調律者は八神家の父   作:鎌鼬

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ⅩⅤ last night②

 

 

「ーーーーーーーーふぅ、ここら辺なら大丈夫ですかね」

 

 

そう言いながら眼帯を着けた猫の獣人の女性ーーーーーーーーリニスは地面を削り、砂ぼこりを上げながら停止する。振り返っても誘ったペイルライダーの姿は見えない。それはそうだ。ライダーとバーサーカーのダブルクラスで呼び出されたリニスとライダーとして呼び出されたペイルライダーとのステータスは大きく離れている。リニスは敏捷はA+++、ペイルライダーは純粋な英霊で無いからかDという比較になら無い程の差だ。それでもペイルライダーの気はリニスに向かれているらしく、追ってくる気配は感じられる。

 

 

「‥‥‥‥シグナムと時雨も始めたみたいですね」

 

 

ここから離れた二ヶ所から、別々の戦いの気配が感じられる。野生の獣というのは総じて気配に敏感である。それは使い魔になったリニスも含まれていた。スキル【気配察知】はDという低さではあったがそれでもどこかで戦いが行われている事ぐらいは察知出来た。

 

 

「時雨は心配ないですね、だって時雨ですから。それだとシグナムが心配ですね‥‥‥‥偽者だとしても相手はギルですから」

 

 

リニスが時雨によせる信頼は絶大だった。例え神様が相手だろうが、時雨ならば下す。他の誰でもない、時雨だからこそリニスは誰よりも時雨の強さを信じていた。そうなると心配なのはシグナム。魔力を抜かれて時雨の手によって完治したと言っても病み上がりに近い状態、それに加えて相手はギルガメッシューーーーーーーー神々が現存する時代に初めて人として王となった原初の王、英霊のシンボルである宝具の原典をすべて所持している規格外の存在。味方であれば心強い存在だが敵に回るとこれほどまでに厄介な存在はない。時雨ならば笑顔で蹂躙することが出来そうなのだがシグナムがギルガメッシュに勝てる光景などはっきり言ってリニスには想像できなかった。

 

 

「ま、心配するだけ無駄ですかね。時雨が勝てると言ったのなら勝てるのでしょう」

 

 

そう、彼らと別れる前に時雨ははっきりと言っていたではないか。

 

お前たちなら、お前たちだからこそあいつらに勝てると。

 

 

時雨は出来ないことを口にしないし、出来ないことを押し付けたりもしない。理由にしてみればそれだけなのだがリニスがシグナムに対する憂いを断つのには十分すぎる理由だった。

 

 

「それに‥‥‥‥心配している余裕も無さそうですからね」

 

 

リニスの視界にペイルライダーが映った。しかし数は単騎ではなく、残骸のように群れを成してはいるが。

 

 

「病気と聞いて何となく予想はしていましたがここまで再現しなくても良いのに」

 

 

病気の大本である菌・ウィルスは少数では病気として機能しない。ならばどうするか?簡単なことだ、分裂して数を殖やして発病するのだ。番を成して繁殖するのではなく、単細胞だからこそできる分裂しての増殖、それがペイルライダーがクラス別のスキルとは別に持っている固有スキル【増殖】。効果は単純に魔力さえあるのなら自分と同ステータスの存在を作り出せるというもの。並の魔術師ならば枯渇するが、幾つもの世界を食い潰して魔力を蓄えている闇の書を保持している魔術師から使いきれぬ程の魔力が供給されている。それによってペイルライダーは際限無く自己を増殖していた。

 

 

「私がサーヴァントだから良いものをもし生前だったら発病してますよ‥‥‥‥これは後で時雨からご褒美貰っても許されるレベルですね」

 

 

迫りながらも数を増やしているペイルライダーの群れを見ながらリニスはそう呟き、手にしていた短剣を握り直して ペイルライダーへと向かっていった。

 

 

敵は無数に増える個の群勢に対してリニスは唯一の個人。第三者から見れば勝ち目の無い戦いであるがリニスは戸惑うこと無く個の群勢にへと立ち向かう。

 

 

その理由は至極簡単、時雨に任せられたから。その笑われる様な理由であっても、リニスからすれば万の大義名分に勝る理由だった。

 

 

従者は踊る。従者は踊る。

 

主の願いを叶えるために。

 

病魔と踊る。病魔と踊る。

 

かけがえの無い家族を救うために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リニスがペイルライダーと対峙している地点の反対方向、そこでは穢れた世界ににつかわない黄金が輝いていた。黄金の鎧を纏い、黄金の船の船に乗っているのは黄金の男。黄金の男は船に付けられている玉座に足を組ながら座り、地べたを這う存在に向けて背後に現れている黄金の渦から武器を射出していた。

 

 

黄金の男こそが原初の王となった王の中の王、ギルガメッシュ。彼の宝具は彼が生前に集めた財を保管した宝物庫【王の財宝】(ゲート・オブ・バビロン)。すべての英霊に対してジョーカーとなれるそれをただ一人の個人に向けて放っていた。

 

 

「どうした傀儡、あれだけの見栄を張っておいてその程度か。ならばせめてその散り様にて(オレ)を興じさせよ」

 

 

ギルガメッシュがさらに宝物庫から剣を射出する。大気を切り裂きながら迫る宝具の原典は端の英霊ならば抵抗することも許されずに蒸発する。

 

 

それを地面を駆けていた人物ーーーーーーーーシグナムは臆することなく剣を見つめた。

 

 

「投影開始ーーーーーーーー!!」

 

 

シグナムの手に剣が現れる。それはシグナムの愛剣であるレヴァンティンではなく、ギルガメッシュが射出したのと同じ剣。その剣をシグナムは射出された剣にぶつける。すると二本の剣は粉々に砕け散った。

 

 

「投影魔術‥‥‥‥所詮は贋作を作り出すことしか出来ぬ贋作者(フェイカー)であるか」

 

