戦争を知る世代   作:moota

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こんにちは、mootaです。

この前書きました「英雄王の再来」というオリジナル小説を合間に書いていたら、「戦場を知る世代」の方の作風?が変わったかもしれません。・・変な話しですが。

今回メインに登場するトバリさんの苗字は、「さよなき」と読みます。確か、そういう鳥がいたはず。


第十五話 新しいチーム

第十五話 新しいチーム

 

 

 

火の国暦60年7月11日 夕方

木の葉隠れの里 とある広場

小夜啼トバリ

 

 

 

夕日が赤く輝きながら、山と山の間に沈みつつある。どこからともなく、カラスの啼く声が聞こえた。昔の民謡にそんな歌詞があったなぁ・・・いや、やめておこう・・。

 

 

今はそんな景色を眺める事が出来る、少し高台にある広場に来ている。新しい任務を火影様より仰せつかり、それを遂行する為に。任務とは、第88小隊の小隊長に就任し、部隊を率いろというものだ。元々、俺は“攻撃部隊 攻撃科 特殊作戦群 第23小隊”に所属していたが、この前の戦闘で部隊は壊滅し、私も怪我を負い前線を離れていた。そんな時に、この任務を任された。同期には、アカデミーの生徒のお守りなんてって言う奴もいたが、俺には、ちょうど良かったと思っている。少しの間、前線を離れたかったから・・・

 

少しばかりの時間、夕日を見ながら“待ち人”を待っていると、“不安だ”と顔にデカデカと書いてある三人の子供が来た。うーん、最初からそんな顔をされると、非常にやり辛い。確か資料によると、この隊の前任は、“あさのはヤク”だったな。彼は、私の同期の一人だが、能力はないくせに後輩にはとても威張る、そんな奴だった。・・・何となく、不安になる気持ちも分かる。

 

「やぁ、はじめまして。私は上忍の“小夜啼トバリ”と言います。明日付けで君たちの第88小隊の小隊長に就任します。よろしくね。」

ちょっと気さくに声を掛けた。彼らの不安が少しは和らぐかと思って。

 

「は、はい。よろしくお願いします。」

最初に声を出したのは、女の子・・・菜野ハナちゃんだった。こういう時は、女の子の方が思いきりがいいもんだ。

 

他の二人は一度、お互いに顔を見てから挨拶をしてくれた。

「よろしくお願いします。小夜啼隊長。」

「よろしく、お願いします。」

 

「うん、よろしくね。あ、そうそう。小夜啼じゃなくて、トバリって呼んでくれていいよ。」

 

「え、いいんですか?」

カタナが、本当に?と首を傾げている。確かに、チームとして規律はしっかりとしないといけない。でも、反ってそれが良くない事もある。特に、この子達は前任の隊長から厳しくされていただろうし。

 

「もちろん。固くならず、みんなで一致団結していこう。」

三人はこの言葉に、少しは不安を取り除けたようだった。少し、笑顔が見える。今までは、立って話をしていたが、座って話せるぐらいには不安は消えたかな。人間は、どうしようもなく不安な時は、立っていないと落ち着かない。それは立っている状態が、最も初動の動きに適しているからだ。だから、私はどんな人でも、初めて話すときはお互いに立って話す事にしている。そうすれば、お互いに警戒する相手でも建設的な話が出来る。

 

私は少し向こうにあるベンチを指差しながら、彼らに問いかける。

「立ってるのもあれだし、向こうで座って話そうか?」

 

「「あ、はい。」」

 

そのベンチは木で出来た机があり、それの周りを、ぐるっと椅子が囲んでいた。私が最初に座り、その後に彼らが私の前あたりに座った。

 

「さて、話す事は色々とあるんだけど・・・まず、一つ目の重要事項、君達三人は“下忍”となります。」

 

「え!?どういうことですか?」

イナリ君が声をあげた。他の二人も驚いた顔をしている。

 

「どういうことって、まぁ、この前の戦闘での戦果が認められて昇格、という形だよ。」

木の葉では、通常は試験を経て“下忍”“中忍”“上忍”と昇格するが、戦時中は別。試験なんて悠長なことはやっていられない。だから、戦果を中心に戦果報告委員会や火影様、上役達が決める事となっている。

「ですが・・・それでは前よりもっと、任務が危険になるじゃないですか!?」

机を両手で叩きながら、イナリ君が立ち上がった。

 

