調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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第14話

 

 

狂戦士との戦いで気絶した俺は目を覚ますと全く見覚えの無い空間に来ていた。時間帯は夜、深い森の中だと思われる場所にある湖、俺はその側の原っぱの上で横になっていた。

 

 

まぁた不思議体験かよ。呆れながらも体が痛まない、つまり怪我がないことに気がつく。さっきまでボコボコにされてボロボロだったのに無いのはおかしい。ここから立てられる予測は二つ、治療ずみなのか若しくはここに俺は意識だけでいるのか。あ、大穴で死んだってのもありかもな。

 

 

「残念ながら、貴公はまだ生きてらっしゃる」

 

 

思考に耽っていると横から声をかけられた。反射的に立ち上がり戦闘体制を取りながら声をかけた人物を見る。木の影に隠れていたのは根暗そうな顔をした長身の男性。手には兜が持たれていて見覚えのある鎧にを着込んでいる。

 

 

「・・・・・・なるほど、ここは座か」

「そう、ここは英霊がたどり着く英霊の座。生前に強く思い描いた光景を写し出した一種の固有結界とも言える空間」

 

 

男性が影から出てきて月明かりにさらされる。そこにいたのはーーーーーーーー

 

 

「突然の無礼、お許しいただきたい」

「初めまして、そしてさっきぶりだな。サーランスロット殿」

 

 

さっきまで殺しあいをしていた狂戦士、サーランスロットが正気を取り戻して俺に向かい頭を下げていた。

 

 

「こんなところに呼び出して何のようだ?さっきの続きでもやるつもりか?」

「・・・そのつもりはありません。狂化していた・・・いえこれは言い訳ですね、兎も角私には貴公に敵意はありません」

「ん、信じよう」

 

 

戦闘体制を解きランスロットに近づく。そもそも警戒していたのはランスロットが狂化しているか分からなかったからで正気であるなら彼はまともな人格者であると思っているからである。

 

 

俺の行動を見て僅かに微笑み、ランスロットは兜と腰につけていた剣を側にあった木の根本に置き地面に座った。それに習い、俺も少し間を空けてランスロットの隣に座る。そこから先、会話が無くなり沈黙だけが漂った。仕方なく目の前の光景を眺める。夜の暗がりの中に月明かりに照らされた湖というのは中々に綺麗であったが風もなく、動物がいる気配すら感じられない。それを踏まえると目の前の光景が写真のように思えてしまった。しばらく沈黙が続いた後、ランスロットが口を開いた。

 

 

「まずは私の非礼を詫びたい。狂化していたからといって貴公に剣を向けたことは事実だ。私は騎士として恥ずべきことをしてしまった」

「これで死んだなら罵詈雑言でも言ってたかもしれないがまだ生きている。加えて至高と称されたサーランスロットを倒すことが出来たんだ、俺としては恨みもしてないし素直に謝罪を受け止めよう」

「サーランスロット・・・ですか」

 

 

サーと称されることが気に触ったのかランスロットは表情を暗くした。

 

 

「私はサーと呼ばれる資格はない」

「それはどうして?」

「貴公ならば分かるでしょう?」

 

 

理由は分かるが少し呆けてみた。ランスロット。湖の乙女に育てられ ランスロット(湖の騎士) の名前を付けられた。各国を渡り歩いて修行をしている最中にブリテンの王アーサーと出会いその器に惚れ、円卓の騎士に参入する。そしてその頭角を現して王たるアーサーに比毛をとらぬ程の信頼を国民と騎士から得ていた・・・・・・そして、ランスロットが憂いているのはここからなのだろう。

 

 

アーサー王の妻であるグィネヴィアとの不貞、つまりは浮気。それがアーサー王にバレてグィネヴィアが処刑されそうになったところを処刑場に乗り込んで救出、その際に同じ円卓の騎士の仲間であるガウェインの兄弟を切り伏せている。そしてそこからアーサー王を支持する騎士とランスロットを支持する騎士に分かれて事実上の円卓の騎士の崩壊。さらに不幸が積み重なりアーサー王の子供であるモードレッドの反乱もありブリテンは崩壊した。要するにブリテンの崩壊の原因の一因である自分は騎士を名乗る資格はないと言いたいのだろう。

