調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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ⅩⅧ last night ⑤

 

 

這いずる、這いずる。這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり這いずり現世に沸き上がる。

 

 

ここは世界の【外側】と【内側】の間、ハザマとも呼ばれる空間。【根源】に最も近き場所であり、英霊の皮を被った無限の残骸(アンリミテッド・デッドレイズ)の産まれる場所でもある。

 

 

【根源】に挑み敗れた者や【根源】への贄になった者が魔術師の手によって残骸になり、現世に這いずり出る。

 

 

残骸の沸き上がるのを止めたければここを潰すしかない。しかしそれは叶わない。何故ならここはハザマだから。【外側】と【内側】を遮断する絶対の領域、ここにいることを許されるのは残骸のようなどちらでも無いものか、それこそ時雨や甘粕のような超越した存在でなければ存在することすら出来ずに消滅してしまう。

 

 

故に止められず、現世にて死闘を演じている彼らはただ沸き上がる残骸を潰すことしか出来ないーーーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーーここか」

「その様ですな、獣殿」

「まったく、見ていて気分が悪くなる光景だね」

 

 

ーーーーーーーーはずだった。存在することすら許されないハザマの世界に、三つの影が現れる。

 

 

一つは黄金。髪に瞳、そして滲み出る気配ですら金色に光輝く黄金の君。

 

 

一つは影。男にも女にも、若者にも老人にも見えてしまう影法師。

 

 

一つは平凡。容姿も気配も才気もどれを取っても特別なところなど一つもないありふれたもの。

 

 

その三人がハザマの世界で沸き上がる残骸を見下ろしていた。

 

 

「にしても、珍しいことがあるものだ。まさか君たちが直々に動くだなんてね」

「当然だ。あの甘粕が我らに頼んだのだぞ、あの男の邪魔を許すなと。それだけで十分な理由になる」

「それに久方ぶりに良いものを見せてもらった。彼の騎士らの渇望はどれも一流、そして烈火の将は自力で永劫破壊(エイヴィヒカイト)にまで至る程だった。彼女の輝きに危うく恋に堕ちるところでしたよ」

「カールにそこまで言わせるとはな‥‥‥‥実に興味深い」

 

 

黄金と影に目を付けられた騎士たちに平凡は黙祷を捧げる。破壊=愛と断言する黄金とこの世万象は女神の為の演出装置に過ぎないと言い切る影に目を付けられたのだ。絶対にロクなことになら無いだろう。

 

 

「さて、会話を楽しむのも良いが甘粕の望みを叶えるのが先決でしょう」

 

 

影が会話を打ち切る。それと同時に残骸が上に立つ彼らに気づいた。

 

「ーーーーーーーー私はすべてを愛する、故に壊す。我が破壊()を怒りの日を持って称えるがいい」

「ーーーーーーーーそれでは、今宵の恐怖劇(グランギニョル)を始めよう」

「ーーーーーーーー来たれ、叡智の書に記されしこの世から唯一解脱した覚者よ」

 

 

影法師が歌う

 

黄金の君が猛る

 

平凡の背後にこの世から解脱した覚者が顕現する

 

 

知能も本能も持たぬ残骸らはそれを見て悟ってしまった。

 

 

あれらに自分らは逆らうことなど出来ないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー怒りの日を称えよ(Dies irae)

「ーーーーーーーー未知の結末を見よ(Acta est Fabula)

「ーーーーーーーー壱に還る転生(アミタ・アミターバ)

 

 

ラインハルトが破壊する

 

カリオストロが回帰させる

 

ピースマンが覚者を使い壱へと還す

 

 

彼らがこれをする理由など一つしかない。

 

 

甘粕正彦、裁定者(ルーラー)のクラスで呼ばれた彼が心の底から叫んだ願いを叶える為である。

 

 

時雨(ひと)の輝きを見た甘粕は最後に叫んだ、時雨の邪魔をする者を許すなと。

 

 

友に乞われたから、彼らは上げるつもりの無かった重い腰を持ち上げてここにいる。

 

