調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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ⅩⅥ last night ③

 

 

「ーーーーーーーーヒ、ヒィ!?」

 

 

自身が最強と思い呼び出した甘粕正彦(サーヴァント)が倒された。そして甘粕を倒した時雨が自分に迫ってくるのを見て魔術師は情けない声をあげた。

 

 

時雨と魔術師の距離は遠く、時雨の歩みも一歩一歩踏み締めるかのような速さなので遅い。しかしそのことが余計に魔術師の恐怖を煽っていた。

 

 

「く、来るなぁ!!!」

 

 

顔に恐怖を浮かべながら魔術師は腕を振るう。そうして現れたのは大小様々な魔術。数は百を越え、そのどれもが奇跡(まほう)には届かないが大魔術規模の神秘を宿していた。

 

 

鉄をも溶かす炎が

すべてを砕く稲妻が

凍てつかせる氷が

空間を切り裂く斬撃が

 

 

最上級の対魔力を持つセイバーであっても死を予感させるレベルの魔術が時雨に向けられて放たれる。それを時雨は避けずに、すべて受けた。

 

 

「ハ、ハハハーーーーーーーーハ?」

 

 

当たったと確信して笑いを浮かべる物の、着弾したことで上がった砂ぼこりの中を悠然と歩く時雨を見たことでそれを止めさせられる。大魔術規模の百を越える魔術を受けながらーーーーーーーー時雨は無傷だった。

 

 

鉄をも溶かす炎も

すべてを砕く稲妻も

凍てつかせる氷も

空間を切り裂く斬撃も

 

 

時雨の歩みどころか傷つけることすら叶わない。それはそうだろう。彼は今まで、世界を崩壊させかねない規模の戦いを乗り越え、甘粕正彦(まおう)からお前は人間であると賛歌を歌われたのだ。

 

 

その人間が、目的を果たすためだけに人間であることを止めてしまった弱者に打ち倒されることなど許されない。甘粕の死に何も感じていない様に思われた時雨だったが、甘粕の信念は確と時雨に伝わっていた様だった。

 

 

「ーーーーーーーー殺す。俺の家族に害をもたらしたお前を殺す。魂が磨耗しきるまで殺し続ける。例え魂が磨耗しきったとしてもその魂を回帰させてさらに殺し続ける。人類が居なくなり、地球が寿命を終え、宇宙が消滅したとしても殺し続ける。それがお前に相応しい罰だ、寄生虫野郎」

 

 

静かに、だが確実に迫る時雨を前にして魔術師は逃げなかったーーーーーーーーいや、逃げられなかった。時雨から放たれる重圧が、魔術師の体から逃げるという行動を奪っていたから。

 

 

そしてその時は来る。時雨と魔術師の距離が、手を伸ばせば届くまでに狭まった。時雨の手が伸ばされる。その時魔術師が幻視したのは己という存在の死だった。

 

 

拳で殴られての死

素手で千切られての死

刀で斬られての死

頭を握り潰されての死

心臓を抉られての死

 

 

これから自分に訪れるであろう死のすべてを、魔術師は幻視した。

 

 

「ヒィィィイ!!!」

 

 

自分に迫る死を幻視したことでの恐怖から来るとっさの行動で、魔術師は闇の書を時雨に向かって突き出した。その時に闇の書のとあるページが開かれて、そのページに記されていた魔法が発動する。

 

 

『対象確認、蒐集を開始します』

 

 

そのページの記されていた魔法は蒐集。対象となる存在を闇の書に取り込み、優しい夢を見せて対象を闇の書の魔力に変えるという下法。闇の書から黒い泥が伸び、時雨を拘束した。

 

 

「ーーーーーーーーむ」

「ひゃーーーーーーーーひゃぁはっはッは!!あのサーヴァントを倒したことは驚いたが天は私に味方したようだな!!」

 

 

泥に拘束されている時雨を見て気分を良くしたのか、さっきまでの雰囲気を捨てて笑う魔術師。そうしている間にも泥の拘束は徐々に広がっていき、時雨を飲み込もうとしている。

 

 

「死ね!!死ね!!闇の書の悪夢の中で!!私の糧となって死ね!!」

「ーーーーーーーー」

 

 

