「生きているな?」
「死んでいるように見えるのならその役立たずな眼球を入れ換えることを勧める」
「それだけの言を口にできるなら安心だな」
ヴィマーナでやって来たギルに投げられた言葉を軽口で返しながら荒武者からは目を離さない。
「時雨、どうする?殺るか?」
「今なら私のルシフェリオンでブレイカーして差し上げましょう・・・・・・」
「・・・シュテルが怖いんだが何があったのだ?」
「恋は人を変えるって言うけど本当らしいね。一先ずここは撤退、陸地に戻って体制を立て直す」
「怖じ気ついたのか?」
「俺の足場がないからここでは戦いたくない。それに・・・・・・なぁ知っているか?極限の空腹時に食ったものはどんなものであれ最っ高に美味く感じるんだ。ここでの
「時雨?」
「・・・悪い、口調がおかしくなった」
あれに対する怒りのあまりに口調が前世に近いものに戻ってしまっていた。これは反省しなければならない。家族の、それこそ子供たちの前でこの口調になったら嫌われること間違いなしだ。
「俺としてはあれは怖くないがあれ以外が面倒だ」
「あれのことを知っているのですか?」
「名前は・・・スサノオとか言ったっけ?あれはただの馬鹿デカイ鎧みたいな物だから高火力で撃ち込めば抜けないこともない。ただあれを発現させる前の前段階が面倒だ。目を合わせるだけで幻術に嵌め込む
「だからこの場を引いて遮蔽物のある陸地に戻ると」
「その通り」
「ならば捕まっていろ、音を越えて駆けるぞ!!」
ヴィマーナが音を残して空を駆ける。海上で佇む紫の荒武者を残して。そしてその荒武者の中にいる豆粒のような人間の顔を俺の眼は捉えることができた。そこにいたのは女性、絹のような黒髪を海風に靡かせながら整った顔を歪ませてこちらを睨み付けていた。
「その顔、覚えたぞ。苦痛に歪みながら赦されようと頭を垂れている顔を踏みつけて高笑いを上げてやるから心待ちにしてろ」
「ドS・・・・・・」
「サディストだな」
「鬼畜・・・」
「皆の正直な言葉に慈愛に脊髄を生やした様な俺の心はボロボロだよ」
「ダーリン、私を苛めて荒んだ心を癒してください」
「ガントどーん!!」
「ギャピン!!」
「シュテルぇ・・・・・・」
視点は町の北半分を捜索しているシグナム&リニスのペア。彼女たちは探索をしながらも魔力を隠すような真似を一切せずに町中を歩いていた。そんなことをされて見逃すほどこの世界の管理局は腑抜けてはいない。探索を始めて三十分後には管理局に補足され、二人は結界内に閉じ込められていた。
「時空管理局だ」
「リニス・・・」
「リニスまで・・・闇の欠片の奴ふざけやがって!!」
「テスタロッサ、アルフ、昔の師を敬うのはいいが今は感傷に浸っている時ではない」
シグナムとリニスの目の前に立つのはこの世界のヴィータ、シグナム、フェイト、アルフの四人組。余計な者が三人ほど着いてきているがこの時点で二人の目的は概ね果たされたと言っていも良いだろう。何故なら、二人の目的はこの世界のシグナムを打倒することにあるのだから。
「・・・この世界のヴィータと二人ほど魔導師が着いてきているな」
「あの二人は私の元教え子です。元の世界でも二人とは再会できました。えぇ、心優しいいい子達です」
「そうか・・・・・・そう言えば、時雨がこの世界の私に斬られたのに随分と冷静だったじゃないか。憤りを感じなかったのか?」
「・・・そうですね、私は時雨からどんな事態になっても冷静であれと教わりました。例え侮辱されようが頭の中は冷やし、心の中にある怒りを燃やせと」
シグナムからの質問に対してリニスは自分に言い聞かせるように答え、ポケットの中から時雨から内緒で持ち出していた宝石を一つ取り出して口に加える。