 

シグナムが行使しているのは投影魔術。ギルガメッシュが言った通りに贋作を作り出すことしか出来ない魔術ではあるが、だからこそシグナムはギルガメッシュと対峙することが出来た。

 

 

「不愉快な真似を‥‥‥‥人にすら成れぬ偽物であるなら偽物らしく塵となれ」

 

 

黄金の渦の数が増え、十の宝具の原典が同時に射出される。それをシグナムは先程のように投影した宝具で相殺させるのではなく、回避することを選んだ。宝具の原典の直撃は避ける物の地面に突き刺さることで起こる爆発と地面の破片がシグナムの身を削る。それでもシグナムは真っ直ぐにギルガメッシュのことを睨み、投影した弓に剣を三本つがう。

 

 

「赤原を駆けよ、赤原猟犬ーーーーーー!!(フルンディング)

 

 

宝具の射出の終わりを狙った弓による狙撃。放たれた剣は真っ直ぐにギルガメッシュに向かいーーーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーーふん、下らん」

 

 

ギルガメッシュが玉座の肘掛けを指で叩いたことで上昇することでかわされた。ギルガメッシュの乗る船はヴィマーナ。ヴィマーナは乗り手の意思によって高速で飛翔し、慣性の法則を無視した動きをすることを可能にしている。故に、かわされたことは驚く様なことではない。シグナムもかわされることを前提で、この剣を放ったのだから。

 

 

「ーーーーーーーー食らい付け」

「何っ!?」

 

 

シグナムの放った剣が弧を描きながら旋回し、ヴィマーナの後方部にすべて突き刺さる。シグナムの投影した剣の銘はフルンディング、血を吸う魔剣として有名であるそれはとある弓兵の手によって追尾機能を持った剣に改造されていた。そして慢心していたギルガメッシュはそれを甘んじて受けてしまいーーーーーーーー

 

 

壊れた幻想!!!」(ブロークン・ファンタズム)

 

 

剣が爆ぜた。これは宝具を使い捨てることで内包されている魔力を爆発させる技法。本来ならば宝具は使い捨てることのできない物であるが宝具を投影することができるシグナムはその事を気にせずに使用することが出来た。フルンディングに込められていた魔力を起爆剤とした爆発は例えセイバーであっても致命傷を負うほどの威力だったーーーーーーーー

 

 

「ーーーーーーーーおのれ‥‥‥‥っ!!傀儡の分際で天に仰ぎ見るべきこの(オレ)を同じ大地に立たせるか!!」

 

 

が、ギルガメッシュは無傷。それどころかヴィマーナを壊されて地面に立たされたことに憤怒の表情を浮かべていた。ギルガメッシュを守ったのは黄金の鎧。王である彼の為に設えられた鎧は王の身を守る盾となる。

 

 

「その不敬万死に値する!!そこな傀儡よ!!もはや肉片一つも残さぬぞ!!」

 

 

怒りのままにギルガメッシュは手を挙げ、黄金の渦の数を増やした。現れた宝具の数は三十二、いかに冷静さをギルガメッシュが欠いているとは言えどその宝具を一斉に射出されればシグナムは避けることができない。

 

 

ーーーーーーーーよって、シグナムの取った手段は迎撃だった。

 

 

「ーーーーーーーー投影開始」(トレース・オン)

 

 

時雨の右腕に宿っている魔術回路を起動させて、宝具三十二を凝視する。布を取っていない状態であるが魔術を使えば時雨の腕はシグナムを侵食するはずだった。しかし今ではその侵食は一切起きていない。これも時雨が言っていた細工とやらのお陰だろう。

 

 

「ーーーーーーーー憑依経験、共感完了

ーーーーーーーー工程完了、(ロールアウト)全投影待機!!」(バレットクリア)

 

 

シグナムの背後に、ギルガメッシュの宝物庫から現れた宝具と同じものが投影され、空中で待機している。

 

 

(オレ)の宝具を投影したか、ならばーーーーーーーー」

停止解凍(フリーズアウト)ーーーーーーーーっ!!」

「裁定をしてやろうーーーーーーーー!!!」

全投影、(ソードバレル)一斉層写(フルオープン)ーーーーーーーー!!!」

 

 

ギルガメッシュの宝具の原典と、シグナムの宝具の投影品が同時に放たれたーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」

 

 

有らん限りの咆哮をあげながら殺し合っているのは復讐者(アヴェンジャー)の時雨と、裁定者(ルーラー)の甘粕だった。元の世界とはずらされた世界の中で二人は大気を震わせ、大地を砕き、世界を軋ませながら目の前にいる敵を殺そうとしていた。二人が殺し合っている理由など簡単だ。甘粕は裁定者として人の前に敵として立ち、時雨は復讐者として害を成そうとするものを葬る。それだけのことで?と考えるかもしれない。話せば分かり合えるのでは無いかと思うかもしれない。しかしそれは無駄なことだ。何故なら、二人はすでに互いのことを理解しているから。

 

 

時雨は甘粕に対してこう言うだろう。

 

ー他人のことを期待している気持ちは分かる。まぁやり過ぎてる感はあるがな。

 

 

甘粕は時雨に対してこう言うだろう。

 

ーあぁ分かるぞ。例え血の繋がりが無くとも心で結ばれた家族を守りたいと願うのは人として当然のことだ。

 

 

その上で、二人はこう結論付ける。

 

ーーだか、それは俺の信念を否定してまでも受け入れることではない。

 

 

二人は互いのことを理解し、その上でなお自分の信念を貫こうとしている。甘粕は人の輝きを見届ける為に、時雨は大切な家族を守る為に。だからこそ、二人は殺し合っているのだ。

 

 

ーーーーーーーーお前よりも、俺の信念の方が強いのだと相手に分からせるために。

 