そうして泥の拘束は時雨のすべてを飲み込み、闇の書に還っていく。そこには時雨がいた痕跡など無く、魔術師一人だけだった。術者が居なくなったからだろうか、時雨によって行われていたずらされた世界軸が元に戻り、魔術師は元の世界に帰ってきた。

 

 

「ひゃっひゃっひゃぁ!!!!!!‥‥‥‥そろそろ【根源】への道も安定している頃か‥‥‥‥ならば、この場にいる全員に引導を渡してやらねばならないな」

 

 

時雨が居なくなったことを笑っていた魔術師だったが本来の目的を思いだし、自分の邪魔をしようとしている者を排除するために開きかけている【根源】への道から【座】に干渉を始めた。

 

 

【座】とは英雄として世界に認められた者たちが記録されている空間。そこに干渉することで魔術師は自分が操っている【無限の残骸】(アンリミテッド・デッドレイズ)を媒体に英雄を呼び出すことにしたのだ。無論、正規の方法で呼び出して居ないので宝具スキルを保有していないがステータスに変化はない。端のような存在から一国を救った大英雄まで、それは残骸と対峙している者たちからすれば悪夢にも等しかった。

 

 

魔術師はこれから起こるであろう阿鼻叫喚を想像して歪んだ笑みを浮かべることを自粛出来なかった。最大の障害が闇の書に取り込まれたからといって安心してしまっているのだろう。魔術師は闇の書に取り込まれていく時雨の顔を忘れてしまっていた。

 

 

泥に拘束され、飲み込まれる時の時雨の顔はーーーーーーーー笑っていたということを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは管理局勢と魔術師勢が残骸を抑えていた地点。押している、とは言えなかったが押されているとも言えなかった戦いだったが、戦局は変わっていた。

 

 

「ねぇクロノ!!なんかあれが人の形になってから強くなってない!?」

「そんなことは分かってる!!話す暇があるなら戦え!!」

 

 

獣人の姿だった残骸が突然鎧を着たような人の形になった。獣人だったころは素手な上に本能で襲ってくるのでまだ対処が楽だったが、人の形になってから鎧に盾に剣といった武装に明らかに個々の力が強くなりだした。魔術師たちが連れていたサーヴァントのようだとクロノは感じていた。

 

 

クロノが魔力弾を放つも盾と鎧に防がれ、ユーノのバインドは締め上げる前に力ずくで千切られて行く。もはや抑えるどころか抵抗すら難しい有り様だった。

 

 

「無事かい!?」

「大丈夫!?」

「アルフ、フェイト、ありがとう助かったよ」

 

 

戦局が変わったことを察したのかアルフとフェイトが残骸を押し退けながら合流してきた。アルフの飛び膝蹴りが残骸を蹴り飛ばし、フェイトのバルディッシュの斬撃が残骸を斬るものの攻撃された残骸は未だに顕在だった。

 

 

「一気に厳しくなったねぇ‥‥‥‥なのはとアリスは?」

「魔術師たちと合流したらしい。心配は無用だろう」

「そう、良かった」

「状況は良くないけどね」

 

 

ここにいるのは四人、魔術師たちとなのはとアリスを含めたとしても十一人。それを相手するのは無限に等しい数の英霊の残骸たち。勝ち目など、那由多の彼方程に遠い。

 

 

「どうするクロノ。正直勝てる気がしないんだけど」

「‥‥‥‥時雨のことだ、こうなるのは予想していたんだろう」

「まぁ時雨ならここまでは簡単に予想できるだろうからね」

 

 

クロノはこの役目を時雨から与えられた時にこうなるだろうと時雨から言われていたのだ。元より相手は尽きることのない残骸の群れ。僅かな少数では勝てるはずがないと誰もが分かっていた。故にクロノたちに与えられた役目は足止め。それでも、いつか力尽きることを時雨は予想していた。

 

 

「だけど、まぁ‥‥‥‥」

「そうだよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「そんなに簡単に予想できることを、時雨が対策していないはずがない」」

 

 

クロノとアルフがそう言いきった瞬間、目の前の残骸の群れに目掛けて赤い閃光が、氷炎疾風が、雷が降り注ぐ。奇襲にも近いその攻撃はアルフとフェイトの攻撃を受けても顕在だった残骸の群れの一部を蒸発させた。

