き抜いた。眼球を抉られる痛みに雀は叫ぶがワラキアは笑いながら眼球を掌で転がしているだけだった。

 

 

「さて、それでは残されている左目もーーーーーーーーぬ?」

「どうした吸血鬼?戯れはそこで終いか?」

 

 

残った左目も抉ろうとしたワラキアだったが突然町の方に眼を向けて固まる。それを不自然に思ったギルガメッシュが声をかける。

 

 

「どうやら複数の魔導師が近づいているようだ。多少不満が残るがここは退くこととしよう」

「何?」

「ならば(オレ)が蹴散らしてやろうではないか」

「それも良いがここは一刻も早くはやて嬢の元に向かうことが先決ではないか?先程の事が起こらないとも言いがたい」

「ーーーーーーチッ」

 

 

ワラキアの言葉にギルガメッシュは不満げな表情だったが退くことにしたようだった。

 

 

そしてシグナムたちと共にこの場を後にしたワラキアを雀は残された左の写輪眼で最後まで睨み続けていた。

 

 

 




圧倒的なまでのワラキア無双、そして然り気無く写輪眼入手です。ワラキアさん強いですね!!


という訳で今回はワラキアの説明回と蹂躙回でした。うちのワラキアさんはタタリのように噂を具現化することは出来ませんがズェピアのような戦い方をすることは出来ます。


個人的にはワラキアの言動が上手く出来なかったことに不満げであります。


感想、評価をお待ちしています。



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