あ、そういうことか。確かに、位が上がれば上がるほど危険な任務が増えていく。彼らはアカデミーの生徒だった。確かに不安だろうし、何故、僕たちがって思うかもしれない。私は両手でイナリ君の両肩を掴み、座らせる。

 

「あぁ、まぁ、確かにイナリ君の言う通り、任務はより厳しくなる。君たちはアカデミーの生徒で、きちんと卒業もしていない。だから“下忍”でもなかった。それ故に、任務も軽いものが任される。まぁ、前のはイレギュラーだけど。」

一度話を切って、三人を一人ずつゆっくりと顔を見る。それから、出来るだけ穏やかなトーンで話し始めた。

 

「君たちはアカデミーの生徒ではあったけど、“忍”だよね。何が心を決めるのか、それは人それぞれだけど、でも“里”や“国”を守ること、そして、“火の意志”を後世に伝えていくこと、この二つは忘れないで欲しい。君たちは10歳になったばかりだけど、もう君たちより年下の子達はアカデミーで勉強をしているよね。その子達を守らなきゃいけない、伝えていかなくてはいけない、そう思って欲しいんだ。・・・まだ、自分達が“伝えられる立場”の人間だと受け身にならないで。」

 

三人とも目を伏せて、私を見ようとはしていない。10歳で“命を掛けろ”と言っているのだから、無理もない。ただ、この覚悟が出来るか、出来ないかで、戦場での生存率は変わるものだと私は思っている。

 

「・・仰っていることは分かりますし、理解できます。ですが・・・」

そう言いながら、イナリ君はカタナ君、ハナちゃんを見た。ああ、そうか・・・彼が気にしている事は、己自身の覚悟とかそんな話ではない。彼の・・大切な人が傷付くのを恐れている。火影様から、イナリ君はそういう子だと聞いていたな。その歳に見合わない、辛い過去を持っている事が・・そうさせるのだ、と。

 

パンパン、と手を叩く。

 

「大丈夫、その思いを君達に持ってもらいたいのと同じで、私も守らなきゃいけないし、伝えていかなきゃいけない。だから、君たちの事は私が守る。」

にかっと大きく、これでもかと笑顔を作った。これで、少しは安心できるだろうか。私は、何を考えていたのだろうか。アカデミーの生徒の子守なら、後方任務だから“あんな思い”をしなくても良いと思っていた。そうじゃない・・・こんな小さな子供でも、他人の事を思い遣っている。私が守らなくては・・・彼らに“死ぬ恐怖”など、味あわせてはいけない。

 

 

「さて、重要事項二つ目、行っとこうか。次の任務が決まりました。内容は偵察、敵の補給線がどこにあるのか、どのような規模なのか、これを偵察します。8個小隊が国境で戦闘を起こし、注意を引き付けます。その間に、我々が偵察する。ただ、偵察は私達とは別に2個小隊も行います。敵地に潜入しての任務になり、危険度は増しますが一番楽なルートを任されています。気楽に行きましょう。」

 

「いや、気楽にって、そんな。」

カタナが、嘆息気味に声を漏らす。

 

私は懐から3つ巻物を取り出して、三人の前に一つずつ置いた。

「ここに詳細があります。よく読んでおくように。読んだら、いつも通り処分してください。」

 

「「はい」」

 

「よし、そしたら以上で、解散。」

その話で、私たちは解散した。彼らはここに来た時よりも、少しは晴れた顔をして帰って行った。木の葉では、10歳程で戦場を経験する事は、そんなに多い事ではない。10歳以下で、戦場に出るような子はごく一部の天才で、その他は12、3歳頃からだろう。まぁ、優秀な子達であれば、10歳ぐらいでアカデミーを卒業して、下忍となる。しかし、そこでは本当に後方任務だけだ。イナリ君たちが経験した補給任務など、あの歳でするものではない。それだけ、木の葉は追い込まれつつある。岩隠れとの戦争が始まって以来、木の葉に大きな勝利はない。あのサクモさんや、伝説の三忍でさえも勝利を呼び込むことは出来ていない。それほどまでに、敵の“天戸衆”は強大な力を有しているのだ。私も・・・恐らく、“天戸衆”と思しき輩と対峙したが、訳の分からない力だった。まったく、歯が立たなかった。あの時の記憶は、ほとんど“恐怖”しか残っていない・・“死の恐怖”しか。あの子達は、守らなくてはいけない。必ず・・・。

 

 

 