 

 

「ほらな、予想通りだ」

「やっぱり時雨のことだから保険の一つや二つは用意してると思ってたよ」

 

 

突然の攻撃に二人はユーノとフェイトのように困惑した顔ではなく、やっぱりなとでも言いたげな表情だった。そして四人の側に時雨が施した対策が現れる。

 

 

蒼い戦闘衣装の槍兵、ランサー

男装の執行者、バゼット・マクミラン

着物を着崩した狐の獣人、ビースト

黒衣の神父コトミネ・キレイソン

殺人喜、七夜信喜

ローブ姿の魔女、キャスター

小太刀二刀を構えた剣士、高町恭也

魔術師、荒耶宗蓮

 

 

闇の書勢の外部協力者として時雨に手を貸していた、魔術師たちとサーヴァントとなのはの兄がそこにはいた。

 

 

「久しいな、クロノ・ハラオウン」

「コトミネ・キレイソンさんでしたか?貴方方は協力してくれると思ってもよろしいですか?」

「無論だ。我々もあれらに好き勝手にやられるのは困るのでな、そうであるならこの一時手を取り合う理由になると思うのだが?」

「‥‥‥‥それが本音ならこちらは喜んで手を貸しますよ」

 

 

そう言ってクロノはコトミネたちに対して警戒を無くして残骸に立ち直る。いつものクロノなら協力するにしても警戒を怠るようなことはしなかっただろう。だが、時雨という人間で繋がっている彼らなら大丈夫だろうと、クロノは根拠の無い確信をしていた。

 

 

「ところで、相手はゴキブリのように絶えず沸いてきますが大丈夫ですか?」

「はっ!!それってつまりは飽きるまで延々と戦えるって事だよなぁ!!」

「まったくこの世はホントに地獄だぜ!!しかぁし!!その修羅道が俺の望む道だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「「ヒャッハァァァァァァァ!!!!」」

 

 

ランサーと恭也が自分の武器である赤い槍と小太刀二刀を振り回しなが嬉々として残骸に飛び込んでいく。普通なら自殺のようにしか思えない光景で数秒後には囲まれてリンチされている姿が見えるはずなのだが、二人は圧倒的な質量差をものともせずに残骸を殲滅していた。

 

 

「うわぁ‥‥‥‥」

「何あれ?」

「見事までに戦闘狂だねぇ‥‥‥‥」

「すいません‥‥ランサーは戦いを望んでいる節があるので‥‥‥‥あ、私はバゼット・マクミランと申します」

「恭也も戦闘狂だからな‥‥‥‥サーヴァントで呼ばれるとしたらバーサーカーだろうね。あ、俺は七夜信喜だ」

「キャスターよ‥‥‥‥ねぇ、そこのお嬢さんと僕たち?これが終わったら良いことしない?」

「黙りやがれですこのロリショタ好きのBBA 。あ、私はビーストと申します。お見知りおきを」

「ーーーーーーーービースト、今なんて言ったのかしら?」

「おやおや、どうやらお年を召されて耳が遠くなっているようですねぇ?」

「あらあら、あざとい狐が何やらほざいているわね。見苦しいったらありゃしないわ」

「ーーーーーーーー」

「ーーーーーーーー」

「「ちょっと顔貸しなさい(貸しやがれ)!!」」

 

 

自己紹介から何故か取っ組み合いの喧嘩に発展しそうになるキャスターとビースト。どうやらこの二人は混ぜるな危険と書かれた洗剤の様である。

 

 

「はいはいそこまで」

「ビースト落ち着け、すべてが終わったから好きなだけやればよかろう」

 

 

信喜とコトミネがキャスターとビーストの間に入って殴り合いになる前に阻止する。手慣れた様子からこれは日常的なことらしい。信喜はともかくコトミネなら二人の殴り合いを見てニヤニヤしていそうだが状況が状況の為に止めたようだ。

 

 

「あの‥‥‥‥この結界を張っているのは貴方ですか?」

「そうだ少年。私は荒耶宗蓮、魔術師だ」

「対物理と魔法、それに加えて空間の隔離をこんな小規模で‥‥‥‥」

 

 

