調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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ⅩⅩⅠ last night ⑧

 

 

ここは病魔が群がる荒れ地。病魔の一挙一動が容赦なく生命を犯し、死へと導いていく。病魔の群れの数は増殖を続けた結果、この時点で万を越えるほどになっていた。

 

 

命を簒奪する為だけに在ると言っても過言ではない病魔に抗う影が三つあった。一人は白と黒の夫婦剣を振るい、一人は禍々しいフォルムの爪で凪ぎ払い、一人は目に見えない程に極細のワイヤーで切り刻んでいる。

 

 

彼らの名前はリニス、ザフィーラ、シャマル。主である時雨を守るためにと永劫破壊の法を手に入れた者たちだ。

 

 

「ザフィーラ、今幾ら殺りました?」

「さぁな、多分千は越えてるだろう」

「私も二千から数えるのが面倒になってやってませんよ」

「あの~話してる暇あるなら手を動かしてもらえないかしら?そろそろシャマルちゃん辛くなってきたんだけど‥‥‥‥」

「「HAHAHA、御冗談を」」

「ガッティム!!」

 

 

端から見ればふざけているだけにしか思えないようなやり取りではあるが、これこそ彼女たちのスタイルだった。下手に気を張ってしまえば疲れるから適度に抜く、それが彼女たちのスタイルであり、時雨が戦闘で心掛けている事だった。

 

 

「にしても、そろそろだとは思うんですけどね‥‥‥‥」

「時雨があれを打倒するのが、か?」

「えぇ、間違いなく時雨ははやてとスノウを助けようとします。だからそろそろ良い時間だとは思うんですけど‥‥‥‥」

「そう言えば、リニスは時雨さんのこと好きなのね?帰ったら結婚するのかしら?」

「止めてくださいよ死亡フラグじゃないですかそれ‥‥‥‥まぁ、好きだってことは否定しませんよ。えぇ、あの人のことを愛していますとも」

「あらあら、シグナムに対抗馬が現れたわね♪まぁ元から分かっていたけども」

「ぬ?シグナム“も”時雨殿が好きなのか?」

「いやいや、日常のあの反応見れば‥‥‥‥ザフィーラ?今貴女シグナム“も”って言ったわよね?も、もしかして貴女も‥‥‥‥」

「?私も時雨殿の事が好きだが?」

「」

「あぁ、やっぱりですか」

 

 

突然出たザフィーラのカミングアウトにシャマルは手を動かしながらも目をクワッ!!と見開くという器用なことをしている。リニスは予想していたので大して驚いた様子は見せずにやっぱりかといった顔である。

 

 

「れ、れれれ冷静になれ、湖の騎士は慌てない!!」

「その発言からもう慌ててることが駄々漏れ何ですがねぇ‥‥‥‥」

「そうよ!!きっとこれは私を混乱させるための孔明の罠に違いない!!」

「ガバガバじゃないですか‥‥‥‥ザフィーラ、時雨の事はどの程度で好きなのですか?」

「求められるのであれば子供を産むことも厭わない」

「はい、アウトォォォォォォォ!!!!」

 

 

ザフィーラの子作りOK発言にシャマルは叫びながらワイヤーを振り回す。心なしかペイルライダーが切り刻まれる速度が早くなっている気がする。

 

 

「リニスにシグナムにザフィーラ!!それに管理局にいた狼の使い魔!!どれだけ女性を落とすつもりですかあの人はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「狼の使い魔‥‥‥‥アルフの事ですね。それに予感ですけど多分時雨は助けに行ったスノウにもフラグ立てますよ。私から見てもスノウは時雨に何かしらの感情を抱いているように見えましたし」

「五人目ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

更にシャマルのワイヤーの速度が加速する。

 

 

「フラグ立てすぎじゃなぁないですかねぇ!?どこぞの不幸ウニ頭の一級フラグ建築士ですかぁ!?」

「いやいや、時雨は鈍感じゃないですから。ちゃんと相手の気持ちに気づいていますし、それを受け止めるだけの甲斐性もありますよ‥‥‥‥まぁ、誰か一人を選べと言われたら遺言残して腹切りそうですけど」

「時雨殿から欠片でも愛されるのなら、私はそれで構わないッ!!!」

「あらやだ、イケメン」

 

 

