戦争を知る世代   作:moota

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こんにちは、mootaです。

花粉で鼻をズルズルしながら、書いてます( ・ε・)-

キャラの名前がピンチです。思い付かない・・・
そして、ハナの名前がキバくんの家系にいました。
ハナは菜野ハナです。菜野一族です。ご了承下さい(;・ω・)


第十二話 目覚めの一端

第十二話 目覚めの一端

 

 

 

火の国暦60年7月8日 早朝 暁の森

ふしみイナリ

 

 

 

 

 

 

「あれ?まだ生きてるやついるじゃん。」

 

 

 

振り返ると、そこには岩隠れの忍が4人立っていた。

 

?!

気づかなかった。

声をかけられるまでまったく。僕の頭の中のイメージにも反応しなかった。

元々、この力は意識していないと分からない。ましてや、毎回きちんと使えるわけでもない、不安定なものだ。

 

 

「あの爆発でこの程度の怪我? おかしくない?」

そのうちの1人が僕たちを見ながら言った。

訝しげに、納得のいかない顔をしている。

 

 

「確かにな・・・あの術の効果でこれはおかしいな。現にバラバラに吹っ飛んだやつがほとんどだったしな。」

 

「まったくだ。なんだ、こいつら?」

4人が顔を合わせて、それぞれに疑問を口にする。

彼らに身構えている様子はない。

 

あの術の効果・・・確かに大きな爆発だった。それほどの術だったのだろうか。・・・それでも、私たちは軽症と言えるレベルだと思う。

 

 

・・・ん?

今・・・なんて言った。術の効果の後・・

ドクン、と心臓が大きく脈打った。

 

 

「な、何がほとんどだったって?」

声が震える。鼓動が一段と速くなる。

 

 

「あぁ?なんだ?」

4人の視線が僕に集中する。急に話し掛けられたことに驚いているようだ。

 

「ば、バラバラがどうのって・・・」

 

 

 

「あー、あはは! なんだ? お前たちまだ見てねーの?」

彼らは納得が言ったように顔をニヤつかせて笑い出した。

それは見ていても、聞いていても、不愉快極まりないものだ。

 

 

なぜだ、なぜ笑っている?

言葉に言い表せない不安が心を渦巻く。ゆっくりとゆっくりと、でも少しずつ大きくなりながら渦巻いている。

 

いつのまにか僕は手をぎゅっと握りしめている。その手の中は汗でびっしょりで、とても不快だった。

 

 

「見せてやれよ、チカク。」

 

チカクと呼ばれた人物が先程から手に持っていた袋を僕たちの前に投げ捨てる。それは地面に落ちた拍子に中身が飛び出した。

 

 

赤黒い液体がドロォっと流れ出てくる。まるで、地面を侵食するかのように少しずつ少しずつその面積を大きくする。その赤黒い液体が出てくる袋には・・・人の腕が入っている。腕の先には・・手があり、指がある。腕だけじゃない、人の足のようなものまで見える。

 

 

「!? っー・・・」

何かが喉に詰まったように言葉がでない。それを見ている視界が次第に歪んでくる。それでも僕は、その袋の中身から目が逸らせない。

 

は、はぁ、はぁ、は、はぁ、

呼吸が苦しくなってくる。

息がうまく吸い込めない。それでも肺が酸素を欲していて、無理やり酸素を体に取り込もうとする。

 

 

これは・・・なんだ?

誰のものだ?

 

心の中で疑問を自分に問いかける。

わかっている・・・何となく、それが誰のものなのか分かっている。しかし、自分の気持ちがそれを否定する。そんなことがあってたまるものかと。そんなものが信じられるかと。

 

 

 

「きゃ、きゃあああ!」

甲高い叫び声が聞こえて、僕の意識を呼び戻した。

 

 

どうやら、ハナが袋の中身を見たらしい。

・・・叫びたくなる気持ちもわかる。

 

ハナはそのまま崩れ落ちて、座り込んでしまったを捉えた。頭を両手で抱えて、ふるふると身体を震わせている。何かしてあげたいが声だけじゃない、身体も言うことを聞かない。

カタナは袋の中身からから目を離さそうとしない。いや、離せないでいるのかもしれない。

 

 

「言わなくてもわかるだろ? あ、でも言ってほしいか?」

バカにしたような、ゲスい声で僕たちに問いかけた。

 

 

何も答えられない。

何か答えてしまえば、最悪の答えを肯定してしまうような気がしたからだ。

 

 

 

「はっ、黙ってたって何も変わらねーよ! これはお前らの仲間だよ!あの爆発でバラバラに吹っ飛びやがった!頭も、腕も、足も、ぜーんぶバラバラだぁ!きたねぇー花火だったぜ!」

 

 

!?