 

 

「私がグィネヴィアを愛した結果、円卓の騎士は分裂し私は王が守ろうとした国を壊してしまった。そんな私が!!私が・・・サーの称号を持つなど・・・・・・!!」

「・・・ランスロット。貴方は、グィネヴィアのことを愛した。その事に後悔はあるか?」

「貴公は・・・何を?」

「良いから答えろ。グィネヴィアを愛して後悔はしたのか?」

「・・・・・・王が女性でありながもグィネヴィアを妃に向かい入れたことで彼女は王の秘密を守ろうとして精神を磨り減らしていた。今思えばそれにつき入るような形で彼女と関係を持ってしまった・・・・・・しかし私はグィネヴィアのことを心から愛していた、例え王を裏切っても彼女を救いたいと願うほどに。その事に私は後悔はしていない」

「・・・うん、それを聞いて安心したよ」

 

 

ランスロットからの返事を聞いて立ち上がり、タバコを吸おうとしたのだが見つからない。残念に思いながらも英霊の座だからということで無理矢理納得する。

 

 

「ランスロット、貴方の行いは間違いなどではない」

「っ!!しかし私は!!」

「貴方はグィネヴィアを愛していたのだろ?王に背いてまで助け出したいと思うほどに。一度大切な者を亡くした俺からすればどんな結果であったとしてもその者を守れたことは羨ましいことだ。だから、俺は・・・私は貴方のことを尊敬し、敬愛し、羨ましく思う。例え一国の国民すべてが貴方に向かって石を投げたとしても、私は貴方は間違っていないと唱えよう。愛した者を守りたいと思うのは当たり前のことだ。ブリテンが崩壊したことは間の悪かったことだ。モードレッドは以前から反乱を計画していて、それが偶々貴方の救出に重なっただけのことだ。つまりは誰が悪いという訳でない。」

 

 

一人称を正しながら自分の考えを口にする。ランスロットは許されたいのだ。自分のしたことが間違いだったのではないかと悩み続け、その果てに狂戦士に身を落としてしまうほどに。しかし彼は望んでいた許しを得ることなく生涯を終えてこの英雄のにたどり着いてしまった。ならば俺が許しを与えよう。死後ではあるが、望んでいた相手では無いが、ランスロットのことは書物でしか知らない部外者ではあるが、俺はランスロットのことを許そうと思う。

 

 

「サーランスロット、貴方のしたことは間違いなどでは無い」

 

 

再び間違いではないと口にする。端から見れば何も知らない奴が何を言っていると言われかねないが、それでもランスロットには俺の言葉が届いたらしく

 

 

「ぐっ・・・ヒグッ・・・ヒグッ・・・!!」

 

 

体を子供のように丸めて、声を噛み殺して泣いていた。

 

 

「き・・・貴公は・・・!!私が・・・間違いでは無かったと・・・!!そうおっしゃってくれるのか・・・!?」

「あぁ、正しくは無かったのだろう。しかし、それでも間違いでは無かったと私は思っている」

「あ・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

ランスロットは泣き崩れた。騎士という体裁など気にするものはここにはおらず、ただランスロットの咆哮のような嗚咽が静かな森の中をこだまする。それからどのくらい時間がたったのだろうか、気がつけば変わらないはずの景色に変化が現れていた。空にあったはずの月は姿を消して日の光が森に差し込む。そして湖から一人の女性が姿を表した。浮世離れした容姿と半透明な姿から人間ではないことが伺える、恐らくは彼女がランスロットの育ての親である湖の乙女なのだろう。彼女は泣いているランスロットと側に立つ俺を見ると儚げに微笑んで、

 

 

『ありがとうございます』

 

 

そう声には出さずに口だけを動かし頭を下げて消えた。

 

 

「・・・見苦しい物を見せてしまいましたね」

「いや良いさ、騎士の男泣きなんて見られるものじゃないから逆に得した気分になったよ」

「ははっ、変わった御方だ貴方は」

 

 

そう言ってランスロットは笑った。出会った時の暗い表情から代わり無いように見えるがそれでも身にまとっている雰囲気は柔らかいものに変わっている。

 

 