 

時雨の邪魔をする残骸を許さない。

 

 

それだけが彼らが残骸を滅する理由だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堕っちる~堕っちるよ~♪ど~こま~で~も~♪っと」

 

 

甘粕を倒したと思ったら闇の書に吸収されて堕ち続けてる時雨です。平行世界からパクった情報からこんな機能があることは知っていたがまさかここまで簡単に使ってくれるとは‥‥‥‥少しビビらせただけでホイホイ使ってくれたお陰で俺の企みは上手く行きそうだ。

 

 

俺の企みとは言うまでも無いとは思うがはやてとスノウの救出だ。平行世界だと自力で管理者権限を使って暴走体の動きを止め、そこからなのはとフェイトの魔力ブッパで暴走体とスノウを切り離したようだがこっちでも同じ様に行くとは思えない。というよりあの寄生虫がいる時点で食い違っている。

 

 

だから俺が直接乗り込んではやてとスノウを助けようと考えた訳だ。外の奴らが心配だが‥‥‥‥コトミネたちも居るし、あいつらも嬉々として鬼気迫る勢いで頑張ってるだろうからまぁ大丈夫だろう。

 

 

にしても‥‥‥‥後どれくらい俺は堕ち続ければ良いんだ?体感だと三十分‥‥‥‥それ以上堕ち続けてるような気がする。情報によると幸せな夢を見せてきたと平行世界のフェイトは言っていたと書いてあるから俺にもそういうのが来ると思うんだが。

 

 

俺にはどんな夢を見せてくれるのだろうか?

 

 

はやてとリニスと三人でいた頃だろうか?

それともシグナムたちが現れてから?

スノウが現れてからかもしれない。

もしかするとシュテルたちの頃から?

いや、ひょっとするとコトミネと一緒に恭也を弄っている時かも。

 

 

「ーーーーーーーーお、ようやく地面が見えてきた」

 

 

どんな夢を見せてくれるのか内心楽しみにしながら堕ちていると茶色の地面が見えてきた。頭から堕ちているので足と頭の位置を逆にして足から地面に着地、その時の衝撃を殺すために足だけでなく手も地面に着ける。

 

 

「さて、どんな夢をーーーーーーーーーーーーーーーーあ?」

 

 

闇の書が見せる夢は正直に言って俺の予想外の夢だった。

 

 

晴れの日が続いたのか乾いて砂埃の上がる大地。

 

木材を組んで作られた一階立ての家。

 

肥料と農具が無造作に近くの畑に置かれている。

 

雑に立てた様に見える柵の中にいる家畜たち。

 

この場に引かれた唯一の水場となっている川。

 

その川の水を動力に回る水車。

 

 

ここは俺がいた世界で異端と呼ばれている人間が集まって暮らしていた集落その物だったーーーーーーーーそれも、そこに住んでいる人々もそのままで。

 

 

「ーーーーーーーーハッ、なるほど。確かにこんな悪夢(ゆめ)見せられちゃあ御機嫌になるしかねぇよなぁ」

 

 

どうやらあの寄生虫は幸せな夢を見せるのではなく俺の精神を削りに来たようだ。まったく‥‥‥‥詐欺も良いところだ。折角幸せな夢を見れると聞いて少しワクワクしていたと言うのにこんな出来の悪い悪夢(ゆめ)を見せられるとは。

 

 

俺の服装も体も持ち物も変わっていない。なので炎華真打(ホノカシンウチ)を抜きーーーーーーーーーーーーーーーー振るって蒼炎を放つ。

 

 

乾いた空気を燃料に蒼炎はその規模を増していってどんどん大きな炎となる。

 

 

大地を燃やす。

 

畑を燃やす。

 

家を燃やす。

 

家畜を燃やす。

 

川を燃やす。

 

水車を燃やす。

 

そしてそこに住んでいた人間ごと、集落を燃やす。

 

 

「ーーーーーーーーまったくもって胸糞悪い」

 

 