火の国暦60年8月5日 早朝

土の国 岩隠れの里勢力圏 暁の森~神無毘橋周辺

ふしみイナリ

 

 

 

暁の森・・・火の国、草の国、雨の国の境にある三つの国に跨る大きな森。国境の境と言うだけではなく、木の葉と岩隠れが、お互いの勢力圏を一進一退させている激戦区だ。雨隠れと草隠れは、現在岩隠れの勢力圏にある。ほぼ、円形の形をした森は、その半径が30kmを超える。その中には、森を育む大きな川がいくつも流れている。その川を越えて前線に物資を運ぶ為に、数多く“橋”が架けられている。その橋は、両勢力にとって重要な拠点として意味を持つ。それ故に、両勢力はそれらの橋に、いくつもの補給ルートを持っており、それを破壊されること、または、メインのルートを知られることは“勢力圏での敗退”を意味する。今回の任務は、メインのルートという訳ではないが、敵勢力の補給ルートの調査を主とする。・・破壊ではなく、あくまで調査である。ただ、前文にある通り、橋は両勢力にとって重要拠点である。それ故に、敵部隊との接触も十分に考えられる任務だった。

 

「トバリ隊長、このルートで宜しいですか?」

私は、第88小隊の新任隊長に問い掛ける。小夜啼トバリ・・・木の葉上忍で、年齢は21歳。前は、“攻撃科 特殊作戦群”にいたという事から考えると、所謂、エリートなのだろう。あそこは、攻撃科の中でも援軍や奇襲、突撃作戦などを行う、木ノ葉ではトップクラスの危険度を持つ任務をすることで有名だ。気難しい人かと思っていたけど、全くそんなことを思わせない位、気さくな人だった。

 

「あぁ、そうだね。私が考えていたルートと同じだ。イナリ君、君は作戦参謀としての才覚があるね。」

ニカっと大きく、笑いながらそう言った。初めて会った時からの、この人の癖だった。私達に向けて、こちらが笑顔をつられてしまうように笑う。

 

「ちぇ、俺はこっちのルートがいいと思ったのに。隊長は、そっちがいいのかぁ・・」

カタナが、口を尖らせて文句を言っている。その姿が何となく、スズメに似ていて可愛いなと思って、笑ってしまった。

 

「あ、イナリ!笑ってやがる!この野郎!!」

そう言って、カタナは僕の首に手を回してきた。もちろん、冗談だが、首を絞められている。

 

「こら、遊んでる場合じゃないでしょう!」

少し呆れ気味の声で、ハナが僕達を諭す。

 

「ははは、いいぞーやれやれ、カタナ!」

と、隊長が止めもしないで煽っている。いやいや、隊長・・それは違う。そこは止める所ですよ。あなた、自分の立場を考えてくださいよ。

 

「隊長!煽ってどうするんですか!?」

隊長が、ハナに怒られて小さくなる。カタナもそろそろ、本当に怒られると思ってか、僕の首から手を放した。

 

「三人ともそこに座りなさい!あなた達はここがどこだか分かっているんですか!?そもそも・・・・」

この後、小一時間ほど説教が続いた。トバリ隊長が、この第88小隊に着任して3週間程、私たちは話す機会を多く持った。それが隊長の方針で、コミュニケーションを持てない小隊がチームを組むことが出来る訳がない、という事だった。だけど、おかげで隊長と僕、カタナ、ハナは大分打ち解けることが出来たと思う。ただ、何故かハナに隊長諸共、怒られる事が多い。・・・隊長が年齢の割に子供っぽい所があるからだろうか。

 

「さ、私たちの目標は“神無毘橋”だよ。前々から注目されていた橋なんだけど、最近になって、どうやら橋自体が補強されたみたいなんだよね。なので、その補強具合と周辺の調査を行います。ルートは、先ほど、イナリ君が言ったルートね。何か質問ある人は?」

誰も、手を挙げる者はいない。

 

「じゃ、行こうか。隊列は、私、カタナ君、ハナちゃん、殿にイナリ君で。いいかい、私が合図したら、すぐに止まること。」

 

「「はい。」」

僕達は、しっかりと答えた。そして、一列になって出発する。進むルートは、神無毘橋までまっすぐ進むのではなく、迂回するような形で目的地を目指す。神無毘橋は、暁の森の岩隠れ側にある幅30mほどの川に架けられており、川が崖を削り、水面と地表の高さに差があるのが特徴だ。橋自体は、暁の森の北西部辺りにある。それをほぼ、森の外縁を通り、大きく回り込んでから橋に近づく。つまり、雨隠れの里側を通り、岩隠れの勢力圏に入る事となる。