「貴方は・・・・・・守りたい者を守れなかったとおっしゃいましたね。もう一度があるとするなら貴公は命を懸けてその者を守りたいと願いますか?」

「あぁ守りたいね。でももう一度なんて絶対に有り得ない、だから俺は今の守りたい者を守るよ・・・二度とあんな思いをしないようにな」

「そうですか・・・・・・」

 

 

するとランスロットは何を思ったのか剣を拾い上げてこちらに差し出してきた。

 

 

「おいおい何のつもりだ?」

「貴方には恩があります、例え言葉だけだとしても貴方は私を救ってくれました。出来ることならば私も貴方に着いて行きたいのですがそれは叶わぬ身、ですので私の剣をお使いください。きっと助けになりましょう」

 

 

ランスロットが差し出した剣、 無毀なる湖光(アロンダイト) を手に取る。剣自体は然程重さは無いが籠められた思いの強さが重い。騎士の命である剣を渡すということはそれほどの思いが籠められているのだから当然と言えば当然なのだろう。

 

 

「・・・・・・貴公の剣、拝借する。いつの日か、帰せる時が来たならお返ししよう」

「・・・それは、叶わぬでしょうな」

 

 

何を言ってるのかと思ってランスロットを見れば体から光の粒が溢れて輪郭がボヤけていた。まるで消える寸前のサーヴァントのように。

 

 

「どうやら、私はこの座から排されるようだ」

「・・・嬉しいか、それとも悲しいか?」

「どうなのでしょうか・・・確かに悲しくもありますが、グィネヴィアの元に逝けるかのしれないと思うと嬉しいと思っている自分がいます」

「そうか・・・それならグィネヴィアに会えたら一度本音をぶちまけて喧嘩でもしてくるもいい。そうしたらスッキリすると思うぞ」

「ははっ・・・・・・確かに、それも良さそうですね」

 

 

そう言ってランスロットは笑うと膝をつき、頭を下げて胸に手を当てた。それはまるでお伽噺に出てくる騎士の誓いのシーンを見ているようだった。

 

 

「これは私が湖の乙女から送られた言葉です、少し違いますが今度は私が貴方にこの言葉を送ります・・・・・・貴方と、貴方の守るべき存在に、たくさんの幸福が訪れますように」

 

 

祝詞を受け取ると同時に、ランスロットの体は完全に光の粒となって消え去った。それと同時に俺も意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に見たのは、ランスロットとグィネヴィアが笑いあっている光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再び目を覚ますと映るのは毎日見ている天井、体のあちこちが痛むことから現実世界に帰ってきたようだ。

 

 

「・・・・・・あれは死に間際に見た夢か・・・いっつ!!」

 

 

体を少し動かすだけで激痛が走る。すると右手に何か堅い物を持っている感触があることに気づいた。視線だけを動かして見れば・・・・・・そこにはランスロットから受け取った 無毀なる湖光(アロンダイト) があった。

 

 

「夢じゃなかったのか・・・ランスロット、貴方の魂は確かに受け取ったよ」

 

 

柄を強く握りそこにある感触を確かめながらやって来た微睡みに逆らうことなく眠りに着くことにする。どうやら体が回復するまで時間がかかりそうだ。

 

 

 

 






fate原作とは関係の無いところでのランスロット救済シーンでした。ランスロットさんは救われるべきだとzeroを見たときから思い、そのために狂戦士として演出、そして時雨に救済してもらいました(まぁ作者の表現力の無さのせいで駄文と化していますがね!!)。


zeroではランスロットさんはセイバーに罰を与えて欲しかったと言っていましたが同時に許しを与えて欲しかったんじゃ無いかなと作者は考えます。誰だって間違ってないと慰められたいでしょ?それと同じです。


そしてアロンダイトは時雨の手に渡りました。現代に現存する数少ない宝具を一個人が所有する・・・正直ヤバイです。ちなみに 己が栄光のためでなく(フォー・サムワンズ・グロウリー) と 騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー) もアロンダイトと一緒に時雨の元に行っています。


人間で宝具を持つなんてどこぞのダメットさんのようじゃないか・・・・・・おや?誰が来たようだ。


評価、感想をお待ちしています。



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