「ーーーーーーーーーリニス、シグナム、ザフィーラ、シャマル、ヴィータ、御門、シュテル、レヴィ、ディアーチェ、ユーリ以外は邪魔だから立ち去れ。アーチャー、セイバーは後始末を手伝え。バゼット、ビースト、はやてとスノウを運んでくれ」
絶叫した後に、時雨は淡々とこれからすることに必要な人員だけを残るように指示して、それ以外は邪魔だから消えろと告げる。そうすれば反対するのは管理局勢と魔術師勢、主になのはとサーヴァントのマスターたちが反対し、自分達も力になると言うが、
「二度は言わん」
時雨の一睨みで黙らされる。ちなみに時雨の挙げた者以外の闇の書勢はその言葉に従って文句一つ言うこと無く立ち去っている。
そうしてようやく邪魔物たちが居なくなったが、時雨が挙げた者以外にもこの場に残っている者がいた。
時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンと、使い魔のアルフだ。
「邪魔だと、言ったはずだが?」
「あんな形だとしても、あれは闇の書なのだろう?なら僕が戦う理由になる。僕の父はあれに殺された、言ってしまえば敵討ちだよ」
「あんなののせいでほ‥‥‥惚れた男が殺されたんだ!!だったら殺ってやる!!」
クロノは自分の父の敵がいることを、アルフはあれのせいで時雨が死んだことを理由にこの場に残った。それを聞いた時雨は、愉しそうに口元を歪ませた。
「復讐に恋慕が理由か!!実に結構!!大いに結構!!下らん大義名分を掲げて助太刀を申し出る勇者よりも馬鹿げた理由に命を賭ける愚者の方が俺の好みだ!!死んでも知らんぞ」
「心配は無用だ、自分の力量は弁えている。死なない程度に立ち回らせて貰うさ」
「死なないさ!!あんなのに殺されるなんて馬鹿らしいからね!!!」
その返事を聞いて満足げにしていた時雨だったが、名前を呼ばれていないギルが不満そうな顔で詰め寄ってきた。
「おい、
「夏のことを覚えているか?」
「ーーーーーーーーーそう言うことか。ならば
「あぁ理解してくれたなら話は早い。いいか、まずは全員であれをいたぶる。その後にあれを宇宙に飛ばしてギルが掻き消す。以上だ」
大雑把過ぎるプランを言った時雨は返事を聞かずにヴィマーナから空中に一歩踏み出す。普通なら重力に従って落ちるのだが、時雨は何もない空中を足場にしてそこに立った。
そして覇を詠う。
あの汚物を処分する。
それだけの為に、時雨は前世と今世で得た渇望を詠い上げる。
「
我が生は創られて産まれてきた
イヴの卵とアダムの種により、人の手によって産まれいでた
そして人の世の底辺を揺りかごにして育まれる
そうして我はイヴに拾われ、その愛を一身に受け育つ
そうして我はアダムに出合い、生き方を示された
あの一時を我は忘れることはない
そして大義名分に酔いしれる愚者の計らいにより、我はイヴを殺した
砕ける骨の音を、失われる温もりを、死に際の母の顔を
あの一時を我は忘れることはない
我が歩んだ道は修羅道也
大義名分に酔いしれる愚者の因子を、欠片も残さず滅ぼすことを決意する
あの時の激情を我は忘れることはない
修羅道の末路にて、我は父を殺した
死ぬと言うのに、人への信仰を捨てなかった父の生き様
それは修羅道に堕ちた我には眩むほどに眩しい輝きだった
修羅道に生きた滾り
修羅道に生きた激昂
修羅道に生きた激情
我はその想いを忘れること無く
我は我が愛を汚すものを破壊をもって迎えよう
」
「『
時雨の姿がダブる。
重なったのは黄金の獣。
愛するが故に壊す破壊の君。
「
修羅道の果てに、私は未知を見た
肉親を亡くした幼子、私はその娘の父となった
そのすべてが未知なる経験
肉親を亡くし、嘆いても責められない彼女を
私は守りたいと思った
彼女と過ごした日々
彼女と過ごした一時
彼女と過ごした日常
そのどれもが未知で
その未知は修羅道に生きた私にとってかけがえの無いものであった
そして主から捨てられた彼女との邂逅
そして闇に囚われた騎士たちとの邂逅
そして原初に人の世を治めた王との邂逅
そして輪廻を巡った少年との邂逅
そして闇より産まれた少女たちとの邂逅
そのどれもが私にとって未知であり
そのどれもが私にとってかけがえの無いものであった
この始めて出会った未知を
この始めて味わった未知を