 

時雨の焔華(ホノカ)と甘粕の軍刀がぶつかり合い、金属特有の高い音をたてながら世界を軋ませる。二人の戦いは災害としか言い様がなかった。一挙一動が世界を崩すほどの負荷を与える。もし魔術師が抑止力を抑えていなければ真っ先に働いていてもおかしくない程だった。目に見える二人のぶつかったのは三度だけ。しかし聞こえる金属音は百を越える。これは二人がぶつかり合った三度の間に三十を越える攻防を行っていたことの証だった。

 

 

打ち合わせてもいないのに二人は同時に距離を取り、高速で動きながら相手の隙を伺う。サーヴァントでもその二人の戦いに着いていくことが出来る者などいないだろう。それはそうだ。

 

 

時雨は魔女に拾われ、その所業から【死神】と呼ばれ恐れられていた。

 

 

甘粕は人々の輝きを見届ける為に人類の敵となり、その所業から【魔王】と呼ばれ恐れられていた。

 

 

この世界の人間が人外と呼んでしまうような人間がいる世界で、二人は【人外】として恐れられていたのだ。であるならば、人の理解が追い付かないような戦いをしたとしてもおかしくはない。

 

 

甘粕の動きはまさに王道と言っていい。純粋な努力を積み上げて磨き抜かれた技術である。彼は人間に試練を強要しているがだからといって自分がそれをしないわけではない。人類の敵である為に人間の技法すべてを鍛え上げているのだ。サーヴァントとなった今でもそれは変わらず、己が極めた技法を持って裁定者として立つ。

 

 

それに対する時雨は邪道と言うしかないだろう。何故なら彼の剣は人の研鑽によって産み出された技法ではない。ただ母から貰い受けた焔華(ホノカ)を生かすために時雨が考えた彼だけの剣技であるから。剣術における基礎など一切無く、ただ相手を殺す為だけに振るわれる刀。だというのにそれは甘粕にも勝るとも劣らない程の戦いをもたらしていた。

 

 

数十度目になる世界を軋ませる衝突の中で戦局が動いた。甘粕の軍刀を防いでいた焔華(ホノカ)の鞘が限度を迎えたのか斬られたのだ。二つになった鞘を見た瞬間、時雨は鞘を持っていた左手を鞘か手放した。そして貫手を作りーーーーーーーー踏み込みと同時に甘粕の胸にへと叩き込んだ。

 

 

「ゴフッ!!」

 

 

人体の急所である心臓を貫かれた甘粕は思わず口から血を吐き出した。しかしそれでも止まらず時雨の腹を蹴り、軍刀で時雨の体を袈裟斬りにする。

 

 

「グゥッ!!」

 

 

軍刀は蹴られて離れていく時雨の肩から鳩尾までを切り裂いた。刀身が背中から飛び出す程に深く斬られる。時雨は体の半分を切り裂かれ、甘粕は心臓を貫かれるというサーヴァントであっても死を免れない傷を負うーーーーーーーーが、二人の傷はまるでビデオの逆再生を見ているかのように回帰していき、直ぐに服事元の状態にへと戻った。

 

 

甘粕には元の世界でも彼の異能として使っていた【意思の力】がある。それは甘粕の意思で世界の法則を超越するというデタラメな性能。それでもまだ人の身であった頃の甘粕であるなら自分の死を無かったことにすることなど出来なかった。しかし、今の甘粕はサーヴァント。【意思の力】はサーヴァントとなったことで昇華され固有スキル【魔王特権】として保持され、それが甘粕が死を超越することを可能としていた。

 

 

ならば時雨は?という疑問になる。彼は甘粕のように法則を超越するような異能やスキルを持っているわけではない。しかし彼の宝具がその不可能を可能にした。過去に感情を持つことが出来なかった時雨が感情を得るために人の真似をしたという事実が元となりサーヴァントになった時雨の宝具となった【偽者の模倣】(フェイク・フェイカー)。その効果は生前でもしていた技術技法の模倣、さらに固有の異能やスキルの模倣までも可能にする。つまり時雨は甘粕の異能であり固有スキルである【魔王特権】を模倣することで死を超越することを可能としていた。

 

 

これによって時雨と甘粕には肉体的な死は存在しなくなった。二人からすればそれなどただの付属品でしかない。何故なら、彼らの戦いとは己の掲げた絶対の信念を貫くことでしか無いのだからーーーーーーーー!!!

 

 

「ーーーーーーーー!!!」

「ーーーーーーーー!!!」

 

 

声を出す労力すら惜しいのか息を止めながら二人は斬り合う。戦いを始めた頃より二人は息をすることなどしていなかった。息をしている一瞬の隙で相手が自分を斬ることが出来ることを理解しているからである。無呼吸による斬り合いなど不可能である、が【魔王特権】と【偽者の模倣】(フェイク・フェイカー)を使うことでその不可能を強引に可能にしていた。

 

 

互いに切り裂き、砕き、潰しーーーーーーーーそして元に戻す。この戦いには明確な終わりなどは存在しない。意思が砕けた時こそが己の敗けであるのだから。

 

 

「ッラァ!!」

 

 

時雨の蹴りが甘粕の腹に突き刺さり、肉を抉り取る。【魔王特権】でその傷を回帰させながら甘粕は蹴りの威力のままに吹き飛ばされ、時雨から距離を取った。

 

 

「ーーーーーーーー来たれ!!伊吹よ!!!」

 

 

甘粕の呼び掛けに応じて、大地から鋼鉄の戦艦(いくさぶね)が姿を現した。甘粕のしたことは至極簡単、【魔王特権】により無から伊吹を作り出したのだ。魔王である甘粕の人生を支えなお甘粕の宝具として至れなかった存在ではあるがその威圧は十分過ぎる。甘粕は飛ばされながらも空中で体制を整え、伊吹の先端に飛び乗った。

