戦争を知る世代   作:moota

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こんにちは、mootaです。

遅くなってしまいました、ごめんなさい。
今回は、イナリの真実に迫ります。


第十四話 真実

十四話 真実

 

 

 

 

 

 

火の国暦60年7月10日 正午

木の葉隠れの里 役所 屋上

うちはカタナ

 

 

 

 

 

里の真上を太陽が燦々と輝いている。色の濃い深緑の葉が、その光を我先にと欲しがるかのように、太陽に向けて大きく広がっている。

 

もう、7月になった。木の葉でも気温が高くなり、湿気を含む空気が感じられ、セミがミンミンと鳴く声も日に日に大きくなってる。夏がもうそこまで来ているようだ。だが、そんな陽気な日でも、俺の周りは黒く重い空気が漂っている。空気だけじゃない、俺の周りにいる人達、そして俺も含め、皆、黒色の喪服を身に付けていた。

 

今、俺たちは火影の役所の屋上に来ている。ここでは、この前の戦闘で戦死した者たちの葬儀が行われている。人々が整列し、並んでいる。その目の前には祭壇が組まれ、そこに死んだ者たちの遺影と献花が置かれていた。

 

その数ある遺影の中にはよく知った顔もある。

・・・第79小隊のメンバー、“死”の直前まで一緒にいた仲間たちだ。俺もそうだが、そいつらはアカデミーの学生だ。本来なら戦場に出る人間ではない。しかし、俺たちは戦争に参加しなければいけなくなった、“緊急学徒動員策”によって。

 

今、この瞬間でもそいつらの顔が浮かんでくる。アカデミーにいた時の笑っている顔、授業中の眠そうな顔、戦場にいた時の緊張した顔、そして・・・“死”の一瞬前の恐怖に支配された顔・・。

 

浮かんでは消える、その顔を頭の中から振りほどいて、俺は周りを見た。整列している俺達の前には火影様が口上を伝えている。

 

 

「・・・よく戦ってくれた。ありがとう。お前達は強く、逞しく、誰よりも優しい者たちであった。それを失ったことは何よりも・・・」

 

 

口上は、少しも耳に入ってこない。周りには、その場で立っている事が出来ず、崩れ落ちる女性がいる。それを支えようとしている男性がいた。・・・二人とも泣いていた。あの二人だけじゃない、至るところで、啜り泣く声が聞こえる。火影様の口上の中、泣き声がやむことはない。

 

私の右には、イナリがいる。俺達を助けてくれたイナリが。イナリは泣いていなかった・・少し意外だったけど、その心の内は俺では計り知れない。

 

昨日、俺はハナと一緒に火影様に呼ばれて、あの時の状況を聞いた。何故、第79小隊が全滅し、俺達は生き残れたのか。・・・火影様に言われなくても何となく分かってたんだ。イナリが助けてくれたんだって。だって、あの戦闘中、ずっとイナリが俺達の事を“想っていてくれた”ことを感じていたから。・・・ハナもそう言っていた。今、彼はどういう気持ちなのだろう。先程話したときには何もなかったような感じで話をしていたけど・・・。

 

 

 

ポツン

 

 

顔に水滴が落ちた。

上を見上げると、先程まで晴れていた空にどす黒い雲が広がっていた。

 

ポツン、ポツン

 

また、落ちてきた。

その水滴は次第に大きくなり、その落ちてくる頻度が増し、ついには大粒の雨が降りだした。

 

この場にいる全員が、その体が濡れようとも気にしていない。まるで、雨など降っていないかのように。

 

泣いているのだろうか。

ハカリやトキ、アユや轟隊長たちが・・・。

 

 

そんなことを思わせる大粒の雨だった。

 

 

 

 

 

同時刻 役所 屋上

ふしみイナリ

 

 

 

 

 

 

葬儀は厳かに、そして慎ましやかに行われた。

すべての行程も終わり、皆それぞれの思いを抱きながら帰っていった。もう、屋上には数えるほどの人しかいない。僕は一度家に帰り、着替えてから役所に戻って来ようかと思い、歩き出そうとした時、

 

 

「イナリくん、体の方は大丈夫かい?」

声を掛けられた。

 

 

声のした方を見ると、そこには、はたけサクモさんとその隣に僕よりも小さな男の子が立っていた。

 

「あ、お久し振りです。サクモさん。この前はありがとうございました。」

僕は頭を下げ、お礼を言った。

 

「いやいや、間に合ってよかったよ。それに君達はよく頑張った。」

精悍な顔を綻ばせて答えてくれた。

 