私は那由多の回帰を繰り返そうとも
守りたいと始めて願った
」
「『ーーーーーーーーー
時雨の姿がダブる。
重なったのは水銀の蛇。
愛した女神の為にすべてを演出装置とした影。
「
だからこそ言わせてほしい
時よ止まれ、君たちは美しい
許されないこととは分かっている
それでも願わずにはいられない
嗚呼、この今が続いていればいいのに
この世は所詮諸行無常
流れ行く水のように変わらぬ物などありはしない
だからこそ、願わずにはいられない
愚かでしかない俺のことを包み込んでくれた君たち
腐り行く沼の水のようにこの今が続いていればいいのに
しかし、それは地獄でしかない
この世は移ろい行くからこそ成り立つ
それを拒めば結末は腐敗だけ
それは地獄としか言い表せられない
例えそうだとしても、願わずにはいられない
俺の出会った未知が既知になって磨耗しようとも
この刹那を永久に味わいたいと思う
この今に誓って言わせてほしい
時よ止まれ、君たちはこの世界の誰よりも美しいから
」
「『
時雨の姿がダブる。
重なったのは刹那の少年。
何のへんてつもない日常を愛し、それを永遠に味わいたいと願った無間。
時雨が詠ったのは黄昏の女神の守護者である三柱の渇望に近い。
無論、ただ真似ただけではない。これらはすべて下地に過ぎない。破壊、再生、停止を司る覇道神を下地に使うなど恐れ多い事だが、時雨からすれば覇道神たる彼等ですら、汚物を滅相するための道具にしかすぎない。
「
修羅道の破壊
未知への回帰
刹那の永遠
そのどれもが人類からすれば罪深い
叶うことなど無いと分かりきった餓鬼の我が儘
だけど、それでも願わずにはいられない
叶うことなど無いと分かっているから願う
敵には破壊を
我には回帰を
彼等には永遠を
世界よ、どうか我が行う蛮行を諦めたまえ
覇道神が覇道をもって
我が覇道を成し得る為の礎とするーーーーーーーーー!!
」
「
別次元の覇道神たちは、新たな覇道神の誕生の産声を聞いた。
黄金の獣は全力を出すことが出来る相手が現れたかもしれないと愉快そうに口角を持ち上げ、
水銀の蛇は永劫破壊の法を用いずにその領域にまで到達したことを祝福し、
刹那の少年は愛する刹那を壊すかもしれない存在の出現に警戒し、
黄昏の女神の守護者たちが三者三用の反応を見せる中で、時雨は時雨は己が覇道を高々と詠い上げる。
「
その時、世界が生まれ変わった。時雨が流出に至った影響で本来ならばその世界にはないはずのシステムが作られる。
そのシステムは覇道神たちからは“座”とだけ呼ばれていた。流出に至った存在を神として、その渇望を世界の法則として適応させ、魂の循環を司らせる特異点。
生まれた“座”は空白、そこにあるべき覇道神はこの世界には存在しない。故に“座”は時雨を覇道神として“座”においた。
座禅を組み、蓮の上に座る時雨の姿は菩薩を思わせる物に変わり、背後には13の神仏が座した曼陀羅が浮かんでいる。
どこまでも他人を省みることなく突き詰められたその欲の姿、幼児の我儘のような渇望。
その神格に名を着けるとしたら、これしかないだろう。
我欲界餓鬼道 第七天時雨
他者の顔色を伺うことなく、どこまでも自分の欲望のみを満たすことを求め続ける邪神。
そして世界は時雨の渇望に従い、再び動き出そうとしてーーーーーーーーー
『邪魔だ消え失せろ』
他の誰でもない、“座”に座っていた時雨の手によって“座”は破壊された。
『そんなものに興味などない。“座”なんぞ邪魔でしかない。だから無くなれ。俺を縛り、あいつらから離そうとするのであるなら、それは俺が滅ぼすべき存在だ。あぁ、この空間だけは都合が良いから使ってやろう』
“座”が時雨の渇望によって崩れ落ちる。生まれたばかりで己が指名を拒絶された“座”は、感情があるのなら人で言うところの驚愕を抱いたまま消滅した。
残されたのは“座”があったという証拠になる虚ろな空間だけ。宇宙創造の爆発が起きようとも揺るぐことのない世界。
その世界の中で、時雨はかけがえの無い家族たちと共に滅相すべき汚物の処刑を開始する。
「行くぞ、一緒にシバき上げるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「「「「「「「「「「「
応ッ!!!!!!!!!!!!