いつの間にか荒耶によって張られていた結界を見てユーノは興味深そうにしている。ユーノが使えるのは科学によって発現する魔法、だから魔術師の使う魔術はユーノからすれば興味の対象になるのだろう。残骸の大半は二人してヒャッハーしているランサーと恭也に向かい、残りが向かってくるのだがそれは荒耶の結界によって防がれていた。

 

 

「‥‥‥‥コトミネさん、援軍はこれだけですか?」

「不満かね?それなりの猛者を集めたつもりなのだが?」

「いや、時雨のことだから一国の軍でも連れてきそうだと思ったのですが」

「‥‥‥‥時雨なら出来てしまいそうで怖いな。残念ながら、私が連れてきたのはこれで全員だ」

「ーーーーーーーーあらあら、楽しそうにしてますね」

 

 

上空から、一人の女性が結界内に侵入してきた。黄緑のドレスのようなバリアジャケットを着た女性をクロノは知っていた。彼女は今アースラにいるはずの闇の書の騎士の一人、シャマルだった。

 

 

「君は闇の書の騎士の、何故ここに?」

「ふふっ、シャマルだと思った?残念!!サーヴァントのナーサリーライムでした!!まぁ正確にはナーサリーライムの力がシャマルの姿を象った存在なんだけどね」

「ナーサリーライム‥‥‥‥たしか童話のことだったな‥‥‥‥なるほど、概念の英霊だからマスターの姿を写したのか」

 

 

シャマルの姿をした女性の正体はシャマルの使っていたカードであるナーサリーライムだった。親しい者なら分かるのだろうがシャマルとまったくと言って良いほどに接点の無い者が見たなら本人と間違ってもしょうがなかった。

 

 

「何故ここに?シャマルに着いていったのではないのか?」

「彼女からここに来るように言われたのよ。消耗戦をしているだろうから手伝ってやれだって」

 

 

そう言ってナーサリーライムが腕を一振りする。すると虚空から一冊の本が現れた。その本のタイトルは【Alice in wonder land】。

 

 

「さぁみんな!!不思議の国からいらっしゃい!!」

 

 

本が開かれ、ナーサリーライムの言葉に従うように物語の住人たちが虚構から姿を現す。

 

 

 

如意棒と金斗雲を携えて!!旅のお供はサンゾー様と猪八戒に沙悟浄!!天竺目指してひたすら進め!!【斉天大聖孫悟空】!!

 

綺麗なドレスと真っ赤な大鎌!!いらない首も素敵な首も、全部まとめてチョン切っちゃえ!!全部女王の気の向くままに!!【赤の女王】!!(クイーンオブハート)

 

 

 

胴着を着て、棒を持った猿の獣人が

 

赤いドレスを着て、大鎌を持った髑髏(しゃれこうべ)

 

姿を現す。

 

 

そしてさらに、赤銅の体を持つ正体不明の怪物が現れる。

 

 

 

荒ぶる思いで歩みを止めれば燃え滾る炎を瞳に宿したジャバウォック!!鼻息荒々しくタルジの森を駆け下り眼前に嵐の如く現れる!!

 

一撃、二撃!!一撃、二撃!!ヴォーパルの剣で切り裂いて悪たる獣が死するとき!!その首を持って、意気揚々と帰路につかん!!

 

 

 

「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」

 

 

現れた怪物は少女の夢見たワンダーランドの一角にいた正体不明の怪物。大気を震える程の咆哮をあげながら赤銅の巨体を荒々しく揺らして残骸に向かって駆けていく。

 

 

孫悟空の如意棒が残骸の鎧を砕き

 

赤の女王(クイーンオブハート)の鎌が残骸の首を跳ね

 

ジャバウォックの一撃が残骸をまとめて粉砕する

 

 

虚構の存在でありながら世界すべての人間から崇拝される存在の彼らが、人間に害をなそうとする残骸を次々と駆逐していった。

 

 

「ーーーーーーーーこれで、ここは良しね」

「ここは?その口振りだと他にもいるのか?」

 

 

ナーサリーライムが呟いた言葉にクロノが反応した。他にもいるなら何故集まっていないのか疑問に思ったからだ。相手は無限に等しい数の英雄の残滓、それを目の前にして少数で挑むなど自殺行為と同じだ。

 

 