あ、あぁ、あ、あぁ・・・そんな、

何だよ・・・それ。

そんなの嘘に決まってる。嘘に・・・決まってる!

質問された時から何となくそうかも知れないと感じていたが、いざ他人から聞くと信じられない事だった。

 

キッ と岩隠れの忍を睨み付けた。何も出来ない自分が悔しい。助けられなかった自分が悔しい。自分の手を痛いほどに握っていた。血が垂れているのかもしれない、何処と無く濡れているような感触がある。

 

 

ふと、皆の顔が見えた。ーーーーーーーーーーーーーー

 

僕が あさのは隊長に食って掛かったあの時、皆は僕を励ましてくれた。

 

「そうだよ、大丈夫大丈夫!」

「ってかイナリって、あんなに言うタイプだったっけ?」

「俺がいるから大丈夫!」

 

皆、体が震えているのに僕を想ってくれた。

ぎこちない笑顔で笑いかけてくれた。

 

 

なのに僕は応えられなかった。ーーーーーーーーーーーー

 

どうしようもなくて、何もしようもなくて、ただただ、体を震わしている。悔しい気持ち、苦しい気持ち、悲しい気持ち、色んなものが心を渦巻いてどうにかなってしまいそうだった。

 

 

その気持ちを何とかしたくて、誰かにぶつけたくて、僕は目の前の岩隠れの忍に飛びかかっていった。武器も持たずに、血が滲む拳を相手に向かって突き出そうとした。

 

 

 

「 うわぁぁぁ!」

何も考えていない。ただ、突っ込んだだけ。

何も出来なかった自分が許せなくて、気持ちをどこかにぶつけたくて・・・ただ、突っ込んだ。

 

 

だけど、そんなものが相手に通じる訳がない。下忍にもなっていないただのガキの一発が、相手に届く訳がない。

 

案の定、僕は腹に強い衝撃と痛みを感じて、何メートルも向こうに吹っ飛んだ。

 

 

「おいおい、ただ突っ込んで来るなんて、何考えてんだ?」

 

 

「「イナリ!!」」

ハナと カタナが吹っ飛んだ僕に向かって叫んだ。

 

 

 

「っー・・・」

腹の強烈な痛みに動くことも、言葉を出すことも出来ない。それでも状況を確認するために周りを見渡した。僕は結構吹っ飛んだらしい・・・彼らが遠くに見える。

 

 

痛んだ身体に鞭を奮って立たせる。

早くしないと、今度は本気で攻撃してくるかもしれない。

まだ、彼らは僕たちを甘く見ていて、すぐには殺そうとしていない。でも、いつかは殺される。分かりきっている事だ、生きてここから逃げられるほど甘くはない。

 

 

 

 

もう一度、あちらを見る。

彼らはもうこちらを見ていない。蹴り一発でぶっ飛ばした相手なんて、もう興味がないとばかりに意識すら向けていない。その代わりに、ハナと カタナに向かっている。次はお前らだと言わんばかりだ。

 

 

くそ、やめろ、やめてくれ!

 

頭の中に二人が殺されるイメージが浮かぶ。

頭から血を流し、虚ろな目で僕を見ている ハナ。

片腕を切られ、腕をなくし、口から血を流す カタナ。

 

 

ダメだ、そんなのダメだ!

 

嫌なイメージが浮かんでは消えて、消えては浮かぶ。

僕の心はもう限界だった。いろんな気持ちが混ざりあって、膨れて、大きくなって、溢れようとしている。

 

 

 

 

「っ、やめろぉぉ!」

彼らに向かって大声で叫ぶ。自分を奮い立たせるように、または心に溜まったものを吐き出すかのように。

 

 

 

僕は彼らに向かって走り出そうとした。でも、走り出せなかった。自分の足下で何かを蹴った。重く、硬いものだ。それはゴトンと言う音を立てて、僕の目の前に転がり出た。

 

 

それは・・・丸い塊だった。

それは・・・見知った人の顔をしていた。

 

そこには・・・人の顔が転がっていた。知っている顔、さっきも頭の中で思い出した顔。・・・・ハカリの顔。

 