気の抜けたような会話を続けながらペイルライダーを殲滅していた三人だったがーーーーーーーーー

 

 

「「「ーーーーーーーーーッ!?」」」

 

 

背筋に走る悪寒を感じとり、打ち合わせることなく同時にその場から飛び上がる。ペイルライダーはそれを見て風に乗り、三人を追いかけようとした時だった。

 

 

地平の彼方から、突然黒い津波がやって来てペイルライダーの群れを全て飲み込んだ。

 

 

「何ですかあれは!?」

「あ~‥‥‥‥あれじゃないですか?あの影みたいな奴。それが液体になってやって来たみたいです。見たところ魔力が足りなくなって周りから無差別に吸収しようとしているみたいですね‥‥‥‥」

「‥‥‥‥天狗だ!!天狗の仕業じゃ!!(AA略)」

「「ブフォ!!!」」

 

 

病魔を飲み込み、咀嚼している残骸の成れ果てを眼下にしながらザフィーラがシャマルに仕込まれたネタを口にする事でリニスとシャマルを笑わせて、体から力みを無くさせる。

 

 

「お腹が‥‥‥お腹が‥‥‥‥!!!」

「こ‥‥‥ここでそれは卑怯です‥‥‥‥!!!」

「む、すまなかった。だが、実際には天狗ではなく時雨殿の仕業だろう」

「でしょうね。ということは‥‥‥‥」

「時雨がやってくれた訳ですね」

「「「イェーイ!!!」」」

 

 

時雨が無事にはやてとスノウを助けることが出来たと分かったので三人は喜びを表すかのようにハイタッチをする。

 

 

そして残骸の成れ果てはペイルライダーの咀嚼を終えたのか、津波のように動きながら別の場所に移動を始めた。

 

 

「動き出したわね」

「魔力を求めているなら‥‥‥‥恐らく近くにいる時雨かシグナムのところに向かうはずです」

「時雨殿ならば心配無用だろう。なら我々はシグナムの助けに向かおう」

 

 

ザフィーラの提案に異を示すことなく、三人は未だ戦っているであろうシグナムの元にむかう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳴り響く金属音と破壊音。地面に転がるのは壊れた宝具の原典と宝具の改変品。

 

 

黄金の王の背後から、剣の柄が現れる。

 

烈火の将は側にあった改変品の剣を手繰り寄せて振るう。

 

一合のぶつかりで、両者の剣が砕ける。

 

黄金の王の背後から、槍の柄が現れる。

 

烈火の将は側にあった改変品の槍を手繰り寄せて振るう。

 

一合のぶつかりで、両者の槍が砕ける。

 

 

「馬鹿なーーーーーーーーー」

 

 

黄金の王から溢れたのは目の前の光景が信じられないという驚愕。

 

 

「この我が(オレ)、押されているーーーーーーーーー」

 

 

黄金の王の背後から鎚の柄が現れる。

 

烈火の将は側にあった改変品の鎚を手繰り寄せて振るう。

 

一合のぶつかりで、両者の鎚が砕ける。

 

 

「このような‥‥‥‥出来損ないにーーーーーーーーー!?」

 

 

黄金の王、ギルガメッシュの宝具【王の財宝】(ゲート・オブ・バビロン)は確かに破格の宝具である。生前にギルガメッシュが集めたこの世全ての財宝を納めた庫には、人が作り出した物の原典全てが納められている。古今東西に名を馳せた英雄たちが手にしていた武器も、元を辿ればギルガメッシュの死後に各地に散った庫の財宝が原典である。故に、ギルガメッシュは全ての英雄に対して絶対の優位に立つことが出来る。

 

 

だからこそ、原初の王に対してシグナムは優位に立つことが出来る。

 

 

シグナムの創造【貴方に捧ぐ、我が剣製を】(Devoted Blade Works)の異界の中にある武具は時雨の剣製ーーーーーーーーー錬鉄の英霊が持つ剣製から流れ着いた物であり、その中にはあらゆる武器が納められていると本人は言っていた。つまり、シグナムの異界の中にはあらゆる武器があるのと同意義である。そしてギルガメッシュはあらゆる宝具の原典の持ち主ではあるが担い手ではない。しかしこの異界にある武具すべてはシグナムの剣製によって改変されており、そのすべてがシグナムが担い手であると認めている。さらにギルガメッシュは宝具の原典を庫から取り出さねばならないのに対してシグナムは手を伸ばすだけで望んだ武具を手にすることが出来る。その僅かな差があるから、シグナムはギルガメッシュの一歩先を行くことが出来た。

 

 

つまり、シグナムはギルガメッシュを打倒することが出来る数少ない存在であるのだーーーーーーーーー!!!