 

ルートの半分程まで進んだ頃に、小鳥が隊長に向かって飛んできた。隊長は、勝手を知るように、その小鳥を指の先に止まらせた。その小鳥の足には、小さな筒が付いていた。隊長は、そこから小さく丸められ紙を取り出す。

 

僕達が訝しげな顔をしているのが、分かったのか、

「あぁ、これは伝書用の鳥でね。戦場や通常の時でも、連絡を取り合うために使っているんだよ。」

と、答えてくれた。なるほど、伝書用か・・。隊長は、その丸めてある紙を広げて読み始めた。しかし、それを見ているうちに少しばかり、顔の表情が硬くなった。そして、僕たちの方を見た。

 

「三人とも、作戦変更だ。」

 

「どういうことですか、隊長?何かあったんですか?」

カタナが、率直な疑問を問い掛ける。僕も、ハナも同じ事を疑問に思っていた。

 

「今から2時間ほど前に、“天地橋”を調査していた小隊が、敵の攻撃を受けた。」

 

!? 天地橋は、僕達が調査予定の神無毘橋と同じ川に架かる橋だ。神無毘橋よりも上流にあるが、ここからそれほど遠くない。そこを調査していた小隊が攻撃を受けたという事は、他の橋も警戒されている可能性が高い筈だ。

 

「このまま、決めたルートを通っている時間は無くなった。そこで、ここから最短距離で神無毘橋を目指そう。」

 

「・・・隊長、ちょっと、時間を置いてからの方が、敵の警戒も少しは緩んでいるのではないですか?」

ハナが問い掛ける。橋を調査していた木ノ葉がいたという事に、今敏感に反応しているところだ・・・という事だろうか。でも、それは違う。

 

「ハナ、それは違うよ。ハナの言う通り、今、一番敏感になっているかもしれない。でも、橋を調査していた部隊がいたという事は、敵にとってもう一つ気になるものがある。」

 

「ん、それって何?」

ハナは首を傾げている。

 

「分からない?僕達は、単独で潜入している訳ではないよね?」

僕は、あえて答えを全部言わない。別に変な意図はないけど、状況を理解してない事はとても怖い。

 

「あ!もしかして、陽動している部隊の事!?」

あ、それだ、と言うように答えた。

 

「その通り。潜入している部隊がいたという事は、国境付近で戦っている部隊は、“陽動”ではないか、そう思うのが普通だね。となると、陽動部隊に苛烈な攻撃を加えて、調査自体をさせずに撤退させるだろうね。陽動部隊が壊滅、若しくは撤退してしまえば、調査なんて出来ないから。」

と、トバリ隊長が間に入った。・・・僕が言おうと思ったのに。しかし、何にせよ、急がないと本当に陽動部隊への攻撃が激しくなって、調査が出来なくなる。

 

「じゃあ、急がないと!」

カタナが、急かすように言う。それに、全員がうなずいた。僕達は、それを合図に走りだし、先を急いだ。ただ、周りに注意を向けながら。こうなった以上は、いつどこで敵と出会うか分からない。むしろ、神無毘橋に近づけば近づくほど、その可能性は高くなる。ふと、今まで考えないようにしていた事が、頭に浮かぶ。・・・僕の、ふしみ一族の力・・・あの感知能力を使うことが出来れば、この状況も少しはマシかもしれない。しかし、あの力はまだ、意識的に使うことが出来ないでいた。この任務の日までも、自分なりに修行して“力”を使えるようにとやったが、何も進歩はなかった。正直・・火影様は、そのうちに“お稲荷様”に会えると言っていたけれど・・・どうすればいいのか、全く分からなかった。そんな事を考えていると、前を走っている隊長が“止まれ”の合図をして、体勢を低くした。僕達は、それに習って体勢を低くした。

 

「隊長?」

ハナが、小さい声で隊長に問い掛けた。

 

「敵だ・・・どこかにいる。」

隊長は、小さい声でぼそっと呟いた。その眼は鋭く、周りを隈なく見ていた。

 




最後まで読んで頂いて、ありがとうございました。

ここのところ、この小説を読んで頂いている方が、右肩下がりで、おろおろ悲しみに暮れています。
今、読んで頂いている方、本当にありがとうございます。
最後までは、書いていきますので。

ではでは。

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