」」」」」」」」」」」」」
まず開戦の号砲を挙げたのはアルフ。
「チェーンバインドッ!!!!」
巨体を持つ汚物用に調整された巨大な鎖が汚物を締め上げる。
「行くぞ御門、遅れるなよ?」
「分かってますよ」
「
「
その後に続くのはギルと御門。ギルは宝物庫に納めていた宝具の原典たち、数にして105687本を同時に纏めて射出し、御門は下から自身の牙であるデュランダルを生やす。
上からは宝具の原典、下からはデュランダルの牙、その攻撃を前に汚物は貫かれ、砕かれ、抉られ、斬られ、殴られ、吸われーーーーーーーーー傷を付けられたそばからそれ以上の速度で再生する。
『■■■■ーーーーーーーーーッ!!!!■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!』
激痛に抗うように身を悶えさせたことでチェーンバインドによる拘束が砕かれて汚物は自由の見になる。
そして汚物はギルと御門に対抗する為に身体中から宝具の原典を生やした。
魔術師が呼び出したギルガメッシュはギルの手によって致命傷を与えられたが、消滅よりも早く残骸に吸収された。ギルガメッシュを構築していた膨大な魔力、そしてギルガメッシュの持っていた宝物庫と一緒に。
故にこの汚物はギルとギルガメッシュが持っているはずの宝物庫を開き、そこに納められている宝具の原典を使うことが出来る。
汚物の身体から放たれた宝具の原典はギルと御門の宝具の原典とデュランダルの牙を砕かんと飛翔しーーーーーーーーー10mも飛ばない内に、砕け散った。
「我が愛を汚す敵意には破壊をもって迎えよう」
これは時雨の流出の権現の一つ。害悪をもって時雨が認めた存在に危害を加えようとするのならすべてを壊す。時雨の狂気染みた渇望が至った極地。
攻撃は無意味と悟ったのか、汚物は六本ある腕の内の二本に神々の盾を纏わせてギルの宝具と御門のデュランダルを防ぐ。危害を加えようとすると壊されるが身を守るための行いならば阻害はされない。それだけしか選択肢がなかったとはいえどそれが汚物にとって最善の選択だった。
神々の盾の守護は堅牢で、ギルの宝具と御門のデュランダルはその守りによって防がれる。降り注ぎ、生え迫る攻撃はすべて防がれてしまう。
故に、ここで動くのは破壊を追求した鉄槌とすべてを切り裂く爪牙こそが相応しい。
「行くぞヴィータ!!!」
「おう!!」
宝具とデュランダルの牙の暴風の中をザフィーラとヴィータが駆け抜ける。
先行したのはザフィーラ。その手に付けられた禍々しい爪を握り締め、神々の盾を殴り抜く。
「虚刀流、最終奥義ーーーーーーーーー」
それはこの世界にはなかったはずの流派。徳川ではなく尾張が幕府を気づき挙げた世界にあった、手刀足刀を用いた対剣士用の剣術。
奥義とされるこれらの技を最速の順序で放つ、相手を八つ裂きにするための技。
「邪魔する奴は、問答無用で粉砕するーーーーーーーーー!!」
ヴィータが機械仕掛けの籠手を握り拳で固くしながら肉薄する。そこに籠められた感情は怒りだけ。邪魔するのなら一撃にて粉砕するという激情の一撃。
「ーーーーーーーーー七花八裂・改ッ!!!!!!!!!!!!」
「く!だ!け!ろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!」
爪牙の連撃が、鉄槌の一撃が、汚物を守る盾を醜い腕ごと切り裂き砕く。
「■■■■■■ーーーーーーーーー■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!!!!!!」
腕を切り裂き、砕かれたことに対する怒りなのか汚物は鼓膜を破いてしまいたくなるような汚ない叫びをあげる。
そして汚物は爆ぜた。
己の中に内包された宝具の原典、それらをすべてを爆発させた。宝具を爆弾のように使う手段はアーチャーがよくとる手段である。本来なら一つしかない宝具を投影魔術によって作り直すことが出来るアーチャーだからこそ出来る手段。この場合、爆発の威力は宝具に内包されている魔力に比例する。
汚物が爆発させた宝具はどれもが一流の物、汚物の意思で爆発させたとはいえど、それによって起きる爆風には汚物の意思など欠片も込められていない。故に、時雨の流出の権現の破壊は機能しない。近くにいたザフィーラとヴィータは爆風に巻き込まれるしかないーーーーーーーーー
「我が刹那は永劫不変」