「えぇ、いるわよ。助っ人は今来た人達に彼の家族たち」

 

 

その時、この空間の三方から、天が割れんばかりの轟音が響いた。

 

 

一方には天に届く程に巨大な炎剣と真紅の螺旋が

 

一方には爆炎に轟雷と闇

 

一方には破壊の衝撃と命を吸い取る剣の城塞

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「憐れな残骸共よ、八神が全戦力を持って殲滅するわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残骸が駆ける。魔術師によって作られた穢れた大地を魔術師によって与えられた仮初めの体を持って駆ける。それらの目的は一つ、魔術師の目的の邪魔をする存在の排除。

 

 

【根源】に挑み破れた者や【根源】に至る為に犠牲になった者たちが残骸と成り果て魔術師の手足となっている。その事を疑問に思う残骸はいない。疑問に思う知能すら失ってしまっている。

 

 

それらには意思は無い。絞り滓のように残った【根源】への欲求と魔術師の意思によってそれらは動いていた。

 

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーー君たちが、この騒ぎの一端かい?」

 

 

残骸の足が止まった。

 

 

残骸に声をかけたのは金の髪をもった少年。彼は万を越える残骸を前にしながら臆することなくその赤眼を残骸に向けていた。そしてその少年の傍らに少年と同じ金の髪をもった少女がいた。顔は俯かせているので見えないが、二人の子供がこの場にいることは場違いとしか思えなかった。

 

 

残骸の足が止まり、二人の子供に引き寄せられる。理由など知能の無いそれらには理解することができない。まるで本能が彼らに惹かれている様だった。

 

 

「反魂香、君らのような存在には常套句でね。わざわざ宝物庫から引っ張り出した甲斐があったよ」

「ーーーーーーーーギル君、これがそうなんですか?」

「そうだよユーリ、これが原因の一端だ」

 

 

少女が少年をギルと、少年が少女をユーリと、互いの名前を呼び合う。子供である彼らが似合わないこの場にいる理由は一つだけーーーーーーーー彼らが慕う存在に乞われたからだ。

 

 

「時雨が頭を相手してる。で、僕らはこれの相手さ。いつもの僕なら頭一人に責任とらせてそれで終わりなんだけど‥‥‥‥今回のことは流石の僕も頭にきた」

「そうですか‥‥‥‥」

 

 

ユーリが顔を上げる。その顔は幼いながらにも愛らしい顔付き。しかし、その顔には表情が無く、瞳には光が失われていた。

 

 

「■■■■■■■■ーーーーーーーー!!!」

 

 

知能を失った、感情の無いはずの残骸が吼える。

 

 

あれらは危険だと

存在を許してはならないと

 

 

団結することの無いはずの残骸が、目の前の驚異の排除という目的に、することの無い団結をした。ギルとユーリを取り囲うように集まり、四つの残骸によって出来た山を作る。そして四方から同時にギルとユーリを押し潰しーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーよろしい、ならば開幕だ」

「ーーーーーーーーシステムU-D(アンブレイカブル・ダーク)起動」

 

 

ーーーーーーーー爆散した。黄金の閃光が残骸を切り裂き、妖しく揺らめく豪腕が残骸を粉砕する。

 

 

爆発により炎が燃え盛る。穢れた世界を照らす業火を掻き分けて現れたのは黄金の処刑人と紫天の破壊者だった。

 

 

子供であったはずのギルとユーリの姿は変わっていた。二人とも未熟な体から成熟した体へと変わっている。

 

 

ギルは自身を守る黄金の鎧を捨て、上半身は裸。鍛え抜かれた体には炎を思わせる深紅の紋様が刻まれている。これは人の身であった時にさえ出したことのなかった、慢心こそが王の在り方であると豪語しながら、その慢心を捨てて全力を出すと誓ったギルの本領。

 

 

ユーリは腹部をさらけ出すような妖艶な衣装に身を包み、背中から四本の豪腕を生やしている。しかし体を成熟させながらその顔はやはり無表情。光の無い瞳を敵と認識した残骸に向ける。他者を傷つけることを嫌う性分でありながら家族を傷つける存在を廃すると決めたのだ。

 

 

己が生き方や性分を捨て、黄金の処刑人と紫天の破壊者は残骸を見下す。

 