燃え盛る蒼炎の中で俺はそう呟く。そして蒼炎を掻き分けながら集落の奥へと進んでいく。燃える大地を、畑を、家を、家畜を、川を、水車を、人間を、踏みにじりながら奥へと進む。

 

 

そうして進んだ先にあったのはーーーーーーーー俺が母と暮らしていたあの家だった。

 

 

この家は燃やさずに、中に入る。

 

 

するとそこには白髪赤目ーーーーーーーーいわゆるアルビノと呼ばれる容姿の女性が椅子に座り本を読んでいた。

 

 

「あぁ、しぐ」

 

 

その女性が何かを言おうとした瞬間に、真打を抜いてその首を撥ね飛ばす。

 

 

こちらに向かって微笑みかけていた表情そのままの頭部は床に落ち、頭を失った胴体が力なく倒れる。頭と胴体から流れ出る血液が床に散らかっていた資料を赤くする。

 

 

やることは済んだ。例え夢だとしても、これは彼らを侮辱する行為に過ぎない。

 

 

だから殺した。死んだというのにいいように使われる彼らが哀れで見ていられないから。

 

 

ここにも直に蒼炎が迫り、燃えるだろう。その被害から逃れようと家から出ようとしてーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー待ちなよ、時雨」

 

 

俺が殺したはずの母の声が、聞こえた。

 

 

「‥‥‥‥何さ」

「人様の首をいきなり撥ね飛ばしてくれて何さは無いだろう、何さは。まぁお前の考えてることは分かるから責めないけど」

「そう、ならさっさと逝けば?」

「逝けばって‥‥‥‥死に別れた私と会って何か言いたいことはないのか?」

「無いね。俺が話したいのは俺を育て上げてくれたゼロであって闇の書に作られた夢のゼロじゃない。だから話すことは無いもない」

「冷たいねぇ‥‥‥‥まぁあの頃のお前と比べれば人らしくはなってるけどさ」

「甘粕から直々に人間認定されましたけど何か?」

「‥‥‥‥甘粕が?マジか?」

「マジマジ大マジ。万歳三唱しながら逝ったよ」

「相変わらずの人間信者だなぁおい」

 

 

話しはするものの、俺は出口に向いたまま。その状態のままで話を続けているのは端から見れば奇妙な光景だろうな。

 

 

「言っておくが確かに私は闇の書に作られた夢だ。だけどお前の記憶にあるゼロを元にして作られている。それを踏まえて聞きたいことがある」

「‥‥‥‥何?」

「時雨、お前は(・・・)今が楽しいか?(・・・・・・)

 

 

それは、例え作られた夢だとしても、心から俺を案じた声で尋ねられた。

 

 

あれは確かに作られたゼロに過ぎない。俺の知るゼロと同一の別人。だけど俺の知るゼロの記憶を元にして作られたからあの呪縛(ゆいごん)のことも知っているのだろう。

 

 

だから聞いた。たった一人の時雨(むすこ)が、その生を楽しめているかどうかを。

 

 

‥‥‥‥あ~あ、俺も甘いね。

 

 

「ーーーーーーーー確かに、色々と大変だ。はやてとディアーチェと料理したり、レヴィとザフィーラが沢山食うから大量に作ったり、ヴィータと一緒に遊んだり、シグナムに頼まれて剣を振ったり、リニスとスノウとユーリと洗濯物畳んだり、御門とギルとゲームしたり‥‥‥‥後シャマルとシュテル(へんたい)二人の奇行に悩まされたり」

「うん、ごめん。前半はともかく後半はなんだ?あぁ、やっぱりいいわ、聞くのが怖くなってきた」

「チッ‥‥‥‥まぁ、楽しいかと聞かれたら楽しいとも言えなくないんだろう。肉体的に疲れたり、心労が溜まって大変な時もある‥‥‥‥それでも、充実している日々だとは胸を張って答えられる」

 

 

これは心からの俺の本心。

 

 

確かに疲れることもあった。

 

 

面倒なこともあった。

 

 

大変なこともあった。

 

 