 

 

「目標!!皐月原時雨!!」

 

 

甘粕の声に応じるように伊吹の主砲三つがそれぞれ別々の方向に砲身を捻れ曲げる。本来なら有り得ない動きの上に捻れ曲がった砲身では暴発する未来しかない。

 

 

「撃てぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

砲撃の命令と共に、捻れ曲がった主砲の砲口から砲弾が撃ち出された。撃ち出された三つの砲弾は直線に、弧を描き、ジグザクに動くという有り得ない軌道を描きながら三方より時雨に迫る。甘粕が作り出した物には物理法則が通用しない。故に捻れ曲がった砲身が暴発しないのも、砲弾が有り得ない軌道を描くもの、甘粕を知るものからすれば不自然なことでは無いのだ。

 

 

時雨を殺さんと迫るのは三つの砲弾。その場から逃げたとしても甘粕によって追尾機能を付けられている為に不可能。防御などしたところで無意味、昔時雨は甘粕が戦っているところを目撃していて、砲弾を防ごうとして作られた岩の壁を傷一つつけること無く通過してその人間を爆散させた場面を見たことがあるからだ。故にこの場で取るべき手段は回避でも防御でもなくーーーーーーーー迎撃。高速を越え、人の丈よりも大きな砲弾を迎え撃とうだなど正気の定とは思えない。しかし家族の為であるならば正気など気軽に投げ捨てる時雨はそれを選択した。

 

 

時雨は刀だけになった焔華(ホノカ)を地面に突き刺して脱力する。そして左右と前方の三方向から迫り来る砲弾を見据えーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

左から迫る砲弾を蹴り砕き、

 

右から迫る砲弾を手刀で切り裂き、

 

前から迫る砲弾を殴り抜いた。

 

 

左右から迫った砲弾は破壊されたことで維持できなくなったのか霧散して消える。しかし前から迫った砲弾は壊さぬ程度で殴り抜いた為にその存在を保ったままに伊吹に乗る甘粕に向かっていく。

 

 

「甘いわぁ!!!」

 

 

それを甘粕は軍刀で両断、殴り返された砲弾は時雨に破壊された砲弾と同じ様に霧散して消えた。が、時雨は甘粕ならこの程度のことを軽くやってのけることを知っていた。故にこの一瞬、甘粕の注意が剃れた僅かな間に行動に移る。

 

 

「ーーーーーーーー投影開始(マテリアル・オン)

 

 

投影魔術で編み出したのは黒塗りの弓、しかしそこにはつがえるべき矢が無かった。狙うのは甘粕本人ではなく作り出された伊吹だ。例え宝具ではないのだとしても甘粕の人生を支えた事実は変わらない。ただ弓兵を模倣した投影を放ったとしてもあの戦艦(いくさぶね)は沈むことはないだろう。だから、あの伊吹を沈めるに相応しい投影(もの)でなければならない。時雨は地面に突き刺しておいた焔華(ホノカ)を手に取り、弓につがう。そして狙いを定め、

 

 

「くれてやる、鱈腹喰らえ」

 

 

何の躊躇いもなく、焔華(ホノカ)を放った。それと同時に甘粕が砲弾を切り裂く姿が映るのだがもう遅い。焔華(ホノカ)は蒼炎の軌跡を描きながら伊吹の奏効を貫き内部への侵入を果たした。

 

 

Flame away (燃え散れ)

 

 

投影で作り出された焔華(ホノカ)が伊吹の艦内で爆ぜる。爆発としては小規模だが狙いはそれではない。焔華(ホノカ)の侵入によって空いた穴から蒼炎が溢れ、瞬く間に燃え広がって伊吹を炎上させた。本来なら燃えることのない鋼鉄がまるで薪のように燃えていく。それがこの世界で作り出された伊吹の末路だった。

 

 

「ーーーーーーーー驚いたぞ、よもやその様な手段で伊吹を沈めるとはな」

 

 

燃え盛る蒼炎の中から何事も無かったかのように甘粕が現れた。鋼鉄を燃やす蒼炎の中から現れたというのに甘粕の身には火傷一つ無い、それどころか服に焦げ目すら見られない。そうなるだろうと時雨は予想はしていたが、こうも現実を見ると改めて甘粕は規格外な存在であることを思い知らされる。

 

 

「だが、今の刀は所詮は贋作だ。贋作を否定する訳ではないが真贋に追い付くことを目標とした贋作では俺は越えれぬよ」

「やっぱり気づいてたか」

 

 

そう、ここまで振るっていた焔華(ホノカ)は時雨の投影で編み出された贋作。決して真贋に比毛をとっている訳ではない、しかし勝っている訳ではない。真贋を知っている時雨だからこそ越えられない壁が甘粕に届かなかった理由だ。

 

 

「どうした?今頃になって怖じ気づいたのか?」

「そういう訳じゃねぇよ。ただお前と戦うにして俺の投影がどこまでついてこれるか気になっただけだ。しかし存外食らい付けたな、予想以上だった。だけどまぁ‥‥もういいか」

 

 

時雨が右手を掲げると手の中に一本の刀が現れた。それを引き抜く。見る目のある者が見ればそれは時雨がさっきまで使っていた焔華(ホノカ)と同一の物であると気づくことが出来るだろう。しかし、刀身から燃え盛る蒼炎は前の焔華(ホノカ)よりも煌々と輝き、何よりその刀身は血によって黒くなっておらず純白であった。

 

 

「ーーーーーーーー成る程、それが前の贋作の真贋であるか」

「あぁそうだよ。焔魔刀(エンマトウ)焔華真打(ホノカシンウチ)。銘を着けるとしたらそんなところか」

 

 