 

 

「おのれ‥‥‥‥!!!おのれ、おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

十数本の宝具の原典と改変品を犠牲にした十数合の打ち合いの果てに、ギルガメッシュはシグナムから離れ距離を取った。顔は憤怒に染められており、庫から刀身が円柱状の異形の剣を取り出している。

 

 

「よもや貴様のような傀儡に(オレ)の剣を使うことになろうとはなぁ!!!!」

 

 

円柱の刀身が回転を始める。それを見たシグナムは即座に手を伸ばし、機械仕掛けの刀身が円柱状の剣を手にした。

 

 

その剣には銘など無く、唯一の持ち主であるギルガメッシュが【エア】とだけ呼んでいる剣。原初の生命のいない地球において天地を切り開いたとされる乖離の剣。

 

 

シグナムの改変された乖離剣とギルガメッシュの乖離剣の刀身が猛烈な勢いで回転する。

 

 

天地乖離す!!!!(エヌマァァァァァァァァ)ーーーーーーーーー開闢の星!!!!(エリシュ)

 

 

天地を切り開いた時空断層の斬撃が、赤い閃光となって放たれる。それはすべてを切り裂く一撃、世界から隔離でもしなければ防ぐことも許されない一刀。その一合が放たれた瞬間、ギルガメッシュは勝利を確信して笑みを浮かべた。

 

 

「ーーーーーーーーー偽典・天地乖離す開闢の星(ギテン・エヌマ・エリシュ)

 

 

そしてそれは、シグナムの乖離剣から放たれた蒼い閃光に掻き消された。

 

 

ギルガメッシュにとって幸運だったことは赤い閃光によって蒼い閃光の軌道が僅かに反れ、ギルガメッシュに直撃しなかった事だろう。もっともその余波を受けて乖離剣を持っていた右腕は無くなり、乖離剣はギルガメッシュから遠く離れた背後に飛んでしまったが。

 

 

「なぁーーーーーーーーー」

 

 

この事実に驚愕するギルガメッシュだがこうなったのは至極簡単な理由だ。

 

 

ギルガメッシュの乖離剣よりも、シグナムの改変された乖離剣の方が上だっただけに過ぎない。

 

 

「クゥッ‥‥‥‥!!!今はお前が強いーーーーーーーーー」

 

 

ようやくその事実を飲み込む事が出来たのか、ギルガメッシュは苦々しげな顔をしながら後退し、背後にある乖離剣の元に向かう。

 

 

「ーーーーーーーーー逃がすものか」

 

 

二本の乖離剣のぶつかり合いにより、シグナムの異界は崩壊しつつある。暁時の空はひび割れて、外の穢れた空が見えている。

 

 

「英雄おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

 

 

そんなことは些末でしかないと言わんばかりの叫びをあげ、シグナムは突き刺さっていたレヴァンティンを握りしめ撤退を目論んでいるギルガメッシュに突貫した。

 

 

この時、シグナムの体はボロボロだった。ギルガメッシュの戦闘の傷と始めて行う創造の負荷で立っているだけでも奇跡に等しい状態。

 

 

度重なる緊張で呼吸を忘れ、

 

酷使した筋肉は悲鳴をあげ、

 

限界まで脈打っている心臓は休息を訴えている。

 

それでも、シグナムは止まらない。

 

この苦痛すべてを捩じ伏せて、

 

止めの一撃をギルガメッシュに浴びせるまではーーーーーーーーー!!!

