ジゴスパー○のような色合いの雷が辺りに降り注ぐ。雷は特には狙いを定めずに辺り一帯を焼き払っているようだった。そんな中でもフェイトとアルフに当たりそうな雷は不自然な軌道で曲がり海に落ちていく。うん、これプレシアの攻撃だな。じゃないとタイミング的にもおかしいしフェイトとアルフには当てたくないって伝わるもの。そんなことを考えながら魔力障壁を展開しておく。流石にあれに直接当たるのは勘弁してもらいたいのだが、高町たちにクロノ少年も当たっているのに俺だけ当たらないのは不自然か。適当に当たりそうな雷を避けつつ、切りのいい頃合いを見計らって避けた先に堕ちた雷に当たって気絶しておいた。
目を覚ますと消毒用のアルコールの臭いが鼻につく。どうやらあのあとアースラに回収されたようだ。
「起きたのか」
「ようクロノ少年、どうなってる?」
隣のベットにはいつものヒャッハー世紀末みたいな服ではなく患者用の質素な服を着たクロノ少年がいた。俺の服も同じものに変わっている。俺の服は・・・あった。乾いてるみたいだしさっさと着替えるか。
「悪い知らせといい知らせがある。悪い知らせはジュエルシード六つはすべて向こうに持っていかれ、加えてさっきの次元跳躍魔法の影響でアースラのシステムがいくつか落ちてしまって完全な復旧には少し時間がかかる。いい知らせは残留魔力から魔法の使用者が特定できた。使用者はプレシア・テスタロッサ、管理世界出身の大魔導師と呼ばれていた魔導師だ」
「お仕事速いね、流石はブラック企業。で、ここからの管理局の方針は?」
「一先ずはシステムが完全に復旧するまでは各自待機、なのはたちは一度地球に帰ってもらっている。八神はどうする?」
「俺も帰らせてもらうよ、そろそろ帰って顔を見せないと怪しまれかねないからな」
「そう言えば八神は家族には自分のことを話していないんだったな、話さないのか?」
「馬鹿言え。こっちの魔導の世界はそっちほど健全じゃないんだ。下手に話して変に興味を持たれても困るのはこっちだし後悔するのは向こうだ。そうだな・・・・・・せめて十五歳くらいになってから考えるよ」
「巻き込ませたくない、か・・・・・・そちらは複雑だな。こっちは魔法の素質があれば諸手を上げて喜ぶぞ」
「そっちは魔法が一般的だからだろ。異端と言えど公に認められて受け入れられればそれは当たり前になるんだ。そっちは受け入れられてこっちは拒まれた、それだけの話だよ」
服を着替え、体に異常がないことを確認してから消毒液臭い部屋から出て転移をしてくれる機械の元に向かった。部屋を出るとき他のベットに役立たず二人組が見えたような気がしたけど・・・・・・気のせいだろう。
「たっだいまぁ!!」
「お帰り!!お父さん!!」
家に帰ってきて一番始めにしたことははやてとのハグだった。かれこれ一週間そこら顔を合わせてないだけなのに一月ぶりくらいに感じるのはどうしてだろうか?
*作者のせいですね、本当にごめんなさい
「お仕事お疲れ様、ご飯できてるから一緒に食べよ?」
「♪♪♪♪♪♪」
「せめて人の言葉を話してください。その言語は人類には早すぎますよ」
「♪♪♪・・・あ、リニス。ただいま」
「はい、お帰りなさい。鞄お持ちしますね」
はやてとのハグを楽しんでいると奥からエプロン装備のリニスがやって来て一週間分の着替えの入った鞄を持ってくれた・・・・・・あぁ、うん、俺がこんなことを言えた義理じゃないかもしれないけどさ、
「家で誰かが待ってくれてるのって良いものだねぇ」
「おじさんくさいですよ。それと今日の食事は期待してくださいね」
「ん?誰が作ったんだ?」
「リニスぅ!!は、早く戻ってきてくれ!!」
リニスの含みのある言い方に疑問を抱いているとリビングの方から焦った様子のシグナムの声が聞こえた・・・うん、大体察しがついた。はやての車イスを押しながらリビングに入るとテレビゲームをしているザフィーラとヴィータ、慌てた様子で中華鍋を構っているシグナム、部屋の隅で“見せられないよ!!”状態になっているシャマルの姿があった。
「リニス、説明を三行で」
「シグナム『リニス・・・料理を教えてくれないか?』
シャマル『私の出番ね!!』
全員『Go to hell!!』
みたいな具合です」
「分かりやすい説明をありがとう」
つまりはシャマルが悪いわけだな、弁明のしようがない。遊んでいるザフィーラとヴィータは兎も角、火を使っているシグナムを放置する訳にはいかないのでコートを脱いでキッチンに向かう。
「塩梅はどうなってる?」
「し、時雨!?」
「慌てるな、んいい具合だな。もう皿に移しても良いぞ」
「は、はい!!」
俺の指示に素直に従い、シグナムは用意してあった皿に中華鍋の中身を移した。それは溶岩の如く真っ赤に染まった赤い液体の中に宝石のように真っ白に光る豆腐が存在を主張する・・・・・・麻婆豆腐、俺の好物だった。帰ってきたら好物用意してあるとか、俺嬉しくて泣いちゃうよ?
「時雨、いつの間に帰ってきたのですか?」
「さっき帰ってきた、ただいまシグナム」
「はい、お帰りなさい時雨」
「しっかしどうしてまたいきなり料理なんて?今まではやてが勧めても遠慮していたのに」
「そ、それは・・・・・・」
「疲れて帰ってくる時雨のためにですよ」
「り、リニス!!」
何か言いにくそうにモゾモゾしているシグナムの代わりにニヤニヤしたリニスが答えてくれた。ってか俺のため?