「憤りを感じなかったのか?ふざけないでください!!腸が煮え繰り返るような気持ちに決まっているじゃないですか!!眼球を抉り出して声帯をくり貫いて鼓膜をぶち抜く!!リアル見え猿言わ猿聞か猿状態にしてやらないと腹の虫が治まる気がしませんよ!!」
そう言ってリニスは宝石を噛み砕いた。宝石に込められていたのは時雨の魔力、それも中級クラスでそこそこの量が込められていた。宝石という殻から放たれた魔力はすべてリニスに吸収される。それはスポーツ選手が行う禁じ手のドーピングと同じ、吸収した魔力の恩恵を受けリニスの身体能力は一時的に上昇した。
「心の内は同じか・・・・・・世界が違うとは言えど、私は主を斬ったのだ!!主に剣を向けるなど騎士としてあるまじき行いだ!!覚悟しろ!!最低でも二度と剣を握れぬ体にしてやろう!!」
叫びと共にシグナムを中心に炎が逆巻き、晴れたときには時雨が買ってきたコートの姿から騎士甲冑の姿へと変わっていた。そしてシグナムの愛剣であるレヴァンティンから薬莢が飛び出して刀身が炎に包まれる。
経緯が違うとは言えど忠義を誓った主は同じ。その主を傷つけられた事実は二人を憤慨させるに十分過ぎる理由だった。
「ついてこれるか?」
「戯れ言を、そちらこそ遅れないでください」
この門答を切っ掛けに二人は同時に飛び出した。
狙うのはただ一人、
シグナムとリニスのペアがこの世界のシグナムたちと出会っていた時と同時刻。視点は町の南半分を捜索しているザフィーラ&シャマルのペア。リニスの寸剄によって沈められていたシャマルが気を取り戻して本屋に行きたいと駄々をこねるシャマルをザフィーラが拳で黙らせていた時に二人もシグナムとリニスと同様に管理局に補足されていた。
「時空管理局です!!」
「抵抗は止めておとなしくしてください!!」
「こっちは私の闇の欠片・・・・・・それと女の子?」
「・・・・・・」
こちらに現れたのはこの世界の高町なのは、ユーノ・スクライア、シャマル、そして二人からすれば誰だこいつ?状態なザフィーラ(男)だった。
「来たぞシャマル」
「面倒だわ~・・・・・・そうだ、私が後方支援するからザフィーラが突っ込んでくれないかしら?」
「出来なくは無いが遠慮させてもらう。流石に実質的な一対四は願い下げだ」
ザフィーラは拳を鳴らしながらノースリーブの青い胴着に近い騎士甲冑に服装を変える。やれやれとでも言いたげな表情を浮かべながらシャマルはザフィーラの後に続く形で黄緑を主体としたドレスのような騎士甲冑に服装を変えた。
「ところで・・・・・・あの筋肉ムキムキマッチョマンの男は誰だ?」
「さぁ?ただの数合わせじゃないかしら?」
「シャマルはああ言った手合いが好きそうだな」
「嫌よ、同人誌のネタとしては良いけど実際に付き合うとしたらああゆうのは論外よ。時雨さんみたいな細マッチョな人がいいわ」
ボロクソに言われている、この世界のザフィーラ(男)は泣いてもいい(確信)。そんな二人を目の前にしてこの世界のザフィーラ(男)とシャマルはともかく高町とユーノは攻撃しても良いのか迷っていた。
「えぇっと・・・ユーノ君、どうしようか?」
「話は通じそうだからできれば話し合いで何とかしたいんだけど・・・・・・」
「シャマル、仕込みは終わったのか?」
「あら、誰に物を言っているのかしらザフィーラ?結界が張られてから二秒で準備を終えて、もう捕らえているわよ」
シャマルのその一言が切っ掛けになり、四人の体は突然動かなくなる。注意して見れば身体中にはシャマルの指に嵌められたクラールヴィントから伸びた極細の糸が巻き付かれていた。
「“戦とは戦う前の準備が勝利を決める”、時雨さんから教わったのだけとこれは名言ね・・・・・・だから、この戦はもう終わっているわ。結界が張られた時点で準備をしていた私たちの勝ちで不用意に私たちの前に立った貴方たちの敗けで」