統計から見れば楽しいことの方が少ないのかもしれない。

 

 

それでも、それらすべてを引っくるめて、充実していたと言える。

 

 

「ーーーーーーーーあぁ、そうか、なら、良かった」

 

 

やはりと言うべきか、聞こえる声は安堵の声だった。後ろにいるのは偽者だと分かっているのに‥‥‥‥俺も甘い。

 

 

「満足したならいいか?そろそろ俺は進みたいんだが」

「‥‥‥‥待て、闇の書の奥に行くならそっちじゃなくて地下に続く道を使え。そちらからなら深層に行ける」

「‥‥‥‥罠じゃないという可能性は?」

「否定しない。こればかりは信じて貰うしか無いからな」

「‥‥‥‥ホント、よくもまぁ母さんの真似をしてくれている。母さんもそう答えるだろうからな」

 

 

その場から反転、壁に寄りかかっているゼロに良く似た誰かを視界に入れながらテーブルを引っくり返し、そこにあった地下へ続く道を開ける。俺の記憶の中にはそこには地下に続く階段があったはずだが、中には黒いタールのような泥水が詰まっていた。

 

 

「本当みたいだな‥‥‥‥なら行くか」

「おい、持っていけ、餞別だ」

 

 

ゼロに良く似た誰かから何かを投げられる。受け取ってそれを確認したらそれは二匹の竜と対極の描かれた長方形の箱‥‥‥‥ゼロがよく吸っていたタバコだった。

 

 

「はいよ‥‥‥‥じゃあな、どっかの誰かさん」

「あぁ、さよならだ、どっかの誰かさん」

 

 

交わした言葉はそれだけ。俺は渡されたタバコに火を着けて泥水の中に潜っていった。

 

 

「‥‥‥‥あぁ、糞不味い」

 

 

そう、これは不味いタバコを吸ったからだ。サーヴァントになってから久しぶりに吸ったタバコが不味いからに違いない。

 

 

胸のモヤモヤが消えないのも

 

タバコの煙が目に染みるのも

 

目から涙が流れてくるのも

 

 

全部この糞不味いタバコが原因なんだ。

 

 

「‥‥‥‥不味い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー行ったな」

 

 

時雨が去った後、ゼロは消えてなくなった地下に続く道を見ながらそう呟いた。そのゼロの表情は寂しそうで、それでいて嬉しそうな物だった。

 

 

「ーーーーーーーー良かったのか?素直に行かせて」

「正彦か?」

 

 

背後からかけられた声に聞き覚えがあったゼロはその声の主の名前を呼びながら振り替える。家の出入り口のところの壁には旧日本軍の軍服を着た男が立っていた。

 

 

甘粕正彦。時雨のいた世界で【魔王】として人間の障害となり復讐に堕ちた時雨に殺され、裁定者(ルーラー)としてこの世界に喚び出され復讐者(アヴェンジャー)となった時雨に殺された甘粕本人だった。

 

 

「なんでお前が闇の書の中(ここ)にいる?月の玉座とやらに還ったんじゃなかったのか?」

「ふ、俺を甘く見るなよゼロ。八神時雨がその信念を貫こうと奮起しているのだ。それを遠く離れた場所から見ろだと?ふざけるな。あいつは俺が認めた男だ。ならその信念を貫く手助けをするのも吝かでは無い」

「はぁ‥‥‥‥相変わらず人間大好きなぁ、お前は」

「死んでも変わらぬとは俺も驚きだよ。それよりも俺の質問に答えろ、何故素直に行かせた?輪廻転生を拒絶してあいつの側にいながら、ようやく再会出来た期にも何も言わずに行かせた?」

 

 

甘粕の疑問は最もだろう。ここにいるゼロは闇の書の作った虚構等ではなく、時雨と共にあったゼロ本人なのだ。

 

 

生まれ変わりを拒絶して時雨の側にあり続け、この闇の書の中で時雨と会話出来る機会が訪れたというのに大した会話をすることもなく時雨を先にへと行かせた。それが甘粕にとっては不思議だったのだ。