「いえ、そんな・・・。そちらはご子息ですか?」

僕はサクモさんの隣にいた5、.6歳の子どもの目を向けた。

 

「あぁ、この子は息子のカカシだ。先日、中忍になったばかりでね。」

サクモさんは少しばかり自慢気だ。里の英雄でも子供には弱いらしい。

 

 

「お噂は聞いておりました。カカシさん、ふしみイナリと言います。よろしくお願いします。」

そう言いながら、手を差し出した。

 

「あ、はい。」

彼は少し戸惑いながらも答え、手を握ってくれた。

 

「イナリくん、何でそんなにかしこまってるんだ。カカシの方が年下だろうに。」

 

「あ、いえ、カカシさんは中忍ですので。」

 

「なるほど、まぁ、そういうことか。いやいや、イナリ君ならすぐ抜いてしまうさ。」

いや、そんなこと本人の前で言ってほしくないんだけど。

 

「・・・・」

あ、ほら拗ねた感じになってる。この人、意外と鈍感なのかな。

 

 

そんなことを考えていると、カカシさんが僕をじっと見ているのに気がついた。でも、僕が気づくと目を逸らしてしまった。

 

「さて、私たちはそろそろ帰るよ、イナリ君。」

 

「はい、わざわざ声を掛けて頂いてありがとうございました。」

 

 

「では、またね。」

そう言って二人は帰っていった。

その後ろ姿は、どこにでもいる親子で、とても里を背負っている有名な忍でも、その天才忍者と言われる息子でもなかった。少しだけ、ほんの少しだけいいなって思ってしまった。

 

 

 

 

 

同日 役所 執務室

ふしみイナリ

 

 

 

 

 

 

執務室に入ると、目の前の机に火影様が座っていた。その顔は何かを決意したような顔をしていて、そして、少し悲しさを含んでいるように見えた。僕はこの瞬間まで“答えを決めかねていた。“答え”にはyesと答えるしか無いとは思う。自分自身が何者なのか、両親や一族が何を抱えていたのか、そして、何故両親が殺されたのか、それを知る手段は1つしかないのだから。

 

でも、何となく怖かったんだと思う・・・火影様に言われた“もう何も知らない自分には戻れない”という言葉に。それは何となく、今の、そして今までの、自分を否定するものになるのではないか、と感じたんだ。

 

でも、部屋に入り火影様の顔を見て“答え”を決めた。火影様も覚悟を決めてくれている、そう感じたから。なら、することは決まっている。

 

 

「イナリ、答えを聞かせてくれるかの?」

火影様は僕を見据えて言った。

 

「答えは・・・覚悟ができました、です。」

 

火影様は少し目を見開き、その後ゆっくりと目を閉じた。

「わかった・・・では、話そうかの。おぬしの“真実”を。」

 

 

「まず、“ふしみ一族”とは何かを話そう。“ふしみ一族”は“お稲荷さま”、つまりは“狐の神様”と契約をした一族の事じゃ。」

火影様は一言一言、ゆっくりと噛み締めるように話し出した。

 

「契約・・・?」

 

「そうじゃ。ふしみ一族はかなり古い一族での。木の葉創世時代より以前から存在しておった。我らが“森の千住一族”や“うちは一族”などと同じ位の歴史がある。・・・ただ、彼らは森の千住やうちはと違い、特殊な能力など持たぬ一族で、隠れ里ができる前の、所謂戦国時代に滅亡の危機に晒されたのじゃ。」

 

「滅亡・・・ですか。」

今現在、ふしみ一族として生き残っているのは、僕だけだと思っている。そのような人をお母さまから聞いた事もないし、あったこともない。

 

「元々、それほどの大所帯ではなかったが、その争いでだいぶ数を減らしたようだ。それに危機感を抱いた一族は生き残る為に“力”を欲した。それ故に、“お稲荷さま”と契約したと聞いておる。しかし、その契約した経緯はわしには分からんがの。」

 

「生き残る為に・・・」

確かに、あの時代の争いは色々な勢力が現れては消え、現れては消え、の繰り返しだったとアカデミーで習った。そして、より強いものが生き残り、弱いものが消えていったと。何も持たない当時のふしみ一族はその弱いものであったに違いない。

 

「そこで次の話での、“青い炎”についてになる。あの炎は“狐火”と呼ばれ、“お稲荷さま”と契約したふしみ一族の特殊能力じゃ。お主が言っておったとおり、あれは自分を中心として放出することで、自分の周りの敵意を感じることができるようじゃ。つまり、広範囲かつ、高性能な感知能力ということかの。」

火影様は顎に手を当てて、僕をじっと見据えている。

 

「感知能力ですか・・・確かに頭のなかで敵意を赤色で感じる、あれがふしみ一族の能力だったのか。」

ん?でも、1つ違う部分があることに気がついた。

 

「火影様、あの炎はハナやカタナを爆発の衝撃から守ってくれました。あれはどういうことなのでしょうか?」

 

「うむ、それも報告は聞いたが・・・分からぬ。わしが知っておるのは感知能力に関してだけじゃ。その守ると言うことに関しては初耳であった。」

 

感知能力とは別のもの・・・?