「粉砕する」
時は少し進み、時雨たちが拠点にしている温泉旅館。用意されていた部屋でヴィータとはやてはトランプでポーカーをしており、御門はディーラーをしていた。
「チェンジは?」
「一枚や」
「三枚!!」
お互いの手札からカードを捨てられたのを見届けてから山札の上のカードを捨てられた枚数分だけ配る。
「これなら・・・レイズ!!ポテチ一袋!!」
「ええで、コールや。こっちはマシュマロ一袋でいくで」
ヴィータがレイズを宣言して賭け金を出すとはやてはそれを了承した。ちなみに賭け金はお菓子である。
「あたしはフラッシュだ!!どうだ見たか!!」
ヴィータのカードはダイヤ一色で染められたフラッシュの役。上位にある役であるからヴィータは自信満々に勝利を確信する。
「すごいなぁヴィータは。ウチもフラッシュやわ、ただし・・・・・・」
そう言ってはやてもカードを展開する。カードはスペード一色で染められている。
「ロイヤルストレート、が付くけどな」
ポーカーのルール上で最上位に存在する役を見せつけられたヴィータは唖然とした表情でそれを見つめ、自分が負けたとわかると涙眼になって御門に飛び付いた。
「まだまげだぁぁぁぁぁ!!!」
「よしよし・・・・・・にしてもどんな運してるの?さっきからそんな役ばかりじゃないか」
「ふっ、天賦の才って奴やな」ドヤァ
「いや、ドヤ顔しないで」
十回やってはやての全勝、大人びている御門ならともかく見た目相応の精神年齢のヴィータなら泣いて当然である。
そしてヴィータから巻き上げたお菓子をはやてはかじり、御門がヴィータをあやしているとパリィンと、何かが砕けるような音が聞こえ、外界と遮断するように結界が張られた。
「っ!?結界が!!」
「はやて!!逃げるぞ!!」
「えっ?あっちょ!?」
結界が張られたということはそれを張った術者が近くにいることを意味する。それを理解した御門とヴィータは即座に切り替えてはやてを連れ出して旅館から飛び出す。逃げるために飛行魔法を発動して空に飛んだ時にそこで待っていたのは黒いバリアジャケットを纏った少年クロノ・ハラオウンと白い道化師のような衣装と異形の右腕を持った青年だった。
「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ。大人しく投降してもらおう」
「はぁ・・・」
「おいアユム、ちゃんとしないか」
「だって今日はデートの予定だったのにキャンセルしちゃったから機嫌取りしなきゃいけないんだぞ?しかも相手は子供だし・・・やる気が出る訳がない」
「しっかりしろ!!それでも嘱託魔導師か!!」
「俺の手が解析できないからといって無理矢理管理局に組み込ませた奴が何言ってるんだか?」
「何!?」
クロノとアユムと呼ばれた二人の掛け合いを見ながら御門は状況の把握に努める。目の前にいるのは二人だが離れた場所に御門たちを囲うように配置されている管理局員が十数名。ヴィータならはやてを守りながら突破出来るかもしれないがそこに自分を加えては無理なはず。そう決断した御門はギルから与えられたデュランダルを黄金の渦の中から取り出した。これはギルが気まぐれに与えた蔵の一部、御門はデュランダルを取り出すことしか出来ないしデュランダル以外の物を入れることも出来ない。それでも御門からすれば破格の待遇であった。
『ヴィータ、はやてを連れて結界の外に行って』
『御門はどうするんだよ!!』
『隙を見て逃げるから!!早く!!』
