調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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ヴォルケンリッターに続く原作ブレイク第二段。早くこの人を出したかったんだ・・・・・・!!


番外編3の章 祝福の風

 

 

「あぁ・・・・・・疲れたよ羽徒rush・・・・・・もうゴールしていいよね?」

「あかん!!ゴールしたらあかんで!!」

 

 

あのあとコトミネとギルをアイアンメイデンに詰め込み、シグナムとザフィーラを寝かしつけて遅い時間になってきたので寝かせるためにはやてを部屋に運んだ。ちなみに御門君はヴィータにねだられて一緒に寝ることになった。最初は抵抗していた御門君だったがヴィータの涙目+上目遣いに吐血してあえなく折れた。

 

 

「んじゃ俺も寝るから」

「あぁ待ってお父さん」

「どうした?」

「寝るまで側にいてくれん?」

「・・・あぁ良いよ、それなら何か子守唄でも歌ってやろうか?」

「うん」

「そうだな・・・・・・J○Mプロのメドレーで」

「寝かせる気無いんかいおんどりゃあ!!」

 

 

娘に聞いたことの無いような罵声を浴びさせられた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後はやてを右折左折しながら寝かしつけて俺も自分の部屋で眠りについた。それなのに・・・・・・

 

 

「まーた不思議体験かよ、いい加減慣れるわ」

 

 

気がつけば真っ黒な不思議空間、下の水面らしき地面が光源になっている。

 

 

「別空間とは違うな・・・英霊の座とも違うし・・・・・・固有結界?心象風景に近いか?」

「あれ?お父さん?」

「ん?はやてか」

 

 

この空間について考えていたらいつのまにか俺の隣にはやてがやって来ていた。格好は寝間着のままだが車イスに乗せられている状態で。どうしてはやてもここに?俺とはやてに共通点は無いはずだが・・・・・・いや、あるとするなら、

 

 

「闇の書か?」

「その通りです」

 

 

独り言に近い呟きに返事が返ってきた。声の主は闇の中から現れて俺たちの前で膝をつく。白に近い銀色の長髪を靡かせ、赤い双眼を持った女性だった。

 

 

「私は夜天の書の管理人格です。貴方方にどうしてもお伝えしたいことがあってこの場にお呼びしました」

「夜天の書?闇の書やなくて?」

「今は闇の書を名乗っています・・・・・・この場の出来事は目を覚ませば忘れてしまいます。でも、どうしても伝えたかったのです。この先、私のせいで貴方方に悲劇が訪れるでしょう。でも、どうか騎士たちを憎まないでください。そして騎士たちと一緒に幸福であってください」

「ちょっと待って!!貴女は・・・・・・!!」

 

 

突然現れた女性に言いたいことがあったのだろうが、はやての姿は薄れてこの場から消えていった。俺も流れから言えばこの場から消えるべきなのだろうが少し気になることがあって無理矢理この場に留まっている。

 

 

「なぁ、一つ聞いても良いか?」

「・・・この場の出来事は忘れると伝えたはずですが?」

「そうだとしても今の俺が気になるから聞きたいんだよ」

 

 

膝をついた姿勢のままの女性の前に目線を会わせるようにしてしゃがみこみ、

 

 

「お前、自分一人が犠牲になるつもりか?」

 

 

問いを投げた。

 

 

さっきの言葉で彼女は「騎士たちと一緒に幸福であってください」と言った。その言葉には彼女自身が含まれていないようなニュアンスを感じた。それはつまりハッピーエンドを迎えた際にはその場に彼女がいないことを指す。この空間から出れない的な意味で言ったのかもしれないが、もう一つ可能性があるとするならそれは自身を犠牲にして救う場合だ。

 

 

「はい、私は所詮夜天の書の管理人格、人ではありません。騎士たちも同じプログラムの存在ですが騎士たちを通じて今代の主のことを知りました。貴方たちの中で彼女たちは欠かすことが出来ない存在になっています。なら、この身を犠牲にして騎士たちを生かすことが最良の選択です」

 

 

俺の疑問に彼女はさも当然であるかのように答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふざけんなよド畜生が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然雰囲気の変わった時雨に驚いてしまうが彼はそんなことは知ったこっちゃないと言わんばかりに彼女の胸ぐらを掴む。顔が近づけられるが色気も何もない。今時雨の頭の中にあるのは純粋な怒りだけだからだ。

 

 

「なーに何の努力もしないで勝手に諦めてやがる。あれか、悲劇のヒロイン気取りか?笑わせるな。俺から言わしたらただの滑稽な喜劇にしかみえねーよ」

「な、何を」

「何を?じゃねーよ。自己犠牲主義者の馬鹿にぶちギレてんだよ察しろよド阿呆が!!死にたがりなら一人で死んでろ!!わざわざここに俺たちを引き連れて思わせ振りな態度をとってんじゃねぇよ!!」

「っ!!貴方に!!貴方に私の何がわかるというのですか!!」

「あぁわかんねぇしわかりたくもねぇよ!!てめえが寂しがり屋のヒッキーで死にたがりだってことぐらいしかわかんねぇよ!!ってか初対面で相手のことを知れるってエスパーか!!」

