「・・・・・・はっ!?ここはどこだ!?」
「今日宿泊する旅館だ。時雨がなぜか反応しなかったからギルが出した乗り物に乗ってきたんだ」
気がつけばそこは士郎さんたちと行ったことのある旅館の駐車場、どうやら親切なボスが俺のためにわざわざ時間を飛ばしてくれたらしい。時間帯は辺りが暗くなっていることから夕方ということがわかる。
「一体何があったのだ?私たちが来てみれば見知らぬ少女は首を傾げているし、リニスは苦笑いしているし、ギルは爆笑していたし」
「なぁスノウ・・・・・・初対面で、しかも自分の子供くらいの歳のやつからいきなりプロポーズされたらどう思う?」
「・・・・・・・・・・・・理解したくないがわかってしまった」
「ごめん・・・・・・」
言いたいことを理解してくれたのか、こめかみに手を添えるスノウに謝りの言葉を言ってから旅館の中に入る。どうやら先にリニスがチェックインしてくれていたらしく、皆が待っている部屋に続く廊下をどんよりとした空気を纏いながらスノウと歩いた。
「あい皆ちゅうもーく!!」
気を取り直して温泉に入り、夕食を済ませた八時半。皆が食後のリラックスタイムでお茶を啜っている中で手を叩いて視線を俺に向けさせる。ちなみに俺の飲み物は日本酒のロック、飲まないとやってられない。
「今のうちに明日の行動を決めておくぞ」
「とは言ってもどうしたらいいかわかりませんけどね」
「だからしばらくは足で稼ぐしかない。そうだな・・・・・・シグナムとリニス、ザフィーラとシャマル、俺とギルとスノウ、この三組になって探索をする」
「父ちゃんあたしは!?」
「子供たちはここで待ってもらいたい。何があるかわからないからな」
「あの・・・・・・僕も探索程度なら手伝えると思いますが」
「ほう?この世界にいるだろう騎士たちを相手取れると?」
「大人しく待っています」
「あたしなら!!」
「ヴィータ、お前までいなくなると戦えるやつがいなくなってしまう。だから、敵がここに来たらヴィータが二人を守るんだ。責任重大だぞ?出来るか?」
「・・・・・・うん」
「よし、良い子だ。何か見つけたとしてもそれを確認する程度にして手を出すなよ?最悪そいつらだけ戻れて残りが戻れないってことになるかもしれないからな」
「明日の行動を決めたのは良いのですが・・・・・・この娘は?」
シグナムは手を挙げて発言し、呑気にお茶を啜っていたシュテルを指差す。そう、シュテルは平然と俺たちに混ざって行動しているのだ・・・・・・・・・あれは夢じゃ無かったのね(泣)
「?どうかしましたか?烈火の将」
「シグナムはお前のことを聞きたいんだとさ、自己紹介くらいできるだろ?」
「あぁ、そうでしたか。私は闇の書から生まれたマテリアルの一角シュテル・ザ・デストラクターと申します。貴方方には敵意はありません。なんならデバイスを預けても構いませんよ」
「いや、今までの行動から敵意が無いことはわかっているからそこまでしなくともよい。私が聞きたいのは何故ここにいるのかだ」
「それは彼から返事をもらっていないからです」
「返事?一体なんのだ?」
「結婚のです」
「「!?!?」」
シュテルの言葉を聞き、シグナムとスノウがグリンという効果音が着きそうなほどの勢いで顔を俺に向け、シャマルはキランと目を輝かせて、御門君とはやては唖然、ヴィータは首を傾げ、リニスは苦笑い、ギルに至っては愉しそうにニヤニヤと笑っている・・・・・うん、予想はしていたけどやっぱりこうなっちゃうよね。
「し、時雨!?これは一体!?」
「あー待て待て、こっちも混乱してんだから。えーっとシュテル、どうして俺にいきなしプロポーズしたんだ?俺たちは初対面なはずだが」
「はい、私は砕けえぬ闇と呼ばれる物を探すために構築されたのですが、その捜索途中でそちらの烈火の将と戦っている貴方を目撃しました。炎を纏う魔剣を前にしても怯むこと無く白と黒の双剣を手にして互角の戦いをしている貴方を見て私は心から惹かれ、強く思いました・・・・・・貴方の子供を産みたいと」
「ぶぅぅぅう!!」
喉を潤そうと酒を含んだ瞬間にシュテルから言われた言葉に反応して吹き出してしまう。幸い誰にもかからなかったが・・・・・・いきなりなんてことを言い出すんだこのガキは。