ーーーーーーーーーはずだった。ザフィーラとヴィータに迫る爆風は二人に近づくに連れて速度を落としていき、5mもしない距離で完全に停止した。
これも時雨の流出の権現の一つ。意思が無かろうが無意識だろうが、時雨の守りたい刹那を犯す存在わ停止させる。不変など有り得ないと知りながらも不変であってほしいという矛盾した願いの形。
ザフィーラとヴィータは役目を果たし、停止した爆風から悠々と距離を取る。そして汚物は自爆によって出来た傷を高速で修復させていた。
「ーーーーーーーーー時雨、この場を借りて改めて言わせてもらいます」
次に動いたのはシュテルだった。自分が行くと宣言して時雨の方を向き、恭しく一礼をする。自身のデバイスであるルシフェリオンを剣のように構え、時計回りに回す。始めは微々たる物だったがその回転が終わる頃になるとシュテルの持つスキル【炎熱変換】によってルシフェリオン自体が燃えてしまう程の魔力が込められていた。
「私、八神シュテルは、時雨のことがーーーーーーーーー」
そして選んだ行動は突貫。セイバークラスの持つ【魔力放出】のスキルのように全身から魔力を放出させての加速。シュテルの接近に気がつき、汚物が再生途中の身体から触手を伸ばしてシュテルを捕らえようとする。しかしその抵抗も時雨の流出による破壊の前では無力、伸ばされた触手すべてがシュテルに迫る道半ばでボロボロと崩れ落ちていく。
「ーーーーーーーーー大ッッッッッッ好きです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ルシフェリオンを剣のように振り、残っていた四本の腕の内の一つを切り落とし、時雨への愛を叫ぶ。するとルシフェリオンに込められていた魔力すべてが汚物の腕と切り傷に纏わらせーーーーーーーーー巨大な火柱が上がる程の大爆発を起こした。
それはまるでシュテルが時雨に抱いていた愛情が現実の炎となった様だった。
火柱が納まった場所には身体のほとんどを炭化させた汚物が沈黙している。が、僅かに動いたかと思えば炭化した部位が剥がれ落ち、そこから新しい肉が現れていた。
「次は僕だね!!」
続いて名乗りを挙げたのはレヴィ。斧型のデバイスのバルニフィカスを双剣の形に変形、さらにそれぞれを大剣のサイズにまで伸ばして閃光となって汚物の肉薄する。
当然汚物も無抵抗とは行かず、何とかレヴィを迎撃しようと動くのだがーーーーーーーーーレヴィと汚物では、速さの次元が違う。汚物が普通車の速度だとすればレヴィのそれは光も同然。普通車では、いくらかけようが光に追い付く事など出来ない。
「我流剣術・流派雷光流秘奥ーーーーーーーーー」
閃光となっていたレヴィの動きが止まる。これ幸いとレヴィを握り潰さんと汚物は腕を伸ばす。しかし、汚物には考えられなかったのか。動いていたのに止まったということは、もう動く必要が無いということなのに。
「ーーーーーーーーー雷速滅多斬り!!!!!!!!!!!!」
レヴィに伸ばされた腕が、崩れ落ちる。時雨の流出による破壊ではなく、何かに斬られたような切り傷を残して。
「天ッッッッ雷!!!!!!!!!!!!」
追い討ちをかけるように上からやって堕ちてきたのは雷。身体を砕き、シュテル程ではないとはいえど高温で焼かれたことで再び汚物の動きは止まる。
「
死後に娯楽は無い
故にこの一時、苦行苦痛であろうとも
それらすべてを喜んで受け入れよ
死の先には快楽は無い
ただそこにあるのは虚無が故に
」
動きが止まっている汚物を見下すような立ち位置で、ディアーチェが紫天の書を掲げて詠唱をする。
それはこれから消え行く者に送る祝福のようであり、消えることを望まれた者にかける呪いの様でもあった。
「
」
汚物の下半身に当たる部分に小さな黒い球が現れーーーーーーーーー一気に膨張した。その黒い球の正体は魔導によって再現された擬似的なブラックホール。光すらも引き寄せ、圧縮し、飲み込むブラックホールは汚物の胸から下を欠片も残さずに飲み込んだ。
下半身の支えを無くした汚物はその場に地響きを立てながら倒れる。その汚物を見下している影が二つあった。
「醜いなぁ、見るに耐えん。そう思わないか?ユーリ」
「まったくですね」
シグナムとユーリだ。シグナムは処分される家畜を見るような目で、ユーリは天使のような微笑でありながら眼前で吐き出された吐瀉物でも見るような目で汚物を見下していた。