 

「光栄に思え。今宵一夜限り慢心を捨て、我が財を出し惜しむことなく使うことを誓ってやろう。故に、死ぬ気で足掻け、雑念共。さすればその命、夜明けまで持つやもしれぬーーーーーーーー!!!!!!!!」

U-D (アンブレイカブル・ダーク)の起動確認。永遠結晶の稼働、異常無し。これより、敵対勢力の殲滅を開始します」

 

 

怒りに燃えるギルとは対称的にユーリは淡々と機械のように判断を下す。

 

 

システムU-D(アンブレイカブル・ダーク)。それはユーリに埋め込まれた永遠結晶を守るために組み込まれた防衛システム。それは時雨と闇の書の騎士たち、そしてマテリアルの三人らの手によって取り除かれたがすべてが無くなった訳ではなかった。僅かに残ったU-D (アンブレイカブル・ダーク)のシステムの残滓、それをユーリは自分の意思で修復し、改善した。本来なら存在する生命を無差別に破壊するシステムをユーリが敵と認識した存在だけに向けることに成功したのだ。

 

 

ユーリは優しい少女だ。だから時雨が家族を守ろうと奮闘しているのを知って、自分も力になりたいと願った。そしてーーーーーーーー自分を狂わせたシステムを再び受け入れた。

 

 

永遠結晶は永久機関ーーーーーーーー言ってしまえば、無限に魔力を精製することができる。それは持ち主であるユーリにも手に余る物であった。しかしU-D (アンブレイカブル・ダーク)は永遠結晶を十全に使い、敵対勢力を排除することが出来た。

 

 

だからユーリは、自分を狂わせたシステムを受け入れた。忌み嫌った力を使ってでも、家族を守るために。

 

 

「状況把握。魔法【エンシェント・マトリックス】発動」

 

 

四本の豪腕がユーリの胸に置かれ、そこから巨大な炎剣を取り出した。永遠結晶から産み出された炎剣は煌々と燃え盛る。

 

 

炎剣の一閃。そのサイズににつかわない速度で振るわれた炎剣は鎧に包まれた残骸を紙のように切り裂く。

 

 

炎剣の一投。地面に突き刺さりユーリの制御から離れた魔力が爆ぜ、業火となって残骸を灰塵へと帰した。

 

 

天使のような容姿でありながら、敵対する存在に死を与える死神。これが、これこそが、紫天の盟主であるユーリの真の姿だった。

 

 

「ーーーーーーーー天の鎖よ!!」

 

 

ユーリがその暴力を振るうすぐそばで、ギルは左手を掲げる。すると左手に巻かれていた鎖が意思があるかのように動き、残骸の群れを縛り上げた。

 

 

天の鎖ーーーーーーーーギルの唯一の朋友であるエルキドゥの名を持った鎖は彼が絶対の信頼をおく宝具。その束縛からは誰も逃れられず、例え神であってもその束縛から逃れることはできない。

 

 

いつものギルならば天の鎖が穢らわしい残骸に触れることを嫌うのだが今宵一夜は財を出し惜しむことはしないと決めた。それにエルキドゥならば笑って許してくれるとギルは信じていた。

 

 

残骸が束縛から逃れようともがくが鎖は緩まずにさらに拘束を強める。かつて天を覆い尽くした雄牛をも縛ったそれが残骸程度に抜けられることなど有り得なかった。

 

 

「ーーーーーーーー起きろエアよ」

 

 

ギルの右手が宝物庫に入れられ、そこから奇妙な形状の剣が現れた。刀身は三等分された円柱で、その刀身と柄があるという事実を持って剣としている。

 

 

その剣には銘など無かった。担い手からの呼び名はエアとだけ呼ばれている。その剣は原初において天地を切り開いた天地創造の一振り。あらゆる宝具を複製することができる贋作者(フェイカー)ですら複製出来ないと断言した、最古の王だけが持つことを許された王の剣。

 

 

「これが貴様に相応しくない相手であることなど分かっている。だが、地獄を知る者として教授せねばなるまい‥‥‥‥真の地獄がいかなる物であるかをなぁ!!!!」

 

 

三つに分かれた刀身が回転を始める。そこから産み出されるエネルギーは人の手におえるものではない。そのエネルギーから放たれるのは空間をも切り裂く絶対切断。世界を遮断でもしなければ防ぐことが出来ない一撃。

 

 

「ーーーーーーーー天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 

 

天が割れ、そこから“地獄”が姿を見せた。

 

 

人の想像によって描かれた罪人を裁く世界などではない。生命すべてを否定する混沌。

 

 

そう、その混沌を切り裂き天地を創造した乖離剣は残骸に教授していた。

 

 

この生命を許さない原初の地球の姿こそが、真の地獄であることをーーーーーーーー!!!!

