「あぁ・・・・・・体痛い」
虚数空間に落下して気絶して幾らか時間が経ってから意識を取り戻す。プレシアからジュエルシードの魔力を使いすぎると虚数空間が発生する可能性があると言われていたのにこうなるとはまぬけだな。まぁプレシアは当初の計画で虚数空間のどこかにあるアルハザードとかいう場所に行こうとしていたらしいが無茶をする。
「リニス生きてるか?」
まずは状況を確認することが一般的には最優先だろうが俺はそれをせずにリニスを安否を確認する。俺のすぐ側に倒れていたリニスは呻き腹を押さえながらも体を起こした。顔は苦痛を堪えるように歪めながら口端から涎を流している。
「生きて・・・います・・・けど・・・地面にお腹・・・打っちゃった・・・みたいで・・・気持ち悪い・・・」オロロロ
「アー我慢せずに吐いちゃいなさいや」
~Nice boat~
オボロロしているリニスの背中を擦り、見せられないよ補正のかかっている吐瀉物から離れて近くにあった水場で休憩をとる。リニスの具合は多少は良くなったみたいだが腹を打っていると言っているなら余り動かすのは宜しくない。もしも内臓が傷ついていたなら大惨事になりかねない。分割した思考の中でリニスの状態を考えながら周囲を伺う。視界に入るものは金、金、金。建物や道路は金、なんと道路の端に植えられている木に至るまでが黄金で出来ている。まさに名称するならば黄金都市と呼ぶのに相応しい、現代人が見たら発狂しかねない場所だな。普通ならばあり得ない空間、俺はここに心当たりがある、というよりも一度ここではないが似たような空間に来たことがある。ここは“座”だ、ランスロットのいた湖と同じ過去に偉業を成し遂げた者が祭り上げられる一種の固有結界とも言える空間。さらに言ってしまえばこの“座”にいるであろう英霊にも心当たりがある。てかこれだけ嫌味ったらしく金を使いそうな奴を俺は一人しか知らない。
「体調はどうだ?腹に痛みはあるか?」
「体調は・・・本調子ではありませんね。お腹には痛みはありませんけど・・・」
「ういよ、やっぱり動かすのは宜しくないさなそうだな。となると・・・リニス、乗れ」
地面に座っているリニスの前に膝をついて背中を見せる。その意図を理解してくれたのかゆっくりとした動作でリニスは俺の背中にもたれ掛かって首に腕を回してきた。それを確認してから膝のしたに手を通して立ち上がる。あれだな、おんぶだね。
「動かして悪化するのはダメだからな、揺れるかもしれんが勘弁してくれ」
「なんでおんぶなんですか?ここはどう見てもお姫さまだっこの流れでしょう?」
「考えたけど手が使えなくなるから却下、移動もしにくいからな。不満だったら後日に回すけど」
「よろしくお願いします。・・・時雨も辛いはずですが大丈夫ですか?私が足手まといなら・・・置いていってください」
「ふざけたこと抜かすな、ぶん殴るぞ。高々腹を打った程度で見捨てるなんて選択肢はねぇんだよ。例えお前が五体不満足だとしても俺は引きずってでも連れて帰るぞ。俺の欲深さをなめんじゃねえよ」
「・・・フフッ、そうでしたね。大切な
「なんだ、わかってるじゃないか」
そうだ、例え死にかけていても関係あるか。リニスも、家で待っている皆ももう俺の中では十二分に大きい存在になっているんだ。ならそれらを欠けさせる訳にはいかない、例え肉体的に生きていようが彼女たちを失ってしまえば俺の心が死ぬ。俺はただ動くだけの血の詰まった肉袋に変わり果ててしまう
なら
「んじゃ行くぞ」
「はい」
今は二人でここから出ることを考えるか。
黄金の都を宛もなく歩き続けて数時間、人の気配がない。家に入っても食べかけの食事やなんかが置いてあるだけで“今まで”そこに人が居たのではないかと錯覚してしまう。そして小休憩の中で探索の結界見つけ出した物を調べていた。
「そのカードは時雨の持っているカードに良く似ていますね」
「似ているんじゃなくて同じなんだよ」
黄金の都の中で見つけたのは騎士、弓兵、槍兵、騎兵、魔術師、狂戦士、暗殺者の絵が書かれた七種類のカード。しかもそれが十四枚も見つかった。騎士が2、弓兵が1、槍兵が2、騎兵が2、魔術師が3、狂戦士が2、暗殺者が2・・・ぎょうさん増えたな。しかもその大半が月の聖杯戦争に出演なさっている面子・・・嫌々、いくら虚数空間に落ちたからって月の裏側に来たわけじゃ・・・無いよな?