 

 

ギルガメッシュの左手が乖離剣に伸びる。

 

 

シグナムが必殺の領域までギルガメッシュに迫る。

 

 

そうして、決着するかと思われたこの真作と改変品の戦いであったがーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーッ!?」

 

 

何かに気がついたシグナムが突然上空に逃げたことで終わりを告げた。

 

 

「何ッ!?」

 

 

その声は乖離剣の元にようやく辿り着けたギルガメッシュの物だった。ギルガメッシュは後ろを向いていたので気づいていなかったが、背後から黒い津波のような何かが迫っていたのだ。かわせる程の暇などギルガメッシュには無く、人の世において初めて王となったサーヴァントは敢えなく飲み込まれた。

 

 

シグナムは津波がやって来るのを視認することが出来たので逃れることが出来たのだがそれでもギリギリ。あと僅かでも遅れていたらギルガメッシュ同様に津波に飲み込まれていただろう。

 

 

「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥‥‥」

 

 

シグナムは創造を使ってからの間まともにしていなかった呼吸を浅いながらも再開する。無論、やって来た黒い津波から目を離すこと無く。

 

 

津波はギルガメッシュのいた場所に目に見えて分かるほどに集まっている。恐らく、ギルガメッシュを咀嚼するのに手こずっているのだろう。

 

 

そうして今は自分に興味が無く、ここなら津波は届かないだろうと判断して深く息を吐き出し、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、津波から一本の鎖が伸びてシグナムの腕に絡み付いた。

 

 

「なっーーーーーーーーー!?」

 

 

再開していた呼吸がまた止まる。腕に絡み付いた鎖は容赦なくシグナムを津波の中に引き込もうとする。

 

 

力を入れて抵抗しようとするもボロボロになった体では長く持たないだろう。

 

 

「くーーーーーーーーー残骸風情がぁ、王たるこの(オレ)を喰らおうなど万死に値する‥‥‥‥!!」

「貴様‥‥‥‥!!」

 

 

津波の中から這いずるように現れたのは紛れもなくギルガメッシュ本人だった。津波に喰われたのか、その体の所々を溶解している。

 

 

「あ、ぐぅーーーーーーーーー!!!」

 

 

津波の中に引きずり込まれる。このままあの中に引きずり込まれれば、シグナムもギルガメッシュと同じ様に飲み込まれ溶解される。

 

 

「道連れにするつもりか‥‥‥‥!!」

「たわけ、死ぬつもりなど毛頭ないわ!!踏み留まれ傀儡!!(オレ)がその場に戻るまでなぁ!!!」

 

 

体を溶かされてなお、ギルガメッシュの傍若無人な在り方は変わることは無かった。

 

 

「あーーーーーーーーーぐっ!!」

 

 

限界を越えるようなことをしたからか、シグナムの視界にフラッシュが焚かれたような白い光が現れる。万全ならばいざ知らず、消耗しきったシグナムではこの鎖を外すことは叶わない。このままだとギルガメッシュもろともシグナムは津波に落ちる。たがもし持ち堪えられたとしても、その時はギルガメッシュがこの場に戻ってしまう。

 

 

どちらにしても、今のシグナムの命はないということに他ならなかった。

 

 

ーーーーーーーーー力を抜いてしまうか?

 

 

朦朧とした意識の中でシグナムはそんな考えを思い付いた。

 

 

このままだと耐えることはでない。であるのなら、力を抜いてギルガメッシュをもう一度あの津波の中に叩き込むーーーーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーーーッ!!!舐めるなよ‥‥‥‥!!道連れになどされてたまるか‥‥‥‥!!!」

 

 

萎えかけていた手足を奮い立たせる。シグナムの腕が千切れるのが先か、ギルガメッシュの鎖が千切れるのが先か、それともギルガメッシュが這い出てくるのが先か。

 

 

どんな結末を迎えようとも、シグナムは死ぬつもりなど欠片もない。そうなら、最後の最後まで全力で抗うだけだーーーーーーーーー!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーよく耐えた、烈火の将よ。後はこの(オレ)に任せろ。

 

 

その時、シグナムの耳に届いたのは津波の侵食に抗っている者と同じ声。しかしその声色にはその者とは違い、労るような優しさが込められていた。

 

 

シグナムの背後から、何かが飛翔した。

 

 

そしてそれは、大気を切り裂きながら津波の中で抗っているギルガメッシュの胸に、黄金の鎧を砕いて突き刺さった。

 

 

「ーーーーーーーーー」

 

 

津波の中にいたギルガメッシュは、驚きの表情で自身の胸に突き刺さったそれを見る。シグナムは時雨から与えられた剣製より、その正体を看破することが出来た。

 

 

それはグラムと呼ばれる剣。王を選ぶとされる選剣。ブリテンを治めたアーサー王の持つ聖剣勝利すべき黄金の剣、(カリバーン)それの原典。

 