 

 

「ーーーーーーーー何案ずるな。すぐにそちらも賑やかになる。心配せずともそちらは満たされることな無いだろう」

 

 

天に現れた地獄に堕ちる残骸を見ながらギルはそう断言し、次なる残骸へと目を向けて宝物庫から財を射出しながらエアと天の鎖を手にして残骸を葬っているユーリと合流した。

 

 

残骸は尽きることなく沸き出してくる。それは本領を発揮した英雄王と拒絶したシステムを受け入れた紫天の盟主がいても変わらぬ事実。

 

 

しかし、それに立ち向かうのは二人だけではない。

 

 

思いを同じにした同胞が、他にもいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獄炎が踊り、雷鳴が轟き、闇が深淵にへと誘う。この現状をかたるならそれで十分だろう。炎が、雷が、闇が、群れをなしている残骸を襲い、この世から退場させている。

 

 

この惨状を作っているのは三人の女性だった。

 

 

一人は茶髪をまとめただけの髪型に杖を構え

 

一人は水色の髪を縛らずに伸ばし鎌を握り

 

一人は色素の抜けた髪を肩まで伸ばし本を持つ

 

 

彼女らの名前はシュテル、レヴィ、ディアーチェ。平行世界で永遠結晶を埋め込まれたユーリを守護する為に創られ、この世界にやって来て八神時雨の娘となったマテリアルと呼ばれる魔導師たちだった。

 

 

彼女たちの実年齢ーーーーーーーー創られた時の肉体的な年齢は十に届かぬ齢であったがその未熟な体ではなく、成長した体で残骸を葬っていた。

 

 

「ーーーーーーーーなるほど、十年経てばこの様になるのですね」

 

 

自分の体を確かめるようにシュテルは手を開閉させながら片手間で獄炎を操り残骸を滅する。知のマテリアルを名乗り炎を操る彼女からすればこの程度は造作もない。

 

 

「これで‥‥‥‥これでようやく!!時雨に【自主規制】を迫ることができる‥‥‥‥!!!!」

「落ち着かんか阿呆が!!!!」

 

 

何やらアホなことを叫んだシュテルをディアーチェが手に持っていた本で殴る。それも角で。これは痛い。

 

 

「何をするんですか貧乳。胸が貧しいと心まで貧相になるんですね」

「貧乳言うなぁ!!!するべきことをキチンとすればまだ可能性があるわ!!!」

「ディアーチェ落ち着きなよ。カリカリしてもしょうがないじゃん」

「黙れ巨乳が!!!持つ者には持たざる我の気持ちは分からぬわ!!!」

 

 

ディアーチェを慰めようとしたレヴィだったがそれは逆効果なようで、血の涙を流しそうな気迫のディアーチェに叱られることとなる。

 

 

ちなみに胸のサイズだがレヴィ>シュテル>>>(越えられない壁)>ディアーチェである。これは泣きたくなる。

 

 

「それにしてもギルはスゴいね。大人になれる薬を持ってるだなんて」

「‥‥‥‥まぁあやつはこの世すべてを自分の財と言い張るような奴だ。大人になれる薬の一つや二つ持っていてもおかしくない」

 

 

そう、本当だったら子供の姿のままで残骸と戦うつもりだった子供たちだが、ギルから渡された薬を飲んで大人になっている。ギルの宝物庫には神々の財宝だけではなく、人が作り出した物の原典までも武器道具のジャンルを問わずに納められている。その蔵の中には大人を子供にする【若返りの薬】があれば、その反対の子供を大人にする【成長薬】もある。

 

 

それを使いマテリアルたちは自分達の可能性の一つである未来の自分の姿となり残骸に対峙していた。

 