「いいですか!このまま蒐集をしない状態だと闇の書は間違いなく主である貴方方を侵食します!!それは命の危機に関わることなのです!!だからそうならないためにも私が消えればーーーー」

「だーかーらー!!それがふざけんなって言ってんだろうが!!ド阿呆が!!」

「ギャヒン!!」

 

 

女性の言葉を遮り、時雨は思いきった頭突きをがした。ドゴンという人体からしてはいけない音がして女性はおかしな声を出してしまうが時雨は平然としている。頭突きをしたことで仰向けに倒れた女性を見下すような形で時雨はさらに問いを投げる。

 

 

「てめえが魔導書の管理人格だっていうことを前提において聞きたいことがある!!てめえはそれでいいのかよ!!魔導書関係無しの本音を言ってみろや!!お前個人の思いを言ってみろや!!」

「私だって・・・・・・私だって!!死にたくない!!消えたくない!!でも・・・でもどうしようも無いんだ!!闇の書の防衛プログラムの問題だけなら何とかなったかもしれない・・・・・・でもそれだけじゃない!!私にも分からない何かが闇の書の中にはあるんだ!!それを目覚めさせないためにも私は消えなくちゃいけないのに・・・・・・!!私だって・・・皆と笑っていたいのに・・・・・・もっと生きていたいのに・・・・・・!!」

 

 

涙で顔をグチャグチャに汚しながら女性は本音をさらけ出した。

 

 

生きていたい

 

 

死にたくない

 

 

皆と笑っていたい

 

 

でもそれは叶わない。何故なら自分の中には恐ろしい何かが眠っているから。それを起こさないためにも自分は消えなければならない。

 

 

「なんだ、言えるじゃんかよ」

 

 

嘘偽りなく吐き出された女性の本当の言葉を聞いて時雨は満足げに頷いた。

 

 

「他人の為だ他人の為だと責任転嫁して綺麗事を言うだけの人形になんて興味ねぇんだよ。さらけ出された本音を聞いてこそそいつの真価がわかるってもんだ。

生きていたい?死にたくない?何を当たり前なことを。生きているのなら死にたくないと思うのは当たり前なことだ。

皆と笑っていたい?あぁ、良い願いだな。暖かい日溜まりの中で皆と何気無い会話で笑い会う・・・うん、素敵なことじゃないか。

誇れよ、お前の願いは生きている者ならば自然なごく当たり前に願うことだよ。例えば世界の全員が無様だと笑い飛ばしたとしても俺だけは素晴らしいと誉めてやるよ」

 

 

誰かの為にと言えば聞こえは良いかもしれないが所詮それはその人に責任を押し付けているに過ぎない。だから時雨は誰かの為ではなく自身の為の本音を聞き出そうとした。そしてその答えは生きたい、消えたくない。女性の本音は時雨を満足させるのには十分なものだった。

 

 

「つーかオメーなに一人で自己完結しちゃってんだよ。これまでの主とかお前の言う騎士連中に相談すればすぐに解決してたかもしれないだろうが」

「・・・・・・歴代の主はすべて闇の書の力を得ようとして欲に目を眩ませていた者ばかりだった。騎士たちはそんな主に従わされて蒐集に走る日々・・・・・・見ているこっちが辛くなる物だった。だから私の権限を使って彼女たちの記憶を消したんだ」

「なるほど、過去話になると話が噛み合わなくなるのはお前のせいか」

 

 

この女性の告白に正直時雨は感謝していた。闇の書の騎士たちは誰もが見目麗しき女性ばかり、そんな人物の主になればその体に目をつけるのはごく自然なこと、彼女たちが望まずして受けた悲痛のことを覚えていないのは時雨としては非常にありがたかった。

 

 

「まぁシグナムたちの話は置いといてだ、お前の中にあるとかいう奴のことなら俺が何とかできるかもしれないぞ」

「無理だ・・・・・・私はこれまでに幾度となくこれを消そうとしてきたがそれができることはなかった。それなのに貴方がそれをどうにかできるはずがない」

「まぁた自己完結かよ・・・それいい加減止めろよ。いいか、俺は魔術師だ、魔術師というのは常識に対する天敵という意味合いもあるんだ」

 

 

そう言って時雨は地面に倒れている女性に向かって手を差し出す。

 

 

「どうにも出来ないというのがお前の常識なら、俺はその天敵になってお前の常識を壊してやるさ」

 

 

時雨は他人の意思で動くことは少ない。動くとしてもそれは自身が得る利益の損得を考えて自分が有利であると考えた時だけである。例えて言うならコトミネとの関係がそうだろう、コトミネは時雨に代行者としての仕事を持ち込んでくる時があるが時雨がそれを自分に対して益があると判断したときに受ける。裏を返せば例え時雨に利益が無くともそれが時雨の意思ならどんな損失を受けようと実行する。ジュエルシードのときに関わったアルフの件が良い例だ。そして時雨は自分の意思で女性の助けになることを選んだ。