 

「ーーーーーーーーー(オレ)の居なくなった【座】から、(オレ)の痕跡でも集めたのか?なんたる不様。なんたる醜悪。醜いものよなぁ」

 

 

ギルガメッシュと同じ声が、シグナムの背後から聞こえる。振り替えればーーーーーーーーーそこには、“王”がいた。

 

 

彼の王の乗る船は黄金。

 

髪は光源と見間違う程の黄金。

 

鍛え上げられた体から放たれる覇気は、無色であるはずなのに黄金の色彩を見せる。

 

 

彼の王の名は、英雄王ギルガメッシュ。この世ではギルと呼ばれ、今宵一夜、思い人を汚す存在を滅せんと慢心を捨て去ることを決めた原初の王だった。

 

 

「きさ、まーーーーーーーーー」

「良い口を開くな、耳が汚れる。我が姿を真似ただけではなく我が財に手を出した罪人よーーーーーーーーー光栄に思え、この(オレ)が直々に裁定を下してやろう」

 

 

ギルガメッシュが何かを言おうとしたのを遮り、ギルは詰まらなそうな顔で不敬を働いた罪人に裁定を下した。

 

 

気だるそうに手を動かす。その一動だけでギルの宝物庫が開き、その中に納められていた宝具の原典が射出された。

 

 

射線上にいたシグナムを避けるようにして放たれた宝具の数は五。そのどれもが一級品だと分かる宝具の原典。惜しむこと無く放たれたそれらは津波の中にいたギルガメッシュの体を貫く。そらが致命傷となったのか、ギルガメッシュは信じられないものを見たような顔で力無く倒れ、今度こそ残骸の津波の中に沈んでいった。

 

 

シグナムの腕に絡み付いた鎖がギルガメッシュが居なくなった為か解け、持ち主の後を追うようにして津波の中に沈んでいく。

 

 

「無事か、シグナム」

「あぁ‥‥ギルか‥‥すまない、助かった‥‥‥‥」

 

 

ヴィマーナが近くに来るとシグナムは周りの目や周囲の状況などを気にせずに大の字になって寝転がった。いつものシグナムなら考えられないような行動だが、そうしてしまうほどにギルガメッシュとの戦闘で消耗したのは事実だった。

 

 

「‥‥‥寸のとこで勝利を掴み取ったといった有り様だな」

「はぁ‥‥はぁ‥‥相手は偽りであろうと英雄王だったのだ。勝利を疑わなかったが、正直言って危うい所があったな」

「フン、だとしても誇れ。例え偽りだとしても、お前は英雄王を打倒したのだ。その事実は天地が返ろうとも変わることない」

「‥‥‥‥感謝する」

 

 

賛辞を送ってきたギルに礼を言い、全身から力を抜いて目を閉じようとしてーーーーーーーーー思いとどまる。自分の役目は確かに果たしたが、まだ終わっていないことを思い出したから。

 

 

「そうだ‥‥時雨とリニスは?」

「時雨の方は分からんが‥‥‥‥リニスなら、戻ってきたようだぞ」

 

 

ギルの向く方向に顔を向ければ、そこには空を飛んでこちらに向かっているリニスとザフィーラとシャマルの姿があった。

 

 

「おーい!!シグナァム!!大丈夫ですかぁ!?」

「あぁ‥‥辛勝だかな」

「シグナムがここまでなるとはな‥‥‥シャマル」

「アラホイサッサー!!ーーーーーーーーー癒しの風を(リザレクション)

 

 

シャマルの形成による癒しが、ギルガメッシュとの戦闘で限界まで消耗したシグナムの体を癒す。傷ついた体、酷使された筋肉、消耗した魔力、そのすべてが回帰されたかのごとく癒される。

 

 

「シャマル、もういいぞ。感謝する」

「そう。見たところぶら下がってるのも含めて時雨さんを除いて全員いるみたいね」

「何直に帰ってくるであろう。奴を滅ぼすのは骨だ。例え慢心を捨てた(オレ)でも奴を殺すどころか対等の戦いが出来るかどうか分からん」

「まぁ心配ですけど心配は要らないですね」

「そうだな」

「違いない」

「‥‥‥よく自信満々に言えるね。まぁ分からないでもないけど」

「なんだ、アルフも分かってるじゃないですか」

 