「ぶっちゃければ一目惚れです。結婚して私とイチャイチャしましょう」
「WaitWaitWait、ビークールだ落ち着いてはだけさせようとしている浴衣を直して帯を締め直せ」
にじり寄ってくるシュテルから離れて落ち着くように促す。皆からの視線が痛い、特にシグナムとスノウの物が痛い。あーあ頭痛が痛い、なんでこんな面倒なことになるのかね。
「シュテル」
「はい、子供は何人がよろしいですかダーリン。私は何人でも構いませんがやはり日本の伝統である一姫二太郎に乗っ取って」
「落ち着け妄想超特急!!」
「あひん!?」
いきなりぶっ飛んだことを言い出したバカの頭にチョップを叩き込む。間抜けな声を出して頭を押さえるシュテルの姿にため息をついてから返事を口にする。
「告白の返事だが断る」
「な、何故ですか!?」
「いいか、よく聞け・・・・・・・・・・・・俺はガキには興味が無い!!!!」
「!?!?!?」
俺の理由を聞いたシュテルは雷に撃たれたかのように動きを止めて、ゆっくりと膝と手をつき項垂れた。いやだってねぇ・・・十にもなってない奴を恋愛対象として見ろとか無茶でしょ?ペドならともかく。よく恭也から外道と呼ばれている俺でもその道を外れたくはない。
「どうして・・・どうして私は・・・子供の姿なのでしょうか・・・・・・これではあまりにも無力だ・・・!!」
「はん、年取ってから出直してこい」
「・・・・・・十年です」
「ゑ?」
「十年以内に烈火の将並みに成長して貴方に再度プロポーズをします!!えぇその時にはガキだなんて呼ばせません!!成長した私の体で誘惑して貴方を落としてみせます!!」
「・・・・・・・・・ああうん、良いんじゃないかな?」
「時雨!!投げやりにならないでくれ!!」
「だって、ねぇ・・・・・・うん、思考が追い付かない」
「時雨!!しっかりしてください!!そんな遠い目でどこを見ているのですか!?」
「あれ?空から天使たちが降りてくる・・・楽しそうだな・・・待ってくれよ・・・俺もそこに連れていってくれよ・・・」
「「時雨ぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」」
そのあとのことを俺はよく覚えていない。気がついたら布団に寝かされており、朝になっていた。そして朝にシュテルから「楽しみにしてください」と告げられてどうしてだか「知らなかったのか?シュテルからは逃げられない!!」というテロップが頭の中に流れていた。
某TRPGの如く、SAN値が減って発狂しかけた時雨がシグナムとスノウの手によって
それは御門が転生の際に特典で得た
「何の用だ小僧、このような時間に
「英雄王・・・・・・」
そして呼び出しに応じた英雄王が現れた。格好は昼間の時と同じ黒いライダースーツ。材質は一流だが極当たり前な物の筈なのにギルガメッシュが着ているというだけで一種の礼服のように思えた。ギルガメッシュを確認した御門は雪が積もっているにも関わらず方膝を地面につき
「英雄王、今宵貴方をお呼びしたのは告白したい罪があったからでございます」
「ほう?自らの罪を懺悔するときたか。良いぞ、口にすると良い。今日の我は寛大だ、聞いてやろう」
「私、鳳凰院御門は下賤な身分でありながら貴方の蔵を開き、さらにはその蔵を奪われるという大罪を犯しました」
「ーーーーーーーー何?」
突如、空気が凍る。冷気などでは無い、発せられるのはギルガメッシュから。人の身であれば誰だろうが当たり前に抱く感情である怒り、それを一段階越えた憤怒が人類最古の王であるギルガメッシュから放たれていた。ギルガメッシュは蔵の宝を存在に扱う節があるがそれでもその本質は王、自らの財に手を出す輩を許したりはしない。
「貴様・・・・・・我の財に手を出し、あまつさえそれを奪われるような失態を犯すとは・・・・・・その首、斬られる覚悟はあるのだな?」
ギルガメッシュは蔵を開き、その中から黄金に装飾された斧を取り出した。そしてその切っ先は御門の首に向けられる。御門はギルガメッシュの憤怒が当たり前だと思っていた。そしてここまでの展開を読んでいた。御門は死を覚悟して自らの罪を告白した。このままギルガメッシュに首を跳ねられたとしても御門はギルガメッシュを怨むことなく死ぬだろう。しかし、悔いだけはあった。