分からない、これもふしみ一族の能力なのだろうか。

 

「まぁ、その能力についてはおいおい調べていくしかないの。」

 

「はい・・・」

僕は仕方なし気に答えた。

 

 

「では、話を戻すと、ふしみ一族はその感知能力を使い、敵から逃れて生き延びたのじゃ。攻撃的な力ではなかったからの。その力以外は、ふしみ一族は特殊な力を持たぬ集団であった。」

 

・・・そうだろう。うちは一族は特殊な瞳力を扱い、圧倒的な力を持つ。森の千住一族は、木遁という血継限界を持っている。彼らはどれも攻撃的な能力で、それを使い栄華を誇ってきた。ふしみ一族はその逆に攻撃的ではなく、補助的な能力を手に入れ、それで難を逃れて生き延びたということか。

 

「しかし、ここからが重要じゃ。よく聞け、イナリ。」

火影様の声が急に鋭くなる。

 

「次の話はその“代償”についてでの、ふしみ一族はその能力を得た代わりに、“お稲荷さま”にその体を差し出さねばならんのだ。」

 

「・・・体を、差し出す?」

どういう意味だ。腕一本とかを渡さなきゃいけない、とか?

 

「“お稲荷さま”は信仰の対象であり、所謂、神様というやつで、その実体を持たぬ。故に“お稲荷さま”は現代でその実体を得るために、ふしみ一族はある一定の年齢になると己自信の体を明け渡すのだそうだ。」

 

!?

それは・・・つまり、自分が自分で無くなるということなのか?しかし、お母さまは・・・?

 

「ただ、その体を明け渡す者は、その当代の一人でよいらしい。ふしみ一族全員がそうなるのではなく、その世代で一人選ばれる。それを“憑代様”と呼ぶのだが、その憑代様は他のふしみ一族よりも強く“お稲荷さま”の力を使うことが出来る。その代わり、ある年齢になると体を明け渡なげればいけない。」

 

 

・・・そんな。

それがその力の“代償”・・・

 

「その“憑代様”以外のふしみ一族は、何を代償として払うのですか?」

 

「それが、お主の母が言うには、何も無いそうじゃ。つまり、ふしみ一族として生き残る為に一人の体を犠牲に、一族全ての者が力を得る。1が10の犠牲となって守ってきたというこであろう。」

 

「では、“お稲荷さま”は何故、現代に蘇ろうとしているのでしょうか?」

疑問が次から次へと沸いてくる。

 

「うむ、お主の母が言うにはただ“現代で遊びたいから”だそうだ。」

 

そんな、理由で・・・。

本当なのだろうか、分からない。

 

「体を明け渡す一定の年齢とは何歳なのですか?」

 

「あぁ、それはの一定の年齢とは言ったが、実は“憑見の儀式”というものを行い、“お稲荷さま”が直接決めるそうだ。所謂、心のうちで“お稲荷さま”と会い、そこで何かしらの儀式があって、体を明け渡すか、それとももう少し後にするか決めるらしいの。」

 

「そんなことが・・・」

もう、自分の頭の中はごちゃごちゃになりかけていた。

色んな事柄が回っている。

 

火影様はゆっくりと席を立ち、窓に近寄っていく。

 

 

「そのように力の代償を払い、体を何世代にも渡って明け渡し続け、“お稲荷さま”が現代に現れ続けた。それ故に“お稲荷さま”は永遠の命を得ているように見え、不死身と解釈されるようになった。不死身・・・それが時代とともになまっていき、ふしみと呼ばれるようになったのだ、お主の一族は。」

 

「今、生きておるふしみ一族はおぬしだけじゃ。恐らく、その力が使えるということは、お稲荷さまとの契約は絶えておらず、お主が“憑代様”に選ばれておると考えてよいじゃろう。」

 

僕が・・・“憑代様”?