「まさかここで拾えるとは」
「前から疑問に思っていたんですけどそのカードって一体何なんですか?」
「前にジュエルシードの暴走で狂戦士と戦ったよな?これはあれと同じ英霊の力を得るために使う媒体みたいなものだ。日本の有名どころで言えば・・・武蔵坊弁慶とか本田忠勝とか?そう言う奴等の力を借りれるのがこのカードだってわけ」
なんとなく例に挙げた二人だが・・・どうしてだろう?バーサーカーとして召喚される未来しか見えない。本田忠勝は蜻蛉切り振り回して武蔵坊弁慶は刀集めの逸話から武器をなんでも使いこなしそうだ・・・いやだ、武蔵坊さんランスロットの二番漸次じゃないですか。
「さて、後行ってないはあそこだけだな」
「あの塔ですか」
目を向けた先にあるのは都の中心にそびえ立つ黄金の塔。あそこに何もなければお手上げなのだが俺の直感はあそこにいると告げている。ってかここが本当にあいつの“座”であるならあそこ以外にいる場所が思い付かない。
休憩を取り終えると俺はまたリニスを背負って塔に向かって歩き出した。あとどうでもいいことかもしれないけどあっちこっちがピカピカ光ってるから目が痛くてしょうがない。
黄金の都にそびえ立つ黄金の塔、その最上階。黄金の階段を登ったその先にあった玉座の前で俺たちは立ち尽くしていた。リニスはそこにいた人物の雰囲気に驚いていることが気配からわかる。俺はそこにいた人物の容姿に驚いていた。
靡くのは金髪の髪
こちらを見つめる双眼は鮮血の如く紅く染まり俺達に向けられる
服装はどこかの民族衣装のような、それでも所々にあしらわれた金の装飾が彼の存在を引き立てる
そこから漂う風格は正しく王者その物
英霊たちの王にして
神々が生ける古代バビロニアの時代において
初めて人の王として立った男
英霊王ギルガメッシューーーーーーーーーー
「やぁ始めましてかな?君たちはどうしてここにたどり着いたんだい?ここには誰もたどり着けないはずなのに」
ーーーーーーーーーーが、子供時代の姿でそこにいた・・・・・・まさかの子ギルですかい。
「なるほど、ジュエルシードによる魔力干渉でここまでね」
ホロウやプリヤで大活躍中で密かにおねショタも呟かれている子ギルさんにここまでの経緯を軽く説明する。説明しようか少し迷ったけど俺たちだけじゃどうしようも無いし、子ギルさんも俺たちのことを悪いようにはしないとの言いぶりだったので危険を承知で話に乗ってみた。すると子ギルさんはどうやらジュエルシードに強い関心を持った模様、そりゃあ平行世界+別次元の世界で生まれた物ならギルガメッシュの宝物庫の中に存在しないだろうし・・・いや、ギルガメッシュの宝物庫の財宝は確か下手をすれば未来の人類が産み出した物まであるって話だし・・・・・・どうしよう、ギルガメッシュの宝物庫にジュエルシードが無いと言うことが否定できない。
「でも、それだけじゃないでしょ?」
「どういうことですか?」
「“偶々”ジュエルシードという宝石のお陰で座に通じる道が開いたとしてもそれがここへ通じる道とは限らない。自分でいうのもなんだけど僕は有象無象の英霊とはかけ離れた存在だ、1%もない確率でここに“偶然”に来られたとは考えにくい。なら、君たちのどちらかが僕に縁のあるものを持っていると思うんだけど?」
「・・・さっすが、天下に轟く英霊王ですわ。察しの通り、俺は縁の品とも言える物を持っている」
流石に英霊王の前で嘘をついても通せる気がしないので正直にギルガメッシュと繋がりのあるものを差し出す。それは俺が元々持っていた、ここで拾った物とは別のカード。弓兵の絵が書かれたカードには小さくともハッキリと【人類最古の英霊王】と書かれている。初期の俺の手持ちのカードとしては、更に言うならこの座で集めたカードを加えたとしても群を抜いて最強とも言えるカードであるのだが何せこのカードに宿っているのは
「・・・うん、確かにそれには僕の力が宿っている。しかも僕の全盛期とも言えるほどの力が。それがあるならここにこれたことも納得できるね」
「納得できたようなら何よりで。これいる?正直俺が持ってても宝も持ち腐れ何だけど?」
「なら貰おうか。それは僕の宝物庫にも無いものだ。正直言ってとても興味深い」
カードに興味を持ってくれた子ギルは新しいオモチャを前にした子供のように目を輝かせてカードを受け取った。正直言って俺もこのカードの扱いに困ってたから助かったよ。
するとここで予想外の出来事が。なんと子ギルに弄られていたカードは突然光の粒に姿を変え、子ギルに取り込まれてしまった。
「えっ!?」
「これは・・・・・・」
「・・・・・・ひょっとしての予想でよければ何となくわかった気がするが」
「教えてくれるかい?」
「あのカードは元々ギルガメッシュの力だ、そこに同じ存在であるギルガメッシュがやって来た。ならそれが一つになってもおかしいことでは無いんじゃないかな?」
「・・・あぁなるほど、確かにそれがこの場ではベターな答えであるような気はするね」