「さて、あれほど大きいとなると小手先の技では通じないな」
「ならどうしますか、シグナム?まぁ私はどうするか決めてますけど」
「私も決めているさ。あれだな」
「「超強力で大雑把な一撃で焼き払う」」
シグナムの背後から炎に包まれた巨大な剣が現れ、ユーリの豪腕には炎で出来た巨大な剣が握られる。
「
「エンシェント・マトリックス」
二本の炎の大剣が放たれる。その巨体に似合わない速度で放たれた炎の大剣は下でもがいている汚物の残されたのは二本の腕を切り落とした。
六本あった腕をすべてを失い、下半身も無くした汚物は達磨のよう。それを遠くから狙う者がいた。
「それは集束魔法ですか?」
「そうだ、威力のある魔法が欲しくてなのはのを真似てみた。まぁ砲撃魔法と組み合わせた杜撰な物だがな」
「いやいや、十分ですよ。私なんて精々ディバインバスター級の威力の魔力スフィアを1080発同時に発射することしか出来ないですから」
「いや、君のも大概だと思うんだが………」
クロノとリニスだ。汚物から遠く離れた場所でクロノは砲撃魔法を併用したクロノオリジナルの集束魔法を、リニスはディバイン級の威力を持った魔力スフィアを1080発展開させて待機していた。
「それじゃあせぇので行きますよ?」
「あぁ、わかった」
「「せぇの!!!!!!!!!!!!」」
クロノの集束魔法とリニスの魔力スフィアが同時に放たれる。その合わせ技は質と量を兼ね備えた攻撃になった。リニスの魔力スフィア1080発が汚物を削り、遅れてきたクロノの集束魔法が汚物を押し潰す。
一方的としか言えない攻撃を受け続けた汚物の身体は八割以上が消滅され、始めの時と比べると随分と小さくなってしまっていた。
『■■■■■■■■■ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!』
汚物が吠え、傷口から新たな肉を生やして身体を再生させようともがく。
「させないわよ?」
それを邪魔したのはシャマル。通常なら視認しづらい程に極細の糸を束ねて太い縄にして、汚物の身体を一分の隙もなく縛り上げる。
例え無限の再生能力があろうとも、それを阻害すれば治ることはない。シャマルの拘束は再生を阻害するための楔だった。
しかしこの拘束がいつまで持つか分からない。どんなに押さえ付けようとも縄の耐久値が無くなってしまえばそれまで、再び汚物の再生が始まる。
シャマルは気合いを入れ、汚物の拘束を出来る限り長引かせようとしたときーーーーーーーーー気付いた。汚物の再生の疎開によって軋むはずの縄が、作り出した時と同じ状態を保ち続けてることを。
そして他の者たちも気がつく。今まで放った攻撃はすべてが全身全霊を込めた物だった。それなのに、消耗した気配がまったく見られないことを。
「我が未知を那由多の果てまで繰り返そう」
これも、時雨の流出による恩恵だった。
時雨の流出の権現の一つ。それは時雨が認めた存在を最善の状態にはと回帰させる。出会った未知を、何度も味わいたいが為に繰り返す。そんな時雨の一途な狂気の願い。
「アハッ!!アハッ!!アァーーーーーーーーーハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!!よぉ、気分はどうだ?塵?」
シャマルの拘束によって動けなくなっている汚物の前に狂った笑いを浮かべた時雨が立つ。
「俺たちが必死こいて集めた魔力でお前は出来ているんだろぉ?俺たちははやてを救おうとそれを集めたんだ。でも、それはもう要らない。あぁ、確かそれのことを無用の長物と言うのだったなぁ?無用になったそれは俺たちからしたら塵だ、滓だ、糞だぁ!!そうだぁ一つ聞きたかったんだがなぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー俺たちが集めた糞は美味かったかぁ?アハッ!!アァーーーーーーーーーハッハッハッハ!!!!!!!!!!!!アハハッ!!!アハハッ!!!アァーーーーーーーーーハッハハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!!!!!!!」
時雨の狂った笑いは止まらない。今の時雨にははやてを助ける為に集めた魔力はもう必要ない。利用価値の無い物など時雨からすれば塵芥に等しい。それを使って必死になって生き長らえようとしている汚物が時雨は可笑しくて仕方がなかった。