それは、将来的には“お稲荷さま”に代償を払わなくてはいけない、ということか。

 

「そう遠くないうちに、お稲荷さまと会うことになるはずじゃ。」

 

僕の心はメチャクチャだ。

今までの自分、生きてきた自分、色んなものが音を立てて崩れていく。今そこにあったものは形がなく、もうもうと土煙をあげている。何も見えない、何も聞こえない。そんな風景が僕の今の心だ。

 

「あともうひとつ、“お主の両親が何故、狙われたのか”を話して置かねばならん。一つは外敵からだが、ふしみ一族の能力はその特殊な能力故、知るものは少ないし、木の葉も隠してきた。しかし、その能力を知れば、それを欲するのは道理であろう。」

 

確かに・・・レーダーのような役割を持つ能力、攻撃には向かないが後方支援としては十分に役に立つ。

 

「そして、内の敵じゃが・・」

 

!?

内の敵?どういう意味だ。

仲間の内に敵がいるということか・・

 

「ふしみ一族は元々、里では重要機密での、知るものはほとんどいなかった。それにも関わらず、岩隠れにその情報が漏れた。もはや、何者かが漏らしたとしか考えられん。故に気を付けねばならん。イナリ。」

 

「何故、情報が漏れたのか分かっているのですか?」

 

「うむ、ある程度予測はしておるが、確証はまだなくての。お主には伝える訳にはいかん。イナリ、周りの人間には気を付けるのじゃぞ。本当に信じれる者にしか心のうちを見せてはいかん。」

火影様は語尾を強くして言った。

 

 

 

僕はふしみ一族が木の葉でどのような立場にあるのか、ど

ういう意味で存在しているのか、よく分からない。疑問が増えるばかりだ・・・。

 

 

「さて、こんなところかの。話せる内容と言えば。どうじゃ、イナリ?」

先ほどまでの緊張した雰囲気がなくなり、穏やかに話している。

 

「・・・わかりません。色んな事が頭の中で回っています。」

僕は呟くように答えた。

 

「そうであろう。おぬしにとっては信じがたいことばかりであっただろう。しかし、おぬしが木の葉の忍であることには変わらん、おぬしは木の葉の家族であり、火影であるわしの家族じゃ。」

 

 

僕はその言葉に救われたと思う。火影様の話を聞いてぼくは、木の葉で宙ぶらりんの一族なのではないか、孤立しているのではないか、そのような不安に駈られた。不安ばかりが心のうちを占めようとしていた。でも、“木の葉の家族” “火影様の家族”という言葉を聞いて、少しだけ、ほんの少しだけ安心出来た。

 

 

「あ、そうそう。話は変わるがの、おぬしらの第88小隊には新しい隊長が着任する。」

 

「新しい隊長ですか?」

 

「うむ、小夜啼トバリ という中忍じゃ。ケガをして一時、前線を離れておったが優秀な男での、おぬしらの隊長に任命した。明日には連絡が来るじゃろう。よろしくやってくれ。」

 

「はい、わかりました。」

新しい隊長か・・・火影様が優秀だと言うのだったら、いい人かもしれない。次はあんなことは起きて欲しくない。・・・いい人だといいな。

 

 

そのあと、僕は2.3言、火影様と話をして執務室を後にした。正直、何が起きたのか、まだ理解出来ていない。整理も出来ていない。

 

でも、前に進まなくてはいけない。この世界で生きる為にも、仲間を死なせない為にも。

 

自分でもふしみ一族について調べてみよう。分からない事が多すぎる。

 

 

 

 

 

同日 夕方 役所 執務室

三代目火影

猿飛ヒルゼン

 

 

 

 

イナリは大丈夫であろうか。

わしとてほとんどふしみ一族については知らない。それほどまで、逃げ隠れしていた一族なのだ。しかも、あの争いから木の葉が出来るまでに相当の数が減っていた少数の一族だ。

 

ただ、彼の不安を煽っただけの形になったやもしれん。しかし、ここで伝えなければ、彼は自分が分からず迷ったかもしれぬ。

 

 

また、彼には話せなかったことも多くある。敵は外だけではない、内にもいるのだ。九尾封印式事件・・・あれに関わっていた一族たち、あやつらが岩隠れに情報を漏らした・・・それが一番筋が通るのだが。

 

 

あの時、あの場にいたのは・・・

 

ふしみ一族、うずまき一族、夜月一族、風魔一族、しき一族、菜野一族、天狗一族だったかの。

 

まぁ、それのうちのどれか、ということか・・。

違うと言いたいが、難しいの。

 

 

 

我々も考えねばならん、岩隠れとの戦争も激しくなりつつある。

 

生きる為には・・・どうすればよいのかを。

 




最期まで読んで頂いて、ありがとうございました。

消化不良・・そんな感じでした。書きたいこともたくさんあるのですが、なかなか・・。

また、読んで頂ければ幸いです。

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