虚ろな目で僕を見ていた。髪は血で固まったのか、頬にこびりついている。口許は緩み、赤黒い血と何か分からない半透明な液体が垂れ流れていた。その他の部分は、火傷で元が何だったのかも分からない。ぐちゃぐちゃで、どす黒い“モノ”だった。

 

その“モノ”は、首から下がなかった。

文字通り、ハカリの顔が転がっていたのだ。

 

 

 

走り出そうとしていた体が硬直し、何も考えられない。

 

 

“死”

 

 

その言葉が頭の中をぐるぐると回っている。

友達が“死”ぬ。

ハナが“死”ぬ。

カタナが“死”ぬ。

 

そして、今、ハカリが・・・“死”んでいる。

ただでさえ、いっぱいで溢れそうだった僕の心から、もう止まることなく溢れ出る。

 

 

いやだ、失いたくない。

もう二度と“大切な人”を失いたくない。

 

もう、あんな思いはしたくない!

 

 

 

そう思った瞬間・・

僕の目の前が・・・青色に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻 朝 暁の森

 

岩隠れの忍(奇襲部隊) チカク

 

 

 

 

突っ込んできたガキを吹き飛ばした後、目の前にいる男と女のガキをどう調理してやろうかと考えていた。こいつらはどう見ても幼すぎる。

忍の世界では“自分より年下で、自分よりも強いやつ”と出会うことはそんなに少なくない。だが、こいつらはそれに当てはまらない。どう見ても弱い。

 

そういえば、木の葉では最近になって“下忍にもなっていない学徒”を動員する政策が出来たと聞いた。

 

遅い・・・学徒を動員する政策なぞ、どこの里でもやっていることだ。もちろん、岩隠れの里にもある。まぁ、木の葉隠れは緩いことで有名だしな。戦争をしていると言うのに、命を大事にしようとしているらしい。馬鹿げた話だよ。

 

しかし、やっとこさ重い腰を上げたようだな。こいつらは恐らく学徒だろう。戦場で攻撃を受けた後だと言うのにスキだらけで、チャクラも弱々しい。仲間の死に馬鹿みたいに反応してやがった。笑えたよ、ほんと。

 

でも可哀想に、ここでお前たちの命は終わりだ。

恨むなら火影を恨め。お前らがまだ学徒の時に、このタイミングで政策を作った火影にな。

 

 

さて、目の前に残っているガキ2人を始末しよう。

クナイを取りだし、2人に向かって前に出る。

 

 

ふふ、引き吊った顔をしている。

怖いか?怖いだろう?

今のお前たちには勝てる見込みなんてない。仲間の“死”を見たばかりだ。自分の“死”のイメージしか出来ないだろう。

 

 

 

ーその時だった。

視界の端に青いものを捉えた。

 

!?

なんだ?

青いものの方に目を向ける。それは、先程蹴り飛ばしたガキが“青い炎”に包まれている、そんな光景だった。燃えている・・・そういうわけではない。では、なんだ?

 

術か?

しかし、あんな術見たことがない。

・・・学徒じゃないのか、こいつらは。

 

不安になって周りの仲間に目を向ける。

皆、あの“青い炎”に注視しているようだ。皆一様に驚いた顔をしていた。そうだ、あんなもの誰も見たことないだろう。

 

あの炎は青い、そして透明感のようなものがある。

・・・綺麗な色だ。

 

だが、なぜだ?

あれを見ていると不安に駆られる。

心が落ち着かなくなる。

 

 

 

?!

青い光がピカっと辺り一面に一気に広がった。

それと同時にガキを包んでいた炎が、ガキを中心に同心円状に広がる。炎と一緒に巻き上げられる土と風がこちらに向かってくる。その勢いはとても速く、避ける余裕などない。

 

「なっ!」

咄嗟に手で顔を隠した。

土と風、熱気が身体を駆け抜ける。しかし、熱くはない、暖かいと言えるような感じだ。

 

その炎はほぼ一瞬で俺達を通り抜けて行った。

 

なんだったんだ?

自分の身体を見る。特におかしなところはない。怪我をしているわけでもなく、火傷をしているわけでもない。

 

「「なんだ? 今の・・・?」」

お互いに疑問を口にした。

 

 

視線を青い炎に纏われているガキに戻すと、ガキはまだそこに立っていた。動く気配もなく、ゆらりと揺れる青い炎を纏っている。

 

何をしたんだ、あいつは。

 

訝しげにあのガキを見る。見ていたところで何かが分かるわけではない。しかし、見ていないと、この得体の知れない不安を落ち着かせてはおけない。完全に自分達の想像越えることが起きているのだ。

 

 

 

!?