「ハッハッハッハッハァ…………気持ち悪いぞ、消えてなくなれーーーーーーーーー
時雨の背後に、“座”に至った時と同じように曼荼羅が現れる。座する菩薩の数は十三、そしてそれの周りに星のような点が散りばめられている。
「
」
時雨の背後から後光が輝く。しかしそれは聖なる輝き等では無い。その後光がもたらすのは時雨の渇望の輝き。此の世全ての人間の悪性を煮詰めたとしてもその後光の輝きの前では霞むしかない。
「
」
そう、後光の正体は時雨自身の渇望。たった一人の渇望が、此の世全ての人間の悪性をも超越する。
その御姿は“座”に辿り着いた神ではあるがそれは人々の理想とする聖なる神ではない。人々の害となり、狂気的な信念の元に、最悪となって
「天地玄妙神辺変通力離ーーーーーーーーー」
そのあり方は原初にして極限。故に何事にも捕らえることも、縛ることも、変えることも出来ないし許されない。何故ならそれがそれの生き方であるし、渇望であるしーーーーーーーーー一途な願いでもあるから。
「虚構曼荼羅ーーーーーーーーー」
だからこそ、
「ーーーーーーーーー無限大数」
そうして、汚物にこの空間を満たしているすべての権現がぶつけられた。
破壊が汚物を魂ごと破壊し、回帰が破壊された魂を回帰し、極限まで緩められた停止の中でその破壊と回帰が行われた。
停止とは言うまでもなく止まっている状態を指す。それを緩めれば、録画された映像をスローで再生しているようになる。つまり極限まで緩められた停止とは引き伸ばされた時間であり、ゴールが見えていながらたどり着くことが出来ないマラソンのような物。
終わることの無い苦痛を戻され繰り返すのはどう考えたところで地獄と同意義である。
その無間に終わることの無い破壊と回帰を味あわされた汚物にしがみついた魔術師はーーーーーーーーー自分の死を望みながら、砕け散った。
時雨が地獄を終わらせると、そこに残っていたのは巨大な紫色の宝石。それは汚物の核。しがみついていた魔術師は無間の地獄の果てに砕け散ったが、汚物には砕けるような精神は無い。
ただ喰らい、ただ貪り、ただ飲み干す。
己が消えないように、死なないようにと生き延びる手段を行うだけだ。
今は動いてはいないがその内にまた再生を始め、数分もしないうちに元に戻るだろう。
そして“座”だった世界が消え去り、元の世界に戻る。そこには相変わらず夜だというのに穢れた太陽が輝いている。
「シャマル、これ飛ばしてくれ」
「はい、どこまでですか?」
「そうだな…………宇宙にまで頼む」
「了解!!」
時雨の指示に従い、シャマルは汚物の核を宇宙まで転移させる。
「宇宙にまで飛ばしたということはアースラに備えられているアルカンシェルでも使うつもりか?」
「アルカンシェル……波動砲みたいなやつだな。いや、要らない。適任者がもう行ってるからな」
クロノが汚物の核を飛ばしたことを疑問に聞いてくるが、時雨は気にする必要はないと一蹴する。クロノが周りを見ていたなら気がついたかもしれないが、この場から一人居なくなっている人物がいる。
「あいつには色々と我慢させたからな。そっちはあいつに任せて、俺のやることをやるか」
そう言って時雨は、変わらず空に浮かぶ穢れた太陽を睨んだ。
「闇の書の暴走体、転移されながら高速で生体パーツを修復しています!!」
衛星軌道上、宇宙空間にあるアースラは混乱を極めていた。
闇の書の暴走体、星一つ飲み込んでしまうそれが地球から転移され、予想が当たっているのならアースラの正面に現れることになる。
「アルカンシェルの準備は!?」
「……ダメです!!チャージの時間が足りません!!」
虎の子のアルカンシェルーーーーーーーーー着弾地点から半径数十㎞を対消滅させる砲撃、元々リンディはこれで闇の書の暴走体を消滅させるつもりだった。しかし、何の打ち合わせも前触れもなく突然暴走体が転移されるなど誰が予想できようか。
「諦めないで!!チャージを続けなさい!!」
「暴走体、来ます!!」
そしてアースラから遠く離れた地点に暴走体が現れる。それはーーーーーーーーー惑星に等しい大きさにまで育っていた。魔術師という精神が無くなったからか、元は人型であったはずの暴走体は無限無差別に増殖を繰り返している。
予想を遥かに越える大きさにまで育っていた暴走体を前にして、混乱を極めていたはずのアースラは静寂に包まれる。