「確かに、この首は要りません。しかし、落とすことだけは待っていただきたい」
「何?どのような道理をもってその言葉を口にする?」
「英雄王の怒りはごともっともです、この場で私の首が跳ねられたとしても私は貴方には一切の怨みなく死ぬことでしょう。しかし、悔いだけは残ります。私は時雨さんにヴィータを守ると誓いました。故に、私はこの首が必要です。その誓いを果たした暁には私の首を跳ねていただきたい」
御門は誓ったのだ。あの日、あの夕日に照らされ、あの河川敷で、自分はヴィータを守るのだと。そして時雨はそれを認めた。何かあれば自分を頼れと言いながらも御門にヴィータを守ることを認めたのだ。なら、その誓いは守らねばならない。そのためには価値がないとは言えこの首が必要だ。故に、それを理由に首を跳ねるのを待てとギルガメッシュに進言した。
「ーーーーーーーーくっ」
御門の口にした言葉に呆気に取られた顔をしてから徐々に楽しそうな物を見つけたような表情に変えていった。そして堪えられなくなったと言わんばかりに口から笑い声を発した。
「はははははは!!!あの娘を守るためにその首を跳ねるなと?そう言いたいのだな小僧。命を惜しむのではなく、我のマスターと交わした誓いを守るためだけに?」
「はい、その通りでごさいます。私はヴィータを守りたい。だから今この場で失うことになる命を惜しみます。後に来る困難から彼女を守ることが出来なくなりますから」
「ふーーーーーーーーははっ、はははははははははは!!」
いつの間にか首に添えられていた斧は消え、同時にギルガメッシュから放たれていた怒気も消え失せていた。その場にあるのは真っ直ぐにギルガメッシュを見つめる御門と、その姿を見て高笑いを発しているギルガメッシュだった。
「良いぞ、良いぞ小僧!!
「寛大な処置、ありがたく思います」
再び下げた顔を隠しながら御門は震えに耐えていた。一歩間違えば死んでいたとしてもおかしくなかった。そうだとしても御門はこの問題を解決して起きたかった。過去の自分と決着をつけて、新しい自分としてヴィータを守るために。
「あぁそうだな、自らの大罪を告白した貴様のその気概を称えこいつをくれてやろう」
そう言ってギルガメッシュは蔵を開き、その中から一本の剣を取り出して御門の前に突き立てた。
「ーーーーーーーー」
御門はギルガメッシュが戯れに行った行動よりも、この剣に目を取られていた。その聖剣の銘はデュランダル、中世ヨーロッパにおいてシャルルマーニュ王が天使から授けられたそれを誉れ高き十二騎士筆頭のローランが賜ったとされる聖剣。三つの奇跡を持ちながらその切れ味は決して落ちることはないというファンタジー物のRPGをしたことのあるものなら誰もが知っている聖剣だった。
「貴様がどうしようが貴様の勝手だ。その剣を使い娘を守る騎士になるのか、それとも滑稽なだけのただの道化になるのか。それを我は酒でも愛でながら見させてもらおう」
新しい玩具を見つけた子供のような楽しげな笑みを浮かべながらギルガメッシュはこの場から去り御門だけが残された。残された御門はギルガメッシュの気配がしなくなった途端に全身から汗を吹き出して手を地面につき早鐘のようになる心臓を押さえようと必死になっていた。一歩間違えば死んでいたとしてもおかしくない綱渡りをしたのだ、こうなってしまっても当たり前だ。
「うーーーーーーーーうぅっ!!」
そして落ち着いた頃に溢れだしたのは嗚咽だった。その心にあるのはどうしようもない感謝の気持ちだけ。
生きていることへの感謝
ギルガメッシュの気まぐれに感謝
そして気まぐれに与えられた剣に対する感謝
誰もいなくなったこの場からは、しばらく御門の呻くような嗚咽が響いた。
前半シュテルん回、そして後半御門君の回でした。
シュテルん書くのが楽しくてしゃーないです。
そして御門君、ギル様に王の財宝使ったことと奪われたことを告白しました。普通に惨殺されてもおかしくなかったですが御門君の命を惜しまないがヴィータを守りたいという思いにギル様が興味を持ったためにまさしく首の皮一枚繋がった状態で生存しました。
そしてギル様からプレゼント。デュランダルゲットです。御門君は順調に成長していきます。
感想、評価をお待ちしています。