ガキがこちらに向かってゆっくりと歩き出した。

一歩一歩を噛み締めるように。

 

俺たちは咄嗟に身構える。先程までとは気持ちが真逆だ。動員された学徒だと、何も出来ないガキだと、そう思って甘く見ていた。なのに、今はどうしようもない不安をあのガキに対して感じてしまう。

 

やつは少しずつ、少しずつ、歩くスピードを速め、次第に走り出した。そんなに速い訳じゃない、最初に俺に突っ掛かって来たときよりは速いが、目で追えないなんてレベルではなかった。

 

これなら返り討ちに出来る。自分のこの変な気持ちはどうしようもない思い違いだったに違いない。そう、確信した。いや、確信させたのかもしれない。

 

 

ガキはそのままの勢いで俺に突っ込んで来る。

・・狙いは俺か!?

周りの仲間は身構えたまま動く気配がない。俺で相手の動きを見ようって腹か?ー冷たい奴等だ。

 

そんなことを考えている場合ではなかった。

もう、すぐ近くまで迫っている。

 

とりあえず、初手は避けなくては!

相手がどうでるか分からない、真正面から攻撃を受けるなんてバカのすることだ!

 

 

俺はすっと、右に避けた。そして、そのまま手に持っていたクナイにチャクラを流し、斬撃の威力を高めてガキ目掛けて振り落とす。

 

・・・当たったはずだった。

俺のクナイがやつに当たり、皮膚を引き千切り、首をぶった切ったはずだった。

 

 

なのに、

降り下ろした先にはガキはいない。

 

なせだ?

ガキは真っ直ぐ突っ込んで来たはずだ。なぜ、いない?

そう思ったのと同時に、右頬に鈍い痛みが走った。

その殴られた勢いで体が左側に回りながら、足が地面を離れるのが、体が宙に浮くのが感じられた。

 

殴られた!?

 

 

俺の意識があったのはそれまでだった・・・

 

 

 

 

同時刻 暁の森

 

ふしみイナリ

 

 

 

 

 

意識がとてもクリアになっている。

自分が自分ではないみたいだ。自分自身を第三者の立場から、客観的な立場から、見ているような感じだ。

 

 

青い炎が僕を纏った後、それを体から放出するように放った。何故だかそうすればいいと分かっていた。その炎が放たれると、頭の中で岩隠れの忍は赤色に、ハナとカタナが緑色に見えた。いつも感じるやつだけど、いつもより明確に、はっきりと、そしてより広範囲が感じられた。

 

前線の攻撃部隊のほうには、多くの赤色と緑色が見えた。

きっと戦っているのだろう、入り乱れて動いている。

 

眼前の敵に視線を戻す。

岩隠れの忍が訝しげに僕を見ている。先程までは身構えさえしていなかったのに、今では完全にこちらを警戒しているようだ。

 

ハナと カタナも僕を見ていた。訝しげに、でも心配そうな表情をしている。

 

“死なせない”

その気持ちが僕の心を突き動かす。

 

 

僕はハナたちと岩隠れの忍がいる方向にゆっくりと歩き出す。その赤色に光る敵を睨み付けながら。

 

少しずつ、少しずつ、スピードを上げていく。確実に奴等を仕留めるために。二人を死なせないために。

 

僕が完全に走り出すと、敵はクナイを取りだしてチャクラをそれに纏わせた。完全に臨戦態勢だ。

 

 

!?

なぜだろう?

敵はまだ動いていない。でも、敵がどちらに避けようとしているのか、手に取るように分かる。未来が見える訳じゃない、そちらに動くと感じる。・・・この敵は右に身体を少し捻りながら避ける。そう感じるのだ。

 

 

動くところが分かるのなら、そこ目掛けて攻撃をすればいい!敵が避ける一瞬の手前、僕は敵が避ける方向に体を向けて思いっきり拳を突き出した。

 

 

ドコォ

 

吸い寄せられるように来た敵の右頬を鈍い音とともにぶん殴った。その敵は殴られた勢いで、体を左に捻りながら数メートル吹っ飛んでいった。

 

 

「な、なに?!」

「こいつ、今何をした!!」

「チカク!!」

敵が口々に叫ぶ。

 

相手は、まさか仲間が殴られるなんて思っていなかったのだろう。他の敵は動きが悪い。今ならまだ、他のやつに攻撃が出来そうだ。

 

僕は、近くにいた他の敵に向かって攻撃を仕掛ける。

 

!?