その心理に浮かぶのは絶望一色。虎の子のアルカンシェルは時間がかかり、あれ程の大きさに育った暴走体を消滅させるなら更なるチャージを必要とする。
打つ手なし。このアースラに乗る誰もがそう思った。
その時、モニターの一つが何かに反応する。オペレーターは絶望しながら癖なのか、無意識の内に反応したモニターに目を向ける。そしてそのモニターに映る映像を見て一気に意識を持っていかれた。
「艦長!!大変です!!」
「……何か?」
暴走体の映る映像から目を離さずにリンディは尋ねる。その目には諦めは浮かんでいない。
「この映像を!!」
オペレーターがモニターの一つを拡大して誰にでも見えるサイズにする。暴走体の映るモニターが小さくなったが仕方がない。
「これは…………」
「…………嘘?」
暴走体に絶望していた全員が、新しく現れた映像に目を奪われる。
そこに映っていたのはーーーーーーーーー黄金の船に乗った、一人の男の姿だった。上半身を裸にして、体に炎を思わせるような真紅の入れ墨を刻み込んだ男の後ろ姿。その視線は真っ直ぐに惑星規模に育った暴走体に向けられている。
今さらな確認だが、アースラがいるのは衛星軌道上ーーーーーーーーーつまり宇宙空間だ。防護服を来ているのならいざ知らず、人間が上半身裸でこの空間にいれば真空によって破裂してしまう。
しかし、彼は人間ではない。
彼は神々の存在する時代に始めて人としての王となって法を敷いた原初の王。
彼は今宵限り一切の慢心を捨て、収集した財宝の一切合財を出し惜しむことなく誓った英雄王。
英霊ギルガメッシュ。今ではギルと呼ばれている英霊が、ここにはいた。
「ーーーーーーーーーーよくもまぁここまで肥えたものよなぁ」
視界に納まり切らない程のサイズにまで成長した暴走体を見て、ギルは寧ろ感心したといった様子でそう呟く。
ここには聞くものは誰もいないし、ギルもその事は分かっている。ただの一人言だ。
「あれ程に肥えると見越して
ギルの脳裏に浮かぶのはマスターと認めた男の姿。死から英霊となって黄泉還り、“座”にまで到達した規格外。
実際には時雨はこうなることを見通していた訳ではない。ただ、あれを滅ぼすのはギルこそが一番相応しいと思ったからだ。
「ならばその信に答えてやるのも王の勤め…………そう思わんか?愚物」
ギルの宝物庫が開き、円柱の刀身を持った異形の剣ーーーーーーーーーー乖離剣が現れる。
「貴様には地の理では生温い、星の理にて裁いてやろう!!!!!!!!!!」
ギルはそれを手には取らず、乖離剣は無重力空間の中で浮かんでいる。
「原初を語るーーーーーーーーーー」
ギルが語る。
「元素は混ざり、固まりーーーーーーーーーー万象織りなす星を産む…………!!!!!!!!!!」
ギルの語りに応じるかの様に、乖離剣の刀身がそれぞれ別の方向に回転を始める。その回転はどんどん加速していき、刀身がその回転に耐えきれなくなり悲鳴をあげる。しかしギルはそれを見て回転を緩めるどころかさらに加速させる。
そうして作り出されたのーーーーーーーーーー惑星規模に育った暴走体をも越えるほどの、高密度の時空断裂の塊。
これこそが、乖離剣の本領。地球にいる状態ではアラヤや抑止力による制約を受け、弱体化する。しかしここは宇宙。乖離剣を阻害するものはどこにもおらず、この一時において乖離剣は真の実力を発揮する。
「ーーーーーーーーーーさぁ愚物よ、いざ仰げ!!!!
握られた乖離剣が振り下ろされる。その号令と共に、時空断裂の塊は汚物に迫り、飲み込んだ。
超高密度の時空断裂の塊を防ぐ手だてはこの世には存在しない。世界から隔離でもされない限り、その絶対の裁定からは逃れられることは出来ない。王が下した裁定を前に、裁かれぬ者は誰もいない。
そうして惑星規模にまで膨張した暴走体は、王の下した絶対の裁定の下に、存在の一欠片たりとも残すことなく消滅した。
「ギルが汚物を下した…………後はあれだけだな」
時雨が見上げた先にあるのは穢れた太陽。あれの正体はすべての魔術師が生涯を賭けて追い求める【根源】にへと通じる道。魔術師が居なくなったとは言えど、開けられた道は閉じることは無くポッカリと開いた虚ろをさらけ出している。
「…………貴方は私たちに何を望むのですか?」
「え?気付いていないのか?間抜けめ。アーチャーは気づいているぞ、セイバー」
時雨の側に集まるのは残ったサーヴァントであるセイバーとアーチャー、そしてシグナム。