「その一部始終がこちらです」
「辞めてくれぇぇえ!!」
「
「Yeah !!」
「し、シャマル!?」
リニスを止めようとしたシグナムだったがいつの間にか復活していたシャマルに羽交い締めにされて動きを止められる。そして何処からか取り出したビデオカメラに映像が写し出された。
『すまないリニス、相談があるんだが・・・』
『どうしましたシグナム?急に改まったりして』
『き、今日・・・時雨が帰ってくるのだろう?』
『えぇ、さっき連絡があって一時間位で帰ってくるそうです』
『あの・・・我々のためにいつも頑張ってくれている時雨のために何かをしてやりたいんだが・・・どうしたらいいと思う?』
『・・・時雨からしたらその気持ちだけで嬉しいと言いそうなんですけどね』
『ハイハイはーい!!シャマルちゃんからの名案よ!!シグナムがテーブルの上で全裸で横になってその上に刺身を乗せる!!いわゆる女体盛りをーーーー』
『あんまりゴチャゴチャ言うとその舌引っこ抜くぞ・・・・・・』
『すいませんでしたぁぁぁぁぁあ!!ですから!!ですからそのペンチをどうかしまってください!!リニス様!!』
『二度目はない』
『ありがとうございます!!』
『は、裸・・・・・・っ!!』
『シャマルの戯れ言に耳を傾けたら駄目ですよ、それにそんな恥ずかしいことしたくないでしょう?そうですね・・・・・・時雨の好物を作ってあげるのはどうでしょうか?』
『好物を?』
『はい、材料は買い揃えてありますし作り方は教えます』
『料理と聞いて!!シャマルちゃんの出番ですね!!』
『』スッ
『轟天!!爆砕!!』
『縛れ!!鋼の軛!!』
『あ、ちょ、ま、ヴィータザフィーラ!!流石にそれは!!ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・』
『さぁシグナム、台所に行きましょうか』
『だ、だか・・・私に出来るのだろうか?』
『失敗を恐れては駄目ですよ。トライアンドエラー、失敗は成功の母です。失敗しても次に生かせれば勝ちですよ』
『・・・分かった、烈火の将シグナムの本気を見せてやろう!!』
『いや、そこまで張り切らなくても・・・』
ここで映像は切れていた。
「どうでした?時雨」
「うう・・・・・・恥ずかしい・・・」
「うわ・・・シグナムの顔真っ赤になってるわ・・・・・・って、お父さん!!どうして泣いてるん!?」
「あ?」
はやてに指摘されてようやく気がついた、俺は泣いていた。まぁ原因はおおよそ察しがつくんだけどね。
「あぁ・・・多分嬉し泣きだよ。シグナムが恥ずかしいという気持ちを押さえてまで俺のために料理をしてくれたんだ。嬉しくない訳がない」
その後の夕食はどうもしょっぱいものが多い気がしたのだが、それでも俺の心は満たされていった。そしてシグナム作の麻婆豆腐はとても美味しかった。
それから時間がたち、現在は草木も眠る丑三つ時。俺は窓からこっそりと家を抜け出して海鳴教会に来ていた。本来なら鍵が閉められているだろう正面入り口の扉を普通に開いて中に入る。中には信者たちが祈りを捧げるために座る長椅子が敷き詰められており、その最前列と最奥に掲げられた十字架の下に人影が見えた。十字架の下にいるのはこの海鳴教会の主にして海鳴市の監督役、コトミネ・キレイソン。そして椅子に座っているのは海鳴にジュエルシードという異物を持ち込んだ張本人のプレシア・テスタロッサ。今回は俺からの指示でこれからの話し合いをするために呼び出したのだ。
「遅れたみたいだな」
「そうでもない。此度の異常の原因とその目的をテスタロッサから聞けた。確かにこの町に異質を持ち込んだのは彼女の責務だが自主的に回収している、故に私からこの件は不問としておこう」
「感謝するわ」
「それならよし。コトミネ、時空管理局を名乗る組織から声をかけられたか?」
「来たぞ、傲慢な態度の女性がな。そして彼女が去った後に弟を名乗る少年から謝罪をされた」
「あいつか・・・またクロノ少年の胃痛の種を増やすような真似をして・・・・・・で、どう答えた?」
「少年から時雨が手を貸していることは聞いた、故に私からは時雨を使い、指示に従うように言い伝えてある」
「グッジョブ。悪くない解答だな」
そうなるとここからの俺の立ち位置は大して変えないですむだろう。しかし問題はプレシアの存在だ。彼女はすでに時空管理局の法を犯してしまっている。ならばこの事件が終われば彼女は犯罪者として捕らえられる、つまりアリシアが息を吹き返したとしても母親がいなくなってしまうのだ。それでは余りにもフェイトたちが救われない。
「ここから先はただの提案だ、だけど俺は実行するつもりでいる」
だから一計を案じる。彼女たちが家族として笑い合える未来のために。例え許されないとしてもそれなりの処置がとられるように。
俺の提案を聞いたとき、コトミネは楽しそうに笑みを浮かべ、プレシアは心底驚いたような顔をしていた。
さぁ物語は終盤だ。舞台上に上がる役者はすでに整っている。
悲劇を喜劇とするために。
家族として笑い合える日々を作り上げるために。
さぁ、踊ってもらうぞ
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