 

 

「はっ、正彦。お前人間大好きな割には今一人間を理解してないよな」

 

 

ゼロは出来の悪い教え子を見るような目を甘粕に向け、テーブルの上にあった二匹の竜と対極の描かれた箱からタバコを取り出して火を着けた。

 

 

「私と時雨はもう別れたんだ。あの私が死ぬときに言いたいことは全部時雨に伝えた。だったら余計なことを伝える必要は無い。私が本人だってことも今の時雨からしたら余計なことだ。時雨は前に進んでいる、私の呪いのような言葉を律儀に守りながら生きている。それなら、わざわざ足を引っ張ってやる必要は無いだろ?一人立ちした我が子の後押しをするのは親の役目だからな」

「ーーーーーーーーあぁなるほど、ようやく理解することが出来た」

「やっと分かったな、出来の悪い劣等生が」

「ハハッ、俺のことを劣等生呼ばわり出来るのは後にも先にもお前だけだろうよ、()()()

「‥‥‥‥それは捨てた名前だ、呼ばないでくれ」

 

 

シグレと呼ばれたゼロは罰の悪そうな顔をしてタバコを灰皿に押し付けて火を消した。

 

 

ゼローーーーーーーーシグレは魔導を追い求める一族の一人だった。余程合ったのかシグレは魔導を追い求めていった。追い求め、追い求め、追い求め追い求め追い求め追い求め‥‥‥‥その果てで、彼女はすべてを無くしていた。だからシグレは自分の名を捨て、何も持たぬ者(ゼロ)と名乗るようになった。

 

 

甘粕とはゼロを名乗るようになってからの知り合いであり、そのしばらく後にゼロは今時雨を名乗っている少年を拾うことになる。

 

 

そして不思議なことに、その後からゼロは失うことは無かった。

 

 

「それはすまなかった、ゼロ。それにしてもあいつが俺とお前の遺伝子から生まれた者とはな‥‥‥‥何とも感慨深いではないか」

「【魔女】と【魔王】のサラブレッドだ、研究員でなくともその間に子供が出来たらという興味が合ってもおかしくは無い‥‥‥‥だけど、バラし方はもう少し気遣って欲しかったな。知ってるか?時雨の奴仕事終わってからの飯の時にいきなり【俺って【魔女】と【魔王】の遺伝子使って作られたんだってさ】とか言い出してな。思わず飲んでたスープを時雨の顔に吹き出してしまったよ」

「ハハッ!!!魔女と呼ばれたお前でも驚くか!!!」

「そりゃあ驚くさ。気紛れで拾ってきた子供が実の息子でしたとか‥‥‥‥作り物みたいな話だ」

 

 

その時のことを想像したのか甘粕は豪笑、ゼロは思い出したのか顔をしかめている。

 

 

【魔女】と【魔王】と呼ばれ、世界から畏怖されていた二人だったがその仲は決して険悪な物ではなく、古くから交遊のある友人のような雰囲気だった。

 

 

「あ~あ‥‥‥‥もう少し話していたいが時間切れだな。正彦、時雨の邪魔する奴が居たらどうする?」

「ふっ、愚問だな。あいつは俺が認めた男だ、その信念を貫こうと奮起している。それに障害として立つのなら良いが、横から邪魔しようとするのなら許さんよ」

「ぶれないよな、お前も‥‥‥‥だったら手伝え」

 

 

そう言ってゼロは家の出入り口の扉を開けた。時雨の蒼炎によって燃え尽きた集落には灰以外の何も残っていない。見晴らしの良くなったそこから見える地平線に、【ソレ】はいた。

 

 

地平線の彼方から何かが迫ってくる。砂埃を上げ、大地を揺らしながら近づいてくる。ゼロと甘粕は【ソレ】の正体を見ることが出来た。

 

 

人だ。老若男女問わずに人が徒党を組んでこちらに向かっている。その中には甘粕の見覚えのある顔もあった。

 

 