 

残骸が獄炎を乗り越えて三人に迫る。残骸が手にした槍を投げ、弓を引き絞り矢を放つ。向かってくる残骸の数は百を越え、迫る凶器の数は万に届くほど。三人を殺すには過剰すぎる数を持って残骸は三人を排除しようとしていた。

 

 

「ーーーーーーーー温いですよ」

 

 

シュテルが炎球を五十展開し、それを放って迫る残骸を葬る。

 

 

「ーーーーーーーー遅いよ」

 

 

レヴィが雷と同等の速度を持って迫る残骸を通りすぎる。それだけでシュテルの討ち漏らした残骸すべてが切り刻まれる。

 

 

「ーーーーーーーーアロンダイト」

 

 

ディアーチェが本ーーーーーーーー紫天の書を開き、そのページに記されていた魔法を発動する。そこから砲撃が放たれ、迫る凶器の一つに触れた瞬間に爆ぜて、衝撃波を撒き散らしながら万に届くほど凶器をすべて砕いた。

 

 

時雨は彼女たちのことを娘として接していたが彼女たちはマテリアル。マテリアルの本質は永遠結晶を守ることである。言うなれば闇の書における騎士たちに近い。その彼女たちが弱いはずがない。個々の力も去ることながら、彼女たちの戦い方は三人が揃って戦うことにある。

 

 

知のマテリアルであるシュテルと力のマテリアルであるレヴィ、その二人を率いる王であるディアーチェ。その三人を持って、マテリアルは永遠結晶を狙う万敵を葬る戦士として創られた。三人揃って戦うのであれば例え万敵を前にしたとしても、それを滅ぼすことが出来る。彼女たちにはそれが出来る自信と実力があった。

 

 

そして今宵、マテリアルたちはその役目を捨て、たった一つの感情をもって残骸と対峙していた。

 

 

「我が炎は獄炎の炎。彼の者らを導き怨敵を滅する業火。故に滅する。我らを害し、彼女を泣かせ、時雨を苦しめる存在を私は一秒一瞬たりとも許しはしない」

 

 

「僕はお前たち嫌いだ。お兄さんを困らせてはやてを泣かせてシグナムたちを苦しめる‥‥‥‥だから消えてなくなれ。僕の雷でお前たちの一切を打ち砕く」

 

 

「貴様らは罪人だ。王である我が認めよう。故に我が裁く。我らの家族を苦しめたという万死に等しき罪をもって貴様らを我自ら裁いてやろう。夜明けまで生き永らえると思うなよ、芥共」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「消え失せろ、害虫が」」」

 

 

星光の殲滅者が、雷刃の襲撃者が、闇統べる王が、創られた者としてではなく、自らの意思で残骸を滅する。

 

 

業火が踊り、雷鳴が轟き、闇が深淵にへと誘う。

 

 

今ここに、彼女たちの怒りに触れた残骸(ざいにん)の末路が決まった。

 

 

 





残骸が疑似英霊にランクアップ。残骸を依代に呼び出しているので宝具スキルは無いがステータスは本来のまま。イスカンダルの王の軍勢に近い。ただしこちらは無限沸き。

闇の書勢の魔術師組がログインしました。キャスターとビーストは微妙に不仲でその他はまともですが、ランサーの恭也は無限沸きの疑似英霊を前にしてヒャッハーしているようです。そりゃあ戦闘狂からしたら強い敵の無限沸きとか御馳走に近い。

慢心を捨てたキャストオフ英雄王とU-D(アンブレイカブル・ダーク)を自由に使える大天使ユーリが降臨。想像してごらん。油断することない最強の一角の英雄王と闇の書の暴走体と同格らしい力を自由に使える大天使が全力を出しているところを‥‥‥‥折れることのない死亡フラグでしかねぇよ。

マテリアル三人娘本領発揮。接近戦のレヴィに移動出来る砲台のシュテル、広範囲爆殺可能なディアーチェ‥‥‥‥殺戮確定、はっきりわかんだね。

子供組は全員ギルが宝物庫から引っ張り出した成長薬を使って大人になっています。これの準備の為に時間をおいて彼らを投入した訳です。身体能力の上昇にリンカーコアも成長している‥‥‥‥確殺待ったなしですわ。

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