 

 

「・・・いいのか、死ぬかもしれないぞ」

「そんときゃそんときその調子ってやつだ」

「もう一人の主が危険に晒される」

「はやては五体不満足になろうが俺が守る。守れなくなったときにはコトミネにでも泣きつくさ」

「・・・・・・私は、救われてもいいのか?」

「救われる救われないなんていうのはぶっちゃければ運が良かった悪かっただけの話さ。お前が救われる可能性があるのが俺だったというだけの話だ。実にシンプルだろ?」

「・・・歴代の主が貴方と同じ考えなら、私は救われていたのだろうか?」

「それはifの話だ、救われていたかもしれないし救われなかったのかもしれない。大切なのは過去でもなく未来でもなく今だ、この手を掴むか?掴むならお前を救い出すために全力を尽くすことをここで誓おう」

「絶対に救い出すとは言わないのだな」

「絶対に救い出すと言えれば格好良いのだけどね、俺が必ず救い出せるという保証はないもんのでね。最悪どうしようもない時には介錯を勤めてやるよ。墓に刻み込む碑文にはこうだ、【最後まで生き抜こうとして醜く足掻いた夜天の人格、メチャクチャ格好よくここに眠る】。そうなったら俺は墓守をやってやるよ」

「・・・あぁ、それはいいな」

「ただし途中で死んだならこうだ、【メソメソ泣き虫弱虫野郎、大人のくせして餓鬼のように泣きわめいておっちんだ】ってな」

「ふふっ、なんだそれは?」

「自分の決めた目標も果たせずに死んじまう奴にはもってこいの碑文だろうが。で、どうする?この手をとって生きもがくか?それとも餓鬼のように泣きわめいてここで死ぬか?」

 

 

一見して見れば選択肢の無いように思えるのだが実際にはそれは残されている。

 

 

死ぬのか、生きるのか

 

 

主のために消えることを望んでいた夜天の書の管理人格は、自分の為に伸ばされている手を掴んだ。

 

 

「私は・・・生きたい。生きて、生きて、生きて、主と騎士たちのいる日溜まりの中で一緒に笑いあいたい!!」

「肯定してやるよ。俺はお前を救うことに全力を尽くす、だからお前は生きることに全力を尽くせ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仄か暗い闇の底で、夜天の人格とイレギュラーである魔術師は契約を結んだ。

 

 

夜天の人格は生きていたいと望んだ。

 

 

イレギュラーである魔術師はそれを肯定し、力になると誓った。

 

 

本来ならばあり得ない筋書、それでもこの世界ならばあり得る出来事。

 

 

もう一人の主であるはやてが知らない誓いが、夜天の書の奥底で結ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜天の書の奥底からさらに奥、ここは闇の書の奥底。

 

 

その深淵で、異端者はほくそ笑む。

 

 

自分の決めていた筋書通りに物語が進むことを。

 

 

異端者は目を瞑り、悪性の中で微睡みにつく。

 

 

自身が目覚めるのは今ではないと悟ったから・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ん?」

 

 

六月に入って梅雨の季節特有の湿った熱気に不快感を感じながら時雨は目を覚ました。体の疲れは取れているが精神の疲れは取れていない。あの夢のような空間であった出来事がまるで現実であったかのように。

 

 

「・・・あぁ本当のことか。なら救ってやるよ。例え本を通して見ていたとはいえお前はここにいたんだ。なら家族だ。家族を助けるのは父親である俺の役目だ」

 

 

あの夢のような出来事が本当であると確信した時雨は再び誓う。忘れないように、心に刻むように。そして精神的な疲れを取ろうと起こした体をベットに投げ出したときに気がついた。

 

 

「うぅん・・・・・・」

 

 

あの夢のような空間であった女性が、自分の隣で幸せそうな表情で眠っていることに。

 

 

「・・・・・・」

 

 

それを確認した時雨はそのままの姿勢で思考を分割して考え始めた。

 

 

「(こいつのこと、どう皆に説明しよう?)」

 

 

 

 






と、いうわけで今回はリインフォース説教回でした。


リインフォースの自己犠牲の考えは素晴らしいと思いますが作者としては否定したい思想であります。だから作者に代わって時雨に説教してもらいました。どうせ消えなければいけないと分かっているならそれを否定するために醜く足掻いて欲しいものです。


ちなみに時雨のぶちギレは同族嫌悪によるものが大きいです。時雨は自己犠牲を戸惑いません。ただしそれはあらゆる可能性を考え、周りに相談し、それでもどうしようも無くなった場合に限ります。そんな彼からすれば自己完結で自己犠牲を選ぶリインフォースはただの自殺志願者と大差無いのでしょう。故の説教回、同時にリインフォースの本音をぶちまけさせました。自分に正直な人間というのはどこか気持ちの良いものです。


リインフォースの登場が原作よりも約半年早いものになりましたが・・・・・・私が早くリインフォースを出したかっただけなんだ!!


感想、評価をお待ちしています。



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