強引に念話を切り上げて御門はクロノに斬りかかった。それを見たヴィータは悔しさで歯軋りをしながら結界から出るために外を目指す。ここで三人とも捕まってしまっては最悪だ、だから一旦外に出て探索に出来ている誰かと合流してここに戻る。それがヴィータが考えた最善だった。抱き抱えているはやてが怖がらないように低空で飛行しながら外を目指す。
「逃がさないよ?」
「きゃぁ!?」
「っ!?はやて!!」
そのヴィータの真上でアユムが道化師の衣装を翻しながら右腕を振った。結界から出ることだけに集中していたヴィータは回避も出来ずに背中に爪の一撃を受けてはやてを落としてしまう。低空だったことと下が雪だったことが幸いしてはやてには怪我はない。しかし三人は分担されてしまった。
「退けよ!!」
「嫌だよ、ここで逃したら町に被害が出るだろうし」
鉄球をアイゼンで打ち出すがそれはすべて爪によって切り裂かれる。アユムはヴィータから離れず、しかし近づかずといった完全に足止めに徹している。御門も勢いが良かったのは最初だけで今ではクロノのバインドに捕まらないように逃げることで手一杯だった。一人離されたはやての元に武装した管理局が数人デバイスを向けながら近付いてくる。
「いやぁ・・・嫌や・・・・・・!!こないで・・・・・・!!」
はやての心境は銃を持った男数人に迫られている物に近かった。向けられている物がデバイスであるということは分かってはいないがあれが凶器であるということは理解できる。故の恐怖、動かない足を引きずりながら無様に逃げるしかはやてに出来ることはなかった。
「助けて・・・・・・!!助けてよぉ・・・・・・!!」
頼みの綱である御門とヴィータはそれぞれの敵と相手をしておりこちらには来れない。それでもはやては助けを求め続けた。
ーーーー怖いときやどうしようもなくなった時には俺を呼んでくれ。例えそこが宇宙の果てでも俺は助けに行くから。なんてったって、俺ははやての親だからな。
「お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
甲高いはやての叫びに応じるように結界が砕け、上から一人の男が軍服を翻しながらはやての前に降り立った。そして一番近くにいた管理局員の胸に拳をぶつける。それだけで湿ったような嫌な音が響き、殴られた管理局員は他の管理局員を巻き込みながら吹き飛ばされた。その管理局員の胸はバリアジャケットを着ていたというのに拳の跡を残すほどに陥没していた。
「武器を持ったままでいい、そこに直れ」
男の腰には黒い三対の翼が生え、軍帽で隠された顔からは憤怒に染まった視線がクロノやアユム、それに無事な管理局員たちに紅い眼と共に向けられている。
「ーーーーーーーー全員、鏖殺する」
この世界のシグナムとクロノとアユム、そして管理局員たちはきっちりと死亡フラグを回収してしまったようです。皆様、ご冥福をお祈りいまします
(-人-)ガッショー
シグナム&リニスVSこの世界のシグナム&ヴィータ&フェイト&アルフ
今までの回から冷静だったように見えていたリニスがこの世界のシグナムを前にしてぶちギレました。そして周りのことなど気にせずに二人して突進。果たしてこの世界のシグナムらこの先生きのこることができるのか?
ザフィーラ&シャマルVSこの世界のなのは、ユーノ、シャマル、ザフィーラ(男)
開始直後に捕縛されてほぼ決着、後はザフィーラにボコられるだけです。ザフィーラとシャマルがザフィーラ(男)を目撃したときのリアクションはしょうがない。ザフィーラ(男)は一見したら筋肉ムキムキマッチョマン、こっちのザフィーラは髪の色は同じだが肌は白く筋肉は着いているが華奢な身体付きの美少女ですから。
そして激オコモードの時雨降臨、血の雨ふること間違いなし。
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