 

リニス、シグナム、ザフィーラの言った言葉にアルフは呆れたような言葉を出しながらも共感した。そしてそれを聞いたリニスが片手を腰に当て、もう片手でアルフを指差しビシィッ!!とでも効果音の着きそうなポーズを決める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「だって、あの人は必ず私たちの所に帰ってくるから」」」

 

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 

リニス、シグナム、ザフィーラが合わせずに同じ言葉を発したのと同時に、それに答えるように集まっていた残骸の成れ果ての中から悪竜が咆哮をあげながら姿を現した。

 

 

何も知らない管理局勢と魔術師勢は悪竜の出現に慌てるが、闇の書勢とアルフとクロノとアーチャーはそんな素振りを見せなかった。

 

 

何故なら、彼らは悪竜の正体を何と無く分かっていたから。

 

 

悪竜がヴィマーナに近づいてくる。その時に、悪竜の前足に壊れ物でも扱うかのように眠っているはやてとスノウが抱き抱えられているのが見えた。

 

 

そしてリニスは近づいてくる悪竜を、

 

 

「おかえりなさい、時雨」

『ただいま」

 

 

愛おしい主の帰還を笑顔で迎え入れた。

 

 

リニスに返事を返しながら時雨は悪竜から人の姿に戻る。その腕の中には悪竜の時と変わらず眠っているはやてとスノウが優しく抱き抱えられていた。

 

 

そして2mの高さからヴィマーナに着地する。いつもの時雨なら人を抱き抱えていたとしても問題なく着地できる高さ、だから誰も気に止めずに見守っていたのだがーーーーーーーーー

 

 

ボギィ!!

 

 

「あ、ヤベ」

 

 

湿った嫌な音と共に時雨の体制が崩れて倒れる。倒れたとしても自分の体を下敷きにしてはやてとスノウを守ったのは条件反射のなせる技か。

 

 

「って時雨!!大丈夫ですか!?」

「あ、足が取れてらぁ‥‥‥‥そう言えばボロボロになってたっけ」

「時雨!?」

「ちょっと!!大丈夫かい!?」

「メディック!!メディィィィィィィィィック!!!!」

「医療少女メディカルシャマルちゃん登場☆」

「便乗して医療少女メディカルシュテルちゃんも登場です☆」

「ハッ」

「ギル?今鼻で笑いましたよね?」

「久ギレ屋上」

「‥‥‥‥」←無言の腹パン

「‥‥‥‥」←無言の腹パン

「「ぐぶぉぁ!!!」」

「いやぁ、こう言うの見ると帰ってきたって実感わくねぇ」

 

 

家族の繰り広げているカオスな空間(主犯格はシャマルとシュテル)を見ながら、時雨は心の底から嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー許さん

 

 

【此の世全ての悪】(アンリ・マユ)の奥底、常人であれば見ただけで狂う程の悪性の泥の中に魔術師はいた。

 

 

悪性の泥は触れている魔術師のすべてを容赦なく汚染していく。しかし、魔術師はその悪性に触れながらも完全には狂ってはいなかった。

 

 

ーーーーーーーーー許さん

 

 

魔術師の発狂を妨げているのは怒り。

 

 

練り上げて長年魔導書の一部となりながらも待ち望んでいた【根源】への到達を邪魔されたという理由。

 

 

ーーーーーーーーー許さん、許さん、許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん許さん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『八神時雨ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

悪性の澱みの中で吠えた魔術師の声に応じるように、一つの奇跡が起こってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、治った治った。やっぱり自分の足で歩けるっていいね」

「これに懲りたらもう無茶はしないでくださいよ?」

「無理ッ!!!」

「即答ですか」

 

 

シャマルの形成によって治療された足の具合を確かめるように何度も足踏みをする時雨。シャマルから忠告されるものの笑顔付きの即答で返したことでシャマルを呆れさせた。

 

 

「時雨、疲れているところすまないが一つ良いか?」

「何だ?クロノ少年」

「これですべてが終わったのか?そして何時になったらここから出れる?」

 

 

これで闇の書の問題は終わったのかと、ここから出ることは出来るのかと、クロノは尋ねた。その疑問は至極正しい物だった。だから時雨は正直に答えた。

 

 