まただ、その敵が避けようとする方向が分かる。ううん、というよりは、動く気配が分かる。どこに、どう動くのか分かる、そんな感じだ。

チャクラを練り込み、印。

敵が避けるであろう方向に攻撃を向けた。

 

「風遁 旋風波の術!」

 

空気の塊を口から吹き出す。

敵が避けてきた方向に攻撃を放ったため、敵はまるでその攻撃に吸い込まれるように当たる。

 

バン!

 

敵は空気の塊ごと吹っ飛んでいき、動かなくなった。

 

 

はぁ、はぁはぁ・・・

どうだ、術も使えないガキだと油断していただろう?

下忍でもないアカデミーの生徒だが、みんなで勉強や修行はきちんとやっている。

 

 

なんとか、二人。

二人は倒した。後の二人は俺たちから少し離れたところにいる。もう一人を攻撃している間に距離を取られたのだろう。

 

 

「イナリ、大丈夫?!」

「イナリ!」

 

ハナとカタナが心配そうに話しかけてくれた。

大丈夫、二人は死なせない。絶対に。

そう思いながら、もう一度身構え直す。

 

 

はぁ、はぁはぁ・・・

それにしてもいつもより半端なく疲れる。

術は一度しか使っていない。

チャクラだってそんなに使ってないはずなのに。

 

 

!?

急に、僕は足下から崩れ落ちた。足に力が入らない。

それだけじゃない、体全体がとてつもなく重い。

 

なんだ?どうしたんだ?

体が動かない!

・・・ヤバい、ヤバい!

 

 

はぁ、はぁはぁ・・・

 

身構えて遠くにいた敵が近づいてくる。

 

くそ!せっかく救えると思った。この力が何なのかわからないけど、この力で“大切な人”を死なせないで済むと思った。

 

なのに!なのに、ここまで来て体が動かない。

・・・二人を助けられない。

 

 

頬に熱いものを感じた。視界が歪んで、周りが見えなくなる。どんどん目から熱いものが溢れてくる、止まらない。

 

悔しい、悔しい!

もう二度とあんな思いはしたくなかった。苦しくて、悲しくて、心を引き裂かれるような思いを・・・。

 

それだけじゃない、皆には、この二人にはあんな思いをして欲しくない。アカデミーにいた時のように、ずっと笑っていて欲しかった。ずっと、幸せでいて欲しかった。

 

 

くそ、くそくそ、くそ!

 

 

ハナも泣いている。

カタナも悔しそうな顔をしている。

敵はもうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

ーその時だ。

 

白い光と黄色い光が僕たちの横を駆け抜けた。

 

それは一瞬で・・・そうだと気づくのに少し時間が掛かったほど一瞬で・・・駆け抜けていった。

 

 

その光が駆け抜けたと意識出来たときには、眼前にいた敵さえも地面に伏していた。

 

ん? なにがあった?

敵は・・・倒れているし、あれ?

 

あまりにも一瞬の出来事で理解が全く追いつかない。

疑問で頭がいっぱいだった、その時に声を掛けられた。

 

 

「大丈夫かい?三人とも。」

 

僕たちの目の前には、黄色くてツンツン尖った髪、中性的な感じを思わせる顔立ちで、優しそうな笑顔を向けてくれている人がいた。

 

 

「ふう、何とか間に合った。よかった・・本当に。」

 

その隣にはもう一人いた。その人はツンツンした銀色の髪、きりっとした精悍な顔つき、でも温和な目をしていて、白く輝くチャクラ刀を持っている。

 

 

「木の葉の黄色い閃光・・・」

「木の葉の白い牙・・・?」

ハナとカタナが同時に呟いた。

 

そうだ、この二人は、“木の葉の黄色い閃光”と呼ばれる波風ミナトさんと“木の葉の白い牙”と呼ばれるはたけサクモさん だ。

 

二人とも他里まで名前を轟かせている木の葉の“英雄”だ。

とても強く、他里の忍は名前を聞いただけで逃げてしまうほどだ。

 

なぜ、この二人がここに?