「あれを壊す。あれはあっちゃいけないものだからな。そしてあれを壊すなら…………最強の聖剣でぶち壊した方が気持ちいいだろ?ーーーーーーーーーー
時雨の手に、堕ちた聖剣が握られる。
「ーーーーーーーーーー
シグナムの手に、改変された聖剣が握られる。
「やはりなーーーーーーーーーー
アーチャーの手に、彼が思い求めた聖剣が握られる。
「ーーーーーーーーーー風よ」
セイバーの手に、彼女の生涯を支えた聖剣が握られる。
ここにあるのは始まりを同じにして、違う道を歩んだ最強の
「
時雨の持つ堕ちた聖剣から、闇が灼熱する。
「
シグナムの持つ改変された聖剣から、蒼い閃光が燃える。
「
アーチャーの持つ彼が人間だった頃にその心理に焼き付いた聖剣が、光輝く。
「
セイバーの持つ人々の理想が形となった最強の聖剣に、光が集う。
「ーーーーーーーーーー
「ーーーーーーーーーー
「ーーーーーーーーーー
「ーーーーーーーーーー
同時に振り下ろされた四本の聖剣から闇が、蒼い閃光が、黄金の閃光が放たれる。それらは弾きあえど一つになりーーーーーーーーーー空に浮かぶ穢れた太陽を打ち砕いた。
そこには穢れた太陽があった痕跡など残っておらず、跡にあったのは空を覆う曇天と、曇天に開いた穴から見える星空だけだった。
時雨、流出に至る
獣殿と水銀、大喜び間違いないですわ。
出来た瞬間に壊される“座”
時雨にとっては自分を縛りつけて動けなくする“座”なんて不必要な物でしないから壊した。Dies iraeのように始めから“座”のある世界ならその宇宙が崩壊するだろうが、リリカルの世界には元々“座”と呼ばれるシステムはなく、時雨が流出に至ったことで後付けで作られたシステムなので壊れても問題なし。今後は再び時雨が流出するか、誰かが流出に至るまで“座”は再構築されず、特異点は開くことはない。
罪人汚物、判決私刑
規模が大きくなっただけで原作と大差ないから大丈夫大丈夫(白目)
時雨、波旬インストール
黄金インストールとか水銀インストールは良く見るだろうが波旬インストールした者はいないだろう!!(白目)波旬の詠唱探したけど漢字が見付からなかったので似たような物で代用してあります。時雨オリジナルだと思って見逃して下さい(土下座)
汚物消滅
スーパーサイヤ人が宇宙空間で大丈夫ならスーパーウルク人のギルだって宇宙空間で平気だよぉ!!(白目)地球から離れたことで一切の制約が無くなって乖離剣本領発揮。CCCの
エクスカリバー四連続
これがやりたかった…………!!(絶頂)分かると思いますが時雨のエクスカリバーはオルタ、シグナムのエクスカリバーは改変品、アーチャーのエクスカリバーはCCC、セイバーのエクスカリバーは本家の物になっています。
使用者:八神時雨
位階:流出
神格:我欲界餓鬼道第七天
渇望:家族を守りたい
時雨の前現の生涯と渇望が混じりあって産まれた流出。権現は破壊と回帰と停止という黄昏覇道神三柱のごった煮。渇望を見ればどうしてこの権現になったのか不思議に思うかもしれないが、
破壊=愛する家族を脅かす者は破壊を持って迎える
回帰=今が終わろうともまた家族たちに出会いたい
停止=家族たちと過ごす今が永遠に続けばいいのに
という渇望の元に形になって表れている。無論、破壊と回帰と停止をそれぞれ極めた覇道神三柱の権現に比べれば劣るのだが複合させることにより覇道神三柱以上の存在になる。弱点があるとすれば時雨が敵と認識しないとその権現は劣化してしまう。時雨が敵と認識した存在なら神格は神咒神威神楽の第六天波旬クラスの神格になるが、認識仕切れないのなら黄金閣下、変態水銀、無間蓮炭の覇道神一柱クラスにまで落ちる。
もしも時雨が“座”に座ったままなら、世界は時雨が認めた以外の存在は破壊され停滞し、時雨の認めた者たちは永遠の回帰を繰り返すという地獄に変わる。だから結果としては時雨が“座”に座らなかったことは良かったことになる。
使用者:時雨
時雨の流出の権現の破壊と回帰と停止をぶつけるだけの技。時雨の気がすむまで極限まで緩められた停止の中で破壊と回帰を繰り返す鬼畜仕様。最大レンジは別次元の宇宙は勿論、下手をすれば存在する時空すべてに届く。
これにて闇の書を巡る話は終わりを迎え、事後処理の後にエピローグを書いてこの小説は一旦完結させるつもりです。それからいくつかの分岐の小説を書くつもりです…………予想を上回って五月まで差し込んでしまい申し訳ありませんでした。
感想、評価をお待ちしています。