「一つ目の質問には恐らくとしか答えられない。【此の世全ての悪】(アンリ・マユ)と魔術師は取り除いたが闇の書の根本的なプログラムを直さなければこれは終わらない。二つ目の質問には直にと答えよう。この不思議空間を作った術者の寄生虫潰したから直に出られるはずだ」

 

 

その時雨の声が引き金となったのか、穢れた世界にガラスのようなヒビが入り、崩れ落ちる。

 

 

帰ってきた場所は海鳴に面している海の沖合い、時間は朝の四時頃。元の世界に帰ってこれたことを喜ぶ管理局勢と魔術師勢だったが、時雨だけは冷や汗をかいてある方向を向いている。

 

 

その先にあるのは穢れた世界にあったはずの穢れた太陽ーーーーーーーーー【根源】へと通じる孔と、残骸の成れ果ての液体。それらが未だに残っていて、この世界にいる。

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!』

 

 

そして残骸の成れ果ての液体から、耳障りな音を立てながら汚物が現れた。

 

 

桃色で脈打つ肉をさらけ出した100mを越える人型の巨体。

 

腕は阿修羅の様に六本。

 

背には体と同じ様に桃色の肉で作られた翼が四対八羽。

 

そして人間の頭に当たるところには口があるだけ、その中心には人間の上半身が生えていてーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『八神ィィィィィィィィィィィィィィィィ時雨ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

悪性に取り込まれたはずの魔術師が、時雨に対する怨嗟の咆哮をあげていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーハッ」

「し、時雨!?」

 

 

突然の汚物の顕現に慌てふためいている管理局勢と魔術師勢だったが、時雨はそれを見て嘲笑とも取れるような小さな笑いを浮かべただけだった。それを見て心配したシグナムが声をかけるものの時雨からの反応は無くーーーーーーーーー

 

 

「アッハハハハハァ!!!!ハハッ!!ハハッ!!アッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

狂ったように笑う。その声は汚物のあげる耳障りな音と魔術師の怨嗟の咆哮を掻き消し、この場にいた全員を固まらせる程だった。

 

 

「クックック‥‥‥‥!!握り潰して悪性に押し込めたっていうのにそこから這いずり出してくるだと?可笑しすぎて笑いが止まらんぞ!!ーーーーーーーーーーーーーーーーーー頭に乗るなよ、屑が」

 

 

声のトーンが一気に変わる。笑っていた時には喜の感情が強かった様に見えたのだが今の時雨から感じられるのは嫌悪だけ。明らかに、あの汚物と魔術師のことを見下していた。

 

 

「糞が屑かき集めたところで屑には変わらないんだよぉ。糞が塵屑集めて屑山の大将気取っていいきぶんになってもお前は糞なんだ。肥溜め風情が、穢らわしいぞ」

 

 

時雨の言葉に込められている意味に一切の嘘はない。時雨はあの汚物と魔術師のことを糞や屑と同格だと思っている。そんな物が今この場で有ることが時雨にとっては耐えられない程に気持ち悪かった。

 

 

時雨の怒気か辺りを包む。それはギルであっても死を覚悟してしまうほどに濃密な殺意でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーー上等だぁ!!!!掻き毟って滓も残さずバラ撒いてやらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 






VSペイルライダー決着
リニス、ザフィーラ、シャマルの三人ではペイルライダーの気を引いて持ち堪えることは出来ても殲滅しきることは純粋な火力不足の為に出来ない。残骸が来ていなければ時雨かギルたちが来るまであの状態のままだった。ペイルライダーは残骸のご飯になりました。

VSギルガメッシュ決着
純粋にギルガメッシュよりも創成発動中のシグナムの方が強かったので後半は割と完勝気味。しかし前半が押されていてその時の傷や、始めて創成を使ったことによる負荷からシグナムの体はボロボロになっていた。ギルガメッシュは残骸のご飯になりました。

時雨、はやて、スノウ帰還
ようやく闇の書の中から脱出できた。はやてとスノウは眠っているだけだが時雨は悪性によって体がボロボロの状態のまま出てきたので着地した瞬間骨が折れて足がポロリしました。

魔術師復活!!
【此の世全ての悪】(アンリ・マユ)と繋がりのある残骸がペイルライダー沢山とギルガメッシュを魔力として吸収したのでそれらを元にして魔術師が怒りのままに構築した結果‥‥‥‥汚物になりました。


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