今回の戦闘には参加していなかったはずなのに。

 

 

 

そこにもう一人、飛び込んできた。

 

「ちょっと!二人とも速いってばね!」

 

てばね?

何だか変な口調のくの一が僕たちの間に飛び込んで来た。

 

真っ赤な長い髪をポニーテールのように後ろでくくり、美人と言われる感じの顔立ちで、青い澄んだ色の目が特徴的だった。

 

 

「クシナが遅いんだよ。」

ミナトさんが微笑みながら軽い抗議をしていた。

 

 

「?!そう言うこと言うってばね、ミナトは・・!」

クシナと呼ばれた女性が反論する。とても、仲が良さそうだ、二人とも信頼し合っているのが分かる。

 

 

そんな様子を見て、僕たちはやっと安心ができた。助かったんだ、僕たちは。よかった・・本当に。

安堵の気持ちがふわっと心に広がっていく。先程までの緊張を少しずつ溶かしてくれるように。

 

ハナも、カタナも、安心したような顔をしていた。

きっと僕と同じ気持ちなのだろう。

 

 

「敵の二人は君たちが倒したのかい?」

ミナトさんがこちらに視線を戻してから問いかけた。

 

 

「あ、それはイナリが倒してくれたんです!」

ハナが僕の代わりに答えた。

 

「イナリ君?・・もしかして、ふしみイナリ君かい?」

ミナトさんが僕を訝しげに見つめている。何故だか、フルネームで名前を呼ばれる。

 

「はい、そうです。ふしみ、イナリです。」

何を聞きたいのか分からなかったが、素直に質問されたことに答えた。

 

 

「君が・・・あの時の、ふしみ一族の・・・」

聞き取れないくらいの小声だ。ミナトさんは、じっと僕を見つめている。

 

 

「イナリ君、敵をどうやって倒したんだい?見たところ、彼らは中忍という感じたけど・・・?」

 

 

何と答えて良いのか分からず、僕が答えないでいると、代わりにハナが答えようとした。

 

「何だか・・・青い炎で・・「青い炎!?」」

 

ミナトさんがびっくりしたように話を割いて声をあげた。

顎に手を当てて考え込み始めた。

 

どうしたのだろう?

もしかしたら、ミナトさんは何か知っているのだろうか?

 

 

先程までの和やかな雰囲気が打って変わって、場が静かになり、誰も喋らない。僕たちはサクモさんや、クシナさんを見て、様子を見てしまう。

 

 

「ミナト、攻撃部隊のほうが心配だ。先を急ぐぞ。」

サクモさんがその空気を割いた。この空気を読んだのだろうか。

 

 

「あ、はい。そうですね、すぐ行きます。クシナ、三人を頼んだよ。」

そう言って、二人は一瞬で消えていった。

す、すごい、何て速さの“瞬身の術”・・・

 

 

クシナさんは二人を見送ってから、僕たちの方に振り向いた。そして、膝を折り、僕たちの目線に合わせてから笑ってくれた。

 

「もう、大丈夫だってばね!」

僕たちは、その笑顔にどれだけ救われただろう。初めて戦場に出て、気がついたら敵の攻撃に晒され、仲間ともはぐれ、“死”を目の前にした。緊張し、心配し、恐怖し、不安に自分の心をめちゃくちゃにされた。それを・・・全部まとめて受け止めてくれるような笑顔だった。

 

それからクシナさんは、僕たち三人を抱き締めてくれた。三人同時にぎゅっと、抱き締めてくれた。

 

 

暖かかった。

 

優しく、そして力強く、抱き締めてくれる感じは、何だかお母様に抱き締めてもらっているような気がした。

 

 

「よかった、本当によかった。みんな、よく頑張ったってばね。」

 

 

僕たちはきっと酷い顔をしていたと思う。くしゃくしゃにして、大きな泣き声をあげて。クシナさんに抱き付いていた。

 

 

涙がいつまでも止まらなかった。

溢れて溢れて、止まることを知らなかった。

そんな僕たちを、クシナさんは泣き止むまでずっと抱き締めてくれた。

 

 

 

 

 

 

 




最後まで読んで頂いてありがとうございました。

イナリがすこしずつ、主人公らしくなってきた気がします。これから秘密の部分も少しずつですが、明らかになっていきます。ただ、明らかになったことが正しいとは限らないかもしれません。

あぁ、色んな人に読んで欲しいっす( ´△`)
読んで頂いている方、本当にありがとうございます。

ではでは。

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