焔魔刀(エンマトウ)焔華真打(ホノカシンウチ)、それは時雨が復讐に走った結果血で穢れてしまった焔華(ホノカ)の真の姿。時雨の母である魔女が子供の門出を祝い鍛えた唯一無二の存在。それが時雨の主戦力にして奥の手でもある第二の宝具だった。

 

 

「そうか、であるならば続けるとしようではないか!!!」

 

 

それを見届けた甘粕は大地を踏み砕き、残像が出来るほどの速度をもって時雨にへと斬りかかっていった。そして再び行われる世界を軋ませる程の衝突。しかしそれもすぐに終わりを迎える。十合目になる斬り合いで、なんと甘粕の振るっていた軍刀がへし折れた。伊吹と共に甘粕の王道を支えていた軍刀、それを見た甘粕は迷うこと無く軍刀を投げ捨てながら時雨から離れ、腰に備えてあった旧式の拳銃を発砲した。弾丸は五発、狙いは頭部心臓内臓両足。

 

 

「ーーーーーーーー守護焔陣(シュゴエンジン)

 

 

それに対して時雨は真打の切っ先で地面に線を書いた。そしてそこから蒼炎が燃え上がり甘粕の放った弾丸五発をすべて蒸発させる。

 

 

「続けて、蒼焔ノ九頭竜(ソウエンノクズリュウ)

 

 

真打の切っ先が蒼炎の壁をつつく。すると蒼炎は九の頭を持つ東洋風の龍に姿を変えて甘粕に向かう。

 

 

「ヌゥーーーーーーーー!?」

 

 

喉を噛みつかれ、腕に絡まれ、胴を締め上げられ、甘粕が蒼炎の龍に全身を包まれる。蒼炎は無機質だろうが燃料として燃え上がる異質の焔。それに包まれたのならどんな生物でも骨は愚か塵すら残さず燃え散るはずなのだがーーーーーーーー

 

 

「ぉーーーーーーーーぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

その蒼炎を甘粕はあろうことか素手で掻き分け、砕いて乗り越えた。流石に真打の焔は贋作の焔とは違うのか服はその役目を成さない程にボロボロ、肌には痛々しい火傷が見える。が、それでも甘粕は【魔王特権】による回帰で十全の姿に回帰した。

 

 

「あぁーーーーーーーー分かるぞ、その刀に込められた製作者の思いが。そして皐月原時雨、貴様が俺に抱いている思いが」

「はっ、そんなの俺だって分かってるよ。甘粕、お前喜んでるだろ?魔王であるお前を目の前にして折れること無く立ち向かってくる俺がいることに歓喜してるんだろ?」

「分かるか?そうだ!!試練に立ち向かうことこそが人の魂の輝き!!人のあるべき姿である!!貴様のような人間こそが!!俺の理想としている楽園(ぱらいぞ)の住人として相応しいッ!!!」

「試練に立ち向かう勇者を集めた楽園か‥‥‥‥なぁ甘粕、前々から疑問に思ってたんだがそれは本当に楽園なのか?困難に立ち向かう人の姿が美しいというのは分かる。堕落した人間の中でその人間が輝きを損なわぬように集めたいという気持ちも分からんでもない。でもなぁ‥‥‥‥困難に立ち向かうというのは勇者からすればただの手段の一つでしかないと思うんだよ。勇者は何かしらの目的があって、その目的を果たすために困難に立ち向かうんだ。悪竜に拐われた姫を救うために悪竜に立ち向かう騎士のように、祖国を守るために敵国に無謀な戦いを挑む若者のように。手段と目的が逆転しちゃあそれはもう本末転倒だ。そのことを分かってるのか、甘粕」

「成る程、貴様の言葉には一理ある。だが!!俺はその様な言葉では止まらん!!俺を止めたければ!!その魂の輝きを示して見せよ!!」

 

 

そう言って甘粕は飛び上がり、大気を足場にして時雨を見下した。まるで勇者を見下す魔王のように。

 

 

甘粕は止まらないし、その考えを改めることもしない。時雨もそのことを分かってる。何故なら、人の魂の輝きを見届けたいというのが甘粕の信念であるから。信念とは己の掲げた唯一無二の信仰。言葉で簡単に変わるようならそれは信念と呼べるものではない。

 

 

「行くぞ?殺戮のイェフォーシュアよーーーーーーーー!!!」

「来るかーーーーーーーー」

 

 

【魔王特権】による物質創造で作られたのは鉄の塊。しかし時雨はそれが人類史において最も猛威を振るった悪魔の兵器であることを理解している。

 

 

「リトルッ!!!ボォォォォォォォォォイ!!!!!!!!!!」

 

 

悪魔の兵器ーーーーーーーー核兵器が、甘粕の声と共に爆ぜた。

 

 

リトルボーイ。それは第二次世界大戦においてアメリカ軍が日本に投下した原子爆弾、そして人類史上初めて実戦で使用された核兵器の名称である。すべてを融かす熱が、生物を汚染する毒が、一斉に周囲に向けて無差別にバラ撒かれる。それを時雨は回避することは出来ないし、回避するつもりも無かった。

 

 

何故なら、この程度の障害を乗り越えることを拒んでいては、甘粕の信念を越えることは出来ないから。

 

 

「ーーーーーーーーこの(ホムラ)は煉獄の(ホムラ)、万象を焼く獄焔なり」

 

 

時雨は真打を腰まで下げ、地面と水平になるように構えて死の炎を立ち向かう。

 

 

「ーーーーーーーー紅蓮・(グレン)焔獄ノ太刀(エンゴクノタチ)

 

 

時雨の居合いの形にもにた一刀。そこから放たれる蒼炎が、リトルボーイの炎を、毒をすべて飲み込んでいく。

 

 

「ツァーリッ!!!ボンバァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

 

甘粕はリトルボーイの炎を、毒を一身に受け、時雨の蒼炎に飲まれてなお、第二の鉄塊を作り出し、爆発させた。

 