【正義の法】(ジャスティス・ロウ)。覚えているだろ?大半が自己中な奴らの集まりの集団だ。どうやら闇の書が時雨の記憶から読み取って再現したらしくてな、時雨があれの相手をしている後ろから私たちの偽者を使って刺そうとしていたみたいだぞ」

 

 

【正義の法】、(ジャスティス・ロウ)それはゼロを殺した原因を作った組織の名称で、時雨に皆殺しにされた集団でもある。時雨はその組織の末端はもちろん、血縁者に至るまでもすべてを殺した。その皆殺しの果てに甘粕の遺伝子を使って作られた人間がいたという理由で時雨は甘粕と戦うことになった。

 

 

時雨の最大の怨敵と言っても間違いない者たちが再び現れる。時雨を精神的に追い詰めるのであればこれほど効率の良い手段は無いだろう。

 

 

「なるほど‥‥‥‥確かに、あれらは八神時雨の信念の邪魔をする者たちである。それなら俺が動かねばなるまい」

「よし、なら皆殺しだな」

 

 

徐々に近づいてくる【正義の法】(ジャスティス・ロウ)の徒党を前にしてゼロと甘粕は臆することはなかった。

 

 

ゼロは時雨の後押しをしてやる為に、甘粕は自分に人間の輝きを魅せてくれた男の信念を邪魔させない為に、億もある徒党を蹂躙することを決めた。

 

 

「死んだのであれば遺恨を遺すな、疾く去ねぃ!!!亡者風情が我が息子の信念の邪魔立てをするなど神仏が認めようとも俺が認めぇん!!!!!!」

「子供を愛して守るのが親の役目だ。人のように振る舞うことしか出来なかったあいつがやっと人間となれたんだ。だから時雨の邪魔をしようというなら、燃え尽きろ」

 

 

甘粕が軍刀を引き抜き、ゼロは己の魔導の成果を書き綴った魔導書を広げる。

 

 

「殺戮のイェフォーシュアよーーーーーーーー!!!!!!」

「陽の輝きは命を育む生命の光ーーーーーーーー」

 

 

【正義の法】(ジャスティス・ロウ)の集団の先頭、その上空に鉄塊と蒼い炎球が現れる。

 

 

鉄塊の正体は、人類史における始めて実戦に使用された悪魔の兵器。

 

 

蒼い炎球の正体は、時には命を育む光となり時には命を焼く炎となる天に輝く太陽を模した魔導。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーリトルッ!!!ボォォォォォォォォォォイ!!!!!!!!!」

「ーーーーーーーー光よ、命を焼き殺す焔となれ、魔導【コロナ】」

 

 

乾いた大地を照らすように、二つの太陽が現れた。

 

 

一つは放射能と言う名の毒を撒き散らす穢れた太陽。

 

一つは命を余さず焼き殺し、生命の存在を認めない殺戮の太陽。

 

 

今ここに、時雨(しぐれ)の後押しという目的の為に【魔女】と【魔王】が手を組んだ。

 

 

 






【悲報】黄金閣下と水銀ニートと欠片男君臨。
残骸の消滅は避けられない模様。壱に還る転生は漢数字の一と伸ばし棒のーが混ざってしまって見にくいので壱と表記しています。一に還る転生の方が正しいです。作者の都合で書き換えてしまって申し訳ありません。

時雨がゼロと再会。
時雨は話したゼロのことを偽者だと思おうとしているが心のどこかでは本人だと分かっている。だから泣いた。首チョンパしたゼロは偽者。

闇の書の夢。
原作ではフェイトはあったかもしれない優しい夢を見せられていたが時雨はトラウマに近い物を見せられた。寄生虫はこの夢に溺れている時雨に自己中集団を差し向けて、その後ろからゼロたちに時雨を襲わせようとした。時雨自身はそれを乗り越えているので大した障害にはならなかった。

ゼロ&甘粕VS自己中集団。
甘粕だけでも殲滅可能なのにそこに魔導を極めたという領域に片足突っ込んでいるゼロが加わったことでオーバーキル確定。ザマァ。


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