第二話始まります。
ちなみに今回からは四年後の話で原作に入る少し前の時間軸になっています。
第2話
早朝六時、ある家の台所で一人の女性が朝食の支度をしていた。髪の色は茶色、平均的な女性よりも優れた体つき、しかしそれよりも目を引くのは頭と腰から生えている『耳と尻尾』だろう。市販で売られているような作り物ではなくたまに動いていることから本物だということが分かる。
「おはよー『リニス』」
そんな女性に独特のしゃべり方をした少女が話しかける。少女は足が悪いのか車イスに乗っている。
「おはようございます『はやて』、今日はいつもよりも少し遅かったですね」
「うん、アレの準備してたから寝るのが遅なってしもうた。お陰で準備はバッチリやで」
「ふふっそうですか。でもはやて、それで体調を崩してしまったら元も子も無いですから程ほどにしないと駄目ですよ」
「わかっとる。ところでリニスの方は渡すの決まったん?あ、もしかして自分をリボンでラッピングして自分がプレゼントになるん?うわー大胆やわー、でもそれなら『お父さん』も落ちるかもしれんなぁ」
「は、はやて!?」
はやてのませた発言にリニスは顔を真っ赤にして反論しようとするが言葉が続かない。
「あ、あとはうちがやるからリニスはお父さん起こしてきぃな」
「・・・・・・わかりました。でもはやて、あとで少しO☆HA☆NA☆SHIする必要があるようですね 」
「\(^o^)/」
弄りすぎた代償か、綺麗だが恐怖を感じるリニスの笑顔を前にはやては諦めるしかなかった、
はやてに朝食の準備を任せたリニスは二階にある部屋に向かう。ここがお父さんと呼ばれる人物の私室兼仕事部屋で彼はここに籠ることが多い。
部屋に入ると目に入ったのは床にまるでカーペットのように散らばった大量の原稿用紙、そして窓際に置かれた机に突っ伏せて眠る女顔の男性の姿だった。リニスは男性を起こすために床の原稿用紙を避けながら机に向かう。男性の元にたどり着いた時にリニスの視界には書き上げたのであろう原稿用紙の束と広げられたノート、ノートはネタ帳らしくそこには
『砲撃魔王』
『必殺技、全力全壊星壊し、肉体言語(ボディランゲージ)』
『露出狂?露出強?』
『脱げば脱ぐほど強くなる』
『腹黒狸、まだ間に合う』
『シャイニングウィザァァァァァァァァァアド!!!』
・・・・・・ノートを見てからリニスは可哀想な人を見るような目付きで寝ている男性を見た。彼はきっと疲れているのだ、だから優しくしてあげよう。リニスは心の内でそう誓った。
「『時雨』起きてください、朝ですよ」
リニスは寝ている男性、時雨の肩を軽く揺すって起きるように促す。眠りが浅かったのか大して刺激の無いそれを受けて時雨は目を覚ました。
「ぁ~……もう朝か?」
「はい朝ですよ、おはようございます時雨。一体何時に寝たのですか?」
「おはよう・・・・・・たしか一時位にコトミネの仕事を終わらせて帰ってきて・・・終わりそうだった原稿終わらせようと書き始めて・・・そっから記憶がない」
変な寝肩をして固まった体を解すように伸びをしたり首を回しながらリニスからの質問に答える。恐らくは三時間は寝ているのであろうと考えながらリニスは時雨の顔を見た。目元に隈はあるのだがそれ以外には目立った変化は見られない、寝不足は肌荒れの原因になるのだが時雨には適応されていないらしい。ズルいと考えながらリニスは床に散らばった原稿用紙を片付け始める。
「そろそろ朝食ができるので先にシャワーでも浴びてください。どうせ昨日もお風呂に入っていないのでしょ?」
「あーたしかに汗臭いな、そうさせてもらうわ」
時雨は箪笥から着替えとトランクスタイプの下着を取り出して部屋から出た。その際に寝惚けていたのかドアに足の小指をぶつけて悶絶していたが。
視点は俺に戻る!!