 

ツァーリボンバ。ソビエト連邦が作り出した人類史上最大の水素爆弾の通称。単一兵器としての威力は開発された当初では人類史上最大であり、リトルボーイと比較すると、数千倍の威力である。

 

 

毒など撒く必要はない、すべてを破壊する爆撃が解放される。

 

 

「ーーーーーーーー我が意を邪魔するならば、一国率いる覇をも断とう」

 

 

それに対して時雨は真打を両手で握り、上段に構えた。

 

 

「ーーーーーーーー覇断・(ハダン)國断ノ太刀《クニタチノタチ》」

 

 

両手で握りられた真打を全力に振るっただけの細工一つすらない唐竹割りの一刀。その一刀は破壊の爆撃を容易く切り裂いた。

 

 

「ロォォォォォォォォォッズ!!!フロォォォォォォォォォム!!!ゴッドォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!」

 

 

それを見届けた甘粕が更なる兵器の名を叫ぶ。しかしその場にはそれらしい兵器の姿も影も見当たらない。だが時雨はそれが作られ、すでに自分に向けて放たれていることを分かっていた。時雨の視線は空へと向けられていた。大気圏外に作られた衛星、そこから放たれた爆弾が甘粕の作り出した兵器の正体。

 

 

ロッズフロムゴッド。大気圏外に設置された衛星より爆弾を投下することで爆弾自身の重量と重力による加速て破壊槌として落下し、そこから爆発による更なる破壊を目的とした殺戮兵器である。

 

 

防御などあの破壊槌の前では無価値、回避行動はもっての他だ。故にーーーーーーーー落ちてくる破壊槌を破壊する。

 

 

「ーーーーーーーー悪意あって害をもたらすなら、例え天でも斬り伏せる」

 

 

時雨の構えは下段、真打の切っ先を地面に着くスレスレまで下げて腰を落として力を溜める。

 

 

「ーーーーーーーー昇龍・(ショウリュウ)天断ノ太刀(アマダチノタチ)

 

 

斬り上げの一刀。その斬撃は落ちてくる破壊槌を切り裂き、大気圏外にある衛星を両断した。そして後に続くように蒼炎が龍の形になり、切り裂かれた破壊槌と両断された衛星を飲み込んだ。

 

 

「あぁ、やはりそうであるか」

 

 

蒼炎の龍に飲まれ行く衛星兵器の最後を悟りながら、甘粕は愛おしそうな顔で時雨のことを見ていた。普通ならば悔しそうな顔の一つでもするべきだが、甘粕からすれば試練を乗り越えているのだ。喜ぶことはあれど悔しがることなど無い。

 

 

「気づいているか?これまでのやり取り、すべてがあの時の戦いの焼き直しであることを。復讐に堕ちた貴様と戦い、敗れた時と同じだ」

「‥‥気づいてるよ。だからわざわざ同じ様にして立ち向かってやってるんだろうが。それに気づかないとは耄碌したか?老害」

「老害扱いとは耳が痛い。これでも青いと言われる身なのだがな」

「それは外見年齢だろうが。実年齢でものを言えよ、ウン百歳の爺が」

 

 

そう、時雨は過去に一度甘粕と戦い、これに勝利しているのだ。しかしそれは信念を持った時雨ではなく、母を殺されたことで復讐に走ったただの死神として。その時も核兵器の炎を焼き尽くし、水素爆弾の爆発を切り裂き、衛星兵器の破壊槌を破壊して甘粕の心臓に焔華(ホノカ)を突き立てた。

 

 

「あの時のことはまるで昨日のように思い出せる‥‥‥‥だが、お前も俺も以前とは別の存在にへと至っている。これより先はまさしく比喩ではない神話の具現だ。俺もお前も、それを行うことが出来るだけの力を持っている」

「宝具、だろ?さっさと出せよ、お前の宝具を。今までのがお前お得意の【意思の力】だってことは気づいてんだよ。使ってみろよ、それを容易く乗り越えてやるよ」

「よくぞ言った!!!皐月原時雨よ!!ならば乗り越えてみせよ!!これが!!貴様に送る最後の試練である!!!!!」

 

 

時雨との受け答えに甘粕は心の底から嬉しそうな笑みを隠すこと無く浮かべ、手を動かして印を結んだ。時雨はそれを邪魔しない。いつもならその隙を突いて必殺とするのだがそれでは甘粕は止まらないことを知っているからだ。

 

 

そして印を結び終えた甘粕は手を大きく広げーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「斯く在れかし・(あんめいぞ)聖四文字(いまデウス)

 

 

真の意味で、裁定者として成った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甘粕が宝具の名を叫んだ瞬間、時雨を取り囲むようにして【試練】が姿を現した。

 

 

斯く在れかし・(あんめいぞ)聖四文字。(いまデウス)それは宝具であって宝具ではない物だった。通常、宝具というのはその英雄のシンボルとなる武器やその逸話から生まれる物である。しかしこれは違う。甘粕の『人々の輝きを見届ける為の裁定する者でありたい』という渇望から生まれた異質の宝具であった。

 

 

その効果は甘粕を上位の存在ーーーーーーーー神として立たせ、人間に試練を与えるという物。純粋なまでに歪んだ渇望から生まれたそれは人間であるのならば生まれたばかりの赤子だろうが、死にかけている老人だろうが、世界に生きている人間すべてを対象とした対界宝具として成った。神が試練を与えていると言えば分かりやすいだろうか。まさに人々の輝きを見届けたいと願う甘粕に相応しい宝具であった。

 

 