元々あのカードは英霊の力の一端である。なら同じ存在に引かれるのは当然のことのように思える。あれだ、スタンド使い同士は引かれあう的なやつだ。
「うん、霊体であるはずの僕が受肉化している。どうやらこれがあのカードの恩恵らしいね」
「ギルガメッシュが受肉化とかなんて悪夢?」
どう考えても最悪の結果しか思い付かない。魔力によって構成されたエーテル体の英霊と受肉化した英霊との違いは自力で魔力を産み出せるか否か、それに尽きる。前者は魔力を消耗すれば自身を顕現させることが困難になるのだが後者は違う、魔力を使ったところでしばらくすれば消耗した魔力は回復するのだ。つまり子ギルは外部からの供給を必要としないで顕現し、規格外とも言える宝具を魔力の消耗を気にしないで消費できる存在になったわけだ。悪夢と言ってしまった俺は悪くない。
「さて、君たちは望んで
「もちろん、俺達には帰らなくちゃいけない場所がある」
「なら、これを貸してあげるよ」
子ギルの背後から黄金の渦が現れ、そこから出てきた一本の短刀を俺に渡してきた。
「それは必ずそこに戻ってくると誓った時に渡された逸話を持つ宝具の原典でね、効果は使用者が望む場所への帰還、つまり君が今帰りたいと願っている場所に移動することができるんだよ」
「・・・つまり、俺が本当に戻りたい場所があるかどうかを試すって訳ね」
渡された短刀は刃渡り30㎝もない護身用とも言える剣、しかしそこに込められた神秘は計り知れない。鞘に納められた短刀を強く握る。俺が帰りたいと願う場所、それは地球の海鳴にある八神の家ーーーーー
本当に、そうなのか?
ふと湧いてきた疑問に背骨の代わりに氷柱を差し込まれたような、寒気が走る。
お父さんと呼んで慕っているのは表面上、心底では拒絶されているのではないか?
湧き出してくる疑問は肯定は出来ないが否定も出来ないものばかり。確かにそうだ、俺はコトミネによってあの家にねじ込まれただけの言ってしまえば異端の存在、俺は
「恐いのですか?時雨がはやてたちからどう思われているのかが?」
「・・・・・・あぁ恐いね、正直言って銃を頭に突きつけられるよりももっと怖い」
「嫌に具体的な表現ですね・・・・・・心配しなくても大丈夫ですよ。ヴィータは貴方と遊ぶことを楽しみにしています。ザフィーラは貴方の作る料理を楽しみにしています。シグナムは貴方と話せることを楽しみにしています。そしてなにより、はやては、父親である貴方と入れることを待ち望んでいます。他の何にでもなく、他の誰にでもなく、皆時雨が帰ってくることを待っているんですよ」
添えられたリニスの手が俺の短刀を持つ手に力強く握られる・・・・・・然り気無くシャマルがハブられたことは不問にしておこう。
「ーーーーーーーーーーあぁ、そうか、そうなんだな」
確かにそうだ。ヴィータは俺と遊んでいる時、笑顔だった。ザフィーラは俺の作った料理を食べている時、笑顔だった。シグナムはお茶と茶菓子を摘まみながら話している時、笑顔だった。はやては俺がコトミネから言い渡された仕事から帰ってきた時、笑顔だったーーーーーーーーーーなんだ、なんて下らないことを悩んでいたんだ。俺があそこを帰る場所だと思っていたように、彼女たちも俺が帰るべき者と、居て当たり前な存在だと思ってくれているじゃないか。
「ありがとう、リニス」
迷いは欠片もない。俺の帰るべき場所はあそこなんだ。そんな俺の心中を読んだのか、短刀は眩しいがどこか優しげな輝きを放った。
目を開けると辺りにはコンクリートの地面に木造の建物が立ち並ぶ住宅街、そして目の前には“八神”と書かれた表札の書かれた家がある。
それを確認すると俺は迷うことなく家の玄関の扉を開く。
「ただいま」
自分でも驚くような小さいが良く通る声が出た。そして俺の声に答えるように数瞬の間があってからドタバタと少し荒い足音が家中から聞こえてきた。
「お帰り!!」
「お帰りなさい」
「お帰りなさい」
「お帰りなさい」
「お帰り~」
ヴィータが、シャマルが、ザフィーラが、シグナムが、はやてが、俺の帰宅の声に返事を返してくれた。それに心の中が暖かくなるような感覚を味わいながら、
「ただいま」
もう一度、帰るべき場所に帰ってきたことを告げた。
虚数空間→ギルガメッシュのいる英霊の座へワープさせました。でもそこにいるのは子供ギルガメッシュ、通称子ギル。うちの子ギルはギルガメッシュやホロウ、プリヤの子ギルに比べるとかーなーりマイルドな性格になっています。
帰投時の描写では時雨一人みたいに感じるかもしれませんがリニスもしっかり帰ってきています。こんな描写にしたらいいかな~と思った結果、リニスまさかの消滅(実際には生きて帰ってきてますよ!!)。ごめんなさいリニスさん、作者の文章力が低いばかりに・・・・・・
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