どーもーアイアム皐月原時雨、現在は八神時雨を名乗っていま~す・・・・・・ごめん、寝不足かテンションが変な方向に有頂天になってた。
四年前から現在に至るまで何があったか簡単に言うとあの車イスに乗った幸薄少女八神はやてを引き取って義理の父親となった。まぁその時にコトミネに戸籍が無いことがバレたのだがあの外道神父が俺の戸籍を捏造した。そしてはやてから八神のままにしてほしいという頼まれたので俺の名字を変えることにした。まぁ皐月原の姓には未練も無かったから別に良かったんだけどね。
とまぁそんな感じで俺は八神時雨になってはやてと希に様子を見に来るコトミネと一緒に悪くはない暮らしをしていた。ちなみに俺の職業は小説家、といってもこの世界と前の世界とを比較してこの世界に無かったラノベを思い出しながら書いているだけなのだが。え?盗作?悪いことをしてもバレなきゃ問題にはならんのですよ(黒笑)。この職業を選んだ理由ははやてのサポートをするため。車イスに乗った奴を放置できるほど俺は鬼畜じゃないのさ。それでもはやては自分のことは出来るだけ自分でしたいと言うのでその意思を尊重して一人で出来そうなことははやてに任せている。
そしてもう一人ここにいる女性、リニスのことだが今年の二月頃に拾った。あれは驚いたね、拾った猫を介抱していたらいきなり人になって、であれよあれよという間に俺と契約、現在では八神家の家政婦になっている。あれか?QBか?僕と契約して魔法少女になってよってか?笑えねえよ。それで人が増えることになったがはやては笑顔でこれに承諾、コトミネもはやてがいいというなら文句はないらしい。
あと俺はコトミネの仕事を手伝っている。コトミネの仕事は海鳴市にある海鳴教会の神父ーーーーーーーが表向きの顔、裏ではこの世界に少数だが存在する魔術師の中でも暴走した奴等を粛清する代行者をしている。それに俺はコトミネに誘われる形で参加し、コトミネから多額の報酬を貰っている。意外と貰えるよこの仕事、今口座にある金額はゼロが八個あるからね?
と、そんな感じで俺はこの世界で小説家兼代行者として暮らしている。昨日もコトミネの仕事の手伝いをしたので寝不足だがはやてと作った八神家ルールの食事はできる限り一緒に食べるに従うためにフラフラしながらも食卓についた。
「お父さんおはよー、昨日は眠れ・・・・・・てへんみたいなや」
「おはよーはやて・・・何もしないんだったら三時間睡眠でもいいんだけどな~流石にこれ食べたら昼間で寝かせてもらうよ」
「もう時雨、食べてからすぐに寝ると太りますよ」
「残念ながら俺は太りにくい体質なんで、あと恭也からもう少し肉つけろとか言われてるし」
俺の体重は現在65㎏、身長が180㎝あるから少し痩せている?程度だが友達の高町恭也からしたら80㎏は欲しいらしい。
「・・・・・・羨ましいわぁ・・・」
「妬ましいですね・・・・・・」
やべ、女性陣にはこの手の話題は禁句だったな。はやてとリニスの俺を見る目が据わってて恐い。特にリニスが恐い。
「ほ、ほら!!冷める前に食べようぜ」
「露骨に話題を変えてきましたね」
「でもそうやな、ほな」
「「「いただきます」」」
食事終了、食事シーン?カットカット。飯食べてるところ眺めても何が面白いの?
「時雨、今日の予定は?」
「寝てから・・・・・・またコトミネの手伝いかな?今日も誘われてるし。多分帰るのは夜中になるから夕飯はいいや」
「そうですか・・・・・・調度いいですね」
「何が調度いいの?」
「いえ、こっちの話です」
気になる・・・けどリニスだって何か考えがあるのだろう、そこにわざわざ踏み込んだりはしないさ。
「まぁいいや、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
ソファーに横になって目をつむりしばらくすると満腹から眠気が出てきてすぐに眠ることができた。
「ふぁ~まだ寝たり無いのか?」
散々寝て昼飯を食ってから海鳴市郊外にある海鳴教会に向かう。いつもなら車を使って移動するのだが今日は天気がよかったので歩いて向かうことにした。小説家という職業柄日中に外出する機会がほとんど無いのでこういうときにでも出ないと日の光を浴びることがないのだ。だから恭也たちからモヤシとか言われるんだけど。
「ーーーー!!」
「あ?」
何やら騒ぐ声がするのでそちらを向けば公園があり、その中で銀髪と黒髪の少年二人が言い争っており、その後ろで茶髪金髪紫髪の少女三人か迷惑そうにしていた。銀髪と黒髪の少年はイケメンで銀髪の方は赤と黒のオッドアイ、少女三人は十年後が楽しみな容姿をしている。
その中でも茶髪と紫髪の少女二人は見覚えがあった。
「あれってたしか恭也と忍の妹だよな?」
たしか紫髪のほうがすずかで茶髪の方がな、な、・・・なんとか?なにがし?そんな感じの名前だった気がする。
ピキュイーン!!!