しかし、問題があるとすれば甘粕は度が過ぎると言ったところか。時雨の周囲に現れた試練は躓く程度の小さな物から命を賭けねば乗り越えられないような大きな物まで、億を優に越えていた。しかも比率からすれば後者の数の方が圧倒的に多い。ここで甘粕の悪い病気が出た。甘粕程人間を信仰している者はいない。だから人間は如何なる試練でも乗り越えることが出来ると甘粕は信じていた。生前でも試練の与えすぎで【魔王】と呼ばれることになったというのに甘粕は反省はしていないらしいーーーーーーーーいや、反省はしているがそれでも乗り越えると信じているから繰り返すのだ。

 

 

 

 

「俺にお前たちを‥‥‥‥愛させてくれぇぇぇぇぇぇえ!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

億を越える試練を前にして時雨はーーーーーーーー真打を鞘に納めた。甘粕の試練を乗り越えられないと判断して諦めたか?いや違う。億の試練を前にしてなお、時雨はそのすべてを乗り越えようとしていた。

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー世の中所詮は諸行無常、変わらぬ物など有りはしない」

 

 

全身から力を抜いて自然体。その時雨に試練は包囲網を狭めて迫る。

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー故に、我が信念は不変である。彼らの為ならば一切の汚れ穢れを、この一身に受け止めよう」

 

 

時雨に逃げ場など有りはしない。囲う試練のどれか一つにでも触れた瞬間に、億を越える試練すべてが時雨に向けて牙を向く。

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーそれを阻む物在れば、天地人は元より森羅万象、神に到るまでそのすべてを斬り伏せようぞ」

 

 

ようやく時雨が納められた真打の柄に手を置いた。しかし柄は握られておらず、乗せただけであるが。

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー故に、この技は魔技なり。故に、この魔技はこの名を任ず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

斬神ーーーーーーーー(ザンシン)神断ノ太刀(カミタチノタチ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、億を越える試練が、裁定者と成った甘粕が、斬り伏せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー」

 

 

この結果に、甘粕はこの時初めて驚きの表情を見せた。今の甘粕ならば例え光だろうがその動きをすべて知覚することが出来る。だというの、時雨が斬った時の動作は愚か真打を抜いた時の動作すらも甘粕は知覚することができなかった。時雨の手は相変わらず真打の柄に乗せられただけで握られていない。

 

 

斬神・(ザンシン)神断ノ太刀(カミタチノタチ)。それは時雨の『家族に害をもたらすのならば、神のような絶対の存在だろうとも殺す』という甘粕の斯く在れかし・(あんめいぞ)聖四文字(いまデウス)と同じ渇望から生まれた異質の宝具。その効果は敵を斬り殺すという単純な物だがそれだけで終わるはすがない。その斬り殺すという絶対的な結果を、一切の動作を行うこと無く与えるのだ。ゲイボルクのような因果の逆転ではなく、完全なる過程の消失。そして時雨が敵として認識しているのならば、例え別次元別世界に居ようとも時雨の刃は届く。それが億を越える試練を乗り越え、甘粕を斬った一撃の正体だった。

 

 

「ーーーーーーーーあぁそうか、お前は、人と成れたのだったな‥‥」

 

 

肩口から脇腹まで残っている傷を愛おしそうに撫でながら、甘粕はまるで出来の悪い子供を見る父親のような微笑みを浮かべる。

 

 

初めて会った時は感情のない人形だった

 

二度目に会った時は復讐に堕ちた鬼だった

 

だが今はどうだ?揺るぐことのない信念を持って、与えた試練に打ち勝った人間ではないか!!!

 

 

「ーーーーーーーーならばよし!!悔いもなし!!認めよう!!俺の負けだッ!!!」

 

 

負けたことに対する悔しさはある。しかし甘粕の中にはそれすら塗り潰す程の歓喜があった。時雨は甘粕が与えた試練すべてを乗り越え、その信念を見せつけた。それはすなわち甘粕が求めていた人間の姿である。【魔王特権】を使えばこの傷を回帰させることは出来るだろう。しかし甘粕はそれをしない。何故ならそれは試練を乗り越えた時雨に対する侮辱に他ならない。故に敗者である甘粕に許されたのは勝者である時雨に賛辞を送ることだけ。時雨もそれを分かっているのか涙どころか悲しげな表情すら見せること無く、真っ直ぐに甘粕を見据えていた。

 

 

「皐月原ーーーーーーーー否!!八神時雨よッ!!!誇れ!!お前は人間だ!!この俺が認める!!例え世界すべての人間がお前のことを人でなしと蔑もうとも!!この俺がお前のことを人間だと歌い上げよう!!!」

 

 

甘粕の顔に浮かんでいるのは歓喜の笑顔。甘粕は辛気臭く死を迎える趣味を持たない。人は泣きながら生まれてくる以上、死は豪笑をもって閉じるべきだと決めているからである。もとより、これは祝福だろう。甘粕の愛すべき人間が、この世界にいることが証明されたのだから。

 

 

「ラインハルトォ!!!!!カリオストロォ!!!!!トワイスゥ!!!!!見ているのだろう!!聞いているのだろう!!ならば!!この者の邪魔を許すなぁ!!俺が認めた人間の!!信念を邪魔立てすることは!!この俺が断じて認めぇん!!!!!」

 

 

甘粕がここには居ない、月の玉座にてこのやり取りを見ているだろう友に願いを託す。人形から鬼になり、ようやく人と成れた時雨の信念を穢すことを許したくないから。

 

 

「万ザァァァァァァァァァイッ!!!!!万ザァァァァァァァァァイッ!!!!!ォォォォォォォォォーーーーーーーー万ッザァァァァァァァァァァァァァァァァァァイ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

動くことすら困難なはずの体を動かして、甘粕は人間(しぐれ)に向けてエールを送る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胸を張れ、お前は人間だ

 

その魂の輝きを忘れるな

 

その信念を貫いてくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして

 

人々の裁定者として成った【魔王】は

 

望んでいた人の輝きを見届けながら

 

この世から姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーー」

 