その時、俺の頭に走る電流・・・!!圧倒的閃き・・・!!
ポケットの中にあった二つ折りの携帯電話を取り出して電話帳から高町恭也の名前を見つけて呼び出しをかける。
『どうした時雨?今仕事中だから手短にしてほしいんだが』
「恭也、お前妹いただろ?小学生くらいの。それが今公園で銀髪と黒髪のガキに言い寄られてるぞ。心当たりあるか?」
『・・・・・・すぐに向かう』
それだけ言うと恭也はこちらの返事も聞かずに一方的に電話を切った。
「なぁぁぁぁぁぁぁのぉぉぉぉぉぉはぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そして“空中から落下しながら”シスコン恭也登場。相変わらずだな~あいつのシスコンっプリも・・・え?空中から落下しながら登場したことに驚け?いやいや、高町と書いて戦闘民族と読むような家系の出ならこれくらい当たり前だろ?あの家なんたら流とかいう剣術してるし、恭也の両親三児産んでるはずなのに二十代位の若々しさ保ってるし。死ぬ前になったら一気に老化するのか?それは気になるから機会があれば見たい。
と、ここで仕事を抜け出してきたのかエプロンとバンダナと日本刀を装備した恭也と目が合う。
目と目が合う~♪しゅ~んかんに~♪好きだと気づいた~♪・・・・・・ごめん、無いわ。
(時雨、報告ありがとう。うちのシュークリーム三個でどうだ?)
(足らん倍プッシュだ)
(OK、自腹を切ってでも)
アイコンタクト終了、海鳴でも有名な翠屋のシュークリームが六個ももらえることになった。
おやつが貰えるよ、やったねたえちゃん。←おいバカやめろ。
さて・・・いい暇潰しにもなったし臨時収入もあったし、早くコトミネの所に行ってバイトを終わらせて家に帰るとしますか
昼の出来事から数時間たった夜、月の位置が低いことから夜になってさほど時間がたってないことがうかがえる。郊外に建てられ放置されていた古い屋敷の屋根の上に一人の男がいた。手の邪魔にならないようにか肘の位置までしか袖の無いロングコートを風でバタバタと揺らめかせながら屋敷の敷地内で蠢く人ーーー否、人であった物たちを見下していた。
「まぁた死徒の研究かぁ、飽きないねぇ魔術師連中も。これで何度目だと思ってんだよ。処理任されるこっちの身にもなってみろっていうんだ」
『時雨、屋敷内にいた魔術師の始末を終えた。あとは魔術師の遺した実験体の始末だけだ』
「何度も言うようだけどなんで俺に任せるかなぁ?たまにはお前がやってみろよ、代行者コトミネ」
『残念ながら私は一対一の方が得意なのでな、それに比べて時雨は一対一だろうが一対多だろうが対処出来るのだろう?適材適所というやつだ、諦めろ』
「へーへー、その分報酬には色を付けろよ?」
『その点は保障しよう、それよりも早くしてくれ。此のままでは出るに出れん』
「了解・・・・・・あぁ、なんて醜い」
耳に装着していたインカムの通信が切れたことを確認してから時雨はコートのウチポケットにしまっていたカードを一枚取り出した。タロットカード程の大きさのカードには槍を持った男の絵と『Lancer 』『串刺し公』の二文が書かれている。
「【英霊・串刺し公】」
何を考えたのか時雨はそのカードを思いっきり“握り潰した”。握り潰されたカードは光の粒に変わり、半数は時雨の中に入り、もう半数は時雨の手元に集まりとある武器になった。それは一本の槍。これでもかと言わんばかりに返しが着いた突き殺すことに特化した槍の穂先からは血液が滴り落ちている。
「ーーーーーーー事実無根の覚悟はあるか」
祈るような言葉を口にして時雨は屋根から飛び降りた。下には生者を食らおうと群がる死徒の群れ。まるで自殺志願者のような行動を起こした時雨は時雨の群れに飛び込み、
カズィクル・ベイ
「ーーーーーーー串刺城塞」
死徒たちは槍に串刺しにされた。敷地内を覆いつくす程に出現した大量の槍は死徒たちの全身を余すところなく串刺しにする。そして刺された死徒たちは例外無く塵になってこの場から消滅した。
「・・・」
すべての死徒が消滅したのを確認した時雨は胸で十字を切り、コトミネが現れるまでその場で祈り続けた。