 

甘粕の最後を見届けた俺に不思議なことに悲しみの感情は一つもなかった。それはそうだ、例え血の繋がりが有ろうとも、敵として立つならば殺す。それが俺が決めたことだから。

 

 

それに、今の俺に甘粕の死を悲しむ暇などない。それよりもやらねばならないことがあるから。

 

 

甘粕との戦いの間、向けられていなかった寄生虫に顔を向ける。寄生虫の顔は会った時のような人を小馬鹿にするような笑みではなく、ひきつった笑みになっていた。

 

 

「ーーーーーーーー覚悟はいいか、寄生虫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の家族に害をもたらすなら、すべてを蹂躙してこれを鏖殺する。

 

 

 





本文が過去最高の一万五千越え。後書きを含めると一万七千字越えということに‥‥‥‥!!私の作力が未熟な為にアマッカスらしさが出ているか不安なところです。

本作オリジナル宝具スキルが大出荷されたのでアマッカスや時雨の宝具スキルの説明を入れます。

スキル
魔王特権:EX
使用者・甘粕正彦

甘粕が保有していた異能【意思の力】がサーヴァントになったことで固有スキルとして昇華されたスキル。甘粕がそうであると認めたのならどんなことでも可能とするまさに魔王に許された権利である。
甘粕は回帰、兵器の創造に使用している。回帰は自分自身に限定されているが創造にはその物質に本来備わっていない能力を着けるなど反則級のスキルである。


擬似宝具

戦艦伊吹
ランク:A+
使用者・甘粕正彦

甘粕が生前から使っていた戦艦で宝具換算すると対軍宝具相当。主砲は甘粕の意思で歪み、暴発することなく追尾機能と防御透過が付与された砲弾を撃ち出す。

リトルボーイ
ランク:A++
使用者・甘粕正彦

人類史初めて実戦で使われた核兵器で、宝具換算すると対軍宝具相当。高温の爆風と放射能の毒で相手を焼き、汚染する。

ツァーリ・ボンバ
ランク:A++
使用者・甘粕正彦

人類史上最大の威力を持つ水素爆弾で、宝具換算すると対城宝具相当。リトルボーイの数千倍の威力をもって破壊する。

ロッズフロムゴッド
ランク:A+++
使用者・甘粕正彦

大気圏外に設置された衛星から爆弾を投下する。宝具換算すると対国宝具相当。爆弾自体が破壊槌として地上に着弾した後に、爆発することで更なる破壊を起こす。

守護焔陣
ランク:A
使用者・八神時雨

蒼炎を壁とした防御方法。飛び道具なら高温で焼き尽くす上に物理攻撃も時雨の意思一つで受け止めることも可能。

蒼焔ノ九頭竜
ランク:A+
使用者・八神時雨

守護焔陣の蒼炎を九頭の龍に見立てて相手に放つ攻撃方法。宝具換算すると対軍宝具相当。噛みつき、締め上げに加えて熱によるダメージも与える。

紅蓮・焔獄ノ太刀
ランク:A+
使用者・八神時雨

真打の蒼炎による超広範囲の焼き払い。宝具換算すると対城宝具相当。蒼炎は有機物無機物問わずに燃やすので自然に消火されることはなく、時雨の意思によって消えるまで燃え続ける。

覇断・國断ノ太刀
ランク:A++
使用者・八神時雨

全力の振り下ろしによる両断。宝具換算すると対国宝具相当。振り上げて下ろすという基礎を極めた結果一国をも断つことが出来るまでに至ったまさしく魔技と呼ぶに相応しい一刀。

昇龍・天断ノ太刀

ランク:A+++
使用者・八神時雨

天をも切り裂く一刀。宝具換算すると対国宝具相当。斬撃の一撃で相手を斬り、龍の形をした蒼炎の追撃で相手を燃やす。対象が空にいるという条件が満たされているのなら例え宇宙にいる相手でも斬ることが出来る。


宝具

偽者の模倣
ランク:EX
使用者・八神時雨

自身を対象とした対人宝具。感情を失ってしまい、人間になろうと他人の真似をしたという事実から生まれた宝具。相手の技法、技術、異能、スキルを十全に模倣する。宝具であっても個人の能力扱いになっているのなら模倣することが出来る。

斯く在れかし・聖四文字
ランク:EX
使用者・甘粕正彦

人々の輝きを見届けたる為の裁定する者でありたいという甘粕の渇望から生まれた対界宝具。真名解放と共に甘粕自身を裁定される存在である人間よりも上位の存在にへと引き上げる。しかし、それはあくまで副次的な作用に過ぎない。この宝具の真価は世界に生きるすべての人間に試練を与えることである。だが甘粕がやり過ぎてしまうために億を越える試練を同時に与えるという難易度がおかしいことになっている。この宝具に対抗するには耐久や敏捷、対魔術のようなステータス、スキルではなく如何なる困難でも乗り越えようとする強い意思が必要となる。

斬神・神断ノ太刀
ランク:EX
使用者・八神時雨

家族に害をもたらすなら、神のような絶対の存在だろうとも殺すという時雨の渇望から生まれた対神宝具。真名解放と共に斬るという動作を行わずに斬ったという結果だけを与える。この宝具の最大の特徴はその有効範囲。時雨が敵と認識しているのならば、異次元別世界に逃げようともこの一刀から逃れることは出来ない。副次的な作用として神性を持つ存在に対してダメージ判定が二倍になるという効果があるのだがそれは所詮おまけに過ぎない。


時雨とアマッカスの宝具はどちらかといえば神咒神威神楽の覇道とか太極とかいうのに近いような気がする。作者がプレイしたことがないので詳しくは分からないですが。


時雨とアマッカスのバグっぷりが酷い。文句のある人は万歳三唱しながらコメントをください。


感想、評価をお待ちしています。


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